--- 《特別章》吸血鬼会合
この章は Ep40「赤瞳残響と偽装再会」と同じ夜に起きていた裏側の出来事を描いています。
塔でジェイドたちが鐘音に囚われていたその頃、街の片隅では――吸血鬼たちの密かな会合が進行していました。
闇に揺れる炎の下、三つの影が卓を囲む。
語られぬ計画、交わらぬ言葉。
そこに欠けているのは、一人分の席――
そして最後に現れるのは、赤き瞳を持つ者。
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《特別章》吸血鬼会合
赤布に覆われた卓の上で、炎が揺れていた。
燭台は四脚。だが灯っているのは三つだけ。
空いた席を示すように、影が沈黙を守っている。
グラスに赤い液体が注がれる。
ぽたりと落ちる雫が、液面を震わせた。
衣擦れの音が続き、椅子の脚が石床を軋ませる。
誰も声を発さない。
ただ、計画を共有するかのように視線だけが卓上を往復した。
ひとりが懐から取り出したのは小さな紙片。
塔の断面を思わせる図が走り書きされている。
その上に影の指先が落ち、静かに核心を示した。
「塔の中心を狙う」――声にならぬ言葉が、互いの瞳にだけ伝わる。
役割はすでに定められていた。
鋭い肩を揺らす男は戦闘。
長い髪を伏せる女は偵察。
卓上の紙片を押さえる者は指揮。
ただ一人、空席の主を除いて。
その空席に視線が集まった時――
赤い指輪が卓の上に置かれた。
金属の冷たい質感が、炎に赤を返す。
触れた指先はひとときためらい、
やがて静かに指輪を撫でた。
燭台の炎が大きく揺れる。
赤光が指輪を舐め、卓全体を不気味に染める。
無言のまま、三人は頷いた。
会合は終わりを告げようとしていた。
――そのとき。
石床に靴音が響いた。
遅れて刻まれるリズム。
燭台に照らされた扉が軋み、
そこから影がひとつ、音もなく滑り込んだ。
「……待たせたわね」
赤い瞳が揺れる炎を受け、
その一言だけが会合を締めくくった。
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