【第7話】★目覚めの階段★(完全版/添削不要)
士官学校——それは、“選ばれた者”だけが立てる、新たな戦場。
少年はついにその門をくぐる。
だが、そこに待っていたのは、さらなる格差と、冷たい現実だった。
上下に分かたれた座席。交わらぬ視線。
そして、静かに揺らぎ始める“内なる力”。
少年ジェイド・レオンハルトの、新たな階段の物語が、いま始まる。
朝焼けが、まだ眠る街を優しく包んでいた。
ジェイドは、静かにベッドから起き上がる。
眠気はすでに消えていた。昨夜はほとんど眠れなかったのだ。
机の上には、一通の“召集通知”。
それは、王都上級士官学校からの正式な入学命令だった。
夢にまで見た、“選ばれし者”の証。
だが今、胸を締めつけるのは高揚ではなく、冷たい緊張だった。
「……行ってくる」
玄関で声をかけると、母が振り返り、微笑んだ。
父は何も言わず、力強く肩を叩いた。
その隣に、そっと立っていた少女──アイリスは、やや伏し目がちに口を開いた。
「……お気をつけて、ジェイド様」
まだ“様”を外せない。
そしてジェイドも、それを正せない。
何も言わずに、彼は頷き、扉を開けた。
士官学校の正門は、まるで城門のようにそびえていた。
道の向こうから、上等な制服を身にまとった貴族の子弟たちが次々に現れる。
馬車を下りる者、使用人に傘を差し出される者──。
その中で、ジェイドだけが、徒歩で門をくぐった。
胸元の入校証が風になびく。
彼の目に映るのは、塔のようにそびえる校舎と、掲げられた“階級旗”。
その頂には、あの男──ロータスの肖像画が静かに睨んでいた。
講堂は、円形の構造をしていた。
そして座席は、階段状に並べられていた。
高い段には貴族、低い段には平民。
まるで、そのまま社会の縮図だった。
ジェイドは、一番下の席に座った。
「──なるほど。下民は下に座るのが本能か」
冷笑を含んだ声が降ってくる。
見上げると、白銀の髪を持つ少年──ライナルト=グロースが、肘をついて笑っていた。
ジェイドは、何も返さない。
ただ黙って、視線を逸らす。
それでよかった。
ここは、戦う場所じゃない。“勝つ”場所だ。
やがて、壇上に現れたのは──一人の女性教官だった。
深い赤の髪。整った顔立ち。軍服姿でありながら、どこか気品を帯びたその女性は、堂々たる声で名乗った。
「カミラ=シュトレーム。今期担当の教導官だ。規律と戦果、その両輪を叩き込む」
彼女の言葉に、講堂が静まり返る。
「この学校に“平等”はある。だが、その評価はすべて結果で決まる。お前たちの価値は、戦果でしか測れない」
ライナルトが小さく笑い、キールが視線を伏せる。
ジェイドは拳を握った。
その日の集会を終え、ジェイドは一人、廊下の窓辺に立っていた。
校舎の向こうに広がる街並み──そして、その遠くに、自分の家がある。
あの家で、今もアイリスが……。
彼女の姿が脳裏をよぎる。
「……」
ふと、胸の奥が軋んだ。
熱でも、痛みでもない。
何かが、ほんのわずかに、揺らいだ。
(……あのときの、診断。ヴィオラの目……)
何かが、自分の中で“封じられている”。
その確信が、言葉の形を持ち始めていた。
──俺は、這い上がる。
たとえ、何が縛っていようとも。
✔️ 完成です。必要であればこのまま投稿用整形/あとがき挿入/アイキ
【あとがき】
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第7話では、士官学校という“第二の戦場”への導入を描きました。
街の外には“希望”があったはずなのに、
新たな場所でも待っていたのは、階級差と無言の圧力。
それでもジェイドは、拳を握り、自分の足で立ち上がろうとしています。
また、彼の中で静かに“何か”が揺れ始めました。
それが“封印された力”であるかどうかは、まだ明かされませんが、
読者の皆さまにはきっと、何かを感じ取っていただけたと思っています。
次回は、少し雰囲気を変えた番外編をお届けします。
緊張のあとに訪れる、小さな安らぎと“主従未満”のふたりの距離感。
どうか、引き続き見守ってください。
……そして、最後にひとつだけ。
前回は、敢えて書きませんでした。
読めば、わかります。
あの沈黙もまた、“構造の一部”でした。