★【第28ー2話】選ばれし机、拒まれし席★
新たな階段を登り始めたジェイドが、学園の“現実”と対峙する回です。
教室の座席に潜む身分差、漂う緊張感、そしてアイリスの不安が描かれます。
ヴィオラ視点で「封印」への布石も入れ、次回以降への伏線が静かに広がる構成です。
重苦しい空気が、教室を支配していた。
窓の外では、灰色の雲が低く垂れこめ、冷たい風が木の枝を揺らしている。
ジェイドは机の上で組んだ指を見つめ、微動だにしなかった。
その指先に込められた力は白くなり、爪が食い込むほどだった。
「……ジェイド様」
か細い声が、背後から届いた。
アイリスだった。
白銀の髪がわずかに揺れ、その紫の瞳は不安に濡れている。
指先が震えているのを、ジェイドはすぐに気づいた。
「どうした、アイリス」
「いえ……ただ、その……」
彼女は言葉を探すように視線を泳がせる。
ジェイドはゆっくりと立ち上がり、窓際へ歩み寄った。
冷たい空気が頬を撫でる。
この教室で、彼は“拒絶”を感じていた。
貴族生たちの視線、教師の無言の圧力、そして――
**己の胸に宿る、名状しがたい焦燥。**
「アイリス、お前は……この場で何を感じている」
「わたしは……」
一瞬の沈黙。
「ジェイド様が、苦しそうに見えます」
ジェイドは目を閉じ、息を吐いた。
「そうか。俺は……まだ、足りないのかもしれない」
───
扉が、ゆっくりと開いた。
カツ、カツ、と規則正しい足音。
黒衣の少女――記録官ヴィオラが、静かに入室してくる。
彼女の手には黒革の記録帳。
その瞳は冷たい光を宿し、まるで感情というものが存在しないかのようだった。
「レオンハルト候補生」
「……記録官殿か」
ジェイドは振り返らず、窓の外に視線を固定したまま答えた。
「確認に来ました。午前の実戦演習でのあなたの動き――
“未覚醒魔力の一時的逸脱”。」
「……俺は抑えたはずだ」
「ええ、抑えていました。しかし」
ヴィオラは教室中央まで歩み、アイリスに視線を移す。
「あなたが側にいることで、抑制が安定しているようですね」
アイリスが驚いたように目を見開き、ジェイドの袖を強く握った。
「ジェイド様は……危険な方ではありません」
「分かっています」
ヴィオラの声は淡々としていた。
「ですが、記録官としてお伝えします。
このまま覚醒が不安定な場合、封印処置を取らざるを得ない可能性もあります」
ジェイドの眉が微かに動いた。
「……封印?」
「はい。しかしこれは最終手段です」
沈黙が落ちる。
窓から射し込む弱い光が、教室の床を白く照らした。
ヴィオラは視線をジェイドから逸らさずに言葉を続ける。
「あなたの心の動きが、魔力の揺らぎに直結している。
“強く望むもの”があるなら、いずれその願いが形となるでしょう」
ジェイドの拳が震えた。
彼は、アイリスを守るためならどんな手段も選ばないと心に誓っていた。
───
ヴィオラは記録帳に何かを書き記し、踵を返す。
教室を出る直前、無表情な声が落ちる。
「次は、あなたの“階段を登る覚悟”を見せてください。レオンハルト候補生」
扉が閉まる音が、静かな教室に響いた。
──────────────────────────────
28話は心理描写特化の回でした。
ジェイドとアイリスの距離感、ヴィオラの冷たい視線が読者の緊張感を高めるはずです。
次回は教師たちの会議で、ジェイドの評価が議論される予定。
ここから一気に学園内政治が動き始めます。
────




