【第10話】★約束の灯火★(完全版/添削不要)
◇◆◇ 前書き ◇◆◇
──「あなたは、誰?」
それは、第4話で交わされた、たったひとつの問いかけ。
あの言葉からすべてが始まり、そして今日、ふたりは再び“選ぶ”ことになる。
この第10話は、**第4話の直後にあたる“同時並行の物語”**です。
制度という名の枠組みに守られた一歩と、
それでも“隣にいたい”と願う気持ちが、ようやく形になっていく──
これは、まだ手を繋ぐことも許されないふたりが、
それでも歩み寄ろうとした、小さな“約束”の物語。
中庭に差し込む陽の光のなかで、アイリスはうつむいていた。
その姿は、今にも崩れそうな砂の塔のように、心許ない。
「……でも、私は……ただの奴隷で……」
弱々しい声に、ジェイドは思わず口を挟んだ。
「関係ないよ。そんなの」
まっすぐに言い切る少年の声は、柔らかくも力強かった。
「……ただの奴隷、ね」
ユミナが口を開く。彼女の声は静かだったが、冷たさはなかった。
「“ただの”というのなら、あなたは“ただの所有物”じゃない。特例保護制度によって、あなたは仮使用人候補として正式に登録されたわ。今後の教育と適性審査次第では、上級使用人としての扱いもあり得る」
「……特例、保護?」
アイリスが顔を上げた。
「爵位を持たない者が保護対象の奴隷を所持することは、本来なら許されない。でも、ロータス様の命令によって“育成観察枠”として仮承認されたの。ジェイドはその対象者、あなたはその随伴扱い」
「……ちょっと待ってください。オレ、まだ爵位ないですよ?」
ジェイドが率直に問い返すと、ユミナは淡々と頷いた。
「ええ、だからこその“特例”です。あなたが今後の国家戦略に資する存在と見なされている証拠」
ジェイドはそれでも納得しきれない様子だったが、アイリスの瞳は次第に潤み、光を取り戻していった。
「……でも、私が、“選んだ”んです」
その言葉に、ふたりは少し驚いたように彼女を見た。
「ジェイド様のそばにいたいと……わたし、自分で、選びました」
静かな宣言だった。けれど、そこには確かな意志が宿っていた。
誰かに決められたのではない。
誰かの命令ではない。
アイリス自身が、踏み出した一歩だった。
その瞬間、ジェイドはようやく小さく笑った。
「……そっか。なら、オレも選ぶよ。アイリスを、信じる」
そう言って伸ばされた手に、アイリスは少しだけ迷って──そっと、手を重ねた。
そしてその様子を、学園の廊下の影から見ている者がいた。
「……ふぅん。特例、ね」
誰にも聞こえないような呟きと共に、視線は静かに逸れていった。
それが、何を意味するのか──いまのふたりには、まだわからない。
◇◆◇ 後書き ◇◆◇
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第10話では、アイリスの保護が正式に認められ、
ジェイドと彼女の「距離」が制度上は確かに近づきました。
──けれど、それは同時に、
「仮預かり」「見習い」「制限付きの関係」という、
新たな“見えない鎖”を彼女に与えることでもあります。
それでも彼女は、そこに“希望”を見出そうとしている。
次回、第11話では──
教室という“社会の縮図”のなかで、彼女が直面する現実と、
ジェイドが初めて「目を逸らす理由」が描かれます。
次回もぜひ、お付き合いください。




