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第12章

放課後の教室。窓から差し込む光が、机の上に淡く広がっていた。

煌希は、澄華の前に立っていた。澄華は、机に手を置いたまま、顔を上げていた。


「……ごめん。気持ちはうれしいけど、自分に嘘はつけない」


その言葉は、静かだった。でも、澄華の胸を鋭く刺した。


「そんなこと言わないでよ!」


澄華の声が、少しだけ震えた。


「なんであの子なの!!私じゃだめなの!?」


煌希は、目をそらさなかった。言葉は一つしか出てこなかった。


「……ごめん」


その一言に、澄華は肩を落とした。机の端に視線を落とし、深く息を吐いた。そして――――誰にも聞こえないくらいの声で、呟いた。


「……もういいわ。推しだったから好きだったのに。もういい。私は自分のことを見てくれる人のところに行くから」


煌希は、その言葉を聞き取れなかった。でも、澄華の背中に漂う空気が、すべてを語っていた。


《澄華は、煌希を“推し”として好きだった。

でも、煌希は“物語”の外にいた。

澄華は、物語の中に戻ることを選んだ。

それは、彼女なりの“強さ”であり、“諦め”だった。》


教室の窓の外、夕陽が少しずつ沈んでいく。

澄華は、次の“攻略対象”に向かって歩き出した。でも、心の奥には―――まだ煌希の残像が、静かに残っていた。

放課後の中庭。風が緑を揺らし、陽射しが芝生に淡く落ちていた。

彩葉は、ベンチに座っていた。その隣には、陽向が立っていた。腕を組み、視線は遠くを見ているようで――実は、彩葉の周囲を警戒していた。

そこへ、煌希が現れた。

制服の裾が風に揺れ、彼の足取りは少しだけ迷いを含んでいた。

彩葉が顔を上げる。陽向は、すぐに煌希を見据えた。その目には、静かな敵意が宿っていた。


「……ここ、覚えてる?初めて君に会った場所」


煌希の声は、少しだけ緊張していた。

彩葉は、ほんの少しだけ頷いた。


「覚えてるよ。……静かだった」

「今も、静かだね」


陽向は、彩葉の隣で一歩前に出た。まるで、彩葉の前に立つように。


「静かな場所に、騒がしいやつが来ると空気が変わるんだよな」


その言葉は、明らかに煌希に向けられていた。煌希は、少しだけ眉を動かした。でも、言葉にはしなかった。


「……澄華には、ちゃんと伝えた。俺、自分に嘘はつけないって。だから……君に、もう一度会いたかった」


澄華の笑顔は、まぶしかった。でも、彩葉の沈黙のほうが、ずっと心に残った。だから、もう一度だけ、彩葉の目を見たかった。その目に映る自分が、誰かの“推し”じゃなくて、“選ばれた人”であってほしいと願ってしまった。

彩葉は、目を伏せた。胸の奥が、少しだけ震えた。煌希の声が、静かに心に触れていた。陽向の手の温度が肩に残っているのに、それとは違う熱が、胸の内側で広がっていた。

陽向の手が、そっと彩葉の肩に触れている。その仕草は、守るように、牽制するように。ここに味方がいると言ってくれているようだった。


「私は―――無色透明だから。色のない人間は・・・・・・鮮やかな色とは、いられない」


その言葉は、心の中だけで響いた。

口には出さなかった。でも、煌希には――何かが伝わっていた。

煌希は、少しだけ笑った。でも、その笑顔はどこか切なかった。


「……それでも、君の色を見たいって思ったんだ。勝手だよね」


陽向は、視線を逸らさずに言った。


「勝手な奴だな。彩葉はおまえの“色見本”じゃない」


その言葉に、煌希は言葉を失った。

彩葉は、静かにその場を見つめていた。


中庭は、再び三人を迎えていた。

《彩葉の“透明”は、まだ揺れていない。

でも、煌希の“鮮やかさ”が、静かに彩葉の輪郭を染め始めていた。

陽向は、その色が彩葉を傷つけないように――

必死に立ち続けていた》


風が、三人の間を通り抜けていった。

その風は、まだ色を持っていなかった。でも、彩葉の髪が揺れた瞬間。煌希の目には、ほんの一瞬だけ、水色が見えた気がした。

それは、風が運んだ“予感”だった。

彩葉の色が、誰かに届く日が、もうすぐそこまで来ている気がした。



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