【相談室RADIO 第9回】★深淵の囁きと選ばれし者の決意★
こんばんは、アイリスです。
今回は、審問庁のヴィオラさんをお迎えして、“選ばれし者”と深淵の囁きについて語ります。
夜空に赤い月が昇るとき、静かに響く声……。
それは導きなのか、試練なのか――。
どうぞ、耳を澄ませてお聴きください。
【BGM:静かなストリングス → ゆっくりフェードイン】
アイリス:「皆さんこんばんは、『メリトクラシア・ラジオ』のお時間です。MCのアイリスです」
その声は、どこか慎重に選ばれた響きを持っていた。
「前回は“街に潜む噂話”をテーマに、デイジアさんと賑やかにお届けしました。……あの赤い月の話、覚えていますか?」
マイク越しに問いかけるようにして、少し間を置く。
裏ネクサス(低く):「影は、足音を立てない。立てる必要がないからだ」
アイリスは小さく笑い、「……今夜は、少し真面目な話をします」と続けた。
「お迎えするのは、審問庁のヴィオラさん。秩序と規律を守る立場から、“選ばれし者”についてお話しいただきます」
【SE:紙をめくる音】
アイリス:「ヴィオラさん、こんばんは」
ヴィオラ:「こんばんは。……今夜は、軽い話は用意していないわ」
アイリス:「構いません。むしろ、皆さんもきっと知りたがっていると思います」
裏ネクサス:「知ることは、時に耳を汚
す。だが、耳は塞げない」
アイリス:「……それでも、聞く覚悟のある方は、このままお付き合いください」
【BGM:ほんの少しトーンダウンし、次セクションへ】
【BGM:淡いピアノ、間を大切に】
アイリス:「“選ばれし者”って、噂ではよく耳にします。でも……実際はどういう存在なんですか?」
ヴィオラ:「選ばれる、というより……“選び取られる”の。環境や偶然、そして本人の選択によってね」
アイリス:「本人の選択……」
ヴィオラ:「ええ。本人が知らないうちに門をくぐっていることもある。自分の足で歩いているつもりでも、門はいつの間にか背後で閉じるわ」
裏ネクサス(低く):「開いた音は聞こえない。閉じる音だけが響く」
アイリスは息をのみ、視線を落とす。
「……それは、幸運なんでしょうか」
ヴィオラは一拍置いて、ゆっくりと首を横に振った。
「試練よ。幸運であってほしいと願うのは、傍にいる者の祈り」
アイリス:「傍にいる人……」
ヴィオラ:「“見届ける者”とも言うわ。選ばれた誰かが目を逸らさないよう、静かに支える役目」
裏ネクサス:「支える手は、時に突き落とす手と同じ形をしている」
【BGM:一拍置き、薄くフェード】
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【SE:遠くで鐘の音】
【BGM:低弦が静かに鳴り始める】
裏ネクサス(低く):「赤い月の夜を、君は見たことがあるか?」
アイリス:「……いいえ。でも、あの夜を見た人は、何かの声を聞いたと……」
ヴィオラ(ゆっくり):「囁きよ。風だと自分に言い聞かせる人もいるけれど――本当は違う」
アイリス:「……違う?」
ヴィオラ:「その声は、境界の向こうから届く。問い返してはいけない」
アイリスは息をのむ。
「問い返すと……どうなるんですか」
ヴィオラは答えず、逆に問うた。
「あなたは――誰かに名前を呼ばれたら、振り向くタイプ?」
アイリス(戸惑い気味に):「……たぶん、はい」
ヴィオラ:「なら、答えを返した瞬間にはもう遅いわ。相手の輪郭が、こちら側に寄ってくる」
【SE:空気がわずかに圧を増す演出】
裏ネクサス:「輪郭は、境界線を食べる」
アイリス(小さく繰り返す):「……境界線を、食べる……」
【SE:無音。短く呼吸音だけが響く】
ヴィオラ(少しだけ声を和らげて):「覚えておいて。“答えを欲する心”は、扉の鍵になる」
アイリス:「……扉の向こうに何がいるかも分からないのに?」
ヴィオラはわずかに微笑む。
「そう。でも――もしかしたら、それは救いかもしれない」
裏ネクサス(低く):「鍵穴は気にしない。開くことだけが意味になる」
ヴィオラは一呼吸置き、短く結んだ。
「だからこそ、深淵は人を試す」
【SE:低弦に微かなコーラスが重なり、次セクションへの入り口を用意】
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【SE:微細な風の通り道/BGM:薄い合唱パッド】
???(微かに、女性の声):「選ばれし者よ――契約の時は近い」
【SE:一瞬の無音】
アイリス(驚き):「……今の、声……」
ヴィオラ(即座に):「気にしなくていいわ。ここでは、音が遊ぶことがある」
裏ネクサス(低く):「遊び相手を間違えた音は、すぐに孤独になる」
アイリス(呼吸を整えて):「……でも、確かに聞こえました。皆さんにも――」
???(重ねるように、より近くで):「目を逸らさないで。深淵は鏡。覗くのは、あなた」
【SE:軽いハウリング→即カット】
ヴィオラ(低く、苛立ちを押し隠して):「……収録環境、調整を」
アイリス(小声で):「はい……」
裏ネクサス(淡々と):「名は、まだ呼ば
ない。名を呼べば、場所が決まる」
【BGM:コーラスが引き、低弦だけ残る】
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【BGM:静かなピアノ+低弦、やや前向きに】
アイリス:「……ヴィオラさん。もし“囁き”に呼ばれた人がいたら、どうすればいいんですか」
ヴィオラ:「後戻りはできない。けれど、歩幅は選べるわ。早足で傷を増やすか、息を整えて進むか」
アイリス:「歩幅を……選ぶ」
ヴィオラ:「そして、ひとつだけ約束して。――目を逸らさないこと」
アイリス:「……もし、恐くなったら?」
ヴィオラ:「一度だけ目を閉じていい。でも二度は閉じない」
裏ネクサス(低く):「二度目は眠りだ。目覚めは約束されていない」
アイリスは短く笑い、吐息を整えた。
「怖いけれど……優しい言い方ですね」
ヴィオラ(淡く、しかし確かな声で):「私は見届ける。誰かが選ばれてしまったのなら、最後まで。……それが、私の仕事」
アイリス:「ありがとう、ヴィオラさん」
【SE:深呼吸の効果音。BGMが少し明るみに】
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【BGM:余韻のストリングス】
アイリス:「……さて、そろそろお別れの時間です」
デスクの上の原稿を軽く叩き、彼女はマイクへと視線を向ける。
「皆さんは――深淵の声を、信じますか?」
裏ネクサス(低く):「信じるな。けれど、否定もするな。どちらも扉の鍵になる」
アイリス(微笑む気配):「器用ですね、あなたは」
ヴィオラ:「今夜はここまで。どうか平穏な夜を」
???(遠く、しかしはっきりと):「また会いましょう、選ばれし者」
【SE:遠ざかる風】
【BGM:低い鐘の音が一度だけ鳴る】
アイリス:「次回――『夜の契約と囁く声』。誰と、何を、交わすのか……お楽しみに」
【BGM:フェードアウト/END】
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お聴きいただきありがとうございました。
深淵の声は、恐ろしくもあり、どこかで救いを求めているようにも思えます。
ヴィオラさんの言葉を借りれば、それは「試すもの」。
皆さんなら――問い返してしまいますか?
次回は【相談室RADIO 第10回】★夜の契約と囁く声★。
いよいよ「契約」という言葉が意味を持ち始めます。どうぞお楽しみに。
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