【番外編②】★いらない子なんかじゃない★「完全版/添削不要回」
本編第5〜6話の間に起きた、アイリスとジェイドの静かな夜の物語です。
グローリア試験後、“仮保護”という関係になった二人。
誰にも言えなかった不安と、
それに応えた少年の言葉──
本編では描かれなかった、ふたりの“夜の一幕”をお届けします。
※このお話には続きがあります。
※NOTE限定で「モノローグver.」を公開予定です。
夜の帳が屋敷を包み、静寂だけが残された。
アイリスは、布団の中で身をすくめるようにしていた。
目を閉じても、なかなか眠りは訪れない。
グローリア試験が終わり、ご主人様――ジェイドのもとに保護されて数日。
彼の優しさに、何度も救われた。
それでも心の奥には、言いようのない不安が残っていた。
(……わたし、役に立っていない。
魔力の封印も……邪魔じゃないかって……)
唇が震える。
思わず掛け布団の奥で、ぽつりと呟いてしまった。
「……ご主人様、わたし……いらないんじゃ……」
その声は、本当に小さなものだった。
けれど、隣の布団で眠っていたはずのジェイドが、ゆっくりと身を起こす気配がした。
「アイリス、今なんて言った?」
その声には、わずかに怒気がこもっていた。
アイリスの身体がこわばる。怒られる? 捨てられる……?
そんな不安が、頭をよぎった。
「……わたし、いらない子なのかなって……」
その瞬間、ジェイドは思わず彼女を抱きしめていた。
「アイリス。お前はいらない子なんかじゃない。
二度と、そんなこと言うな」
ぶっきらぼうで、でも温かくて。
少年の腕の中で、アイリスの瞳から涙がこぼれた。
その晩、彼女はしばらくのあいだ、少年の腕で泣き続けた。
そしてジェイドは、そっと目を閉じて誓う。
――もう二度と、この子にそんな涙は流させないと。
――二度と、その言葉は吐かせまいと。
夜の静けさの中、ただひとつの誓いだけが、灯のように静かに揺れていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回の番外編は、
アイリスの“心の輪郭”と、ジェイドの“無意識の優しさ”に焦点をあてて書きました。
ふたりの関係が「仮保護」から「信頼」へと変わっていく――
その“きっかけの夜”になればと思います。
なお、このエピソードは本編【第5話】〜【第6話】の間にあたる、
“静かな補完回”として位置づけています。
そして、次回からはいよいよ──
本編【第13話】より、新章『士官学院編《前期》』が始まります。
制度、階級、そして視線の交差する場所で、
少年と少女の試練の日々が幕を開けます。
これからも、彼らの物語を見守っていただけたら嬉しいです。




