第1話『追放』
広大な森の奥、石造りの古城。
その一室で、静寂を切り裂くように勇者レオナールの声が響いた。
「ユーク、お前はもうパーティーに必要ない」
目の前に立つのは、勇者レオナール。
その隣には魔法使いのリーナ、回復役のエレナ、そして剣士のガルフがいた。
ユークは静かに問い返す。
「……理由を聞いてもいいか?」
レオナールは腕を組み、ため息をついた。
「戦闘能力が中途半端だ。お前は補助魔法や雑務で支えてくれたが、それならもっと強い補助役を雇った方がいい」
「要するに、俺じゃダメってことか」
「そういうことだ」
リーナが目を伏せる。
「……ごめんね、ユーク。でも、これはみんなのためなの」
エレナも、小さく頷いた。
「私たちは魔王討伐の使命を背負ってるの。だから……」
その言葉に、ユークは心の中で苦笑する。
「……ガルフ、お前も同じ考えか?」
ユークはパーティーの剣士、ガルフに視線を向けた。
ガルフは大柄な体を組み、短く答える。
「悪いな、ユーク。だが、レオナールの判断は正しい」
その声には、迷いはなかった。
「お前は確かに器用だが、決定打に欠ける。俺たちの戦力にならないなら、切るしかない」
淡々とした言葉。
ガルフは決して悪意で言っているわけではなかった。
彼は常に合理的な考えを持ち、戦闘では「勝つための最適解」を選ぶ。
その彼が「ユークを切るのが最適解」と判断した。
(つまり、俺は“戦力外”ってことか)
「……そうか」
ユークは呆れるように笑った。
「じゃあ、出ていくよ」
レオナールたちの表情が一瞬驚きに揺れる。
「お、おい、あっさりしすぎじゃないか?」
「もっと抵抗するかと思ったのに……」
「いらないなら、いる理由もないだろ」
荷物をまとめ、ユークは振り返らずに城を後にした。
その瞬間——すべてが変わった。
森の中を歩きながら、ユークは深く息をつく。
「……ようやく自由になれたな」
スキル《万能適応》——それは、あらゆる技術を「最適な形」に調整し、成長速度を飛躍的に向上させる能力。
つまり——「何をやっても、すぐに強くなれる」 ということ。
実際、ユークは短期間の訓練でも剣術や魔法をすぐに上達させていた。
しかし、勇者パーティーでは「補助役」という枠に押し込まれ、それ以上の鍛錬をさせてもらえなかった。
「なら、これからは好きにやらせてもらうぜ」
ユークは剣を抜き、軽く振るってみる。
——シュンッ!
風を切る鋭い音。
わずかに剣筋を調整するだけで、驚くほど洗練された斬撃になる。
「やっぱり、戦闘経験が足りなかっただけか」
スキルの適応は常に機能していた。
だが、「適応するための機会」が圧倒的に少なかった。
試しに、炎の魔法を放ってみる。
ファイアランス!
——ボウッ!
細く鋭い炎の槍が、木に突き刺さり、轟音と共に弾けた。
「……もう十分な威力が出せるな」
剣技も、魔法も、今までは制限されていた。
だが、もうそんな枷はない。
「これなら、どこまででも行ける」
ユークは静かに剣を収めた。
——追放は終わりじゃない。
むしろ、本当の冒険が今、始まる。
夜が訪れる頃、ユークは王都へと続く街道に足を向けた。
「さて、どこから始めるかな」
目的はまだ決まっていない。
だが、今度こそ、誰にも邪魔されずに力を磨ける。
ユークは微笑みながら、王都へと歩き出した。
これは、追放された“補助役”が世界を席巻する物語の始まり。
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