【第9話】★影のなかの視線★「完全版/添削不要」
士官学校の扉が開いた。
だが、それはただの「入学」ではない。
主人公ジェイドは、新たな階層社会に足を踏み入れる。
試験で実力を示した者たち──その中にあっても、「監視」という言葉が意味するものは重い。
これは、希望の始まりか、それとも選別の延長か。
第9話、開幕。
【
──翌朝、士官学校・初の授業。
鐘の音が響き、朝靄のなかで生徒たちは広場に集められていた。
規律・魔法理論・身体訓練・戦術行動──それぞれの専門教官が、
新入生たちの前に立ち、順に簡単な説明を行っていく。
だが、そのすべてを記録している者がいた。
上階のバルコニー。そこには、紫紺のマントを羽織った少女の姿がある。
視線の先には、整列する少年たち。
「……あれが、“例の合格者”」
少女はメモのような呪具に指を走らせる。
彼女の名は、ヴィオラ=スティルネン。
審問庁より派遣された特別観察官──そして、記録魔術の使い手。
彼女はジェイドを“見ていた”。
◆
一方その頃、訓練場では初めての魔力制御訓練が始まろうとしていた。
カミラ教官が腕を組んで全員を見渡す。
「まずは魔力を“練る”感覚を思い出せ。制御できなければ、兵にはなれん」
生徒たちは指先に集中し、それぞれの魔力の形を確かめ始めた。
光、熱、風、あるいは揺らぎ。
だが、俺の手の中には──何も現れない。
(……やっぱり、出ない)
魔力は存在している。
だが、それを引き出す回路が、どこかで“封じられている”感覚がある。
(あの測定のときと同じだ)
“中等、安定値。……異常なし”
そう告げられた裏には、別の意味があった。
(……まだ、何かに縛られている)
「貴様、魔力が見えんぞ」
カミラの視線が俺に突き刺さる。
「……すみません」
その瞬間、背後でくすりと笑う声がした。
振り向くと、そこにいたのは貴族風の少年──ライナルトだった。
「さすがに“奇跡の合格者”とまで呼ばれた割には、大したことないな」
嘲笑、だ。
だけど、俺は拳を握りしめたまま、何も返さなかった。
(……言い返す必要なんてない)
(今はまだ、“力”が足りないだけだ)
その沈黙を、ヴィオラは上階から見ていた。
(反応なし。挑発に乗らず。魔力制御不可……しかし、精神集中力は高い)
彼女の記録呪具には、淡々とした文字が走る。
(評価、継続。観察対象レベルB → 保留)
◆
訓練終了後、寮に戻るとアイリスが外で待っていた。
……見間違えようのない、あの白銀の髪と紫の瞳。
「……ジェイド様」
俺は思わず立ち止まった。
「様」なんて呼ばれる筋合いはない。
けれど、彼女はどこか安心したように微笑んでいた。
「無事で、よかった……」
その一言だけで、
さっきの嘲笑も、魔力の不発も、すべてが霧のように溶けていった。
俺は小さく息を吐いて、アイリスの横に並んだ。
(まだ、うまくできなくてもいい)
(この“見られている世界”で、俺は俺を見失わない)
──月のない夜でも、見てくれている瞳がある限り。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
この第9話は、【第1章】の終盤にあたります。
「選別の塔と邂逅の街」という章タイトルにふさわしく、試験の終結と、新たな出会い──そして“視線”の正体に迫る導入を描きました。
次回からは「学園編」に突入予定です。
同期たちとの関係、ヴィオラの観察、そして再び彼女──アイリスとの接触。
ぜひ、第2章もご期待ください。
語ってください。あなたの言葉で。




