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メリトクラシア  作者: Lancer
★【第4章】《学園編》★ テーマ:階級を超えた友情と成長
35/88

『アイリス相談室RADIO 第3回 “役割”以上の気持ちって、間違いですか『

この物語は、“誰かを想う気持ち”が、たった一言で世界を変える──

そんな奇跡を信じて、紡いできた言葉たちの集まりです。


小さな声が、いつか誰かの心に届いて、

ふとした瞬間に“音”として残るような──


そんな未来を、どこかで夢見ながら。


今日も読んでくれて、本当にありがとう。




(静かな夜の描写。窓の外には月。部屋にはやわらかなランプの光)

アイリス(語り):「こんばんは……今夜も、“少しだけ”心をほどいて──

『アイリス相談室RADIO』、お届けします」

(小さく息をついて)

アイリス:「この番組は、従者のわたし──アイリスが、

主さまに言えない気持ちや、名前のない感情を、こっそりお預かりして、

そっと考える……そんな場所です」

アイリス:「今夜は……もしかしたら、少しだけ重たいお話になるかもしれません。

でも、きっと誰もが、一度は思ったことがあるはず──」

(やや間を置いて)

アイリス:「“わたしの気持ちって、役割を越えてしまったら……いけないんでしょうか?”」

(静かなジングル風描写に切り替え)

紙をめくる音、小さく咳払い)

アイリス:「今夜のおたよりは……ラジオネーム『スズランの記憶』さんから、いただきました」

(ゆっくり読み上げる)

『私は従者として、あるお方に仕えています。

その方のためなら、命さえ惜しくない──そう思ってきました。

けれど最近、ふとした仕草や言葉に、胸が締めつけられることがあります。

もっと側にいたいとか、名前で呼んでほしいとか……

“従者”という役割のままでは、届かない想いがある気がして。

でも、それっておこがましいことなのでしょうか?

私の立場で、そんな風に思ってしまうのは……間違いなのでしょうか。

“ただの従者”のくせに──そう、心のどこかで自分を責めてしまいます。』

(読み終えて、小さな沈黙)

アイリス:「……とても、まっすぐで、切実な……おたよりですね」

(ほんの少し、声が揺れる)

アイリス:「わたしにも、似たような気持ち……あります。だから今日は、

いつもより、ちゃんと考えてみたいと思うんです」

(BGM風の余韻が静かに消え、柔らかく扉の開く音)

アイリス:「──今夜は、この気持ちをひとりでは抱えきれない気がして。

とっても頼りになるお二人に、お越しいただきました」

アイリス:「構造と思考の専門家、クロノス先生。そして……感情と衝動の応援者、司先生です」

クロノス:「……ご招待、感謝する。こうして“心”の話題に招かれるとは、実に興味深い」

司:「おう、呼ばれたからには語らせてもらうぜ。“感情”ってのは、いつだって全力で応えるもんだからな!」

(イスの音。クロノスは静かに腰を下ろし、司はやや雑に座る)

アイリス:「さっそくですが、おたよりの内容──どう思われますか?」

クロノス:「制度上、従者は“個”ではなく“機能”と定義される。

つまり、“主の意に従う存在”に過ぎない。

そこに私情を持ち込むことは、本来──排除すべき“例外”だ」

司:「……だが、心は構造じゃねぇ。

“道具”って自分で言った時点で、その子はもう“道具じゃない”ってことに気づいてんだよ」

クロノス:「ならば、彼女が問う“間違い”とは、何か。

構造から逸脱したことを指すのか、それとも──

“想ってはいけない”という自己抑制のことか」

アイリス(小さく息をのむ):「……それ、すごく……わかる気がします。

いけないって、決めてるのは──わたし自身、なのかも……」

司:「なぁ、アイリス。お前は誰のためにその気持ちを抱えてる?

“主のため”か? “自分のため”か? 

それを選べる時点で、もう従者以上の存在になってんだよ」

クロノス:「従属構造は、上下関係によって維持される。

だが──“並ぶ”ことを選び取る覚悟があるなら、

構造は“対等”へと書き換えられる」

アイリス:「……並んで、歩く……。それって、許されるんでしょうか……?」

(沈黙)

クロノス:「制度上は、否。

だが、“制度にない生き方”こそが、新しい道を拓く」

司:「怖くてもさ、進みたいなら進め。

誰かに許されるより──“自分が許せるか”だろ?」

(クロノスと司の言葉が空気に溶け、しばしの沈黙が訪れる)

(やわらかく、ランプの光が揺れる音)

アイリス(語り):「……わたし、ずっと“従者”という立場に、守られてきたんだと思います」

(小さく笑って)

アイリス:「“主さまの命令だから”って言えば、なんでも理由になる。

従うだけでよかった。何も考えなくてよかった。

……そうやって、安心してたんです。自分の気持ちを、見ないふりして」

(指先が小さく震える描写)

アイリス:「でも──最近、ときどき思うんです」

(静かに目を伏せて)

アイリス:「“もっと、そばにいたい”って。

“あなたが振り返った時、すぐそこにいたい”って」

(記憶の中の声が、遠くから響く)

ジェイド(回想・地の文):「お前はもう、俺の従者じゃなくて、相棒だ」

アイリス(ぽつりと):「……その言葉が、ずっと、胸に残っていて……」

(ほんの一瞬、声が揺れる)

アイリス:「“ただの従者”なら、そんな言葉に心を揺らしちゃいけないのに。

……わたしは、うれしかった。すごく、すごく、うれしかったんです」

(自分の手をぎゅっと握りしめる)

アイリス:「“主さまを守りたい”って思ったとき。

それが命令じゃなくて、自分の意思から生まれたものだって気づいたとき……

どうしてだろう、涙が出そうになったんです」

(ゆっくりと顔を上げる)

アイリス:「わたしは、“役割”じゃない心で、

主さまを想っているんだって──そう、はっきり思ってしまったから」

(息を吸って、微笑む)

アイリス:「……だから、たとえ間違いでも、わたしはこの気持ちを、大切にしたい」

(柔らかい夜の空気が流れる)

アイリス:「名前で呼ばれたいって思う日がきても、

主さまの隣に立ちたいって思う日がきても……

“それでもいい”って、自分に言ってあげたいんです」

(部屋の空気が少し、落ち着いた温度に変わる)

クロノス:「……君の言葉は、明確に“構造の逸脱”だ。

本来、制度の上ではその感情は否定される」

(わずかに間を置いて)

クロノス:「だが、それでも。“構造”は変えられる。

“例外”を積み重ねれば、“新しい基準”になる」

(視線を交わさず、ただ静かに言い切る)

クロノス:「君の存在が、“従者”という制度そのものに、新たな定義を刻みつつある。

──ならば、それはもう“間違い”ではない」

(その隣で、ゆっくりと司が口を開く)

司:「なぁ、アイリス。俺はこう思うんだよ」

司:「“間違い”かどうかってさ、人に聞くもんじゃねぇ。

だって、お前はもう……誰かのために泣けるほど、強くなってんだろ?」

(椅子の背に手を回しながら、笑う)

司:「だったらもう、“役割”の枠からはみ出したっていい。

その気持ちが“ホンモノ”なら、

いつか、ちゃんと届く──そう信じて進めばいいさ」

(沈黙のあと、アイリスの声が小さく重なる)

アイリス:「……ありがとうございます。

クロノス先生、司先生……ふたりの言葉、とても、心に残りました」

(静かなピアノの旋律が流れるような、柔らかな空気)

アイリス(語り):「……“間違い”って、なんでしょうね」

(カップを両手で包み込むような仕草)

アイリス:「誰かにとっての正しさは、

別の誰かにとっての、傷になるかもしれません。

でも──

たとえ正しくなくても、大切な気持ちって、あると思うんです」

(窓の外を見上げながら)

アイリス:「“従者”という役割を背負うことで、わたしは守られてきました。

でも今は……

その殻を、少しだけ破ってみたい。

“わたし”として、あなたの隣にいたい──

そう思ってしまう自分を、もう責めないでいたいんです」

(声がほんの少し、優しくなる)

アイリス:「きっと、“間違い”じゃなくて、“始まり”なんだと思います。

役割を越えて、気持ちが動き出すとき──

それはきっと、自分で選んだ“わたしの生き方”の第一歩だから」

(椅子から立ち上がり、ランプの明かりを見つめる)

アイリス:「……今夜も、おたよりをありがとうございました」

(静かに微笑み)

アイリス:「それでは、また次の夜に──

おやすみなさい。アイリスでした」

(夜の余韻。ラジオのジングルが静かに流れ、フェードアウト)



書きながら、何度も思いました。


「このセリフ、もし“音”になったら──」

「この気持ち、誰かの“メロディ”になったら──」


感情はときどき、言葉だけではおさまりきらないから。


ページを閉じたあとも、

あなたの心にほんの少しだけ、響いてくれたら。


それが、いまのわたしにとっての“願い”です。


最後まで読んでくれて、ありがとう。

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