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メリトクラシア  作者: Lancer
番外編4
30/88

★【番外編④】いっしょに暮らすって、こういうことですか?★

※このお話は、本編【第13話】および【第14話】に相当する補完エピソードです。

仮保護制度のもと、ジェイドとアイリスが“共に暮らす”ことになった初夜──


使用人として。仮の従者として。

それでも、誰よりも大切に想う存在へ。


「いっしょに暮らすって、こういうことですか?」


本編では描かれなかった、ふたりだけの静かな夜のひとときをお届けします。




アイリス:

今日も、たくさん歩きました。

はじめての教室、慣れない制服、見知らぬ生徒たちの視線。

……でも、嫌じゃなかった。

むしろ、少しだけ……誇らしいとさえ思えたのです。


(自室に戻り、アイリスはベッドに腰をかける)

(ブーツを脱ぎ、ふくらはぎをそっと指でなぞる)


アイリス:

すこし……張ってます。慣れない姿勢で立っていたせいでしょうか。

でも、これくらい……平気、なはず。


(扉の奥から足音。ジェイドが部屋に入ってくる)


ジェイド:

「……痛いのか?」


アイリス:

「いえ。ただの筋肉痛です。……立っていただけ、ですから」


(ジェイドが歩み寄り、真っすぐに見つめてくる)


ジェイド:

「俺がやるよ。座れって」


(アイリス、固まる。一瞬、言葉が出てこない)


アイリス

……え?

いま、何を……?


(ジェイドが無言で屈み、そっと彼女の脚へと手を伸ばす)




(ジェイドがそっと、アイリスのふくらはぎに触れる)


アイリス:

……っ……ああ……っ……。

だ、だめです……ジェイド様……。

わたし、まだ心の準備が──っ!


(ジェイドはあくまで自然体。無言のまま、優しく手のひらでほぐしていく)


ジェイド:

「こっち、かな……? 無理して立ってたんだろ」


アイリス:(モノローグ)

(そ、それは──っ! 優しすぎですっ……!)

(だめ、だめ、だめですっ……!)

(そこは、そんなに優しくされたら……わたし、わたし……っ!)

(ジェイド様♡ ジェイド様♡ ふくらはぎは卑怯です……♡)


(外見は完璧に平静)


アイリス:

「……はい。ありがとうございます、ジェイド様」


(だが、その声は震える寸前)


アイリス:

(落ち着いて、わたし。今、笑ったらバレます)

(バレたら……終わりです)

(きっと、ジェイド様に軽蔑されてしまいます……っ)


(ジェイド、特に気にする様子もなく手を動かし続ける)


ジェイド:

「明日も授業あるからな。無理すんなよ」


アイリス:

(そ、それを今……言われたら……っ!)

(もう、わたし、溶けてしまいそう──♡)

(ジェイドの手の温かさが、まるで心まで伝わるようで)


アイリス:

(こうして、わたしは今、理性と戦っているのです)

(ほんの数分前までは、ただの“使用人”だったのに……)


(ジェイド、ふくらはぎのマッサージを緩めながら)


ジェイド:

「……このへん、もう大丈夫そうだな」


アイリス:

(……あ。もう、終わってしまうんですね)

(……ふしぎ。なのに、少し……さびしいなんて)



(ジェイドがそっと手を離す)


ジェイド:

「……よし、こんなもんか。痛くなくなった?」


(アイリス、うなずく。微かに微笑みながら)


アイリス:

「……はい。とても、楽になりました」


(ふと、気づく。──手と手が、近い)

(ほんのわずか──数センチの距離。けれど、お互い、引かない)


アイリス:

(……触れてはいないけれど、もう、すでに……)

(心は、とっくに……)


(部屋の空気が静まり返る)

(明かりは落とされ、外の月光が窓越しにふたりを照らしている)

(沈黙。だけど、心地悪くはない)

(ジェイドも、その手を引こうとしない)


アイリス:

(……“距離”って、こんなにも……切なくて、愛しいものなんですね)


(そのまま──ふたり、微かに息を整えながら、夜の静寂に身を委ねる)


──セクション④:結末──


(沈黙の中、そっと目を伏せるアイリス)


アイリス:

(こうして、すこしだけ……触れ合って……)

(わたしの知らなかった“日常”が、始まっていくんですね)


ジェイド:

(……アイリスのやつ、あんまり無茶しないといいけど)

(やっぱ慣れてないからこうなるんだろうな)

(こうしてやるのが、今の俺にできることだ)


ジェイド:

「……また痛くなったらちゃんと言えよ? 定期的にマッサージしてやるから」


(アイリスの身体がビクリと震える。頬は茹でダコのように真っ赤に染まって──)


アイリス:

(え……ええ!? いいんですか!?!?!?)

(ただの使用人なのに……奴隷なのに♡)

(……誰にも渡したくないなぁ……)


アイリス:

「……はい……お願いします……」


(消え入りそうな声で、そう返すのが精一杯だった)


(ふと、二人の手が近いことに気づく──けれど、どちらも引かない)


ジェイド:

(守るって決めた。アイリスは俺に、助けてって言わない)

(だからこそ、俺が言うしかないんだ)

(お前は、ひとりじゃないって──)


──その時だった。

ふたりを包む空気に、やわらかな魔力の揺らぎが広がっていた。

ジェイドは、寮室へ入ったときに《人払い魔法》と《音遮断魔法》を発動していたのだ。

術式はまだ未熟。けれど、このひとときだけは、誰にも邪魔されたくなかった。

ユミナにも、教師にも、もちろん他の生徒にも。


アイリス:「ジェイド様…私に出来ることあれば何でも言ってください…」


――消え入りそうな声で、しかし確かな乙女の宣言だった。


アイリスは大好きなご主人様の胸に飛び込んで、続けた。


アイリス:「私は“要らない子なんかじゃない”って証明したいです。

…勉強も…お世話も……戦闘訓練も、全部頑張ります……だから…


――ずっとおそばにいさせてください」


――ジェイドは顔を赤くした。


彼女のまっすぐな好意に。彼もまた、救われていた。


「オレはアイリスを見捨てない。ずっとそばにいる」


交流時間の終わりが、静かに近づいていた。


けれど、その短いひとときは、確かにふたりを変えていた。


この日を境に、アイリスは“ただの使用人”ではなくなる。

ジェイドにとっても、彼女は──“かけがえのない存在”になっていた。


そのことを、ふたりはまだ言葉にしない。


だが心は、もう始まっていた。

新しい日々が、ここから動き出すのだった。

アイリスにとって、ジェイドとの“共に暮らす時間”は、

ただのご奉仕ではなく、「認められること」への小さな第一歩。


そしてジェイドにとってもまた、

誰かを守り、想い、支えるという“日常”が、ようやく始まりました。


まだ恋ではない。けれど、もうそれは──ただの主従ではない。


次第に深まっていくふたりの絆、今後も温かく見守ってください。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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