2話-1
『…このように、深刻な労働者不足に政府はーー』
女はソファでポテトチップスを貪りながら、テレビを見つめた。今更すぎるニュースに飽き飽きしてその電源を落とす。後ろの男がうるさくて、集中できないのも原因だ。
「となると道具の準備に十人はいるでしょ…」
パソコンに向き合い、大きな独り言をこぼすのはパーカーというラフな格好をした男。しかしその顔には不気味な仮面が付いてある。
「でも招待状がなー。郵送はリスク高いし手渡し…。でも一ヶ月でプレイヤー全員を回るのなんて」
ダイニングテーブルで一人仕事に勤しむオフの彼氏。普通なら尊敬に値するであろう風景だが、女は顔を歪めた。
終わらない独り言という名の愚痴を止めるべく、女が男の方を振り向いた瞬間、しかし彼は机に突っ伏したのだった。
「圧倒的人手不足!!!」
*
「聞いてよぉ!人手が足りないんだよぉ!」
「うるさい」
もう仕事は諦めたのか、男はソファで恋人に縋り付いていた。女はウザがりつつも、慣れているのか突っぱねようとはしない。
「毎ゲームで絶対何人か辞めるんだよねー、なんでだろ」
男の頭にあるのは、この間の撤収作業。死体を洋館から運び出している時、バイトリーダーとした会話だった。
『あ、今回で六人辞めるそうっす』
『六人も!?』
『その内二人は新人な』
『えぇー!!』
「この不景気にあんな額のお給料渡してるのにさぁ!酷いと思わない!?」
「殉職率5%」
「うっ」
女の一言がクリーンヒットしたのか、男は慌てて言い訳を捲し立てた。
「だって仕方ないでしょ!血の気の多い人選んでるんだから!スタッフの一人や二人殺しちゃうでしょ!」
男は先日行われたファイナルステージを思い出した。遅刻してしまい見れなかったゲーム映像を、後日自宅で見ることになったのだ。
確かに何人かスタッフは殺されていた。しかもスタッフ達は動揺しないよう教育されている。なんとか気丈に振る舞っていたが、仕事仲間が目の前で殺されたのだ。その足が密かに震えてたことぐらい、主催者ならすぐわかった。
「まぁ隣で仲良しの同僚とか殺されちゃったら、辞めちゃうよなぁ…」
一旦納得がいったという風に落ち着くが、男はすぐに現場を思い出した。
「って、そんなこと気にしてる場合じゃないんだよ!このままじゃ大型の準備なんてできないっ!」
そう言って再び恋人に泣きついた男は、とてもデスゲームなんてものを主催しているとは思えなかった。
いい加減ウザさが無視できなくなってきた女は、腕に押し付けられたその仮面を押し返す。勢いのままソファから落ちてしまった男に向かって、女は無表情に告げた。
「……私が、手伝う」
「えっ」
しかしその顔は、少しの自信が垣間見えた。
「お前の仕事」
「えぇー!?」