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扉の先の黒き人々-序-

 結局、老婆から情報を得ることはできずにNトンネルに取材班一行は向かう。

 それでも、空き腹にうどんをいれたおかげで、うどん屋に入るまでの険悪な雰囲気は幾分かマシになっていた。順調に道を進み、Nトンネルまでもう少しの地点で、紅一点の湯田が口を開く。


「なんだか、全然人が来ていないって感じですね」


 確かに車道は荒れに荒れ、道路脇にある雑木林たちは全く手入れがされておらず草木が生い茂っていてボロボロな路面に進出しており、ただでさえ粗悪な道路の環境に拍車をかけていた。

 恵一は調べた情報によると半年前に市による刈り入れが行われていたはずだが、それにしては草があまりに多い気がした。そこから常識的な考えから答えを導き出し、口にする。


「大方、業者が手抜きして道路際だけしか刈らなかったんだろう。でなければ半年で道路まで伸びる育ち方はしないよ」

「いつの世も悪いことをするやつばかりってことかね」


 息を吐く矢別。フーッと吐きたかったのであろうが、肥満によるブタ鼻のせいかプヒューっとなってしまっているのが妙におかしく。矢別は気づいていないが、ミラー越しに見る湯田も又井も、口を押さえて笑いを堪えている。

 恵一自身も笑いが込み上げてきたが、何とか我慢し会話を続ける。


「さぁ、カーナビによるとそろそろみたいです。いっちょネタを掴んで帰りましょう!」


 こみあげてくる笑いを振り切るために恵一は大きな声を上げた。



 Nトンネルは全長千三八五メートルで、目的の緊急通用口はちょうど半分の七百メートルにあると調べはついている。崩落している場所は恵一たちが到着した南側のトンネル出入口とは逆側寄りなので、通用口に入るにはうどん屋側からの南側入り口しか進入する方法がない。長旅の末に辿り着いたNトンネル南側の消えかかった路側帯に駐車し、ジャーナリストの四人は下車した。


「えーっと、何が必要ですかね?」

「暗いから懐中電灯。間違いなくトンネルの中の電灯は死んでるだろうよ」

「デジカメとボイスレコーダーも各自で持っとけ。前野は例の鍵も忘れずにな」

「了解です。あとは…」


 SUVのトランクから、あらかじめ積んでおいた人数分の懐中電灯と、個人所有の取材道具を取り出す。忘れ物が無いように確認して、恵一はスマートフォンで時間を確認した。

 時刻は十四時五分を回ったところ、早めに行動しないと帰るころには日が落ちてしまうだろう。そう判断した恵一は少し焦りながらメンバーに考えを告げた。


「急ぎましょう。車からトンネルまで距離があるので暗くなると危険です」

「今から危ないとこ行こうって話してんだけどな」

「オカルトと現実的な危険は別でしょ」


 雑談をしながら四人は荷物を点検し、不備がないことを確認して車にロックを掛けた。



 車から五分ほどトンネルに向けて歩き、一行はトンネルの入り口の前に。中からの明かりはまったくない、それはまるで。


「……バケモンの大口みたいだな」

「そうですね……。ちょっと怖いかも」


 又井が及び腰になりながら、トンネル入り口をバケモノの口と評し、湯田もそれに同意した。なお、矢別は巨体を揺らしながら息切れを起こし、大きく深呼吸をしている。

 その横で恵一は呆れながらもスマートフォンを取り出した。電話帳からある人物を選択し、通話ボタンを押す。その相手は大学の先輩である警察官の高村だ。

 もし問題が発生してしまった場合、この山奥の誰も通らないトンネルでは救助の要請もできないので、恵一は予め高村に連絡をしておいて連絡が来なければ探しに来てくれないかと頼むつもりであった。

 プルルプルルと電子音がスピーカーから聞こえて、ツーコールの後に電話相手の高村が受話した。


『こちら携帯高村』

「もしもし、前野です。高村先輩、今大丈夫ですか?」

『ええけど、お前どこにおるんや。プツプツ声途切れとるで』

「先輩から紹介していただいた縁間さんに教えてもらったNトンネルにいるんですが」

『はぁ!? ホンマにアイツと会ったんか!? なに貰ったんや!』

「え、いや、ただの鍵ですけど。なにか問題でも…?」

『待て、行くな! その場からさっさと帰れ! アイツがただの鍵を渡すわけがガガガガガガガガガガガガ』

「もしもし? 先輩?」


 ブツッと高村との通話が途切れる。恵一はなにか、うすら寒いものを感じながらも高村にリダイアルする。

 再び、プルルプルルと電子音が鳴る。

 ガチャリと受話音が聞こえたので、恵一がもしもしと発言しようとした瞬間ーーーー。


『で・れ・な・い』


 恵一は反射的に耳からスマートフォンを引き離し、勢いでそのまま取り落としてしまった。スマートフォンの画面は割れて、タッチパネルはグチャグチャになってしまっている。破砕音に恵一の前にいた三人は驚いて振り返り、恵一はバツの悪い表情で謝罪した。


「すみません、電話していたら変な音が聞こえてスマホを落としちゃって」

「おいおい、大丈夫かよ。ここ一番でブルってるようじゃ先が思いやられるぜ?」

「あーあ、スマホの画面がバラバラですね」

「こりゃ修理してもらわんと操作もできないぞ」

「やっちゃいましたね。しょうがないのでスマホを車に置いて、サブの奴持ってきます。ちょっと待っててください、すぐに戻ります」


 又井の急げよーの声を背後に受けながら恵一は自身の車に向かって走る。

 同僚を待たせてはいけない焦燥感で、恵一の頭からは先程の高村の忠告が抜け落ちていた。


『さっさと帰れ』、老婆や高村からの助言の通りに恵一たちはそうすべきだったのであろう。

 電話の後、心配していた高村が恵一たちの失踪を知ったのは一週間後であった。



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