【【第8話】★選別の門を越えて★(完全版/添削不要)
──ここから、学園編が始まります。
選ばれた者たちの門をくぐる少年ジェイド。
“見られる者”から“見る者”へ。
物語は、静かに転機を迎えます。
──士官学校、第一日目。
門が開く音は、まるで世界の選別が始まる合図のようだった。
ジェイド・レオンハルト、十歳。
最下層階級ウンフェーイグ出身。
ついにその足で、貴族子弟や名誉階級と肩を並べる場所へ踏み込む。
その門の向こうは、選ばれし者だけが立てる世界。
それでも、俺の心は静かだった。
不安はある。けれど、もう戻らないと決めたから。
背中に感じたぬくもりを、忘れないように──。
校内は想像よりも広く、無駄のない石造りの建物が規則正しく並んでいた。
衛兵のような制服を着た生徒たちが整列し、上級生が点呼をとっている。
「新入生、列を乱すな!」
厳しい声が飛ぶ。だが、俺の足は止まらない。
視線を感じる。後ろから、横から、前から。
この場に俺がいること自体が、“異物”として見られているのが分かった。
(それでも、ここに来た)
この士官学校に通えるのは、試験を突破した者だけ。
ただし、形式的には“合格”でも、待遇には明確な差がある。
名門貴族の子弟は個室寮と専用教官が与えられ、
下層階級や名誉昇格者は“共同寮”と最低限の教育から始まる。
もちろん、俺は後者だ。──本来なら。
だが今回は、「審問庁の記録対象」として特例が取られた。
そう説明されたのは、入寮手続きの時だった。
◆
割り当てられた寮舎は、木造二階建ての古びた建物だった。
外観は粗末だが、中は清掃が行き届き、最低限の家具は揃っている。
「ここが……俺の“個室”か」
一人用の狭い部屋。ベッドと机、簡単な本棚があるだけの簡素な空間。
けれど、他人の視線を気にせず眠れるだけで、ありがたい。
本来この階級では考えられない待遇だ。
その理由に、素直に喜んでいいのかは分からないけれど。
(……見られてる)
扉の奥。誰かの気配がした気がして、俺はそっと目を細める。
違和感は──すでに慣れていた。
◆
入寮後まもなく、訓練場で新入生の顔合わせが行われた。
そこにいたのは、金髪を整えた貴族風の少年──ライナルト。
そして、肌に傷跡の残る無言の少年──キール。
初対面の挨拶は、どこかぎこちなかった。
だが、今は互いを値踏みしている段階。
戦う前に、敵か味方かを見極めようとしている。
そして、この新入生を統括する担当教官が、間もなく現れた。
「貴様らが……今年の“試験合格者”か」
重い足音とともに入ってきたのは、
赤茶の髪を後ろで結んだ女教官──カミラ=シュトレーム。
その目は、一切の情を拒絶するような冷たさを帯びていた。
「今後、私はお前たちの“評価”をすべて記録する。行動、言葉、振る舞い……すべてだ」
背筋が伸びた。
俺の心に、あの審問庁ファイルがよぎる。
もしかしたら、この教官も──記録者なのかもしれない。
(見られている)
ふと、肩の奥がうずくような感覚が走る。
アイリスの封印魔術に近い“圧”を感じた。
(この学園、普通じゃない……)
けれど、だからこそ、ここまで来た意味がある。
俺は、見られる側じゃない。
見返す側になるために、ここにいるんだ。
そう、月夜に誓った。あのぬくもりの夜に。
──物語は、“見られる者”から“見る者”へと変わる。
※このエピソードは、物語構造と世界観制度の整合性を図るため、軽微な修正を加えた差し替え版になります。
本編の展開には影響しない範囲で、設定との“噛み合わせ”をより精密にした感じです。
……と言っても、「気づいた人は鋭いかも?」くらいの調整ですので、いつも通り楽しんでもらえたらうれしいです。
(※この件に関しては、後日NOTEにて“設定調整の裏側”をちょっとだけ語る予定です。たぶん制作裏話みたいなやつになると思います)
それじゃあ、また次の話でお会いしましょう。
本気で挑む少年と、まだ少し不安な少女の物語は、ここからさらに加速します。