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第1話 俺が2位……だと?

 おかしい。絶対におかしい。あり得ない。

 碧谷西(みどりだににし)高校首席合格者たるこの俺、福地(ふくち)(がく)が、まさか『新入生歓迎テスト』で1位を取り逃すなんて……。(「ねえねえ、がっくん」)


 俺が首席になったのは偶然じゃない。みんなから注目され、チヤホヤされ、時に嫉妬される。そんな学園生活を送るため、俺は自分が学年1位になれる環境を()()()選択したのだ。(「お~い。がっくーん」)


 きっかけは悲劇の中学時代。日本屈指の中高一貫校、愛北学園中等部に、小学生の俺は運よく合格してしまった。しかし入学後、俺の成績は常に平均点を彷徨う。どれだけ頑張っても凡人から抜け出せない。理想の学園生活とは程遠かった。(「がっくんってば~」)


 そして中三になり、高等部への進学を意識するタイミングで、俺は気が付いた。


 ──俺が凡人なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──


 俺は高等部への進学をやめ、自分が一番になれる高校を受験することに決めた。(「……聞こえてないのかな?」)


 これまでの模試の成績と睨めっこし、どのレベルなら全志望者のトップを目指せるかを研究。いわゆる自称進学校だが、毎年最上位の大学にも数人の合格者を出している碧谷西高校に狙いを定めた。さらに入試の過去問を解くこと二十年分以上。問題の傾向も当然分析した。(「そうだ! ふふーん、良いこと思いついた♪」)


 そうして俺は見事、碧谷西高校にトップ合格を果たしたのである。いわば俺は必然の首席。入学初日のテストで敗れるなんて絶対にあるはずがないのに、どうして──


「がっくんあれ見て!!!」

「えっ──うわっ」

「やーい。ひっかかった」


 反射的に俺が隣を向くと、少女の右指が頬に食い込んだ。

 こいつは本当に……。

 

「いたずらのレベル幼稚園児かよ」

「だって~、もなぴ暇なんだも~ん」


 俺の隣に座るツインテールの童顔美少女、松江(まつえ)萌菜(もな)。艶っぽい唇とつぶらな瞳、そして幼げな可愛らしい声が印象的……なのだが。

 なぜか入学初日から、俺にしょうもないちょっかいをかけてくるんだよね。突然俺に目隠しをして、『だ~れだ』って言ってみたり。後ろから肩を叩いて、俺が振り向いたら知らん顔していたり。まぁ、俺の椅子にブーブークッション置いてたのはちょっと面白かったけど。試しに座ってみたら、思ったより音がでかくて恥ずかしかった。


「松江は暇でも俺は──」

「もなぴ」

「まt」

「も! な! ぴ!」


 ……その痛い呼び名を口にしたくないから、あえてスルーしているのに。一文字ずつ強調されても困るのだが。しかも一人称まで『もなぴ』なのは、美少女と言えどさすがにダメだと思う。


「もなぴサン、は暇でも。俺は忙しいんだよ」


 この失敗を繰り返すわけにはいかない。兎にも角にもまずは解き直しだ。

 俺は新入生歓迎テストの問題用紙を机に置く。


「がっくんは真面目だね~」


 松江はどこからか取り出したア○パンマンチョコをくわえながらしみじみと言った。懐かしいなそのお菓子。


「頬にチョコ付いてるぞ」 

「え!? がっくん取って~」

「やだよ。自分で取れって」

「……だめ……かな?」

「──!?」


 甘えるような声色で、うるうると俺をみつめる松江。黒目がちな澄んだ瞳に捉えられ、俺は一瞬ドキッとしてしまった。……けど。


「だめです。自分で取ってください」

「ぶ~」


 と、唇を尖らせつつ。松江は大人しくティッシュで顔を拭った。

 あざとい声も表情もどうせ全部演技なのに、顔が無駄に可愛いからつい勘違いしそうになるんだよな。本当にたちが悪い。


「がっくん全然構ってくれなくてつまんな~い」


 などとぼやきながら、松江はいつの間に出したかわからないチョコボールを、3つまとめて口に放り込んだ。それを飲み込む前に、左手にはもう次のチョコボールが補充されている。チョコの消費早すぎだろ。


「ま──もなぴサンも、暇なら間違えた問題の解き直しでもしたら?」

「あ~、たしかに~」


 適当な相槌を打ちながら、あっという間にチョコボールを平らげた松江は、本日2つ目のアンパ○マンチョコを取り出した。どんだけチョコ好きなんだよ。


「でもさ。がっくん」

「なんだよ」

「もなぴ、解き直せる問題がないよ」

「いや、解き直せる問題がないって……模範解答あるんだから、とりあえずそれを見ながら手を動かせよ」


 勉強できないやつは、まずやらない理由を探すから困る。忙しいとか眠たいとか気分が乗らないとか。そしてそんなやつに限って「私馬鹿だから~、どうせやってもできないよ~」とかふざけたことを宣うんだよな。

 違うだろ。まずはやる理由を探せよ。己の才能不足を恨んでいいのは、相応の努力を重ねたやつだけだからな。


「そうじゃなくてさ~。もなぴ全部あってるから解き直せないよ~」

「いやだからまずは手を──んっ? 今なんて?」

「だ~か~ら~。もなぴテスト満点だったから、間違えた問題がないの~」


 …………。

 ……………………。

 ………………………………………………。

 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?


「ちょ、ちょっと、松江。成績表見せて!」

「だから松江じゃなくてもなp──」

「わかったから見せてくれ!」

「そんなにおっきい声出さなくても……はい」


 渋々彼女が机から取り出した成績表の順位欄には、科目も総合もすべて『1』が並んでいた。しかも点数はすべて100。

 嘘だろ、おい。

 

「……なんで黙ってたんだよ」

「なんでって言われても~、あんまり自分の点数を人に言わなくない?」

「それは……たしかに」


 けど全教科満点だったらさすがに自慢したくないか? 俺が小者なだけか?


 ──というか待てよ。

 クラス分けはある程度成績が均等になるよう配慮される。だから入試成績2位と3位は別クラスに配属されているはずだ。じゃあ松江は……?


「えっと、もなぴ──様」

「な~にがっくん?」

「入試の成績は何位だったんでしょうか」

「もなぴ推薦だから入試は受けてないよ~」

「す、推薦……まじか」


 盲点だった。たしかに推薦なら合格が早いし、俺の受験者分析からは除外される。しかも一般の入試を受けていないなら、優秀な生徒と首席が同じクラスでもおかしくない。

 つまり……俺は入試で松江萌菜に勝っていない? 碧谷西高校の真の学年トップは──うっ、頭が。


「別にテストの成績なんかどうでもいいじゃ~ん。それよりがっくんもチョコ食べる?

「……いらない」

「え~。じゃあもなぴが全部食べちゃうよ~」


 2箱目のチョコボールをゴロゴロと口に流し込む学年一位を前に、俺は悔し涙を必死にこらえる。中学で積み上げた時間も、愛北生としてのプライドも。俺は全てを捨てたのに、まさかこんなところで……。

 いや諦めてなるものか。次こそは絶対に松江を倒し、トップの座を取り戻してやる。

お読みいただきありがとうございます。


本日は18:10、19:10、20:10、21:10にも更新をし、明日からは19:10に投稿する予定です。


なろう初心者ですが、感想・評価・ブックマーク等頂けると励みになりますので、よろしくお願いします!

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