【第4話】★塔の影、街のひかり★(完全版/添削不要)
試験の翌日。
朝焼けの王都は、人々の活気と新しい一日の予感で満ちていた。
ジェイド・レオンハルトは、一人で“あの場所”へ向かっていた。
王都の中央にそびえ立つ――行政塔。
その最上階には、選ばれし貴族と国家の指導者だけが入れるという。
(……まだ、何も掴んでない。でも、確かに俺は“そこ”に近づいてる)
塔を見上げながら、ジェイドは思った。
合格発表はまだ先。だが、この静かな焦燥感を抑えきれなかった。
塔の麓には、大通りと市場が広がっていた。
人々が行き交い、旅人や商人、そして――奴隷の姿も見える。
ふと、騒がしい声が響いた。
「この奴隷め、目障りだ!下がってろ!」
声の主は、赤い外套を着た金髪の青年貴族。
その隣には、銀髪のダークエルフの少女が倒れていた。
鎖が、足首に絡んでいる。
少女はうつむき、ただ無言で地面に膝をついていた。
(……え?)
ジェイドは気づけば走り出していた。
地面に倒れる少女の前に立つと、彼女を守るように腕を広げる。
「おい、何してんだ貴様。下賤が我が奴隷に触れるとは──」
「資格があるかどうかじゃない。お前の目に……この子は“人間”に見えないのか?」
一瞬、場の空気が凍った。
貴族の青年が目を細め、周囲に向けて声を張る。
「皆聞け! 平民が貴族の奴隷に手を出したぞ!」
人々は視線をそらしながら距離を取る。
その中で、ダークエルフの少女が小さく震え、囁いた。
「……ありがとう」
その声は、ひどく掠れていた。
だが確かに、誰かに救われた経験がほとんどない者の声だった。
「なっ……騎士団!衛兵はどこだ!貴様、処罰されるぞ!」
そこに、鋭い声が割って入る。
「ここで何をしている。騎士団より先に、我々が介入する」
漆黒の軍服をまとった少女──ノウス近衛隊の一人、ユミナが現れた。
「公的場における私的暴力は、王都の掟により禁じられている。あなたの行動は記録されます、カール=ベレヒト卿」
「な、なぜ貴族の名を……」
「ロータス様の御命により、既にあなたの行動は監視下にあります」
金髪の貴族──カールは、青ざめた顔で後ずさる。
ユミナがジェイドの方へ歩み寄ると、小さく微笑んだ。
「君、名は?」
「ジェイド・レオンハルトです」
「なるほど……報告の通りだわ」
ユミナが軽くうなずくと、ジェイドは目を見開いた。
(……報告? 誰が、俺のことを……?)
カールは「ふざけるな!」と叫びながら去っていった。
騒動が収まったあと、アイリスは静かにジェイドを見つめた。
「あなたは……誰?」
「ただの平民だよ。今は、まだな」
塔の影が、王都の街に長く伸びていた。
その先には、確かに“光”が差していた。
(いつかこの街にも、まっすぐ歩ける奴隷がいてもいいだろ)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第4話「★塔の影、街のひかり★」では、
ジェイドが“誰かのために怒る”という初めての行動を描きました。
王都という構造、塔という象徴、
そして影の中に沈んでいた“少女”との出会い。
その行動が、彼の評価を左右するのか。
それとも、誰かの密かな観察の中に記録されたのか――
少女の名は、アイリス。
その瞳に宿るのは、希望か、絶望か。
“人間”としての尊厳を、彼女はまだ信じられない。
ジェイドの言葉は、今はまだ弱く、拙い。
でも、確かに何かが動き出しました。
次回【第5話】「★火種の行方★」では、試験本番がいよいよ始まります。
アイリスの存在が、ジェイドの“夢”にどう影響していくのか。
どうか、続きを見届けてください。
【NOTE連動のお知らせ】
本編では描かれなかった、ジェイドとアイリスの“夜のひと幕”
少女の涙と、平民の少年が交わした、静かな誓いの物語──
▶ 番外編:『アイリス勉強日記 #01』(NOTE限定)
https://note.com/lancer_official/n/nc719dfe5cf4e?sub_rt=share_pw
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