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第7話  両手に花の遊園地

 宿泊研修2日目。お待ちかねの『ラッキーリゾート』である。

 幼少期には妹と何度も通ったこの遊園地。まさか高校生になって、学校でも指折りの美少女たちと再び訪れることになるとは……! 傍から見れば、羨まけしからん状況であることは間違いない。

 けれども。


「もなぴちゃん、今日のリップ大人っぽいね。お姉さんみたい!」

「えへへ、うれし~。すずちゃんのツインテールもかわい〜よ」

「ふふっ、ありがと。……でも、ちょっと恥ずかしいな」

「え〜、似合ってるよ〜」

 

 こんな調子で、入場してからずっと2人でいちゃいちゃしてる。お揃いのツインテールはまさに姉妹で、俺の入り込む隙がない。


「ねえ、学くんは行きたいところある?」


 微笑みを湛えた天使がくるっと俺に振り向いた。

 ……ツインテールの破壊力やば。ギャップに萌えて、お顔を直視できない。ドキドキする。


「お、俺は2人に任せるよ。妹と何回も来たことあるし」

「……そういうことじゃなくて。私は学くんの行きたい場所に行きたいんだけどな」


 海原さんが不服そうに頬を膨らませた。

 何その顔、可愛すぎるんですけど。


「じゃあもなぴあれやる!」

「あ、待って! もなぴちゃん」 


 突然坂を駆け下りた松江を、海原さんが追いかける。まじで幼稚園児じゃん。その精神年齢で、どうして勉強はできるのか……。


「も〜がっくん遅いよ〜」


 ゆっくりと坂を下った俺に、松江はぴょんぴょんと跳ねながら言った。

 ミラーハウスか、懐かしいな。鏡でできた小さな迷路。昔は道を覚えるくらい妹と何回も入ったっけ。たしか最終的には15秒くらいでゴールしてた気がする。


「早く入ろうよ~!」

「走っちゃだめだからね」

「は〜い」


 ……だから何歳だよ。大人っぽさどこいった?

 案の定、中に入ると松江は子どもみたいにはしゃぎ出す。それを見守りながら、鏡に手を当てて慎重に進む海原さん。そしてゴールまでのルートを完璧に把握している俺は、2人の楽しみを奪わないよう、少し距離を空けてついて行く。


「あ~、行き止まり~」

「こっちは進めそうだよ」

「ほんとだ? 行くー」

「もなぴちゃん危ないよ!」


 海原さんの制止も聞かず、走り出す松江。

 ミラーハウスは鏡の反射で道が多く見えるけど、実はあまり広くない。だから小さい子は気を付けないと、鏡に激突したりして危ないんだよな。

 ほら、あんな風に──


「うえ~ん、すずちゃ~ん。お鼻ぶつけた~」

「大丈夫? 手を繋いでゆっくり進も」

「うん!」


 ……だから松江は何歳なんだよ。

 泣いたら手を繋いでもらえるのは小学生までだぞ。



 鏡の迷宮(ミラーラビリンス)を攻略した俺たちは、再び園内を散策していた。


「次はもなぴ、観覧車に乗りた~い」

「いいね。私も乗りたいな。学くんはどう?」

「観覧車か……うーん」

「嫌?」

「嫌とじゃないけど……坂がきつい」


 観覧車にたどり着くまでの道は、かなり傾斜が急になっている。日頃から運動不足の身体には確実に毒だ。


「も~、がっくんったら。おじいさんみたいなこと言って~」

「学くん。運動も大事だよ」

「うぅ……」

「ほら~。早く行かないと時間無くなるよ~」

「学くんがんばろっ!」


 そう言って、女性たちはぐんぐんと坂を登っていく。俺も必死に食らいつくが、足が重くてめげそう。


「うわ~、大きい~」


 なんとか坂を登りきると、目の前に巨大な鉄骨が現れた。ラッキーリゾートの看板アトラクションなだけあって、近くで見るとなかなかの迫力だ。 

 特に混んではいないので、さっそく乗車口へ。

 

「もなぴちゃん。手繋ぐ?」

「繋ぐ!」


 相変わらず過保護だな……と言いたいところだけど。たしかに観覧車の乗り遅れたらやばい感は異常だ。電車と違って高さはあるし、ドアも停止してくれないし。


「がっくん早く! 行っちゃうよ」

「え? あっ、おう」


 気づいたら、2人を乗せた籠が俺を置いて昇り始めていたので、慌てて俺も乗り込む。あぶねー。


「学くんも手を繋いであげた方が良かったかな?」

「だ、大丈夫です……」

「ふふっ。遠慮しなくていいのにな」


 茶目っ気たっぷりな表情で海原さんは言った。

 ど、どこまで本気なんだ……?


「がっくんだ~め。すずちゃんはもなぴのなの!」


 そう言って腕に絡みつく松江の頭を、海原さんは優しく撫でる。なにこれ、めっちゃ眼福じゃん。


「よしよーし。もなぴちゃんは可愛いよー」

「えへへ~。すずちゃんの身体やわらか~い」

「ふふっ、くすぐったいよ」


 百合の楽園や……けど凝視するのも申し訳ないので、俺は地上に目を向けた。おぉ、人が○○のようだ! 天界の王になった気分でちょっと楽しい。 


「ねえ、がっくん」

「……ん?」

「優越感に浸っているところ悪いんだけど。もなぴもお外観たいから、少し窓から離れて欲しいな」

「わ、悪い」


 うわぁ、恥ずかしぃ……。俺、そんな顔に出てる? 観覧車で優越感に浸るとかめっちゃ小者じゃん。


「うわ~、たか~い」


 どうやら一番上に到達したらしい。下を覗けば、ラッキーリゾートが端から端まで一望できる。さっきのミラーハウスも手のひらサイズだ。

 ……さて、ここからは下降あるのみ。短い天下だった。


「ねぇ、3人で写真撮ろうよ~」

「いいね、撮ろっ。がっくんここ座って」

「う、うん」


 そのまま流れで2人の間に座らされた。身体の両側に柔らかな感触。これが女の子の……心臓バクバクで顔が熱い。これは──やばい。


「はい、ち~ず」



 約10分の空中旅を終え、俺たちは地上に帰還した。松江が出るのに手間取るから、危うく俺だけもう一周するところだったぜ。


「がっくん変な顔~」

「もなぴちゃん失礼だよ。ふふっ、緊張してたのかな?」

「……もう勘弁してください」


 先ほど撮影した写真でずっと笑われている。元々のお顔が整っている2人の写真映りが完璧なのは言わずもがな、問題はもちろん俺だ。両側の女性と比べて、明らかに外見が劣るのはどうしようもないものの、その笑顔が信じられないくらい引きつっている。見ていられない。


「がっくんにも写真送るね~」

「いいよ別に」

「まあまあ。そう言わずに、せっかくだからさ~。……あれ。でももなぴがっくんのLINE知らないや」

「うん。俺、親と妹としかLINEしてないし」

「え~? じゃあお友だちとの連絡はどうやって──」

「もなぴちゃん!」

「あ、ごめんがっくん……」

「謝るな。余計惨めになる」


 別に? クラスメイトなんて教室で必要最低限話せればそれで良いし? 学校外のコミュニケーションで勉強時間奪われるのも馬鹿らしいし? 全然構わないけどね? ……泣いてないもん。


「まあいいや。じゃあがっくんスマホ開いて」

「あ、はい」

「一瞬かりるね~」

「ちょっ」


 松江は俺のスマホがひったくると、慣れた手つきで操作を始めた。あんま気軽に人のスマホいじるなよ。見られて困るものとかないけどさ。


「はい、友だち追加したよ。さっきの写真送ったから確認してね 」

「どうも」


 さっそくLINEを開くと確認すると、『もなぴ♡』さんから写真が送信されていた。

 ……”もなぴ”ってまじで♡付いてたんだ。

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