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「いらない」と言われた万能スキル、俺が本気で使ったら世界最強でした  作者: 一ノ瀬咲
第一章 追放と覚醒──万能の力が世界を変える時
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第6話 『仲間の悲鳴が聞こえるけど、もう俺の冒険始まったから』

改稿終わりました

 山道を歩いている。静かで穏やかな道だった。


 時折、風が吹き抜け、木々がざわめく。俺はその音を聞きながら、ただ淡々と歩き続ける。


 ——本当に静かだ。


 以前の俺なら、この静けさに違和感を覚えていたかもしれない。仲間たちの足音、話し声、作戦を考えるための会話……そんなものが常に近くにあった。だが、今は違う。俺は一人だ。それが当たり前になった。


「ユークがいなくても、俺たちは最強だ!」


 勇者レオナールの声が、ふと頭をよぎる。


 ……そうか。そう言われて、俺は追い出されたんだったな。


 今となっては、もうどうでもいいことだ。


 村でドラゴンを倒したあの日、俺は自分の力を完全に理解した。


 《万能適応》——どんな職業でも、その極致に至るスキル。戦士になれば最強の剣士に、魔法を学べば最強の魔導士に、回復を覚えれば最強のヒーラーになる。あいつらは、そんな俺のスキルを『器用貧乏』だと笑っていたが……結果はこの通りだ。


 俺がいた頃のパーティーは、表向きこそ勇者パーティーと称されていたが、実態はどうだった?


 俺が盾になり、剣を振るい、魔法を撃ち、回復をしていた。


 レオナールが突撃しても、俺のフォローがなければ戦線は崩壊した。リーナが魔法を撃つには、俺の補助が必要だった。エレナが回復していたが、実際には俺が裏で支援していた。ガルフの一撃は強力だったが、命中するのは俺が敵の動きを止めていたからだ。


 そう、俺は『補助役』ではなく『要』だった。


 ——それに気づかないまま、あいつらは俺を追放した。


 その時点で、勇者パーティーとしての寿命は決まっていたんだ。


「……もう、誰にも頼らない」


 俺は小さく呟く。


 その決意は、揺らぐことなく俺の中に根付いていた。


 と、遠くで声が聞こえた。


「ユーク、あいつはどこに行ったんだ……?」


「きっと、もう二度と帰ってこないんじゃないか?」


 ……レオナールの声だ。


 思わず立ち止まり、耳を澄ます。


「ユーク……」


 リーナの泣き声が聞こえる。エレナも不安そうな声で呟いた。


「でも、何かおかしい……戦いが、こんなにきつくなるなんて……」


 ガルフが苛立ったように吐き捨てた。


「ユークがいなけりゃ、こんな弱い奴らしかいないってことか」


 ……まあ、そうなるだろうな。


 予想はしていた。俺が抜けた時点で、勇者パーティーの戦力は大幅に低下する。だが、それに気づくのが遅すぎる。


「ユーク、頼むよ。助けてくれ……」


 レオナールの声は、かつての自信に満ちたものではなかった。


 ……だが、俺は何も感じなかった。


 申し訳なさもなければ、憐れみもない。ただ、「まあ、そうなるよな」と冷めた感想を抱くだけだった。


 助けを求めるのは勝手だが、それに応える義理もなければ、価値もない。


「……もう戻ることはない」


 そう呟いた瞬間、俺の中で過去が完全に断ち切られた。


 俺は前を向く。


 俺には、俺の冒険がある。


 過去に縛られている暇はない。


 そうして、俺はまた静かな山道を歩き始めた。

 

読んでいただきありがとうごさいます!

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