八十六話「用心」
前回のあらすじ
暇で暇で仕方ない紅月はちょっど目についた【SAMONN】を始める。やることを探すついでに冒険者ギルドへ向かう途中、野良プレイヤーに"決闘"を申し込まれるが、撃退。
その後も次々と"決闘"を申し込まれるがコレも撃退し冒険者ギルドにやっとの思いで辿り着く。
"鉄血の死神"という二つ名が今の自分にとってそこそこ厄介だということを再認知し、紅月はみくびられないため、妹のため冒険者ランクを上げることを決意する。
「ここが、目的地か。」
目の前の洞窟が目的地であることをマップに打たれているピンを見て確認する。依頼書的に場所は間違っていない。
「早速仕事に取り掛かろう。」
対人刀とビームライフルをそれぞれ片手に持ち、暗い洞窟の中を進んでいく。暗視とサーモグラフィーを使い敵生命体の場所を捕捉する。
向こう側から自分の半分ほどの背丈の生物がこちらに向かってくるのを感知。武器を構え、戦闘の準備をする、
《gyaaaaa》
「任務遂行のために、排除させてもらう…!」
目の前からくる数体のゴブリンと戦闘を開始する。今回の任務ならぬ依頼はゴブリンの巣の破壊、おそらく効率のいい巣破壊の方法があるのだろう、だが俺はみるのがめんどくさ、、ではなく。初めてということもあって自己流で挑んでみる。
素人である俺が巣の破壊のなんたるかはもちろん知ってるはずがない。だが想像はできる、巣というのは主人がいなければ巣とは言わない。蜘蛛がいない蜘蛛の巣なんてものはただの置き物に等しいということだ。
ならばやることは決まっている、ゴブリンを1匹残らず殲滅して念の為巣自体を破壊すれば結果的に依頼達成になるだろう。それに、依頼が達成していなかったら画面右上に映し出されているチェックマークに印がつかないはずだ。いわばコレはチェックマークがつくまでしらみ潰しにゴブリンの巣を破壊し尽くすことだ。
《gyaaaaa》
「遅いな。」
多勢に無勢とはよく言ったものだ、相手は無数の軍隊のような数を引き連れて1人のオートマタを倒さんとする。だが一騎当千ともまたよく言うもの、武装の数は少なかれ超反応と超速度、超防御が合わさったこの装備ならば赤子の手をひねるようにゴブリン達を一秒のうちに薙ぎ払い殺すことができる。
「!」
画面の前のまえが一気に真っ赤に染まる、俺は瞬時に後退して目の前に現れた火の玉を回避する。
《gyaaa》
「ゴブリンメイジか、」
解析結果が出て目の前のターゲットをロックオンする。そこに照準を合わせるようにビームライフルを射撃する。光はゴブリン明治の横腹を焼き切り、二発目は頭部を直撃、溶解する。
「よし、っ。」
ドォンと音がたち、俺は咄嗟の回避で重い一撃を無事避ける。振り向きざまに今までのゴブリンとは体格が大きく違うゴブリンに視線を移す。手に持っている棍棒で押し潰されれば耐える絶えない以前にたまったものじゃないだろう、
(上級ゴブリン、アークゴブリン。)
巨大な体躯はその名にふさわしいだろう、ゆっくりとこちらに視線を移し地面にクレーターを作った棍棒を持ち上げ、こちらに前進してくる。
対人刀をグッと両手で構え、スラスターを吹かしながらアークゴブリンの足元へ入り込む、体全身の捻りと急速回転したスラスターを駆使して、足の腱をピンポイントで切り伏せる。ビームライフルをすかさず持ちかえ、出力を上げた一撃をアークゴブリンの方を落とす。
《gaaaaaaaaaaa》
痛々しい叫び声を上げながら、両膝をつき動かなくなる。再びスラスターを前へ吹かし頭部を狙う。
(魔力放衣)
魔力放衣は防御だけではなく、まとった部位を攻撃にも転用することができる。剣の部分を一点集中のように魔力を纏わせ、切れ味、攻撃力をスペック以上に引き上げる。
ただまとわせるのではなく、確実に剣の形へと形成しアークゴブリンの頭部から一刀両断する。
刃を頭部に入れてから下へ到達するまでそれほど時間はかからなかった、熱したナイフでバターを切るようにナンの抵抗もなく、アークゴブリンは真っ二つに切り伏せられた。
「よし、次だ。」
そこから先はひたすらにゴブリンを殲滅していく作業、特に大きい敵も出ずゴブリンアーチャーやゴブリンメイジなど少し変わった個体が出るだけで、思った以上に簡単に制圧することができた。
ピコンと音がなり右上に表示されているチェック項目に印がついたところで俺は冒険者ギルドへと帰っていった。
──冒険者ギルド──
「はい、確認しました。依頼達成ですね、コレが今回の報酬金額です。」
渡した紙と引き換えに営業スマイルと報酬金が入った袋を受け取る。実際に手に取ってみて、袋の中身をぱっと確認する、俺からしたらこの行動は品物の中身を確認するのとおんなじだ。
「どうも。(ないとは思うけど、中身が違ったりも時にはあるからな。)」
袋をアイテムボックスに送り、そのまま資金に還元する。できるだけ依頼料が高いクエストを受けてきたからか、冒険者ランクももうCランクへ到達している。
最初の薬草取りが今では懐かしく感じるほどだ、
「紅月様、もう直ぐBランクですね。対人戦の昇格試験があるので準備も怠らず、頑張ってください。」
「対人戦?、モンスター退治じゃなく?」
「はい、Cランクまでは指定されたモンスターの討伐だけでランクアップができましたが、Bランク以上に上がるためには対人戦の試験をやる規定になってます。」
言われた通り、Cランクまで上がるのに俺がそこまで苦労しなかった理由の大半がモンスターを殺すだけのただの作業でしかなかったのだ。ゴリ押しと言われればその通り、特殊な剣術も特に工夫を凝らす必要なく、俺はこのランクに到達している。
最初だからか下手なギミックがある相手もいなかった、デバフ問題は上がったとしてもオートマタは状態異常無効がある限り、対人刀を振り回しているだけでも勝てる。
だが今回は対人戦。俺の経験則的にモンスター戦より苦戦はしそうだが、【SAMONN】において俺はどちらかといえば対人戦をこなしていだので、ある種得意ではあるのかな。
それにしても、モンスター討伐以外に対人戦か。
「なるほど。(おそらく"決闘"のせいかな、対人戦も強化してなんぼ、もしくは……)」
これから人を殺すことがあるかもしれないということの暗示かもしれない。深読みしすぎかもだが。
「対人戦において、何か質問などはございますか?」
「いや、経験したことあるから大丈夫です。それより、次も……」
「あぁはい!、報酬金額が高いクエストですね。今のところは、こちらになります。」
受付の人は何枚の紙をしたから取り出し、机の上に丁寧に並べた。相変わらずこちら側から見やすい置き方にしているところに気遣いの精神を深く感じる、海外だとこうはいかないからな。
俺は置いてある紙をゆっくりと吟味し、一番左にある依頼書をとに取り、受付の前に手渡した。
「はい。ジャイアントサイクロプスの討伐ですね、受注確認いたしました。」
受付の人は俺が渡した依頼者にハンコを押すと俺にもう一度手渡して机の上に並べてあった紙をかき集めた。
「依頼に関してご質問などはありますか?」
「いや、特には。」
「わかりました。それでは良い冒険の旅を。」
お辞儀をしながら依頼に向かう俺に受付の人はそう言った。俺はそれからも依頼を難なくこなし続け、一日が終わる頃には昇格試験を昇格試験を受けられるレベルにまで到達していた。
キリも良かったのでその日はそれで終わりにし次の日。
──冒険者ギルド──
(昇格戦ようの装備を作るのもありだな、)
当然のように【SAMONN】にログインして、当然のようにギルドに居座り、当然のように椅子に座った俺は自分のステータスを見ながらそう思う。
というのも、この装備自体はプロイシーで作ったものであり水中戦の時に本領を発揮する。地上での運用も想定してはいるものの、やはりいささか無駄が大きい。武装的な面では申し分なかったりするが手数の単調さと白兵戦特化ということだけあってか距離を詰めなければならない、ビームライフルはあくまで牽制用、まぁ牽制以上にビームライフルの対抗策がビームシールドくらいしかないので実質掠りでもすれば大怪我なのだが、なんだかんだで決定的にはなりにくい。
俺自体近接戦は得意とする方ではあるものの、個人的に戦いやすいと思うのは中距離戦だ。レナのように鷹の目を持ったスナイパーでもなければ、鷹橋…フライのように近接まで詰められるほどの異次元級の防御兵装を常に展開できるわけでもない。そも、ハインドコードなどの"神秘"を使用する兵装は対異生に特化しているだけあって万能兵装ではない。
なので地上戦でもポテンシャルを出せる兵装というのはある意味対人刀グラディウスくらいしかないのだ。
(Bランクくらいだったらこの装備でも問題ない……なんて過信してやられたらたまったものじゃないからな。)
そうと決まれば、早速設計図作りから始めよう。
ギルドでやるのは少し不安でもあったため、俺はルルカの工房を勝手に使わせてもらうことにした。合鍵を渡してもらっていたので入ることは容易でちょうどルルカも留守にしていたため俺は少し心を休ませながら作業に取り掛かった。
(今回は素材を使わないようにしよう。)
もちろん勝手に取ったら怒られるかもしれないためだ、ルルカはああ見えて結構というかかなり恨み深い。自分のデザートが取られようものならどんな手を使ってでも取り返す。だからルルカのプリンには絶対に手をつけてはならないのだ、それが仮に名前を書いていなかったとしても。
(思い出すのはここまでにしておこう。)
設計図を書く際に注意することはコスト面だ。無論俺はCランクでルルカはSSランクかなりの差があるため今までのコスト度外視の装備はおそらく作れない。というかそれが普通なんだが、だからもあってか俺は今回できるだけ誰の手も借りずに行けるところまで行ってみたいと思う。エズを手も借りることもあるかもしれないが極力は避けたい、あっちもあっちで忙しいからな。
自分が取れる素材を検索し、ピックアップしていく。そしてその素材を使っってどう装備を作るのかを設計していく。時と場合によって使えるか使えないかを取捨選択して、コスパよく、それでいて高性能な装備の完成を目指していく。
単純な防御性能はさることながらオートマタだからできる装備を多く盛り込むことによって魔法を使う相手と同等に戦える前に仕上げる。
スキル、魔法、魔術の概念がない俺たちオートマタは物理的な科学力による工夫で策を講じていく。そう思うと我ながら"作る"ということに縁がある人生で良かったと思う。芸能人や商売の方向に向かっていたならこのゲームで装備の製作を自分からすることもなかっただろうし。
[───装備設計システム、起動。シュミレート開始──]
エズとの共同開発の末に生まれた試作プロトコル。VRの世界にまで電子機器の技術を持ち込むのはいかがなものかと感じはしたが、便利なOSもなければ代用する鉱石すらもこの世界では発展途上だ、社会の役に立つからと発展する電子技術はこの【SAMONN】においては魔法技術がそれにあたる。
故に電子系統、デジタル系統は発展する必要がない、魔法学の方が数千倍使いやすく便利であるからだからだ。
(前提として、魔法を使えないといけないからな。)
社会の発展に適応できないオートマタはそういった意味でも不遇であるのだ。
だから自己満足の延長線かもしれないが、電子系統、デジタル系統の技術をこの世界で擬似的に模倣することはオートマタの助けになる。俺はこの技術を少し便利で装備製作に使いやすいという面だけで採用しているがな。
だからプロトコルもその一環だ。おかげでちまちま現実の攻略サイトを覗かなくても済むようになる、しかもオートマタ専用でもあるからな。
「これ購入ルートとかもつけた方が良さそうだな。まぁおいおいか、ゲレームでも未販売の試作品だし。俺の運用データもこれに記録されてあるからちょくちょく、ゲレームに戻ってバックアップ取った方が良さそうだな。」
装備に使う素材を選択し、製錬結果を予測。該当の効果を得る装甲ができた次第に機体に該当するパーツに当てはめていく。そうすればだんだんと形が見えてくる、鉱石の特性同士の組み合わせはまるで科学の実験を行なっているような気分になる。もしくは遺伝子学の方にも似ているかもしれない、二つの親の特性を引き継ぐのか、それともどちらかを放棄するのか、意外にも全く別の特性が生まれることもある。
乱数による完成品の違いは基本的になしとしている。試していけば数千通りは生まれそうだと、このゲームではありがちらしい(ルルカ曰く)。だから現在解明されている中で確実に可能性が高いものを選出して厳選していく。
自分の戦闘スタイルはデータを見れば明らかだ、口を出したい気持ちを少し抑えつつスタンダードに、それでいて自分にとって最高級のものを目指す。
「………完成だ。」
完成した設計図をホログラフィで映し出し、スクリーンショット機能で撮影をする。このゲームのシステムとオートマタの独自のシステム、OSなんかは基本連結していないのでこういった面倒なことをしなければならない。スマホの画面をスマホで撮るのとやっていることはほとんど同じだ。
「さて、じゃあ素材集めにでもいくか。」
箇条書きされてある素材を一気に検索にかける。データベースに貯蔵されてある膨大なデータに適切な該当品があれば説明文とともに場所が出されるはず、まぁネットワークを構築してるわけじゃないし、まずこのシステム自体を持っている、、というかこのアイテムを持っている人自体が少ないため期待はできないが。
[──検索完了、ゲレームの……]
「やっぱりな、ゲレーム近郊だ、国の付近から穴埋めしていくのは当たり前だが、流石に特産品じゃないだろ。」
つまりはゲレームの他にある、だがそのデータや情報がベースに貯蔵されていないからだ。時間と人手の多さがこのシステムの発展具合を握っていると言っても過言ではない。需要が今の所エズと俺の自己満で終わっている以上、時間はかかりそうだが。
そう思いながら攻略サイトを開き、鉱石の名前を打ち込む。検索にかけるとすぐにその場所が表示された。
どうやら店でも取り扱っているらしい。
「このサイト、俺が始める前からあるそうだけど評価もいいし。知ってるかもだけど、エズと参考にした方がいいかもな。」
口に出しながら、俺はルルカの工房を後にした。そして攻略サイトに書かれた鉱石専門店に向かって歩き始めた。
『topic』
紅月とエズは趣味でOS開発をしている。紅月に関してはオートマタの性能や拡張性を上げたいから(職人魂からくるものと思われる)、エズは普通に興味があったり、オートマタの不遇性を払拭するため。




