★【番外編④】いっしょに暮らすって、こういうことですか?★
※このお話は、本編【第13話】および【第14話】に相当する補完エピソードです。
仮保護制度のもと、ジェイドとアイリスが“共に暮らす”ことになった初夜──
使用人として。仮の従者として。
それでも、誰よりも大切に想う存在へ。
「いっしょに暮らすって、こういうことですか?」
本編では描かれなかった、ふたりだけの静かな夜のひとときをお届けします。
アイリス:
今日も、たくさん歩きました。
はじめての教室、慣れない制服、見知らぬ生徒たちの視線。
……でも、嫌じゃなかった。
むしろ、少しだけ……誇らしいとさえ思えたのです。
(自室に戻り、アイリスはベッドに腰をかける)
(ブーツを脱ぎ、ふくらはぎをそっと指でなぞる)
アイリス:
すこし……張ってます。慣れない姿勢で立っていたせいでしょうか。
でも、これくらい……平気、なはず。
(扉の奥から足音。ジェイドが部屋に入ってくる)
ジェイド:
「……痛いのか?」
アイリス:
「いえ。ただの筋肉痛です。……立っていただけ、ですから」
(ジェイドが歩み寄り、真っすぐに見つめてくる)
ジェイド:
「俺がやるよ。座れって」
(アイリス、固まる。一瞬、言葉が出てこない)
アイリス
……え?
いま、何を……?
(ジェイドが無言で屈み、そっと彼女の脚へと手を伸ばす)
(ジェイドがそっと、アイリスのふくらはぎに触れる)
アイリス:
……っ……ああ……っ……。
だ、だめです……ジェイド様……。
わたし、まだ心の準備が──っ!
(ジェイドはあくまで自然体。無言のまま、優しく手のひらでほぐしていく)
ジェイド:
「こっち、かな……? 無理して立ってたんだろ」
アイリス:(モノローグ)
(そ、それは──っ! 優しすぎですっ……!)
(だめ、だめ、だめですっ……!)
(そこは、そんなに優しくされたら……わたし、わたし……っ!)
(ジェイド様♡ ジェイド様♡ ふくらはぎは卑怯です……♡)
(外見は完璧に平静)
アイリス:
「……はい。ありがとうございます、ジェイド様」
(だが、その声は震える寸前)
アイリス:
(落ち着いて、わたし。今、笑ったらバレます)
(バレたら……終わりです)
(きっと、ジェイド様に軽蔑されてしまいます……っ)
(ジェイド、特に気にする様子もなく手を動かし続ける)
ジェイド:
「明日も授業あるからな。無理すんなよ」
アイリス:
(そ、それを今……言われたら……っ!)
(もう、わたし、溶けてしまいそう──♡)
(ジェイドの手の温かさが、まるで心まで伝わるようで)
アイリス:
(こうして、わたしは今、理性と戦っているのです)
(ほんの数分前までは、ただの“使用人”だったのに……)
(ジェイド、ふくらはぎのマッサージを緩めながら)
ジェイド:
「……このへん、もう大丈夫そうだな」
アイリス:
(……あ。もう、終わってしまうんですね)
(……ふしぎ。なのに、少し……さびしいなんて)
(ジェイドがそっと手を離す)
ジェイド:
「……よし、こんなもんか。痛くなくなった?」
(アイリス、うなずく。微かに微笑みながら)
アイリス:
「……はい。とても、楽になりました」
(ふと、気づく。──手と手が、近い)
(ほんのわずか──数センチの距離。けれど、お互い、引かない)
アイリス:
(……触れてはいないけれど、もう、すでに……)
(心は、とっくに……)
(部屋の空気が静まり返る)
(明かりは落とされ、外の月光が窓越しにふたりを照らしている)
(沈黙。だけど、心地悪くはない)
(ジェイドも、その手を引こうとしない)
アイリス:
(……“距離”って、こんなにも……切なくて、愛しいものなんですね)
(そのまま──ふたり、微かに息を整えながら、夜の静寂に身を委ねる)
──セクション④:結末──
(沈黙の中、そっと目を伏せるアイリス)
アイリス:
(こうして、すこしだけ……触れ合って……)
(わたしの知らなかった“日常”が、始まっていくんですね)
ジェイド:
(……アイリスのやつ、あんまり無茶しないといいけど)
(やっぱ慣れてないからこうなるんだろうな)
(こうしてやるのが、今の俺にできることだ)
ジェイド:
「……また痛くなったらちゃんと言えよ? 定期的にマッサージしてやるから」
(アイリスの身体がビクリと震える。頬は茹でダコのように真っ赤に染まって──)
アイリス:
(え……ええ!? いいんですか!?!?!?)
(ただの使用人なのに……奴隷なのに♡)
(……誰にも渡したくないなぁ……)
アイリス:
「……はい……お願いします……」
(消え入りそうな声で、そう返すのが精一杯だった)
(ふと、二人の手が近いことに気づく──けれど、どちらも引かない)
ジェイド:
(守るって決めた。アイリスは俺に、助けてって言わない)
(だからこそ、俺が言うしかないんだ)
(お前は、ひとりじゃないって──)
──その時だった。
ふたりを包む空気に、やわらかな魔力の揺らぎが広がっていた。
ジェイドは、寮室へ入ったときに《人払い魔法》と《音遮断魔法》を発動していたのだ。
術式はまだ未熟。けれど、このひとときだけは、誰にも邪魔されたくなかった。
ユミナにも、教師にも、もちろん他の生徒にも。
アイリス:「ジェイド様…私に出来ることあれば何でも言ってください…」
――消え入りそうな声で、しかし確かな乙女の宣言だった。
アイリスは大好きなご主人様の胸に飛び込んで、続けた。
アイリス:「私は“要らない子なんかじゃない”って証明したいです。
…勉強も…お世話も……戦闘訓練も、全部頑張ります……だから…
――ずっとおそばにいさせてください」
――ジェイドは顔を赤くした。
彼女のまっすぐな好意に。彼もまた、救われていた。
「オレはアイリスを見捨てない。ずっとそばにいる」
交流時間の終わりが、静かに近づいていた。
けれど、その短いひとときは、確かにふたりを変えていた。
この日を境に、アイリスは“ただの使用人”ではなくなる。
ジェイドにとっても、彼女は──“かけがえのない存在”になっていた。
そのことを、ふたりはまだ言葉にしない。
だが心は、もう始まっていた。
新しい日々が、ここから動き出すのだった。
アイリスにとって、ジェイドとの“共に暮らす時間”は、
ただのご奉仕ではなく、「認められること」への小さな第一歩。
そしてジェイドにとってもまた、
誰かを守り、想い、支えるという“日常”が、ようやく始まりました。
まだ恋ではない。けれど、もうそれは──ただの主従ではない。
次第に深まっていくふたりの絆、今後も温かく見守ってください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




