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第2話 いや~、怪しい関係ですね~

 残念ながら、人間の能力は平等じゃない。凡人が10の努力で到達する場所に、天才は1の努力で簡単にたどり着いてしまう。残酷だが、これが現実だ。

 けれど才能の差を恨む資格があるのは、努力した凡人だけ。頑張って頑張って頑張って、それでも天才に届かなかった時、初めて俺たちは彼らを羨む資格を得る。だからこそ、俺は今日も地道に図書室で勉強を────なんて納得できるかーーーーーい!!!


 なーんでそうやって愛北の3年間をすべて勉強に捧げ、その上で自分と受験生のレベルを客観的に比較し、確実にトップになれる高校を選択した俺が2位で、チョコを顔に付けながら爆食いし、暇さえあれば俺に悪戯をして、自分のこと「もなぴ♡」とか呼んでるふざけたアホっ娘ツインテールが1位なんだよ!? 世界理不尽すぎるだろ!!!!!


 ……コホンッ。

 取り乱してしまったが、まだ松江がそっち(天才)側と決まったわけじゃない。たまたま前回は山が当たった可能性だってある。今は余計なことを考えず、次のテストに向けて勉強しよう。


 そう改めて決意し、いつものように図書室の扉を開けると──俺は一瞬にして、目を奪われた。

 

「奇麗な人……」


 感嘆の声が思わず漏れる。

 透明感のある肌に、肩まで伸びたさらさらの黒髪。陽光に淡く彩られながら、4人掛けの机で独り本を読むその少女の横顔は、それほどに美しかったのだ。

 やがて彼女はこちらに気が付くと、天使のような穢れなき微笑を俺に向けた。


「ふふっ。こんにちは」


 風に揺られる草花を髣髴とさせる優しい声。俺の鼓動が急激に高鳴る。


「え、えっと……こんにちは」


 知り合いだっけ? クラスメイト? 顔は見たことある気がするけど……だめだ、わからん。入学してからテストのことしか考えてこなかった弊害がさっそく出ている。


「座らないの?」


 少女は読んでいた本を置き、キョトン顔で不思議そうに俺を見ていた。


「あ、いや……座ります」


 正直、近くに座るのは気まずい。でもここであえて遠くに座るのも逆に気まずいし……少し悩んだ末、俺は彼女の斜め前を選択する。これが一番気まずくならない配席だと、前にテレビで聞いた気がする。

 そして鞄から再び、新入生歓迎テストの問題用紙を引っ張り出した。


「福地くん、いつもここで勉強してるの?」

「え? あ、うん。図書室が一番集中できるんだ」


 愛北に通っていた時から、勉強量だけは誰にも負けない自信があった。授業が終わるとすぐ図書室へ移動し、完全下校時刻の19時まで勉強。そこから20時に帰宅し、食事や風呂等を1時間で済ませて21時には就寝。そして朝は3時に起き、軽く朝食をとって7時まで勉強。そんな生活を3年間続けていた。中学時代のほとんどを勉強に費やしたと言っても過言ではない。


「たしか福地くん、新入生代表挨拶してよね。首席合格?」

「ま、まあ。一応?」

「凄いなぁ。ほんと尊敬だよ」


 尊敬か……うへへ。俺は心のにやけが顔に出るのを抑え、俺はなんとか平静を装う。

 努力を褒めてもらえたことはあったけど。結果を認めてもらえたのは久しぶりでくすぐったい。まあ、この人の名前はまだわからないんだけど。


 その時、ガラガラッと勢いよく扉が開いた。


「すずちゃんお待たせーーーーー」


 ……げっ。

 視線を移すと、アホっ娘ツインテール(学年一位)がニッコニコで大きく手を振っていた。


「やっほーもなぴちゃん」


 そしてすずちゃんと呼ばれた少女も手を振り返す。松江の友だちだったのか。しかも結構仲良さそう。


「って、あれ? なんでがっくんいるの?」

「なんでって……勉強?」

「ふーん。すずちゃんと?」

「そういうわけではないけど」


 ……たしかにこの距離感は、一緒に勉強している人のそれだ。


「いや~、怪しい関係ですね~」


 松江は意味深な笑みを浮かべながら、俺とすずちゃん?を交互に見比べている。


「別に何もねえよ」

「え~、ほんとかな~」

「そもそも俺たちそもそも初対面だし」


 そりゃもちろん、奇麗な人だとは思うよ? でも普通に考えて、俺みたいな陰キャとの関係を疑われて喜ぶ女子は稀だ。変な誤解はやめて欲しい。


「……私、福地くんと同じクラスなんだけど」

「えっ?」


 ぱっと彼女を見ると、不満げに頬をぷくーっと膨らませて俺を睨みつけていた。

 可愛い……じゃなくて!


「ご、ごめん。まだ俺、クラスの人の顔覚えてなくて」

「ふーん。私は学くんのこと知ってたのに」

「ほんとごめんなさい……」


 ──あれ?

 今この人、俺のこと名前で。


「ま、いいよ。私は海原涼音。よろしくね」

「あ、はい。えっと、福地学です。よろしく、お願いします」


 海原さんか。

 まだ少し唇を尖らせているけれど、美人で表情も豊かで可愛らしい人だな。男女問わず、誰からも好かれそうな雰囲気がある。


「な~るほど~。そういう感じか~」


 松江がわかったような顔で、しきりにうんうん戸頷いている。絶対何もわかっていない。


「……どういう感じだよ」

「あ~こっちの話。ところでがっくん。今週末の遊園地、誰と回るか決めた?」

「遊園地? いや、まだだけど」


 今週の日曜日から月曜日にかけて、碧谷西の新入生は宿泊研修に参加する。その2日目には、地元の遊園地である「ラッキーリゾート」を訪れることになっているのだが……クラスメイトの名前すらまともに覚えていない俺に、一緒に楽しむ仲間がいるはずもなかった。


「じゃあさ。3人で回ろうよ」

「3人で?」

「うん! もなぴと、がっくんと、すずちゃんで!」

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