表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/172

八十四話「勇幕の凱旋」

前回のあらすじ


王の間に残されたエリアを救出すべく、合流を果たした紅月、ルルカ、ウミ、メビアは策を巡らせる。しかし突如として一線の光がプロイシー中を照らす、エリアの秘めたる力……"勇者"としての力がもたらした一撃によっていとも簡単に魔王ギルバルド・フェインシーは打ち滅ぼされる。浮かんだ王の間を一筋の光が断ち切り崩壊させる、プロイシーに現存する魚人族、人魚族、人間全てが共に喜びを分かち合う中、"勇者の一撃"を放ったエリアは最後の言葉を伝えるべき人に伝え、その長い人生に幕を下ろした。




 ──事件から三日後・プロイシー国領内ビーチ──




事件から三日経ち、プロイシーに侵略したであろう『泥』は国に大きな傷跡を残し、その存在を跡形もなく消した。『泥』によって汚染されていた世界は元の輝きを取り戻し、崩壊状態の海洋国家プロイシーは他国の援助を受けることによって、再建を開始。無論待ち構えていたかのようにエズ様率いる錬鉱国ゲレームもそのうちに入っていたりする。客観的に見れば、私たちはいいパイプラインのように使われた気がするが、今の私たちからしたらそんなことは正直どうでもよかった。


 [ザザーン]


海の音が聞こえる…ついこの間まで黒く染まっていた『泥』の海は今回の事件以降一気に輝きを取り戻した。青い海、白い砂浜、私達は───。


 「トリヤァーーー!!」


 「ガード!」


 「わかってる!」


本来の目的(?)である、バカンスを楽しんでいた。


 「いっけぇ、ルルカシュート!!」


 「ッアンタ魔力使って……!」


 「魔力放衣!」


紅月様、レナ様、ルルカ様は私がパラソルの下で休んでいる間にビーチバレーを始めていた。最初こそ緩やかなスタートで始まってはいたがだんだんと過激になっていき、今のような魔力を込めた玉を打ち出したり、逆に装備なしのオートマタの身体能力補填のために魔力放衣でそれらを補うことだって始める。


お嬢様対レナ様、紅月様の対決であるが、9:8とかなりの接戦が繰り広げられている。1人であればチームワークなど気にしない精神のお嬢様はかなり強い……ソロプレイヤーとしての強さが特に際立って出ているような感じだった。


 「レナ、打ち上げろ!」


 「はいはい!!」


 「─────っ!!」


紅月様が思いっきりボールを叩き、右端位向かってボールが直線的に飛んでいく。

落ちるスレスレでお嬢様は魔法で攻撃被弾盾アタックダメージシールドをはり、ボールを受け止めると同時に上へ打ち上げる。


 「ちょっと!」


 「へーん。」


お嬢様は得意そうな顔でそう口にし、飛び上がる。そしてタイミングよくボールを叩き見事なスパイクを決める。


 「やるな…」


 「やるな…じゃないわよ!って────うあぁぁぁ!!!!」


 [ドーン!!!]


大きな砂煙が巻きちり、お嬢様にまたまた一点入る、「イエーィ」と言いながら喜びの舞を一人でするお嬢様は見ていて微笑ましい。


 「………平和ですね。」

 

潮風が吹き、私たちは平和な日常を謳歌している、少し前まで戦争じみたことをしていたというのに……。

風はいつもと変わらず穏やかだった。


 「ウミもやらなーい?」


 「遠慮しておきますー!!」


残念ながら私も女として肌を気にする年頃、いくら日焼け止めを塗っても年に勝てないのです。

そうここだけの話ということではないのですが…私ももうすぐアラフォーなので……(37歳)


求めているわけではありませんが、相方が欲しいところ。流石に婚期遅れ…見た目若いと言われがちですが、実年齢を知ってしまえばあのお嬢様といえど驚いてしまうほど……、見た目に対して年齢が合っていないなどとはよく同僚にも言われていましたが、、。


 (いつか、いつかと考えればこんな歳になっていましたし、いい加減いい人を見つける努力をしなければなりません。お嬢様曰く顔とか体型はいいらしいですから、)


でも理想の人間像すら今の私には浮かばない、それこそ紅月様みたいな方であれば……………


 (いやいや!、何を考えているのですか私はっ!)


歳の差を考えれば、今のは普通にやばい人すぎるに決まってます。でも強いてあげるならの話に違いはなく………。


 (まぁもし紅月様が、嫌でなければ。)


そういいつつ、私は紅月様の姿を見る。いつもと違って少し生き生きしている様子、きっとお嬢様と遊んでいるからこそのあの笑顔なのだろう。


 (………やっぱり、なりませんね。)


だいたい、お嬢様に対する紅月様の好意を察すれば望みは薄いと普通に考えられる。それこそ主人の裏切りになってしまいかねない。


 [ズキ]


 「………あれ。」


一瞬変な痛みが胸の中を貫いたような気がする。言葉に表現するのが難しい、でもそれでいてなぜか変に動悸が激しくなる。


 「よーーーーし!!!!今日も狩った狩った。」


大きな声が聞こえ私は振り向く、向こう側からメルド様が大きなイカを引っ張りながらこちらに向かってきていた。後ろに続く部下の人たちの顔を見ればどうやらメルドさんだけが楽しかったようで……との感じが読み取れた。実のところメルドさんには食料調達を頼んでいた、海には海の楽しみ方があるように食料も基本時給で済ませようという魂胆、本当は食料が尽きていて食べるものがなかったとかいう理由では決してありません(嘘)


 「お帰りなさいメルドさん、食料はうまく調達できたようで…」


 「おうよ。本来はドラゴン肉でも用意したかったんだけどな、今日はびっくりするほどいなくてな…ちょうど泳いでいるデミクラーケンがいたから、泳いでとっ捕まえてきたぜ。」


メルドさんは余裕の表情でそういいながらガッツポーズをする。この人は一体何なら不利になるのだろうか…っと私は率直に思うと同時に、紅月様とお嬢様とレナ様を呼び昼食の支度をする。


 「イカって捌けるのウミさん?」


 「クラーケンですけど、まぁイカと同じ要領で行けば問題なさそうですねこれなら、」


 「大きさ含めて生態が違うと思うんだけど。」


 「類似する器官がある以上、適応はできますし………もしかして私をなめてますか?」


 『なめてない、なめてない!!』


そんな楽しい会話をしながら、イカを捌いていく。元々オールワーク派のメイドでしたので調理もできる私は全くの問題なく料理を作っていった、ちなみにかろうじてあった野菜を使って串焼き(バーベキュー仕様)、サラダ、唐揚げなどを作った。時代背景がファンタジーであるのに、プレイヤーの料理欲の爆発のおかげで、食だけ現代レベルに引き上げられていることに今は感謝だ。


 そして私たちは昼食を始めた。


 「うん、美味しいですね。我ながら」


 「イカとタコの間みたいな食感ね、とても不思議だわ。」


 「…う〜ん玉ねぎが欲しい。」


 「それはオニオンリングじゃないのかルルカ?」


太陽が転変にのぼり、後片付けを行い始める。自分でもかなりの量を作ったと感じていたがやはり人が多い分食べる速度も早い…コース料理の経験がない私からしたらそちら方面の素養が今回で身についたのかもしれない…それと、調理レベルをマックスまで上げておいて良かった、下手すればまずいものが出来上がっていたかもしれない。


 「お兄様ぁー、一緒に泳ごー!。」


 「ちょっと待て、せめて防水加工してから…」


お嬢様は紅月様をこまるように引っ張りながら海へ引きずり込もうとする…水着を着たお嬢様はいつもと違ってやけに上機嫌だった。


 「……、」


 「ウミさん大丈夫?」


 「え、大丈夫ですけど。」


隣に現れたレナ様の問いに私は何が何だかわからず、とりあえずで答えた。


 「わかってないようだから言うけど。───エリアさん知り合いだったんでしょ。」


 「………。」


その話題か、っと思うと同時に私の心は静かに沈んでいく感覚がした。まるで誕生日パーティーに葬式の話を切り出された時のような温度差だった。


 「いかにもに割り切ってない顔してたから、ちょっとお節介だけどこっちから話しかけてみた、それだけよ。」


 「はい、ありがとうございます。おっしゃった通り…まだ実感が湧きません、彼女が死んでしまうなんて。」


 「、、どんな人だったの?。」


私は目を閉じて彼女の声を思い出す、次に容姿、次に話し方、次に思い。今でも少しずつ段階を重ねれば思い出すことができるその姿形は、もういないものだと……受け入れるには少し難しい。

しかしそんな私の思惑を超えて、レナ様に語る。


 「………そう。紅月に聞いた時とはまた違っているわね。」


 「、一言で言えばなんだかとても忠実な人でした。良い意味でも、悪い意味でも───」


 「紅月はそれが最大のミスだったと言っていたわ。一長一短って。」


 「、」


紅月様の言っていることは正しいのかもしれない、彼からみたエリアさんはずっと敵対していた。ならば自然と相手の弱点が見えてくることは自然なことのはずだ。そしてそれは私が知らないエリアさんを知っているということ、彼もエリアさんという存在を私と同じくらい知っていたということを静かに暗示しているような気がした。


 「でも一番落ち込んで、いいえ…悲しんでいる人は────」


 「メビアさん、ですね…」


一番近くでエリアさんを失ったのだ、姉だと慕っていた人を……ただでさえ家族が全員いなくなってしまったというのに、メビアさんに残ったかけがえのない存在は、もう。


 「明日は葬海式があるそうよ、」


 「葬海式…?」


 「なんでも、年に一度プロイシーで死んでいった人々を海に"返す"行事らしいわ。」


 「海に、"返す"ですか。」


全ての生命の源を海とするプロイシーであれば理にかなっているような式典だろう。

体を海に返し、魂のサイクルにまた戻す……そしてその者は数えきれない巡年を繰り返し、再び生まれ変わる、昔ならば珍しくない考え方だっただろう……だが今を生きる私たちからすれば、そんなことが本当に起こるのだろうかという思いの方が先に出る。


 「私たちは行こうと思っているけど……ウミさんも考えておいて、」


 「…………………。」


レナ様はその言葉だけ言い残し、紅月様とお嬢様の輪に再び戻っていった。私は悩んだ、葬海式に参加するかどうかをだ、お嬢様が参加するならば私が参加しない理由はないだろう、しかし今回ばかりはワガママに私は参加したくないという気持ちがある。


そうして悩んでいるうちに日は沈み、夜になり…ゲームを終わる時間が訪れた。と言っても一時的だ、私たちからすれば【SAMONN】の半日は現実世界では比べ物にならないくらい早い。小休憩をするだけでこちらの世界では朝が始まる。しかしお嬢様や紅月様、レナ様がログアウトした後も私は【SAMONN】に残り続けていた。ケジメのようなものがつかず気分が複雑な時と同じように、今の私の気持ちもなんだか上の空だった。


休憩所のベットの上でボーっと考えていた私は、少し変わるかもと思い外の空気を吸いにベランダに出る。

潮風が私の顔を刺激して髪を流す。水平線には月の虚影が浮かびなんとも神秘的な雰囲気を放っていた。内側に溜まったため息がスーッと自然に抜けていく感覚を覚えながら目を瞑り海の声に耳を傾ける。


、近くに人がいるからだろうか、声が聞こえた。しかもなんだか忙しそうな声だ。


 「……」


興味本位からか、私はその声の正体を知るかのように聞き耳を立てながら、近づいていく。そして通信機を片手に難しそうな話をしている忙しそうなエズ様がそこにはいた、これにはちょっとびっくりだ。

エズ様が来ていたことについては遠目で確認していたからわかっていた、がまさかここ付近にいたとは予想が全くつかなかった。


 「うぅむ、そうじゃ。壊れた海時盤は修復次第返上。これで作業ペースなんかにズレが起きないはずじゃからな。」


 『国全体を覆っていた結界は?』


 「あんな模造品があるせいで今回の事変に繋がったのじゃろうが、壊して良いわ。全く魔法国の馬鹿さっぷりには頭が痛い。」


 『わかりました、明日の葬海式は───』


 「出るに決まっておろう、素晴らしいスーツを用意するのだ。」


 『黒ですか白ですか?。』


 「………今のジョークで言っておるよな?」


エズ様がその言葉を呆れた様子で言った時、ちょうど私と目が合った。偶然だったようで向こうも驚いていたが

すぐに変に真面目な表情に切り替え、通信機に目を向けた。


 『もちろん、では次のエ───』


 「すまん、少し休憩じゃ…」


エズ様はそう言い切ると瞬間に通信機を切り、はぁっとため息をつけた後…私の元へと向かってきた。その表情はどこか疲れているような表情だった。


 「、悪いな…少し話し相手になってくれ。」


 「………はい。」


何を言い出すかと思えばエズ様は落ち着いた表情で私にそう言いかけ、近くのベンチまで移動した。エズ様が座り、私も隣に座る。少しの沈黙の末にエズ様が口を開いた。


 「……最近同郷のものが死んでしまってな。」


 「え、」


 「あまり関わりは盛んではなかったが、その種族にしては中々長生きをした方じゃった。」


 「…………私も」


 「うぅむ?。」


 「この一件で、、人を亡くしました。とても良い人でした…ですが、」


 「───、イレギュラーとの戦いはいつの時代も非常じゃ……奴らは世界の敵と評されるだけあって。我々プレイヤーがいなければ撃退はまず不可能と言われるほど強い。そんな中生き残る人もまた少ないのだろう、この世界の住人からしたら我々は強いだけの同居人という見方であるからな、、、。」


エズ様が言っていることは一見難しいように聞こえる。しかし何を伝えたいかという点については明白になっていると私は思っている。もし隣の人が死ぬのなら自分が死ぬ、という考え方を持っている人がいるように。NPCが死んでも問題ないプレイヤーの身代わりになる。

、人間的でどこまでも現実に忠実だからこそ、私たちは…これをゲームの世界だと完全に認識できなくなる…五日誰かが言っていた言葉、それが今この瞬間にすごく共感できると同時に、とてもじゃないが残酷的だと思ってしまう。


 「レナから聞いたぞ、明日の葬海式参加しないつもりじゃと。あ、責めてはおらぬよ別に」


 「………はい。私はエリアさんにすごく恩があるというわけではありません、そしてプロイシーの……今回の戦いで死んでしまった方々にも、だからこそそこにいながら何もできていなかった私が、、参加して良いのかと思ってしまうのです。」


 「────、妾は………だからこそ妾たちは参加すべきじゃと、思っておる。」


 「だからこそ、、ですか?」


 「うぅむ。考えてみるのじゃ、そこにいて何もできなくとも…妾たちは知っている、その人がいかな思いを抱いて命を散らしたのかを……その人々が生前どんな顔をして生きていたのかを。」


 「────────────、」


 「この世には知らぬ命が散ることもある、見ず知らずのものが誰かの墓標に祈りを捧げることがある。仮にその墓標に書かれた言葉が時とともになくなったとしても。───誰のか。知っている妾たちが忘れなければ、覚えていれば、それだけで………死んでいったものたちは救われるのではないかと、、、な。」


その場所にいるだけでも、その場所にいたからこそ…できることがある。その事実を知っているからこそ、覚えていることがある。人にとって一番悲しいことはこの世からその跡がなくなってしまうこと……、そう彼女は言っているように聞こえた…私はそう解釈した。


大きな納得と共に、私は自分の気持ちをしっかりとこの瞬間決めることができた。


 「………なら、」


 「───」


 「、なら私は…!」




 ──翌日……心海国家プロイシー・葬海の入江──




 心海国家プロイシー、前政権からの変更ともにほぼ崩壊状態になった国を新しい形とともに切り替える。その意思のもと新しくつけられた国の名前。もしくは………海洋国家という名を捨て、心を海と共にするという意味が込められた新しいこの国のかたちだ。私としては後者の方が好きだ、とてもメビア様らしいと感じるから、、


 「あの、必要なのはわかっているんですが…わざわざこんな豪華な物を。」


 「良いんんじゃよ!、お主もまだまだ若い……このくらい安いもんじゃ、」


そう言いながら椅子に座った私の髪をちょこちょこといじるエズ様。


 (もうすぐアラフォーなんですけど…………)


 「それに、妾ではサイズが合わなかった。」


 「………なんかすみません。」


 「えぇえいい!言うな、余計悲しくなる!!」


そう少し強めの口調で言ってはいるが、私の髪にその感情が届いていないところを見ると本気ではないと感じる、なんだかんだで優しい人だと思う。


 「────それとエリアに向けて良い格好ぐらいしてやるのも礼儀じゃぞ。」


 「──…はい。」


エズ様は普段から少し抜けたところがあるが、昨日の相談む含めてとても真面目で堅実な人だと思う。これが統率者としてのあるべく姿という観点で見るなら……、、うんまぁ。(なんとも言えない)


 「よし!、ナズナで慣れておいてよかったわい。我ながら素晴らしい出来栄え。」


そう言いながら、エズ様は私の隣に立ち椅子から立たせ、すぐ近くの鏡に私を誘導する。


 「わぁ…」


いつもそこまで派手というよりかは着飾った服を着ない私は見違えた自分の姿に大きく驚き、素の声を出す。

ドレスを見た時はとても自分には似合わないと自負していたが、いざ着てみると自分のために仕立て上げられたかのような違和感のなさを感じる。


 「ふふん、ウミにいい反応させてやったわい。満足じゃ、」


 「、、ありがとうございます。エズ様、」


 「礼などいらぬよ。その姿は、仕事疲れの妾の目を十分に癒してくれたからな。」


 「……そうですか?、」


 「うぅむ!…では妾は先に行っておくぞ、これでも一応代表でな……よくそうは見えないと言われるが。」


そう言いながらエズ様はぶつぶつ独り言を言って、外に向かっていった。私はもう一度鏡を振り返り、自分の姿をまじまじとみる。そして昨日決めた思いをしっかりと思い出し…控え室から離れた。


 「……あ!ウミ。」


大勢の人たちをかき分けながらお嬢様たちを探していたら、向こう側から声が聞こえてきた。紛れもなく声の正体はお嬢様。私はお嬢様の方へと向かっていく。お嬢様は最初こそ嬉しさを全面に出したような顔をしてたが、私が近づくにつれその表情はだんだんと驚きのものへお変わっていった。


 「、すみません…準備に時間がかかってしまって。」


 「………」


 「───」


 「……。」


お嬢様、紅月様、レナ様の三人は私の姿を下から上へと視線を動かしつつ、驚いたような顔をずっとしている。


 「え、」


 「ウミさん……そのドレス。」


 「はい、エズ様に貸してもらったのですが、、」


 「すごい素敵じゃない!、なんというか別人みたい」


 「うんうん!!本当にウミかと疑っちゃたよ……。ちなみに本当にウミだよね?」


 「?、もちろんですよ。」


お嬢様とレナ様は二人とも喜びの声をあげながら私のドレスを好評してくれた。


 「お兄様はどう思う?綺麗だよね?!」


 「あぁ、とても似合っていると思う。」


 「…ありがとうございます。」


紅月様が褒めてくれたことに私は素直に笑顔を見せ喜んだ。葬海式の暗い雰囲気の中とは反対に……………。


 そして葬海式は本格的に始まった、決まった席に私たちは座り…プロイシー現女王メビア・フェインシーの話を聞くことになった。大きな拍手として迎えられた彼女は台の前に立ち、王としての心いきをその言葉にのせ始めた。彼女のその姿は王としてはまだ未熟に見られることが多かったと思う、しかしながら私たちからすれば立派という言葉意外に表現することはできない。

世間的には、愚王を打払し新時代の指導者という肩書きがあるためか、彼女の言葉は国を民の平和を願う言葉でまとめられていた…だが、裏を返せば過去の話に誰も目を向けてほしくないという人間的な一面が垣間見れていたと、私は率直に思う。最後には今回の戦いに対する彼女個人の思いが耳を通して深く伝わってきた…


長い話を終え、またもや大きな拍手が会場を包み込む。しかしそのじつ雰囲気は変わらず静けさが増していた。

後に登場したのは聖職者……、人魚族の方だった。彼女は聖書を開き言葉を話す、そこに書かれている幾度も繰り返されてきた祈りの言葉、決められた言葉を……なんの変哲もない言葉であってもそれは時に悲しさを増す理由になる。


その方が聖書を1ページまた1ページとめくるたびに周りの人たちは涙を堪えながら、流し始めた。でも私達だけは感応しなかった、いやしていたがそこまではいかなかったのだ。


自分で決めたからだ、そうこの事実を自分で決めて、乗り越えると約束した。


 (この戦いの犠牲者に)


人魚族の人が聖書を閉じ、舞台から離れる。司会の人が最後のプログラムを口にすると、私たちは号令に従って立ち上がる。


そして中央に空いた大きなレッドカーペットの道を6人で一つの棺桶を運びながらどんどんと前のほうへと進んでいく、そして道がない門の手前でそれをおろした。


棺桶はたちまち一つの泡の膜で満たされ、運んでいた人たちは互いに頷くとそれを門の向こう側へと押した。


無重力状態の物が永遠に進み続けるかのように泡の膜で包まれた棺桶は海の向こう側へと向かって進んでいった。誰にも止めることができないように、誰にも止められないように……。


そして死んだ人の数を表すかのように多くの棺桶が私たちの横を通過していった。途中には運んでいる人が泣き崩れることがあった、放していった棺桶にすがりつこうとして他の人に止められる人までもがいた。

突如として現れた災害のような存在に大切な人を奪われる気持ち、わからないはずがない…たとえわからなくても、それが尋常ならざることはここにいる誰もが感じてきれていたことだと私は思う。


そしていくつもの棺桶が海の向こう側へと運ばれていき、


 (あれは……)


メビア様が棺桶の前に立ち、その後ろの騎士のような人たちが棺桶を担いで歩いている。

私はその光景だけでその棺桶が誰のものかというのを察した、飛び出すような真似はしない…私とて大人の1人だ。

だがもう少し若ければ飛び出してはいただろう、その棺桶が本当にその人なのだろうかと確かめたいという欲に駆られて、しかし今の私はそれらをグッと堪えて運ばれていく棺桶をただ見ているだけであった。


そして棺桶が門の前に置かれ、泡の膜で覆われる。メビア様が花束を棺桶に添え、そして騎士の人たちが一斉に押し出した。


彼方へ、どこまでも遠くへ流れていくその箱を私達はずっと見ていた。



そして棺桶が一つ残らず流され、向こう側の水平線から姿を消した時。葬海式は終わりを迎えた、参加者は少しずつ解散していき、残ったのは未練あるものたちだけになっていた。

私も含めて、


門近くで棺桶が流れていった彼方を見つめていた。もうその姿は見れないにしても一体あれらは物理的にどこへいってしまうのか、っと物思いに耽りながらただぼうっと見つめていた。


 「ウミさん、」


背後から声がしたので振り返る。そこには女王らしい服を着た飾ったメビアさんがいた、しかし服に対してその顔はあまりにも元気がない。


 「メビアさん、今回はご招待いただきありがとうございます。」


 「……うん、」


悲しみに浸っている心だからか、思った以上に私たちの会話はすぐ終わる。メビアさんの方がエリアさんとの時間は長かったはずだ……それなのに私は、いまだに変に引きずっているところがある。


まったく、いい歳して何を言っているのか……知り合いが死ぬのは、別に最初じゃないはずなのに。


 「ウミさん、てっきり来ないかと思ってた。」


 「……、最初はそう思いました、けど。やはりこの目でしっかり見届けたいなと思いまして。」


真に見届けていないというのに、私はそのような建前を話す。最初から覚悟してきているという気分であったのに、……本当に私という人間は、


 「…そっか。すごいなぁ、私なんかできれば参加したくなかったのに。」


 「……」


彼女は女王だから参加しなくてはならない。悲しみを乗り越える象徴として、彼女は国民の支えにならなければならない。

全くもって酷な話だ、今の彼女はただの少女としての感情を後に考えなければならないのだから……


 「……今日は、葬海式に来てくれてありがとうウミさん。それじゃ────、」


 「───あの!」


悪くなった空気から離れようとするメビアさんを引き止める。


 「………私も昔、知り合いを亡くしているんです。、とても優しい人で……私に夢を与えてくれた人でした。乗り越えるのは、とても大変で、決して簡単なものではありませんでした。ですが………だから困ったり、相談したいかったり、頼りたかったりしたら……いつでも話してください!!」


 「……うん。ありがとう、、。」


メビアさんは暗い顔を少しあげて私にそう言ってくれた。彼女の本心を聞けた気がした、個人的に今の言葉はあまり褒められたような内容ではなかったが、それでも彼女に私の気持ちが伝わってくれたという現実にはいささか救いを感じた。


 「そうだ、ウミさん達はこれからどうするの。」


 「私たちは……プロイシーを離れてまたどこか違うところへ行こうと思います。」


 「そう、なんだ。……そうだよね、」


私の答えを聞いたメビアさんはなんとなくわかっていたような顔をする。できれば一緒にいてほしいと願っている上で彼女は私たちの人生というものを尊重しているのだ、


 「ここに居続けることもできますが……エリアさんなら地上人がここにいるのをあまりよく思わなさそうなので、」


 「………、そうだね。エリアならきっと…もっと広いところに行ってほしいって思うよ、きっと。」


やはりというか、メビアさんも感じていたのだろう。エリアさんが地上人のことを良しと思わない、その理由を……そして彼女が誰よりも海の外のことに好奇心の目を向けていたという事実を。


そこにいったいどこまでの感情があるのかは、今となってはもうわからない。でも、エリアさんから私への感情の中には確かに憧れがあった。

それは翼を持たないものが、飛んでいく鳩を羨ましく思うのと、どこか似ているような気がしていた。


 「メビア様、すみませんお話が……」


アズサさんが私とメビアさんに一礼しすぐさまメビア様に近づき、耳打ちを始めた。


 「わかった…すぐに取り掛かろう。」


メビア様はアズサさんの言葉を聞き終えると、顔を変えそう言う。


 「お忙しですもんね。」


 「うんまぁね、だから話はここまで……ウミさんと話せてよかったよ、それじゃ。」


メビアさんは優しい表情のまま、アズサさんに連れられて、そのばからはんれようとする。アズサさんが話を続けてメビアさんを連れていく、そして……


 「あ!、ウミさん…その、ドレスとっても素敵だよ!!」


実に彼女らしい、私はそう思いつつ…


 「………ありがとうございます。」


っと頭を下げながらメビアさんを見送った。

そして紅月様、レナ様、お嬢様の三人が去っていったメビアさんの後を埋めるかのように集まって来た。


 「話は終わったようね。」


 「はい。もしかしてずっと見てました?。」


 「まっさかぁ、そんなわけ───」


 「ルルカが心配そうにずっと見てましたよ。二人とも大丈夫かなぁ〜って」


 「ちょ!あ兄様ぁ〜!!。」


相変わらずの三人の会話に私は思わず、笑いが溢れる。先ほどのしんみりとした雰囲気がまるで嘘のようだ。


 「、お嬢様たちはメビアさんと話さなくてよかったんですか。」


 「えぇ、もう話したわ……ウミさんが海の果てを見ている間にね。」


 「一応別れの挨拶も済ませた。ウミさんがどうするかは俺たちの方じゃわからなかったですから……」


思えば先ほどの会話では私はメビアさんにお別れの挨拶をしていませんでした。伝えるにしてもメビアさんは多忙を極めている、わざわざ足を運ぶにしても少し迷惑になってしまうかも知れない。


 「そうですか……エズ様経由で伝えられないでしょうか?」


 「そうね、あいつなら数日はここにいる予定見たいだし……きっとメビアと会う機会もあるでしょ。」


 「なんか、結構雑ぽいけど…まぁエズだからいいよね。」


私たちの中でのエズ様の認識がだいぶ下がっている気がしますが、特に気にせず……私はその後エズ様にメビアさんの別れの挨拶を伝えた。案の定二つ返事でOKを出したエズ様は伝えることを約束してくれた。


私たちはプロイシーの城下町でお世話になった人々に挨拶回りをした後、海正道を通り地上にでる。

そして地上でバレーボールをしていたメルドさんたちにも挨拶をして、修復中のプロイシーの看板を横切る。


 「国名が変わったんだよね〜。」


 「心海王国だっけか、メビアらしいよな。」


そんなたわいもない会話をしながら私たちは公道を進んでいく。目指すは最初の街サイモン、この間は経由として利用したが今回は家に帰るために向かう、なんだか二年ぶりに帰れる気がする。

お嬢様の工房兼家がおそらく埃まみれになっているので掃除しなければ、そう考えると……なんだかワクワクしてきた。埃を一つ残らず無くすのはどんなに気持ちがいいことか…


 「なんか私の家にカビ生えてる気がする…」


 「大丈夫ですお嬢様…!、たとえ生えていたとしても私が完璧に落として見せます!」


 「生えてないことを祈りたいんだけどっ!?」


そこから話を少し続けて、ちょっと後。


 「………それにしてももうすぐプロイシーの領内を離れるわね…」


 「はい、メビさんとは結局会えませんでしたが────」



 今思えばあっというまだった気がする。お嬢様のプチ夏休みから始まり、エズ様の依頼を受けるついでにプロイシーにきて、イレギュラーと戦って………アレ、なんだかエズ様が全部仕込んだと見えなくもないような。まぁ流石にイレギュラーを操れるわけではないので、そんなことあるはずがないのですが………なんだか癪です。


 「でも楽しかったよねー!」


 「─────はい、楽しかったです。」


 「、そうね。私も今回でかなり儲かっちゃったし。」


 「………ほんと、図々しいよねーレナは…」


 「なによー、悪い?」


お嬢様とレナ様がまた新しい会話を始めて、それに紅月様と私は穏やかに輪に加わる。いつもの光景、いつもの風景、これで本当にプロイシーの旅が終わる気がする。本当にこれで…………


 「おーーい!!待ってぇーーーー!!!」


っと思っていたら後ろから声が聞こえた。振り返るとそこには


 「メビアさん?!。」


 「しかも走ってきてる!、」


 「陸をっ!?」


 「走れたんだ!!」


いつも泳いで移動していたり走ることをしていなかったメビア様の見たことない姿に私たちは感動以前に驚きが先に来た、それはまるでさっきまで立てなかった少女がいきなり立って全力疾走するかのような衝撃だった。

どこかで聞いたことあるたとえだと思いましが、本当にそれくらいの驚きなんです。


 「あぎゃ!!!」


 「でも………転んだわよ。」


 「─────助けに行きましょう!!」


私たちは転んだわよメビアさんを助けようと慌てて、彼女の元へと向かう。あっけに取られていた頭がメビアさんの方にようやく向いた、ごめんなさいメビアさん、私たちからすればこちらに来てくれたあなたよりあなたが陸地を走っているという事実の方が気になって仕方がなかったのです。


 「メビア大丈夫か?。」


 「走るのに慣れてないでしょうね、生まれたての子鹿よりかはマシだったけど。」


 「褒めてないよレナ、なんなら一周回って辛辣!」


紅月様がメビアさんの手を取り、なんとか立ち上がらせる。レナ様の表現は確かにあまり良いものではなかったが良いところついている表現だと、彼女の震える足を見てそう思った。おっといい加減あの光景から意識を引き剥がさないと…


 「それにしても、なぜ……」


 「はぁ、はぁ。なぜってもちろん!、私まだウミさんにお別れいってんかったもん!!。」


 『……………え…………?』 


それはおかしい、エズ様は必ず伝えると約束してくれたはず、伝えてから数時間は経っていますから尚更……伝えられていないのは、


 「エズから聞いてない?」


 「、何が……?」


 ((((あっこれわざと伝えてないやつだぁ))))


私は心の中で、というよりは今この場にいる全員が思った……そして同時にエズ様のてへぺろみたいな顔が脳裏に思い浮かぶ、こんなことを言いたくはないのですが……よくもやってくれましたね。


 「?、どうしたのみんな。」


 「いや、なんかごめんな……あのバカ王女が。」


 「エズさんのこと?、それとなんでバカ王女……」


 「気にしなくていいわ……多分、いやいずれわかるもの。」


 「そう、なんだ……っていうか本題!」


メビアさんは思い出したかのように、身だしなみを整える。転んだ時の跡が少し目立つが、それでも彼女のみにまとわれている服は依然輝いて見えた。


 「ウミさん、今回は私を…国を助けてくれてありがとう。」


 「いえ、そんな大きなことは。」


 「そんな大きなことだよ、………それと、エリアのことありがとう。いろんな意味だけど。」


 「…はい。こちらこそありがとうございます。」


私はメビアさんが出して来た手を取り、両手で握手をした。


 「これからいろんなことが、ウミさんに降りかかってくると思うけど……預言者である私が保証するよ。きっとこれから先の人生、あなたは絶対に後悔する生き方をしない。」


 「─────。」


 「まぁ断片的だけどね、」


 「………ありがとうございます、とても自信が持てました。」


 「あ、本当にお天気占い並みの感じだから、あんまり期待しないでね。本当にだよ!」


メビア様は少し慌てつつ自分を卑下するように言う。あんまり信じてハードルを高くしてもらっては困るのだと彼女の表情から容易に読み取れた。


 「わかりました。メビアさんもこれから大変な日々が続くかと思いますが、曲げず、折れず、砕かれず、まっすぐな心で自分の信じた道を行ってください。これはあなたの人生ですから…………」


 「うん、(ちょっとパワー感があるけど)ありがとう…頑張っていくよ。」


私たちは握手していた手を離し、少し距離を置く。いい笑顔で別れられると言うのに、やっぱり少ししんみりしてしまう。こればかりはどうしようもない……、別れというのはどうしても、悲しいものなのだ。


 「………それではまた会いましょう。」


 「うん、またいつか!」


私はメビアさんに手を振りながら、紅月様たちの方へと歩いていく。私が三人に合流次第、足並みを合わせて歩き出す。メビアさんの方をちょくちょく見ながら手を振り、プロイシーから去っていく。

私の長かった旅がやっと終わり、また明日が始まる。







 ──魔法国・???──




一人の女性がカッカッカッとハイヒール特有の響く音を立てながら廊下を歩いている。

そしてその女性は見たその道の先に立派な髭がある大男がいるということを。


 「はぁ、何であなたがここにいるんですか?。」


 「俺がいることに、何か不都合か?。」


男は口数少なくしてそう言い返した。いわばこれはテニス帰ってきた球を打ち返すのがルールならば、女性は次の瞬間なんていうのだろう?


 「いいえ、別にあなたがいることに不都合はありません。"成績"も残してますし主人あるじもあなたの事はそれなりに過大評価しています。」


女性が口に出したのは賞賛だった。


 「ですが、私はあなたが今この場で"存在"していることに苛立ちと拒絶を感じています。」


 「─、随分まわりくどい言い方だな。」


 「それはもちろん、人間。まわりくどく生きないと死んでしまうほど愚かなので、どっかの闘牛のように赤に向かって突っ走るようなバカではないということです。」


 「ふむ確かに一理ある。が、一つ欠けているぞアリス、闘牛は何も赤いものに突っ込んでいるのではない。それよりも先の"波のような動き"に向かっているのだ、お前のような柔軟剤を使っていない女性のようなものとは正反対だ。」


 「はぁ?。自分の髭をアイロンがけしてみては?きっと綺麗な燃え滓になってさぞ顔もさっぱり綺麗になるでしょう?。」


 「あいにくだが髭にアイロンをかける趣味も文化もない。」


 「──はぁ。もういいです、」


アリスは大男の話に呆れの表情を表し、そのまま通り過ぎようとする。


 「、どうだった?。鉄血の死神は?。」


 「──まぁ期待以上くらいですかね?、中々キレるタイプのプレイヤーでしたよ、」


 「お前にそこまで言わしめるか、」


 「えぇ、情報さえ揃っていれば私の正体に気づいてもおかしくなかったくらい、もっとも彼に付き従っている二人も十二分に厄介ですが。」


 「定期報告書で確認した、全知の魔女と何時なんときも離れないメイドだろぅ?。」


 「えぇ、今回は偵察だけなので良かったですがもし討伐を任されていたのなら間違いなく勝ち目は薄かったと思いますよ、」


 「ほぉう。」


大男はアリスの言葉を聞いて不敵に笑った、何を想像しているかわからないがアリスは心底気持ち悪いというコメントを心の中で残した。


 「はぁ。──それより貴方向けの案件が届いてますよ?。」


 「ふむ、」


その瞬間、突然空中から赤い斬撃が飛んでき、大男の後頭部を切断しようとした。


 [パリン]


しかしそれはまるでガラスが割れるかのような簡単さで壊れた。そして暗闇の中から大斧を持った男が追撃を入れようと大男の顔に向かって行った。


 [ガシ]


大男は男の頭を掴んだ。彼の頭は完全に大男の手の中にありその気であればその剛腕な握力によってたちまち潰れたさくらんぼのようにされてしまうところだ。


 [ドシンッ!!]


男が苦痛の声を上げるより先大男はその体を地面に叩きつける。床は少しの傷つきで抑えられ男はまるで巨人の足に踏まれているかのように静かな悲鳴をあげていた。

大男は殺そうと握力を強める。無論それに比例して頭の骨が軋む音もまた広まるものだ、


 「─ッ!ッ!──!!」


 「あ、殺さないでくださいね。」


 「心得た。」


そう言うと大男は男の顔を持ち上げもう一度地面に叩きつけた。後頭部が砕けたような音ともに男の頭から血がチョロチョロと吹き出した。


 「ちょっと。」


 「よく見ろ、」


大男がそう言うと男の体はたちまち溶け始め最後には白い液体となって消えた。


 「錬金ホムンクルス?。(随分とおしゃれね。)」


 「あぁ、そして本体は俺のちょうど背後。"気配遮断"スキル、いやEXの"気配削除"か。」


そう大男が口にすると背後に隠れていた本体と呼ばれた男がだんだんと姿を見せた。


 「お前何者だ?。」


 「侵入者に名乗るほどのものでもない、ただの腕自慢の魔術師だ。」


 「……、頭をいつでもつぶせるやつが魔術師なわけあるか。」


 「あるとも。何なら今貴様に実体験させてやってもいいが、一応な。」


 「──っ。」


男の名は"アラハバキ"、死屍の一員でありある事情によりこの場を訪れたもの。そしてそれを持っているのが誰かはすでに見当がついている。


 「はぁい。"アラハバキ"、元気してた?。」


 「元気、か。あの時始末しておけば元気だったさ。」


 「ふふ、そう固くならないでください。、あなたが欲しかったものは──」


女性は指をパチンっと鳴らすとどこからともなく無気力で金髪の少女が彼女の隣に現れた。


 「この子でしょう?。」


 「っー。」


"アラハバキ"は今すぐにでもその少女を連れ去ろうと考えた。しかし次のビジョンでは大男に掴まれ先ほどのホムンクルスと同じ末路を辿ることが容易に想像できた。ゆえにはやる気持ちを抑えてじっと相手を睨みつける。


 「返してほしいですか?。」


 「、、、。」


少女の正体はネル。紅月に吹き飛ばされた後行方がわからなくなっていた"アラハバキ"の仲間だ。

しかし彼女の目には正気が宿っておらず明らかに目の前の女性アリスに何かされた後だということがわかる。


 「、釣れないですね。。」


 「当たり前だ、なんせ釣りに引っかかる魚じゃないからな。」


大男は意外にも"アラハバキ"を褒めた。しかしそれはジョークで言っているのか、今この場の優勢がこちらであると確信した余裕の言葉なのかは、彼の厳格な言葉遣いからは想像できない。


 「では、取引なんてものはどうでしょう?。」


 「取引、だと?。」


 「えぇ。ただ貴方には一つだけ依頼を渡します、ちなみに報酬はこの子、」


 「──、。」


 「"全知の魔女"を捕獲。そして"鉄血の死神"を殺しなさい。」


 「っ。」


 「貴方ならできるはず、"アラハバキ"。だって、あなた…強いでしょう?」


月下の夜。この後交わされた内容を知るものは誰もいない、たとえ空に浮かぶ月さえもこの後の内容を正しく記憶しているかは定かではない。何ならこの場にいた者の半分ももう今は忘れているのかもしれない。



……To be continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ