第6話 『仲間の悲鳴が聞こえるけど、もう俺の冒険始まったから』
改稿終わりました
山道を歩いている。静かで穏やかな道だった。
時折、風が吹き抜け、木々がざわめく。俺はその音を聞きながら、ただ淡々と歩き続ける。
——本当に静かだ。
以前の俺なら、この静けさに違和感を覚えていたかもしれない。仲間たちの足音、話し声、作戦を考えるための会話……そんなものが常に近くにあった。だが、今は違う。俺は一人だ。それが当たり前になった。
「ユークがいなくても、俺たちは最強だ!」
勇者レオナールの声が、ふと頭をよぎる。
……そうか。そう言われて、俺は追い出されたんだったな。
今となっては、もうどうでもいいことだ。
村でドラゴンを倒したあの日、俺は自分の力を完全に理解した。
《万能適応》——どんな職業でも、その極致に至るスキル。戦士になれば最強の剣士に、魔法を学べば最強の魔導士に、回復を覚えれば最強のヒーラーになる。あいつらは、そんな俺のスキルを『器用貧乏』だと笑っていたが……結果はこの通りだ。
俺がいた頃のパーティーは、表向きこそ勇者パーティーと称されていたが、実態はどうだった?
俺が盾になり、剣を振るい、魔法を撃ち、回復をしていた。
レオナールが突撃しても、俺のフォローがなければ戦線は崩壊した。リーナが魔法を撃つには、俺の補助が必要だった。エレナが回復していたが、実際には俺が裏で支援していた。ガルフの一撃は強力だったが、命中するのは俺が敵の動きを止めていたからだ。
そう、俺は『補助役』ではなく『要』だった。
——それに気づかないまま、あいつらは俺を追放した。
その時点で、勇者パーティーとしての寿命は決まっていたんだ。
「……もう、誰にも頼らない」
俺は小さく呟く。
その決意は、揺らぐことなく俺の中に根付いていた。
と、遠くで声が聞こえた。
「ユーク、あいつはどこに行ったんだ……?」
「きっと、もう二度と帰ってこないんじゃないか?」
……レオナールの声だ。
思わず立ち止まり、耳を澄ます。
「ユーク……」
リーナの泣き声が聞こえる。エレナも不安そうな声で呟いた。
「でも、何かおかしい……戦いが、こんなにきつくなるなんて……」
ガルフが苛立ったように吐き捨てた。
「ユークがいなけりゃ、こんな弱い奴らしかいないってことか」
……まあ、そうなるだろうな。
予想はしていた。俺が抜けた時点で、勇者パーティーの戦力は大幅に低下する。だが、それに気づくのが遅すぎる。
「ユーク、頼むよ。助けてくれ……」
レオナールの声は、かつての自信に満ちたものではなかった。
……だが、俺は何も感じなかった。
申し訳なさもなければ、憐れみもない。ただ、「まあ、そうなるよな」と冷めた感想を抱くだけだった。
助けを求めるのは勝手だが、それに応える義理もなければ、価値もない。
「……もう戻ることはない」
そう呟いた瞬間、俺の中で過去が完全に断ち切られた。
俺は前を向く。
俺には、俺の冒険がある。
過去に縛られている暇はない。
そうして、俺はまた静かな山道を歩き始めた。
読んでいただきありがとうごさいます!
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