【第5話】★火種の行方★(黙示型:後書き意図的未挿入)
才能がある者が勝つとは限らない。
評価される者が、正しいとも限らない。
これは、すべてを“実力”で測る国に生まれた少年が、
初めて“測られた”物語。
魔法が使えない。心が揺れる。常識では凡人。
それでも、目を逸らさない。
少年が灯した火種は、まだ誰にも見えない。
けれど確かに、世界を変え始めていた。
試験2日目。
それは、真価を問われる“本番”だった。
広大な試験会場の空気は、昨日とはまるで違っていた。
観覧席には王都の有力者たちが並び、彼らの視線が無数の受験者を射抜いている。
緊張と焦燥。
空気の密度が、少しだけ重たく感じた。
その中に、俺——ジェイド・レオンハルトの姿があった。
最下層“ウンフェーイグ”出身。ただの平民。
(……驚くよな。周りの年齢、ほとんど俺より上じゃないか)
俺の隣には、黒髪の少年がいた。
名は、キール。鋭い目つきの彼には、奴隷出身という噂がついて回っていた。
「絶対、負けない」
小さく呟いたその声に、静かな怒りが滲んでいた。
その向こうには、長髪の少年。
貴族出身のライナルト=グロースは、退屈そうに腕を組んでいる。
(あいつ……余裕だな。すでに勝者気取りかよ)
一方、隅の席には銀白の髪を持つ少女、フィーネ。
エルフとの混血。誰とも目を合わせず、静かに本を閉じていた。
それぞれが、それぞれの過去を背負い、ここに立っている。
そして、この試験は——その“中身”までも見透かす構造だった。
◇ ◇ ◇
【第一試験:魔力量測定】
中央にそびえる巨大な水晶柱。
それに手をかざせば、魔力量に応じて光が立ち昇る。
「すごい……!」
最初の受験者が高く光柱を上げると、観客席がどよめいた。
次も、また次も。
優秀な受験者は、魔力の“高さ”を見せつけるように次々と結果を叩き出していく。
そして——俺の番が来た。
(頼む……頼むから、何か反応してくれ……)
手を置く指先が、微かに震えた。
祈るように、俺は水晶に手をかざした。
……しかし。
水晶は、一度だけ微かに輝き、すぐに沈黙した。
「……中等、安定値。異常なし」
判定者が淡々と告げる。
その直後——
「凡人だな」
「特別でもない」
「運が良かっただけか」
そんな声が、観覧席の奥から聞こえてきた。
誰が言ったかは分からない。
でも、俺の耳には、はっきりと届いた。
その様子を、遠くから魔導映像で見ていた記録官の少女——ヴィオラは、眉をひそめた。
「……魔力封印の兆候。これは、“異常あり”よ」
彼女は、その記録を静かに端末に入力しながら、心の中で呟いた。
(この反応……報告すべきか。いや、これはまだ“確定”ではない)
観覧席の上段、見つめる者の中に、一瞬だけ何かが動いた。
そして誰も知らない。
この日、凡人と呼ばれた少年が——
世界を変える火種だったことを。