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メリトクラシア  作者: Lancer
【第2章】★アイリス保護編★ ──制度に守られた居場所。 それは、自由と孤独のはざまで揺れる“仮の契約”だった。
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【第9話】★影のなかの視線★「完全版/添削不要」

士官学校の扉が開いた。

だが、それはただの「入学」ではない。


主人公ジェイドは、新たな階層社会に足を踏み入れる。

試験で実力を示した者たち──その中にあっても、「監視」という言葉が意味するものは重い。


これは、希望の始まりか、それとも選別の延長か。

第9話、開幕。

──翌朝、士官学校・初の授業。


 鐘の音が響き、朝靄のなかで生徒たちは広場に集められていた。


 規律・魔法理論・身体訓練・戦術行動──それぞれの専門教官が、

 新入生たちの前に立ち、順に簡単な説明を行っていく。


 だが、そのすべてを記録している者がいた。


 上階のバルコニー。そこには、紫紺のマントを羽織った少女の姿がある。


 視線の先には、整列する少年たち。


「……あれが、“例の合格者”」


 少女はメモのような呪具に指を走らせる。

 彼女の名は、ヴィオラ=スティルネン。

 審問庁より派遣された特別観察官──そして、記録魔術の使い手。


 彼女はジェイドを“見ていた”。



 一方その頃、訓練場では初めての魔力制御訓練が始まろうとしていた。


 カミラ教官が腕を組んで全員を見渡す。

「まずは魔力を“練る”感覚を思い出せ。制御できなければ、兵にはなれん」


 生徒たちは指先に集中し、それぞれの魔力の形を確かめ始めた。

 光、熱、風、あるいは揺らぎ。


 だが、俺の手の中には──何も現れない。


(……やっぱり、出ない)


 魔力は存在している。

 だが、それを引き出す回路が、どこかで“封じられている”感覚がある。


(あの測定のときと同じだ)


 “中等、安定値。……異常なし”

 

 そう告げられた裏には、別の意味があった。


(……まだ、何かに縛られている)


「貴様、魔力が見えんぞ」

 

 カミラの視線が俺に突き刺さる。


「……すみません」


 その瞬間、背後でくすりと笑う声がした。

 振り向くと、そこにいたのは貴族風の少年──ライナルトだった。


「さすがに“奇跡の合格者”とまで呼ばれた割には、大したことないな」


 嘲笑、だ。

 

 だけど、俺は拳を握りしめたまま、何も返さなかった。


(……言い返す必要なんてない)

(今はまだ、“力”が足りないだけだ)


 その沈黙を、ヴィオラは上階から見ていた。


(反応なし。挑発に乗らず。魔力制御不可……しかし、精神集中力は高い)


 彼女の記録呪具には、淡々とした文字が走る。


(評価、継続。観察対象レベルB → 保留)



 訓練終了後、寮に戻るとアイリスが外で待っていた。


 ……見間違えようのない、あの白銀の髪と紫の瞳。


「……ジェイド様」


 俺は思わず立ち止まった。


「様」なんて呼ばれる筋合いはない。

 けれど、彼女はどこか安心したように微笑んでいた。


「無事で、よかった……」


 その一言だけで、

 さっきの嘲笑も、魔力の不発も、すべてが霧のように溶けていった。


 俺は小さく息を吐いて、アイリスの横に並んだ。


(まだ、うまくできなくてもいい)

(この“見られている世界”で、俺は俺を見失わない)


──月のない夜でも、見てくれている瞳がある限り。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この第9話は、【第1章】の終盤にあたります。

「選別の塔と邂逅の街」という章タイトルにふさわしく、試験の終結と、新たな出会い──そして“視線”の正体に迫る導入を描きました。


次回からは「学園編」に突入予定です。

同期たちとの関係、ヴィオラの観察、そして再び彼女──アイリスとの接触。


ぜひ、第2章もご期待ください。


語ってください。あなたの言葉で。

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