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メリトクラシア  作者: Lancer
★【第4章】《学園編》★ テーマ:階級を超えた友情と成長
33/88

【第24話】★静謐なる余燼(しずけきよすが)★

【後日談編、静かに始動──】


前話までで描かれた決闘は終わり、今話はその余波と“その先”を描く回です。


勝利とは何か。

選ばれるとはどういうことか。


静けさの中で揺れる感情と、“見えない視線”の存在。

本作の根幹となる「審問庁」や「監視社会」の構造が、ついに本格的に動き出します。



控室の空気は重く、ひどく静かだった。

あれほどの歓声が鳴り響いていた闘技場の裏側に、音という音は存在しない。

ジェイド・レオンハルトは剣を抱え、ただ椅子に腰を下ろしていた。

乾いた汗が額を伝い、指先には未だ微かな震えが残っていた。

──終わった。

けれど、心はどこか置き去りのままだ。

(……本当に、終わったのか?)

勝ったのは自分だった。誰もがそれを認めた。

だが、実感は遠い。

まるで、まだ戦いの只中にいるようだった。

その静けさが、逆に現実味を削ぎ落とす。

ジェイドは、かすかに手を開いた。

その掌には、血の跡と汗の跡。

剣の感触が、まだそこにあった。

──それでも、彼は立ち上がらなければならなかった。

勝者として、次へ進む者として。

ノックの音。

扉の先にいたのは、ユミナだった。

近衛の制服から式典用の装いに着替えた彼女は、いつになく厳しい面持ちをしていた。

「ジェイド・レオンハルト。これを」

差し出されたのは、厚紙で封印された文書。

蝋封が施されており、紋章は──審問庁。

「これは……?」

「君は今日の勝利をもって、特例対象として認定された」

ユミナの声は、どこか機械的だった。

式典的な言葉を述べているはずなのに、温度がなかった。

「以後、君は“134番”として登録される。審問庁付き、監視対象として──」

何かを告げる鐘が、遠くで鳴ったような気がした。

それは“勝利”ではなかった。

むしろ、“番号”を与えられたことによって、自分が人間でなくなったような錯覚。

封筒を手にしたジェイドは、ただ静かに頷くことしかできなかった。

観客席でその様子を見ていたアイリスの顔が、不安げに揺れていた。

式典が終わり、控えの廊下でジェイドは再び立ち止まった。

視線を感じた。

振り返ると、アイリスがいた。

彼女は、一歩だけ前に出た。

でも、何も言わなかった。

「……アイリス」

ジェイドが名前を呼ぶ。

その声に、アイリスの肩がほんの少しだけ揺れた。

「ありがとう。でも、もう、迷惑はかけません」

その言葉に、ジェイドは言葉を失った。

(迷惑なんて……思ってない)

(ただ、助けたかっただけなのに)

けれど、口には出せなかった。

そして、アイリスもそれ以上何も言わず、すっと姿を消した。

残されたジェイドの胸に、微かな痛みが残った。

その日の夜、ジェイドは再び城の奥深くに呼び出された。

ロータス大統領は、彼を一人の部屋に通し、静かに言った。

「お前は“見られる側”から、“見る側”になった」

その意味を、ジェイドはすぐには理解できなかった。

「番号を与えるということは、名を奪うことに似ている」

「……」

「これからも選ばれ続けよ。力だけではない。眼差しと、覚悟もだ」

そう言いながら、ロータスは黒い印の書かれた封筒を差し出した。

「お前の魔力は、まだ未解放だ。封印の全ては解かれていない」

ジェイドの瞳が揺れる。

「その時が来たら、選べ。お前が望む世界のために、力をどう使うかを──」

静かに、夜の帳が降りた。

アイリスは屋敷に戻っていた。

月明かりの差す部屋で、一人ベッドに座り、ただ俯いていた。

ぽろり、と涙がこぼれる。

でもその涙は、以前ほど尖っていなかった。

どこか、優しくなっていた。

(ジェイド……)

一方、ジェイドは屋上の空を見上げていた。

闘技場の照明はすでに消え、空には静かな星が浮かんでいた。

「……あの日と、同じ空だ」

──でも、もう迷わない。

彼の瞳はまっすぐ前を向いていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!。


今回の話は、主人公ジェイドが試合後に“番号付き”の監視対象として登録される、いわば裏側の本編でした。

物語は第4章に入り、学院・派閥・そして“国家の裏側”をテーマとした新たな局面へ移行します。


また、本エピソードの補足・伏線解説は【NOTE公式アカウント】にて公開スタートしました。


解説記事:https://note.com/lancer_official

Twitterでも更新情報発信中:https://twitter.com/BrcbGhpxvO660fL


さらに本日より、

「アイリスとAIによる会話形式での裏話解説」シリーズを公開中!

ご意見・感想・考察なども、どうぞお気軽にお寄せください。

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