第3話『気楽な田舎暮らし……のはずが』
長い戦いを終え、ユークは決意した。
「もうのんびり暮らすんだ」
静かな田舎の村で、気ままな生活を送る。それがユークの望みだった。
夕暮れの空の下、小さな村へ足を踏み入れる。風は心地よく、鳥のさえずりが響く。村人たちは穏やかに暮らし、ここには戦いや陰謀とは無縁の時間が流れていた。
「よし、この村で適当に仕事を見つけて、のんびり暮らそう」
そう呟きながら村の広場を歩いていると、壮年の男――村長が声をかけてきた。
「おや、旅のお方か? すまんが、ちょっと手を貸してくれんかね」
「手伝い……?」
村長の話によると、畑仕事の手伝いや薬草の採取をしてほしいらしい。軽作業でいいと言われたので、ユークは気楽な気持ちで引き受けた。
「まぁ、このくらいなら楽勝だろ」
だが――
ユークの”普通”は、村人の”普通”ではなかった。
「は、速すぎる……!!!」
ユークが軽く手を動かすと、畑の雑草は一瞬で抜き取られ、土は綺麗に耕される。薬草採取を頼まれれば、驚異的な速度で希少な薬草まで揃えてしまう。
「うそだろ……!? これ、いつもの何倍の量だ?」
「普通にやっただけだけど……?」
村人たちは目を丸くし、畏怖の視線を向けてくる。
その夜、村の小さな酒場。
ユークは静かに食事を楽しんでいた。
すると、一人の冒険者風の男がじっとこちらを見つめていた。
「おい、お前……まさか……!」
「?」
男は緊張した面持ちで、ユークの隣に腰を下ろす。
「さっきの仕事、見てたんだが……お前、ただ者じゃないだろ? どうだ、ギルドに登録しないか?」
「いや、俺はのんびり暮らすつもりだから……」
「いやいや、冗談だろ!? その力ならS級冒険者も余裕だぞ!」
気がつけば、話はどんどん大きくなっていき、気づけばユークはS級冒険者として認定されてしまう。
「なんでそうなるんだ……」
そして翌日――
「ちょうどいいタイミングだ! お前にぴったりの依頼があるぞ!」
ギルドのマスターが、嬉々として依頼書を差し出した。そこには、
『ドラゴン討伐』
と書かれていた。
「……は?」
「S級冒険者になったばかりの腕試しにちょうどいいだろう?」
「いや、そんなつもりじゃ――」
だが、ギルドの熱意に押し切られ、ユークは仕方なく依頼を引き受けることになった。
そして翌日――
「……あ、倒しちゃった」
目の前で、ドラゴンが崩れ落ちる。
ユークは軽く剣を振るっただけだった。
ドラゴンは反応する暇もなく、一撃で絶命していた。
「本当に……こんな簡単でよかったのか?」
困惑しつつギルドに戻ると、マスターが震えながら駆け寄ってきた。
「嘘だろ……!? まさか、本当に一人で討伐を!?」
「普通にやっただけだよ」
その言葉は、もはや伝説の始まりだった。
この日を境にユークは『最強の冒険者』として認知されていくことになった……
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