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メリトクラシア  作者: Lancer
第3章:士官学院編《前期》:視線と試練の教室
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【第16話】★冷笑と覚悟★

──“学院”とは、ただ学ぶだけの場所ではない。

そこは、見下す者と見上げる者が交差する、静かな戦場だった。


ジェイドとアイリスが踏み込んだ教室。

制度が支配するその空間で、ひときわ強く冷たい視線を放つ少年がいた──

ライナルト=グロース。


これは、言葉とまなざしが剣になる場所での、“最初の一撃”の物語。



 昼休みの中庭。白い石畳の上に、涼しげな風が吹いていた。


 俺は、いつものようにアイリスと並んで歩いていた。

 周囲には貴族たちの談笑、平民たちの沈黙、そして使用人たちの立ち位置が、見えない線で分断されている。


 そこに、あの声が割って入った。


「……へぇ。まだ一緒にいるんだ、君たち」


 振り返ると、そこにはライナルト=グロースがいた。

 制服の袖口には、繊細な金糸の刺繍。

 髪も整い、立ち居振る舞いもどこか優雅。


 だけど、その目は冷たい。

 俺を見ているようで、その奥にある何かを値踏みしているような目だった。


「見学かい? それとも、庶民的な散歩でも?」


 その言葉に、少しだけ眉が動いた。

 アイリスの表情がわずかに曇る。


「……文句でもあるのか?」


「文句? まさか。ただ、少し気になっただけだよ」

 彼は歩きながら俺たちの横に並ぶ。


「制度の穴を縫って、従者制度を悪用している少年がいるって、噂で聞いてね」


「“悪用”ってのは、お前の主観だろ」


「ふふ、なるほど。つまり、“彼女は君の仲間”ってわけだ」

 ライナルトは、あのときと同じ言葉を口にした。


「そうだよ。……何度でも言うさ」


「それは立派だ。……でも、それがどれだけ“危うい”ことか、君は本当に分かってるのかな?」


 彼はふと、アイリスの方を見た。


「“ディスケンス”──ああ、見習い使用人のことだったね。席もなく、名もなく、評価すらされない存在。まるで空気だ」


「……違う」


 俺は言った。


「彼女は空気なんかじゃない。“人”だ。俺の、仲間だ」


 その瞬間、ライナルトの目が細められた。


「なるほど。そうやって、“個人の感情”で制度を捻じ曲げようとするわけだ」


 その言葉に、背筋が冷たくなる。


「……君はさ、知らないだろうけど。制度を踏みにじる行為って、たとえ正義を名乗っても──」


 彼は、楽しそうに言葉を切った。


「“暴走”として記録されるんだよ」


 その場の空気が、張り詰めた。

 視線が集まる。


 だけど俺は、拳を握った。


「なら記録しろよ。何度でも。俺は、守るって決めた」


 沈黙の中で、アイリスが小さく目を見開いた。

 そして、わずかにその手が震えていた。


「……ふうん。じゃあ、いつかその“覚悟”、見せてもらおうかな」


 ライナルトはそう言って、背を向けた。

 その背中には、まるで勝者のような余裕があった。


 でも、俺は負けてない。


 この言葉は、俺の“覚悟”そのものだからだ。

 たとえ、誰にも認められなくても。

 それでも、彼女を“人として”見る視線だけは、俺は絶対に捨てない。



ライナルトという存在は、ただの“嫌な貴族”ではありません。

彼は「制度に守られる側の正しさ」を体現するキャラであり、

それゆえに、物語を大きく動かす“抗いがたい壁”でもあります。


そんな彼に対して、ジェイドが何を思い、どう立ち向かおうとするのか──

その一歩目として、今回は“言葉”という武器を選ばせました。


次回、ついに“実力”の段階へ移ります。

引き続き、彼らの戦いを見守っていただけたら嬉しいです。



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