★いらない子なんかじゃない★番外編②(アニメ化想定リライトVer.)
その一言を、言わせてはいけなかった。
その涙を、流させてはいけなかった。
これは、“ただの保護”ではない。
少年が心に刻んだ、たった一つの“誓い”の夜。
――誰かにとっては、ただのセリフ。
でも、ある誰かにとっては、それが「救い」になる。
あなたの心にも、そっと届きますように。
夜の帳が屋敷を包み、静寂だけが残された。
アイリスは、布団の中で身をすくめるようにしていた。
目を閉じても、眠りは訪れない。
グローリア試験が終わり、ジェイドのもとに保護されて数日。
彼の優しさに、何度も救われた――それでも。
(……わたし、役に立っていない。
魔力の封印も……邪魔じゃないかって……)
唇が、震える。
掛け布団の奥で、ぽつりと、呟いてしまった。
「……ご主人様、わたし……いらないんじゃ……」
その声は、本当に小さなものだった。
けれど。
隣の布団で眠っていたはずの少年が、ゆっくりと起き上がる気配がした。
「アイリス、今……なんて言った?」
その声には、わずかに怒気がこもっていた。
「……もう一度、自分の言葉で言ってみろ」
アイリスの身体が、びくりと震える。
喉が詰まり、言葉が出ない。
「……ごめんなさい」
「ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
頭の中が、後悔と恐怖でいっぱいになる。
けれど、もう遅い――彼は聞いていた。
「……ちゃんと、オレの目を見て話せよ。
もう一度、言ってみろ」
目が合った瞬間、こらえていたものが、あふれた。
視界が滲んで、心が崩れる。
「……わたし、いらない子なのかなって……」
その瞬間だった。
ジェイドは、迷わず彼女を抱きしめていた。
「――違う。
アイリス、お前はいらない子なんかじゃない。
二度と……その言葉を、口にするな」
ぶっきらぼうで、不器用で、でも――温かくて。
アイリスは、ジェイドの腕の中で咽び泣いた。
自分が“必要とされた”ことの実感に、涙が止まらなかった。
「……ごめんなさい、ごめんなさい……」
その晩、彼女は、しばらく泣き続けた。
ジェイドは、ただ静かに、その涙を受け止めていた。
そして――彼の瞳に、かつての記憶がよぎる。
(「ずいぶん不服そうだね。戦争奴隷のくせに、偉そうじゃないか」)
(「また、あの商人のところに送り返してやろうか?」)
(「……いや、もっと酷い場所に売ってやってもいい」)
(「い……いや、やめて。やめてください……!」)
胸の奥に、怒りが滾る。
(ふざけやがって……)
(あのクソ野郎、絶対に許さねぇ……!)
――もう二度と、アイリスにそんな涙は流させない。
――もう二度と、あの言葉を、吐かせない。
「アイリス。お前は……オレの“奴隷”だ。
オレが“ご主人様”だ。
だからもう――“いらない子”だなんて、言わせない」
夜の静けさの中。
ただひとつの誓いが、炎のように灯っていた。
今回のリライトは、いつか“映像”で届けられることを強く意識して構成しました。
アイリスの「……いらない子なんじゃ」に込められた絶望。
ジェイドの「お前はオレの“奴隷”だ。だから守る」という反逆の温かさ。
そして、二人が“もう二度と”を共有する決意の夜。
この回が、読んでくれたあなたにとっての「何か」を照らす灯になれば嬉しいです。
次回、本編でまた会いましょう。




