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第4話 普段髪を下ろしてる女の子が運動する時だけキュッて髪を上でまとめるやつ、いいよね!

 4コマ続いた講習が終わると、体育館にてクラス対抗バスケットボール大会が開催された。

 研修施設に着いてから勉強関連のイベントばかりだったが、『文武両道』という自称進らしいモットーを掲げている以上、『武』なイベントを用意しないわけにはいかないのだろう。

 だが残念ながら、俺はスポーツが嫌いだ。特に団体競技に対しては憎しみさえ覚えている。


 忘れはしない。小4の大繩大会で起きたあの悲劇を。

 当時俺のクラスは優勝を目指し、毎日昼休みに体育館で練習をしていた。日を追うごとに跳べる回数が増え、クラスの団結も高まり、万全の状態で迎えた本番当日。「せーの」っと声を合わせ、繩が回ったその0・5秒後──その繩は俺の左すねに直撃し、足元にポトリと落ちたのだ。

 ……痛かったなぁ。足も、周りの視線も。その日以来、団体競技は俺の敵だ。


 そんなわけで、俺は大人しくステージの縁に座り、試合観戦に徹している。手前のコートでは男子、奥では女子の試合が行われており、特にうちのクラスの女子はかなり奮闘しているらしい。担任の若い女教師、大原先生も大きな声援を送っている。


 ──うわぁ、あの人すげぇ。


 自陣のゴール前でボールを奪うと、小柄な身体で一人、二人と躱し、あっという間に敵ゴール前へ。そこから味方にパス──と、見せかけて直接シュート! ボールはそのままネットに吸い込まれていった。


 ……って、あれ松江じゃん。

 女子の黄色い歓声と大原先生の雄たけびを浴びながら、照れくさそうに「えへへ」と笑っている。あいつ運動もできるのかよ。いつも「もなぴ楽したいで~す」って感じなのに……その才能が怖い。


 その後も松江が大活躍だったので、湧き上がる嫉妬を抑えるため、俺はベンチの方に視線を向けた。すると、ちょうど目が合った海原さんが、控えめに手を振ってくれた。俺も周りにバレないよう、小さく振り返す。

 ……癒されるなぁ。朝は髪を下ろしていた気がするけど、今は運動用なのか上で束ねてポニーテールにしている。ベンチに座っているということは、球技はあまり得意じゃないのかな。そんなところも親近感。


「なーに見てーんの?」

「うわっ」


 ぬるっとイケメンが視界に入りこんだので、イケメンアレルギーの俺は思わず拒絶反応を示してしまった。


「そんなに引かなくてもいいだろー。傷つくわー」

「ご、ごめん。えっと……試合は?」

「男子は初戦で負けたよ。見てなかったのか?」

「ああ、うん。あまり興味なくて」

「ははっ。正直だなー」


 この男は田中。友だちではないから下の名前は知らない。

 顔が良いだけでなく、運動能力もずば抜けており、噂ではサッカー部に入部して一週間でレギュラーに選ばれたとか。その爽やかな笑顔は当然女子からの人気も高く、何から何まで実に憎たらしい男だ。

 ご察しの通り俺が一番苦手なタイプなのだが、そんなことはお構いなしに持ち前の陽キャ力で絡んでくるから困る。


「そうかー。学は女子の試合が気になるんだなー」

「べ、別にそう言うわけじゃ……」

「なになに? もしかして好きなやついんの?」

「い、いねえし」


 なんでこいつは人のプライベートにぐいぐい踏み込んでくるんだよ。さして仲良くもないのに下の名前で呼んでくるし。仮に好きな人がいても、お前には教えねえよ。


「まーたしかに。うちのクラスは美人多いもんなー。涼音とか」

「そう、だな。……なんだよ」


 田中が意味ありげにニヤニヤしている。

 まさか海原さんと手を振り合ったの見られた……?


「べっつにー。さっき涼音と目配せしてたから、仲良いんだなーって」


 サイアクだ……やっぱり見られてた。


「た、ただの友だちだよ」

「ふーん。まあそういうことにしとくか」


 ……なんなんだよこいつ。

 陰キャをからかって楽しいか?


「学って入試トップで受かったんだろ?」

「え? まあ、そうだけど……」

「すげーよなー。俺も一応ここが第一志望でさ、首席狙ってたんだぜ」

「そうなの?」

「ああ。学に負けたけどな」


 珍しい。県内有数の進学校とかならともかく、私立の自称進学校で首席を目指すなんて。特に部活が強いわけでもないのに。

 ……まあ、どの口が言ってんだという話だけど。


「なんで碧谷西に?」

「好きな人と同じ高校行きたかったんだよ」

「へぇ。好きな人と」

「そいつ昔からすげー頭いいんだけど、なぜか推薦で碧谷西入ったから。俺も首席で受かってやろうと思って」


 なんかどこかで聞いたような話だな。

 すごく頭が良いのに推薦入学……もしかして。


「あのさ、その人って──」

「うわすげぇ! 女子のバスケ優勝じゃん!!!」


 奥のコートに目をやると、クラスの女子たちが大きな歓喜の輪を作っていた。

 その輪の中心にいたのはやはり──松江萌菜だった。

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