2話-2
目を細めて笑う仮面を付けた女は、ディーラー服を着て扉の前に立っていた。彼女のいる円形の部屋には5つの扉があり、女が配置されている以外の4つにも仮面を付けたスタッフが待機している。
部屋の中心にある円卓には、男女5人のプレイヤーが向かい合って座っていた。椅子に縄で縛られて動けない彼らは、これから1人の生贄を選ぶ。
「生贄って……!なんで私達がそんなの選ばなくちゃならないのよ!」
「そもそもここどこだよ!誘拐だぞ!」
口々に叫ぶプレイヤーを眺めながら、女は恋人の言葉を思い出していた。
『手伝ってもらうのは超小型のゲームね。4時間くらいで終わるから、その間ずっと待機するだけ』
『……ずっと?』
『まぁプレイヤーに何か支給してもらうことはあるかもだけど。殺すのとかはここの設備使うし』
『私、いる意味ある?』
『あるある!こういうのは人数いると説得力出るの!』
『へー』
『君は誰かを殺す必要もないし、危険な目に遭う心配もないからね!』
女は退屈そうに、会場のモニターを眺めた。プレイヤー達も見つめるそこには、『この中で生贄を決めろ。※決定できなければ1時間毎に1人殺します』と表示されている。
今まで見学したことのあるデスゲームでは、いつも主催者直々でのルール説明があったため、女は更に退屈だった。
(手抜き……)
女がそう思った瞬間、モニターはタイマーに切り替わり、1時間というリミットを表示した。
刻々と減っていくそれに、プレイヤー達の焦りは募る。
「これ、ホントに殺されるんじゃ……」
「んな訳ねェだろ!!」
「タケル、大きな声出さないでください」
「うぅ〜」
「マユ、泣かないで。大丈夫だから」
20代前半らしき彼らはお互いを知っており遠慮もない。恐らく仲良しグループのメンバーなのだろう。
『主催しといてだけどさ。悪趣味だよねー』
また恋人の言葉を思い出した。彼らの友情はここで引き裂かれ、その上全員死ぬのだから悪趣味極まりない。
『タイムスケジュール的にはこんな感じー』
確認させられた予定表には、ご丁寧に5人の死ぬタイミングが書かれていた。
『まず最初に1人殺されて、そっからいよいよ生贄決めなきゃってなるんだけど。このグループは多分2つの派閥に分かれるんじゃないかな?で、最後の最後まで生贄を決められず全員死ぬって感じ』
そんな上手くいくかと思っていたけれど、眺めているとそんな気配を感じた。
「そもそもアンタが肝試しなんて言い出すから」
「はぁ!?俺が悪いってのかよ!」
「それを言うならアンリもよ。怪しげな建物で休もうなんて」
「私は足を怪我したマユを思って……」
「私のせいでごめん、アンリ」
「っマユは悪くないよ!」
気弱女子マユとクール系女子アンリは仲良しらしい。慰め合う2人を見て、女はやっぱり悪趣味だと思った。
(どうせ、アンリの目の前でマユ殺すんだろうな……)
他にいるのは、早々と退場しそうな気の強い金髪女。先程からずっとうるさく、ガタイの良い男。
そして唯一、まだ冷静そうな敬語インテリ男だった。
「おいアツト、さっきから何で黙ってるんだよ」
「ちょっと待ってください」
「は?」
「アツト君?」
「取れた」
『あ、やべ』
女のインカムからは、恋人の焦った声が聞こえた。
対面に座っているアツトと呼ばれた青年は椅子に括り付けられた縄を器用に外していた。
周りを見渡すと、どの仮面スタッフも明らかに動揺している。仮面越しでも感情が漏れ出てしまう彼らを見て、人手不足による質の低さが顕著に出てる、なんてことを女は呑気に考えた。
刹那、悪趣味なタイムスケジュールが完全に崩壊した。