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第3話 安易にボディータッチする女子を信用してはいけない

 日曜日。宿泊研修当日。

 学校がチャーターしたバスに40分ほど揺られ、俺たち碧谷西の新入生は宿泊施設に到着した。


「──というわけで。本研修を通して仲間と絆を深め、同時に、今後の高校生活の礎を築いてもらいたい」


 ……そして体育館のような場所で、先生方のありがたいお話をオムニバス形式で聞かされている。入学おめでとーとか、高校生としての自覚がーとか、本研修の意義ーとか、その他もろもろーとか。こういう時の話が長いのは、いかにも自称進学校って感じだ。

 軽く周りを見てみると、建物はかなり年季が入っていることがわかる。柱は色が落ちてるし、雨漏りしているのか床にはバケツが置いてある。そういえばさっき廊下がミシミシいってたな。……夜に虫とか出たらどうしよう。


「──なので整理整頓はしっかり行い、『来た時よりも美しく』を心がけること。以上」

「教頭先生ありがとうございました。ではさっそくテストを行います。クラスごとに今から言う教室へ移動するように。一組は……」


 よし。ようやく訪れた松江萌菜へのリベンジチャンス。

 今回の宿泊研修は勉強合宿も兼ねており、4時間の講習の他テストも行われる。数学と英語の二教科のみだが、しっかり順位も出るとのこと。絶対に負けられない。

 もちろん俺もこの数日間、実に入念な準備を重ねてきた。テスト範囲である春休み課題は十周したし、なんならもう模範解答をほぼ暗記している。これならきっと松江にも……!



「が~っくんっ!」


 2時間にわたるテストが終わり、次の講習まで机に突っ伏して休んでいると、何者かに背中を思いっきり叩かれた。……まあ、男子に気安くボディータッチする女子なんて、俺の周りには一人しかいないけど。

 俺は渋々身体を起こし、彼女に顔を向ける。


「……なんだよ松江」

「松江じゃなくてもなぴね。テストどうだった?」

「あー。まあまあかな」


 嘘だ。手ごたえはかなりいい。

 テストは春休み課題と同じ問題が8割だったので、答えを暗記していた俺は、残りの2割にたっぷり時間を使うことができた。課題外からの出題も、愛北時代に学習済みなので問題なし。数学の最後の記述と英作文が若干不安だが、少なくとも部分点は確実に拾えたはず。両教科満点のような化け物がいない限り、俺の一位は固い。


「松江はどうだったんだよ」


 だがこれが一番の問題だ。

 もし松江萌菜が本当に化け物だったら──

 

「う~ん。わかんない!」

「……は?」

「なんて言うか~。もなぴあんまりテストに興味ないんだよね~」


 いやいやいや。人に出来を聞いておいてそれはないだろ。

 と、思ったけど。答えないということは自信がないという可能性も……これはチャンスか?


「興味ないって言うけど。この前のテストは満点だったんだよな?」

「そうだよ~」

「ならもうちょっと興味を持ってもいいような……」

「そうかな~? むしろもなぴは、がっくんがそんなにテストに拘る理由を知りたいよ~」


 その無邪気な疑問は、俺にはあまりにも眩しかった。

 松江はきっと、何かに拘らずとも、自ずと輝いてきたんだろうな。俺とは違って。


「……トップになれる可能性が少しでもあるなら、頑張りたいだろ」


 天才には理解されないと思う。でも凡人が唯一無二の輝きを望むなら、わずかな可能性の原石に賭けて必死に足掻くしかない。その可能性の原石が、俺はたまたまそれ(テスト)だっただけだ。

 けれどやはり松江は、あまりピンと来ていない様子だった。


「ふ~ん。そうなんだ。あ、もなぴそろそろ席戻るね~」

「おう」


 テストは今日にも返されるらしい。

 どうか一位であってくれ……。

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