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メリトクラシア  作者: Lancer
【第2章】★アイリス保護編★ ──制度に守られた居場所。 それは、自由と孤独のはざまで揺れる“仮の契約”だった。
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【【第8話】★選別の門を越えて★(完全版/添削不要)

──ここから、学園編が始まります。


選ばれた者たちの門をくぐる少年ジェイド。


“見られる者”から“見る者”へ。


物語は、静かに転機を迎えます。





──士官学校、第一日目。


 門が開く音は、まるで世界の選別が始まる合図のようだった。


 ジェイド・レオンハルト、十歳。

 最下層階級ウンフェーイグ出身。

 ついにその足で、貴族子弟や名誉階級と肩を並べる場所へ踏み込む。


 その門の向こうは、選ばれし者だけが立てる世界。


 それでも、俺の心は静かだった。

 不安はある。けれど、もう戻らないと決めたから。

 背中に感じたぬくもりを、忘れないように──。


 校内は想像よりも広く、無駄のない石造りの建物が規則正しく並んでいた。

 衛兵のような制服を着た生徒たちが整列し、上級生が点呼をとっている。


「新入生、列を乱すな!」


 厳しい声が飛ぶ。だが、俺の足は止まらない。


 視線を感じる。後ろから、横から、前から。

 この場に俺がいること自体が、“異物”として見られているのが分かった。


(それでも、ここに来た)


 この士官学校に通えるのは、試験を突破した者だけ。

 ただし、形式的には“合格”でも、待遇には明確な差がある。

 名門貴族の子弟は個室寮と専用教官が与えられ、

 下層階級や名誉昇格者は“共同寮”と最低限の教育から始まる。


 もちろん、俺は後者だ。──本来なら。


 だが今回は、「審問庁の記録対象」として特例が取られた。

 そう説明されたのは、入寮手続きの時だった。



 割り当てられた寮舎は、木造二階建ての古びた建物だった。

 外観は粗末だが、中は清掃が行き届き、最低限の家具は揃っている。


「ここが……俺の“個室”か」


 一人用の狭い部屋。ベッドと机、簡単な本棚があるだけの簡素な空間。

 けれど、他人の視線を気にせず眠れるだけで、ありがたい。


 本来この階級では考えられない待遇だ。

 その理由に、素直に喜んでいいのかは分からないけれど。


(……見られてる)


 扉の奥。誰かの気配がした気がして、俺はそっと目を細める。

 違和感は──すでに慣れていた。



 入寮後まもなく、訓練場で新入生の顔合わせが行われた。


 そこにいたのは、金髪を整えた貴族風の少年──ライナルト。

 そして、肌に傷跡の残る無言の少年──キール。


 初対面の挨拶は、どこかぎこちなかった。

 だが、今は互いを値踏みしている段階。

 戦う前に、敵か味方かを見極めようとしている。


 そして、この新入生を統括する担当教官が、間もなく現れた。


「貴様らが……今年の“試験合格者”か」


 重い足音とともに入ってきたのは、

 赤茶の髪を後ろで結んだ女教官──カミラ=シュトレーム。


 その目は、一切の情を拒絶するような冷たさを帯びていた。


「今後、私はお前たちの“評価”をすべて記録する。行動、言葉、振る舞い……すべてだ」


 背筋が伸びた。

 俺の心に、あの審問庁ファイルがよぎる。

 もしかしたら、この教官も──記録者なのかもしれない。


(見られている)


 ふと、肩の奥がうずくような感覚が走る。

 アイリスの封印魔術に近い“圧”を感じた。


(この学園、普通じゃない……)


 けれど、だからこそ、ここまで来た意味がある。


 俺は、見られる側じゃない。

 見返す側になるために、ここにいるんだ。


 そう、月夜に誓った。あのぬくもりの夜に。


──物語は、“見られる者”から“見る者”へと変わる。



※このエピソードは、物語構造と世界観制度の整合性を図るため、軽微な修正を加えた差し替え版になります。


本編の展開には影響しない範囲で、設定との“噛み合わせ”をより精密にした感じです。


……と言っても、「気づいた人は鋭いかも?」くらいの調整ですので、いつも通り楽しんでもらえたらうれしいです。


(※この件に関しては、後日NOTEにて“設定調整の裏側”をちょっとだけ語る予定です。たぶん制作裏話みたいなやつになると思います)


それじゃあ、また次の話でお会いしましょう。

本気で挑む少年と、まだ少し不安な少女の物語は、ここからさらに加速します。



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