『アイリス相談室RADIO 第3回 “役割”以上の気持ちって、間違いですか『
この物語は、“誰かを想う気持ち”が、たった一言で世界を変える──
そんな奇跡を信じて、紡いできた言葉たちの集まりです。
小さな声が、いつか誰かの心に届いて、
ふとした瞬間に“音”として残るような──
そんな未来を、どこかで夢見ながら。
今日も読んでくれて、本当にありがとう。
(静かな夜の描写。窓の外には月。部屋にはやわらかなランプの光)
アイリス(語り):「こんばんは……今夜も、“少しだけ”心をほどいて──
『アイリス相談室RADIO』、お届けします」
(小さく息をついて)
アイリス:「この番組は、従者のわたし──アイリスが、
主さまに言えない気持ちや、名前のない感情を、こっそりお預かりして、
そっと考える……そんな場所です」
アイリス:「今夜は……もしかしたら、少しだけ重たいお話になるかもしれません。
でも、きっと誰もが、一度は思ったことがあるはず──」
(やや間を置いて)
アイリス:「“わたしの気持ちって、役割を越えてしまったら……いけないんでしょうか?”」
(静かなジングル風描写に切り替え)
紙をめくる音、小さく咳払い)
アイリス:「今夜のおたよりは……ラジオネーム『スズランの記憶』さんから、いただきました」
(ゆっくり読み上げる)
『私は従者として、あるお方に仕えています。
その方のためなら、命さえ惜しくない──そう思ってきました。
けれど最近、ふとした仕草や言葉に、胸が締めつけられることがあります。
もっと側にいたいとか、名前で呼んでほしいとか……
“従者”という役割のままでは、届かない想いがある気がして。
でも、それっておこがましいことなのでしょうか?
私の立場で、そんな風に思ってしまうのは……間違いなのでしょうか。
“ただの従者”のくせに──そう、心のどこかで自分を責めてしまいます。』
(読み終えて、小さな沈黙)
アイリス:「……とても、まっすぐで、切実な……おたよりですね」
(ほんの少し、声が揺れる)
アイリス:「わたしにも、似たような気持ち……あります。だから今日は、
いつもより、ちゃんと考えてみたいと思うんです」
(BGM風の余韻が静かに消え、柔らかく扉の開く音)
アイリス:「──今夜は、この気持ちをひとりでは抱えきれない気がして。
とっても頼りになるお二人に、お越しいただきました」
アイリス:「構造と思考の専門家、クロノス先生。そして……感情と衝動の応援者、司先生です」
クロノス:「……ご招待、感謝する。こうして“心”の話題に招かれるとは、実に興味深い」
司:「おう、呼ばれたからには語らせてもらうぜ。“感情”ってのは、いつだって全力で応えるもんだからな!」
(イスの音。クロノスは静かに腰を下ろし、司はやや雑に座る)
アイリス:「さっそくですが、おたよりの内容──どう思われますか?」
クロノス:「制度上、従者は“個”ではなく“機能”と定義される。
つまり、“主の意に従う存在”に過ぎない。
そこに私情を持ち込むことは、本来──排除すべき“例外”だ」
司:「……だが、心は構造じゃねぇ。
“道具”って自分で言った時点で、その子はもう“道具じゃない”ってことに気づいてんだよ」
クロノス:「ならば、彼女が問う“間違い”とは、何か。
構造から逸脱したことを指すのか、それとも──
“想ってはいけない”という自己抑制のことか」
アイリス(小さく息をのむ):「……それ、すごく……わかる気がします。
いけないって、決めてるのは──わたし自身、なのかも……」
司:「なぁ、アイリス。お前は誰のためにその気持ちを抱えてる?
“主のため”か? “自分のため”か?
それを選べる時点で、もう従者以上の存在になってんだよ」
クロノス:「従属構造は、上下関係によって維持される。
だが──“並ぶ”ことを選び取る覚悟があるなら、
構造は“対等”へと書き換えられる」
アイリス:「……並んで、歩く……。それって、許されるんでしょうか……?」
(沈黙)
クロノス:「制度上は、否。
だが、“制度にない生き方”こそが、新しい道を拓く」
司:「怖くてもさ、進みたいなら進め。
誰かに許されるより──“自分が許せるか”だろ?」
(クロノスと司の言葉が空気に溶け、しばしの沈黙が訪れる)
(やわらかく、ランプの光が揺れる音)
アイリス(語り):「……わたし、ずっと“従者”という立場に、守られてきたんだと思います」
(小さく笑って)
アイリス:「“主さまの命令だから”って言えば、なんでも理由になる。
従うだけでよかった。何も考えなくてよかった。
……そうやって、安心してたんです。自分の気持ちを、見ないふりして」
(指先が小さく震える描写)
アイリス:「でも──最近、ときどき思うんです」
(静かに目を伏せて)
アイリス:「“もっと、そばにいたい”って。
“あなたが振り返った時、すぐそこにいたい”って」
(記憶の中の声が、遠くから響く)
ジェイド(回想・地の文):「お前はもう、俺の従者じゃなくて、相棒だ」
アイリス(ぽつりと):「……その言葉が、ずっと、胸に残っていて……」
(ほんの一瞬、声が揺れる)
アイリス:「“ただの従者”なら、そんな言葉に心を揺らしちゃいけないのに。
……わたしは、うれしかった。すごく、すごく、うれしかったんです」
(自分の手をぎゅっと握りしめる)
アイリス:「“主さまを守りたい”って思ったとき。
それが命令じゃなくて、自分の意思から生まれたものだって気づいたとき……
どうしてだろう、涙が出そうになったんです」
(ゆっくりと顔を上げる)
アイリス:「わたしは、“役割”じゃない心で、
主さまを想っているんだって──そう、はっきり思ってしまったから」
(息を吸って、微笑む)
アイリス:「……だから、たとえ間違いでも、わたしはこの気持ちを、大切にしたい」
(柔らかい夜の空気が流れる)
アイリス:「名前で呼ばれたいって思う日がきても、
主さまの隣に立ちたいって思う日がきても……
“それでもいい”って、自分に言ってあげたいんです」
(部屋の空気が少し、落ち着いた温度に変わる)
クロノス:「……君の言葉は、明確に“構造の逸脱”だ。
本来、制度の上ではその感情は否定される」
(わずかに間を置いて)
クロノス:「だが、それでも。“構造”は変えられる。
“例外”を積み重ねれば、“新しい基準”になる」
(視線を交わさず、ただ静かに言い切る)
クロノス:「君の存在が、“従者”という制度そのものに、新たな定義を刻みつつある。
──ならば、それはもう“間違い”ではない」
(その隣で、ゆっくりと司が口を開く)
司:「なぁ、アイリス。俺はこう思うんだよ」
司:「“間違い”かどうかってさ、人に聞くもんじゃねぇ。
だって、お前はもう……誰かのために泣けるほど、強くなってんだろ?」
(椅子の背に手を回しながら、笑う)
司:「だったらもう、“役割”の枠からはみ出したっていい。
その気持ちが“ホンモノ”なら、
いつか、ちゃんと届く──そう信じて進めばいいさ」
(沈黙のあと、アイリスの声が小さく重なる)
アイリス:「……ありがとうございます。
クロノス先生、司先生……ふたりの言葉、とても、心に残りました」
(静かなピアノの旋律が流れるような、柔らかな空気)
アイリス(語り):「……“間違い”って、なんでしょうね」
(カップを両手で包み込むような仕草)
アイリス:「誰かにとっての正しさは、
別の誰かにとっての、傷になるかもしれません。
でも──
たとえ正しくなくても、大切な気持ちって、あると思うんです」
(窓の外を見上げながら)
アイリス:「“従者”という役割を背負うことで、わたしは守られてきました。
でも今は……
その殻を、少しだけ破ってみたい。
“わたし”として、あなたの隣にいたい──
そう思ってしまう自分を、もう責めないでいたいんです」
(声がほんの少し、優しくなる)
アイリス:「きっと、“間違い”じゃなくて、“始まり”なんだと思います。
役割を越えて、気持ちが動き出すとき──
それはきっと、自分で選んだ“わたしの生き方”の第一歩だから」
(椅子から立ち上がり、ランプの明かりを見つめる)
アイリス:「……今夜も、おたよりをありがとうございました」
(静かに微笑み)
アイリス:「それでは、また次の夜に──
おやすみなさい。アイリスでした」
(夜の余韻。ラジオのジングルが静かに流れ、フェードアウト)
書きながら、何度も思いました。
「このセリフ、もし“音”になったら──」
「この気持ち、誰かの“メロディ”になったら──」
感情はときどき、言葉だけではおさまりきらないから。
ページを閉じたあとも、
あなたの心にほんの少しだけ、響いてくれたら。
それが、いまのわたしにとっての“願い”です。
最後まで読んでくれて、ありがとう。




