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メリトクラシア  作者: Lancer
第5章:希望の階段
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【第43話】★和やかな影の集い★

赤い灯りに照らされた地下の広間。

そこに集うのは、笑い合う四人の影――デイジア、カリオン、セレナ、そしてエス。

杯を掲げる彼らは、まるで仲の良い家族のように和やかで、敵の集会所とは思えない空気に包まれていました。

地下の空間は、静かな赤光に包まれていた。

 石造りの壁には古い燭台が掛けられ、揺らぐ炎が長い影を踊らせている。

 中央の円卓には、黒い杯が三つ。濃い赤の液体が満たされ、光を受けて宝石のように煌めいていた。


 カリオンが豪快に笑った。

 長身の彼は背もたれに深く腰を預け、杯を片手で軽く振りながら、「遅ぇな、あの小娘は」と冗談めかす。

 その声音には苛立ちよりも、どこか待ち遠しい気配があった。


「お待たせ~!」


 明るい声が響き、扉が勢いよく開いた。

 デイジアが両手を広げて現れる。

 腰まで届く金の髪を揺らし、無邪気な笑みを浮かべながら、ひらひらと手を振った。


「ちょっと寄り道してただけ。面白いもの見ちゃってさ!」


 カリオンは一瞬だけ睨んだが、すぐに噴き出すように笑った。

「はははっ、やっぱりお前はそう来るか。相変わらず退屈を嫌う奴だ」


 デイジアはテーブルに飛び乗るように腰を下ろし、脚をぶらぶらと揺らす。

「退屈なんてつまんないでしょ? ねぇ、セレナ」


 名を呼ばれたセレナは、静かに杯を傾けた。

 白磁のような肌に赤い液体が映え、その姿は冷ややかでありながら、どこか姉のような落ち着きを帯びている。

「……あなたは子どもね。けれど、その元気さも嫌いじゃないわ」


 その言葉に、デイジアは「でしょ?」と胸を張って笑う。

 三人の間に流れるのは、陰謀めいた緊張感ではなく――気の置けない仲間同士の空気だった。


杯が軽く触れ合い、乾いた音が地下の空気に響いた。

 血の赤がランプの光を受けて揺れ、石壁に不規則な影を映し出す。

 だが三人の表情に陰はなく、まるで学院帰りの友人同士の雑談のような明るさがあった。


「で? 寄り道って何をしてたのよ」

 セレナが小首をかしげながら問いかける。

 その声音は呆れを含んでいたが、根底には妹を見守るような柔らかさが宿っていた。


「んー? 人間たちをちょっと観察してたの」

 デイジアは唇を尖らせながら、無邪気に答える。

「案外さ、面白いのよ。怖がったり怒ったり、すぐ顔に出すんだもん。からかい甲斐あるわ~」


 カリオンが吹き出した。

「ははっ、さすがはお前だな。任務を遊びに変えるのはお前の特技だ」

 杯を傾けながら、楽しげに肩を揺らす。


「失礼ね。遊んでるんじゃなくて、仕事の一環だもん」

 デイジアはわざとらしく頬を膨らませ、脚をぶらぶらと揺らす。

「でもまあ……退屈しのぎには最高♪」


「やっぱり遊んでるじゃない」

 セレナが冷ややかに返すと、カリオンが豪快に笑い声を上げた。

 三人の声は、地下の石壁に反響して、予想以上に賑やかに広がる。


 そのやり取りは、不思議なほど平穏で、和やかだった。

 陰謀の気配など一欠片もなく、ただ仲間と過ごす夜の団欒のように。


談笑の熱がひと息ついた頃、扉が軋む音がした。

 赤い光の差す地下の広間に、軽やかな声が響く。


「あらー? 今日は三人ともいるのね♪」


 にこやかな笑みを浮かべて現れたのは、金髪の少女――エス=ミュール。

 実況席での華やかな喋りとは違い、今は落ち着きと柔らかさを帯びた声色だった。

 その言葉だけで、場の空気が一層和やかにほどけていく。


「ちょっと遅いじゃん! またお姉さんぶって〜」

 デイジアが口を尖らせてからかう。


「ははっ、揃うと賑やかだな」

 カリオンが杯を掲げて豪快に笑う。


「……静かな時間は、長くは続かないのね」

 セレナが目を細め、皮肉めいた調子で呟く。


 エスは三人のやり取りを見渡し、柔らかく微笑んだ。

「和やかでいいじゃない♪ こうして笑っていられる時間こそ、何より大事よ」


 その一言に、また笑いが広がる。

 赤い灯りに照らされた空間は、敵の集会所というよりも、仲間が集う温かな家のように見えた。


杯が空になる頃、笑い声はさらに大きくなっていた。

 カリオンの豪快な冗談に、デイジアが身振り手振りで反論し、セレナが呆れ顔で突っ込みを入れる。

 エスはにこやかにそれを眺めながら、時折「はいはい、仲良くね」と笑って場を整える。


 敵の密談など、どこにも存在しない。

 ただそこにあるのは、兄妹が寄り合う夜の団欒。

 赤い杯を掲げ、交わされる笑い声は、むしろ人間たちの宴よりも温かくすらあった。


「次も楽しみにしてるわ」

 セレナが杯を置き、細い笑みを浮かべる。


「もちろん! 退屈なんてさせないからね♪」

 デイジアが胸を張る。


「ははっ、頼もしいな」

 カリオンが肩を揺らし、杯を打ち合わせる音が響いた。


 そして、エスが穏やかに締めくくる。

「和やかでいいじゃない♪ この雰囲気、しばらくは壊さないでいきたいものね」


 赤い灯りに照らされた空間は、敵の集会所というよりも――

 仲間が寄り合い、無邪気に笑い合う、小さな家そのものに見えた。



















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

第43話は、吸血鬼陣営の初めての「顔見せ回」でした。

陰謀ではなく、あえて“和やかな団欒”として描くことで、彼らを読者に“仲間”として刷り込む狙いがあります。

作者活動リンク

・note(制作裏話や考察)

→ https://note.com/lancer_official


・X(最新情報はこちら)

→ https://x.com/BrcbGhpxvO660fL



ただの雑談の中に紛れた「資格者」という言葉。

そして、赤い灯りに映える笑い声――。

違和感に気づく読者もいれば、ただの和やかなシーンにしか見えない読者もいるでしょう。


いずれにせよ、この夜の団欒が“終わり”を迎える時、すべてが反転します。

どうか、その瞬間まで見届けてください。

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