八十二話「形勢逆転」
前回のあらすじ
エリアに奇襲された紅月は防戦一方の中、エリアにまだ余地があると考え説得を始める。しかし『泥』に沼れたエリアは聞く耳を持たず、紅月を撃墜しようとする。間一髪のところをレナに助けられ、紅月はコンテナ内にあった新装備を手に入れ、時間を稼いでくれたレナにデータを渡すと同時に戦線に復帰する紅月はまるで武者が如く力の差でエリアに肉薄していく。
どうしようもなく、否定し続けるエリアについに堪忍袋の尾が切れた紅月はエリアを撃破する。そして王の間にて戦闘中であるウミとメビアを助けるために急ぎスラスターを吹かせ向かう。
──プロイシー王城・王の間──
「────。」
私達の前に現れた騎士は先ほどまで苦戦していた『泥』の触手を目にも止まらない斬撃で一刀両断にし、私たちの目の前に降り立った。
その光景に私はただ口を開けたまま見とれることしかできなかった。
「ウミさん、大丈夫ですか…。」
「あ…紅月様、?」
聞き覚えのある声に私はそう口に出す。先ほどの彼の姿とは似ても似つかないほど変わっていたその見た目に私はいまだに彼があの紅月様だということに脳が追いつかないでいる。
「メビアを連れて行ってください。ここは俺に任せて…!。」
「───……、はい!。。」
私は彼の言われるがままにメビアさんを抱きかかえ、大扉の方へ走っていく。体全体に力があまり行き届かないが、距離にして数メートル…戦線離脱はすぐに完了する。
しかしその行手をもちろん阻んでくる触手…私は目の前からくる触手に回避行動を取るほどの余裕はなかった。ただこの部屋から出ることを目的とした私に他のことを考える余裕などなかったのだ。
(しまった───っ。)
そう思った時目の前の触手の先端が爪のような硬い部分へと生え変わりこちらに向けて突き刺そうとしてくる。
目を瞑り死を覚悟する、せめてメビアさんだけでも守ろうと咄嗟に体が彼女を覆うように動こうとする。
「させるか───ッ!!」
その声と共に、目の前から飛びかかってくる触手は切りつけられ…白い光と共に音を立てながら弾け飛んだ。私はその光景を目の当たりにすると、私は我先に走り出し急いで扉へと辿り着く。
「紅月様──ありがとうございます!。」
そう口に出すと、私は扉をと叩き割り…空いた穴から強引に向こう側へと渡る。決して後ろを振り返らず、紅月様から言われたことを頭に入れながら…メビアさんを少しでも戦闘区域から遠ざけようと走った。
しばらくして、私達は侵入に使ったベランダ付近まで戻ってくることができた。道中接敵しなかったことが現状の不幸中の幸いだとも取れる。
「………、」
メビアさんは顔を隠したまま体育座りをしている。説得を試みようとしたら、否定され……そして自分の存在教えられた。
彼女に取ってこの出来事がいかに辛かったか私には正直計り知れない、今回ばかりは私も彼女になんて声をかけたらいいのかすら分からない。
そも、私という人間が彼女に寄り添えるのだろうかと…思ったりもしてしまう。自己肯定感が低いのとは違う、ただあまりにも複雑で。
全て夢なのではないかと思う時間でいっぱいいっぱいだったからだ、勢いであのようなことを言っていた自分が今の自分と大違いで…正直情けないと思う。
(何が彼女を守るだ。相手に測られていただけでなく……一撃も与えることができなかったクセに。)
私は静かに手すりを握る手を強めた。
──プロイシー王城・王の間──
メビアとウミさんを逃した俺は変貌した国王と対峙していた。無数の触手は常に俺の心臓部に狙いをつけて攻撃をしてくる、エリアの時と違い圧倒的な手数と硬度を誇っている触手は相手をするのにも鬱陶しかった。
本体を叩こうにも相打ちを覚悟しなければならない状況、だがそれはやらない約束だ。
「────また!」
背後からくる触手を切り付けると先を読まれたように横、上からの同時攻撃がこちらを襲う。
右手のエネルギー砲を頼りに各方面に攻撃を仕掛けているものの、手数があまりにも多すぎる。まるで100対1で襲われているような感覚だ。
「──フッ、先ほどは呆気に取られたものだがやはり足元にも及ばないか。」
「─────っ!。(五分五分で収まっているのが不思議なくらいだ。)」
背部から放出している粒子は時間経過で『泥』を少しずつ浄化していき相手を弱らせることができる。しかしコイツだけは違う、戦い始めてからしばらくしているというのに全く弱る気配を見せない、というよりも先ほどより少しずつ強くなってきているまである。
「エリアを倒したのは驚きはした…だが所詮地上人の技術。我々が積み重ねてきた歴史に置き換えれば高々眉唾物ものに過ぎない。」
「───まさか…、まさか!。」
俺の頭には一つの結論が浮かび上がった。憶測でしかないが、確証をもって言えることだった。なぜ『泥』に対して無類の強さを誇っていたウミさんの槍がこうも押し負けていたのかを……、それはコイツ自身が現在進行形でこちらを分析しているからだ。
成長するたびに耐性を獲得していく。人間でいう免疫と同じ、だがいくら『泥』といえどこれほど早く適応するのはいくらなんでもレベルが違いすぎる。
(───っやはり根底から覆さなければ無意味か。)
先ほどより強烈な攻撃が飛び交う中、俺は迎撃を一時的に中断して回避に専念する。最大稼働状態でも長くは持たない、タイムリミットはすぐそこだった。何か策を考えなければ──、
「中々察しが良かったなお前は。……だが三手遅かったな。」
その言葉を聞いた時、俺はハッと自分の視野を広げた。部屋中を考えなしに飛び逃げていた俺はいつの間にかに触手によって追い込まれていた。四方八方には逃げ場なしここで迎撃するにしても捌けて三方向、残りはカバーする暇はない……一か八かで最大出力の右手で全体を薙ぎ払うか…いやそんなことすれば後のリカバリーに確実に間に合わない。
「常に戦局をみなればいけないのだ、貴様のような戦うことでしか存在価値を見出せぬものは我の前から大人しく消えてゆけッ!!」
「────ッ!!」
対人刀を取り出し、迎撃の構えをする。触手を一方向に薙ぎ払った後そのまま本体に突貫する。その方法しかないと感じた、何より無駄死によりも相打ちの方がはるかにマシだ。
ルルカに後で説教されることを除けば!!
そうして俺は向かってくる触手に対して攻撃を開始しようとする。手に持っている武器を力強く握り、一瞬の隙も見逃さないよう見定める。
武器をタイミングよく触手に振りかざそうとしたその時だった。聞き覚えのある声を聞いた瞬間は、
「────やはり私は間違いだったか。」
その言葉が聞こえた瞬間、一筋の閃光が目の前を覆い尽くし…俺を狙っていた触手を一掃した。
「なら、この身で償うほかないな。」
俺は声の方向を見た。そこには先ほどまで倒れ動かない状態であった一人の騎士が全身から光を溢れ出しながら佇んでいた。
「─────エリア。」
俺は名前を口に出す。エリアはこちらを見るなり得意げに笑ってみせ、彼女らしい一面を見せた。
「、生きていたとはな。」
冷淡な国王が口を開く、まるでエリアの復活について心底どうでもいい、いやなんなら一周回って迷惑に感じているような視線だった。
人が人に向ける目ではない、もはや目の前にいる王は自分以外のことはどうでもいいのだと…誰でもわかるような事だった。
そしてエリアはゆっくりと王へと近づく、最大稼働の反動が来ていた俺はその光景を黙って見ているだけだった。彼女にどんな思惑があるのか知らずに。
「えぇ。ですが私はもう間違えません、貴方を──メビア様の為に倒す。」
「……なんだと、」
「簡単なことです。私は間違えた、のなら罪を償うのは当たり前……ですが私なりの意地というものがあります、目の前の敵を落ち落ち打ち逃すほど───私の心は腐っていない。」
エリアの両手にはすぐさま剣が現れ、その一振りを国王に向けて彼女はそうだからかに叫んだ。
「─────っキサマ!。」
怒りの表情を露わに国王はさらに自身の『泥』の量を増やす。とてもじゃないがエリア一人には荷が重い事は誰しもわかる事だった、では誰がこの状況を助けられるか、、決まっている。
「手助けは、必要だな。」
「あぁ、お前さえ良ければな。」
「───拒否権がないのによく言うよ、本当に!。」
その言葉を言い終えた瞬間、目の前から無数の触手が飛んでくる。二手に分かれた俺たちは互いに触手を切り伏せながら国王ともう一度対峙する。たとえそれが勝算の低い戦いでも。
──プロイシー王城・ベランダ──
「────?。あれは、」
ふと何かの音を聞き取った。人の声だ、なぜここにまで人の声が聞こえてくるのか…私は不思議になって音のする方向に身を乗り出して聞く耳を立てる。
悲鳴…いやこれは───歓声だ。しかもだんだんとこちらに近づいてきている、
『メビア様の為に────!!!』
その声の主を目で探すとすぐ見つかった。しかも一人ではない、何十何百、いや何千人もの魚人族、人魚族が大群のように城下町の道という道の合間を縫っていくように大移動してこちらに向かっていた。一体何が起きているのか、私には分からなかった…遠くからでも感じるほどの熱狂の正体が、目的が…メビアさんであることは明確であったが、なぜこのタイミングで、そしてなぜ彼等が今動いたのか、全く持って分からない。分からない事だらけだった、
「───これは。」
[シュゥゥゥン!!!。]
「ふぅ!間に合った?!。」
「レナ様!!。」
レナ様は巧みな水中飛行でこちらに到着した。背部のスラスターが彼女の体を安定状態にさせ、ベランダの手すり部分にちょうど降り立った。
「お待たせ、それにしてもすごいでしょこれ。」
「えぇはい。、ちなみに一帯全体何が起こっているんですか!。」
「貴方達二人のおかげよ。それがみんなをここまで動かしたのよ。」
「私……達?。」
メビアさんがこちらに向かって恐る恐る、歩いてくる。目の前の光景をまるで信じられないような顔で見ながら、
「そうよ、ま…紅月の図らいでもあるけどね。紅月が去り際に録音データを渡してね、作戦にはなかったけどどうすればいいか、見当がついたわ……貴方達と国王の会話。」
その言葉を聞くとメビアさんはビクッとした。それもそうだあの中には彼女の嫌な記憶が詰まっている。できるのならば他人に見せる事はしたくないはずだ、
「───それを避難している住民に聞かせてやったわ。」
「何してるんですかァー!!。」
「その結果がこれよ!。みんなメビアのことを気にかけてわざわざここまで来たって言うの、ホント人に好かれるような性格していると思ったけど、まさかこれほどとはね。」
『……………え?。』
私とメビアさんは同じタイミングでそう口にした。あの録音データが紛れもなく一字一句記憶しているはずなら、メビアさんを慕ってここまでくるはずがない。彼女は国王が言った通り国を破滅に導く存在感なのだから、それをただの親切心でくるとは到底思えなかった。
「私も聞いててやばいかなって思ったんだけど…アズサさんがみんなに言ってやったのよ。"今我々が支持すべきなのはどちらなのか、将来国を破滅に導く女王か…それとも世界の破滅を目論む愚王なのか、我々を常に助けてきたのは誰か?、我々を常に信じてくれたのは誰か?、本当に恩をくれたのは誰か、そしてそれを返すべきものは誰なのか、"ってね、そうしたらメビアだーってみんな言っていたわ。」
「そん、な。私……」
「私が言うのも勝手かもだけど…あんな事実を前にしても貴方を信じられる国民達は、本当に貴方のことが好きなのだと思ったわ。」
「私………、そんなこと。」
メビアさんはレナ様のその言葉を聞くと目から大粒の涙を出した。詰まっていた何かが一気に押し流されたように彼女は溢れる涙を手で隠し抑えようとする。しかし体は嘘をつかない、本当に悲しくて、本当に嬉しい時にしか涙は流さないのだ。
「─────メビアさん、誇ってください。貴方はこんなにも大勢の人から慕われるべき人であると、そして貴方は国を破滅に導く預言者ではなく、ただ一人のメビアという存在だということを。」
「───っ、っぅ、う、。わだじ……わだじっ!。」
メビアさんを私は抱きしめる。彼女の涙は水と違いとても暖かかった。そしてとても優しかった、その涙が私の服に跡を作る前にこの海水が彼女の涙だけを持って帰るほどに。
「さてと、邪魔者はルルカの手伝いでもしてくるわ……アイツのことはウミさんとメビアに任せたつもりだから───。」
そう言い残すとレナ様はベランダから飛んで行かれた。本当にお人が悪い、私に紅月様の補佐が務まるはずはないというのに、貴方の口からもそんなことを言われて仕舞えば、私は───どうしようもなくやるしかなくなるのだから、
──プロイシー王城門前──
『オォォォォォッ!!!』
「ど、どういうこと。」
私は突然背後から押し寄せてきたプロイシーの住民達が横や足元を通過しているのにひどく動揺していた。まずこんなこと作戦内にはなかったはずだった、そして彼らがなぜきたという事実にも動揺を隠し切れなかった。
「地上人だけにいい思いをさせるな!!。」
「ここは俺たちの街だァー!。」
そう高々に声を上げながら、『泥』の圧倒的物量を押し返していく…たとえその身が沼れることを恐れていたとしても心はそうでないと、無理やり『泥』たちを退けている、先ほどまで劣勢だった私たちは
いつのまにか攻勢にでていた。
「ルルカさん、…これは一体。」
「わからない、けど……」
私は魔法陣を構成し対異生魔力砲を『泥』達は目掛けて撃ち込む。大勢の人たちに押され『泥』の物量によって構成された一つの塊は崩れ、城の内側に向かって押されることになった。
「勢いこのまま、一気に巻き返すよ!!。」
「わかりました、ではこちらも負傷者の治療をしてから後を追います。お先にどうぞ!。」
「わかった!!。」
そして私は『泥』を押し返しながら王城の中へと侵入していく。大勢の群衆の中に紛れながら援護魔法をかけ続けていく。
「あら、少し遅かったかしたら。」
「レナさん。紅月さんの方では?。」
「知ってるでしょ、私アイツとはソリが合わないのよ、それより『泥』の負傷者用の回復薬があるわ。味は保証しかねないけど、ま良薬口に苦しって言うでしょ?。」
[ゴゴゴゴゴゴゴゴ…]
「───地震。、いえ違うわね。」
──プロイシー王城・ベランダ──
[ゴゴゴゴゴゴゴゴ…]
「地震…?。」
突然起きた揺れに私はメビアさんの体をさらに寄せながら、冷静にそう判断する。
「───何が起こってるの。」
メビアさんが不安そうにそう言う。私は地震に慣れてはいるが、彼女は慣れてはいない。その違いがこれならば私は彼女に安心の声をかけるべきだ、
「大丈夫、、な。」
しかし私もこの地震のようなものにどこか違和感を感じていた、普通とは違う何かの違和感を……、
「ウミー!!!。」
お嬢様が叫びながら通路の向こう側から、こちらに向かってきた。そして少し危なっかしく飛翔魔法を解き体をふらつかせながらこちらへと走ってくる。
「お嬢様…どうしてこちらに、」
「うん?、ウミの場所なら魔力を通じてわかったから。」
「いえ、そう言うことではなく───。」
「────っ攻撃被弾盾・囲」
お嬢様が魔法を展開した直後天井が崩れ、私たちに向かって落ちてくる。幸いお嬢様の行動の速さが起因してかすり傷もしなかった、だがその崩れた天井からある光景が私の目に入ってくる。
「あ、アレは。」
『泥』によって一つの大地が持ち上がったような光景。いやまるでテーブルを『泥』という手で強制的に持ち上げられたようなそんな光景、もはやなんと表現したらいいのかわからない。
ただこの超常的な現象が引き起こされたのは全てにおいて『泥』が原因だということ、まさに異生、この世の最後を意味しているのかと思うまでしまうほどの出来事。
それが崩れた天井の隙間から見えてしまった、そして次に私が思ったことは……紅月様の安否だった、
「───。行こう、」
「………ですが。」
私はお嬢様の手を取ることを躊躇った。それは紅月様からメビアさんを任されたのもまた事実だったから。彼は自分よりもメビアさんの心配をした、ならばその意思に反する行動はすなわち彼の時間を無駄に、無碍にするということだ。
「なら、私もいく。それならウミさんもいけるでしょ?。」
メビアさんは少し震えた手をギュッと握り返しながら強い瞳で私たちにそう言った。
「じゃあ、三人で行こう。お兄様を助けないと!、」
「………───はい!。」
私も心置きなく返事をして、お嬢様と共に天へと掲げられた大地へと赴くことにした。
──少し前のプロイシー王城・王の間──
「紅月!!。3歩先!。」
「わかってる!、援護を回せ。」
俺たちは激しい攻撃の中を掻い潜りながら着実に本体である国王へと肉薄していく。エリアが無数に武器を変え、品を変え国王への妨害とこちらへの援護を行い、俺はエリアに降りかかる触手の大半を片付け数を増やしつつある触手の芽や接続部分を的確に切り刻みながら攻撃の手を止めることなく行う。
一度も共闘したことがないとは言わせないほどの流れるような一挙手一投足に先ほどまで優勢だった国王本人も表情と感情をより露わにしている。
「ええいッ!、貴様ら如きにィ!」
[ゴゴゴゴゴゴゴゴ…]
国王が両手を力強く上げると、建物は揺れ始め地面全体が天井に一気に近くなる。俺はエリアの手を引き、穴が空いていた地点へ一気に移動し、天井と地面への激突を回避する。
そして天井を突き破った王の間は空が見えるバトルフィールドとなった。動く場所が限られている屋内戦において無類の強さを誇っていた『泥』、だが今の状態では得意の手数を生かした追い込みが使えなくなる。
水中の至る所に回避が可能な俺たちからしたらこの場所はあまりにも有利すぎた。
「紅月!今なら、」
「思い上がるな───逆賊が!!!。」
しかしそれを考えていない相手ではない。国王は懐から4体の影をだし、俺に向けて襲わせてくる。俺は流石に油断していなかったため4体の突撃を回避し…追い打ちをかけようとした。
「エリア───、エリア!!。」
しかし迂闊だった。俺がその声を発した時にはエリアは『泥』によって国王と1対1になるような形に強制的に持ち込まれていた。無数の触手による球体型の決闘場にいるエリアを助けようと俺はすぐさま追撃をやめ、対人刀によって切りつけようとするが…それをみすみす逃してくれる4体ではなかった。
俺の前に立ち塞がり、それぞれ纏っていた黒い影を解き放ち、エリアと同様に『泥』によって侵食されたその体を俺の前に出した。
「───っクソ!」
俺は直感的にわかった、コイツらはエリアのように意思があるわけじゃない。たとえ浄化したところで『泥』と一体となってしまった存在だということを、それすなわちどうしようもなく助けられない存在であり…悪く言えば殺してしまうことが彼ら彼女らにとって最も幸福な最後であるということを────。
「……っ。一体どこまで人を道具として扱えば」
『泥』達はそれぞれ武器を構え、こちらに向かって切りかかってくる。
「─────気が済むんだ!、お前はッ!!!」
見え切った一撃を一掃し、俺は交戦を始める。
怒りで腑が煮え繰り返りそうだ、どんな命にも誰かを大切に思ったり誰かに大切にされたりすることがあるはずだ。それなのにただ黙って切ることしかできない俺は───無力で仕方がないと思った。
だが、ここは戦いの場だ。いくらNPCであろうといくらプレイヤーであろうと、この場にでてきたからには倒さなくていけない。
守るものを守るために、どんなに相手が可哀想でもどんなに相手が一度しかない命でも……、俺は自分の決めたことを、通さなくてはいけない。
「だから───、だからこんなところで…終われるかァー!!。」
魔力放衣を全開にして機体全体に赤色のオーラを纏わせる。同調するように各部の[神秘]で構成された装甲も部分的に赤く発光する。
対人刀を担ぎ構え自身の全霊を今この瞬間に残しながら俺は目の前の4体へ向かって突貫する。
4体は触手を使った遠距離攻撃をこちらに向けて放つがどれもことごとく俺の後を追うように外れていく。最大稼働状態中に放出される青白い光は魔力放衣の赤い光に影響され、赤白い光へと変貌する、そして俺の動きの後を追うように残像が展開し軌跡を残していく。
俺自身の機体色とほぼ見分けるのは不可能に近い、本物そっくりの残像に『泥』達はまるでついてこれず、
俺は一体目を目掛けて対人刀を腹部に突き刺した。そして右手に内蔵されてあるエネルギー砲を頭部にあたる部分に押し当て、そのまま頭を弾け飛ばした。
(浄化の出力ではなく確実に人の頭が吹き飛ぶ威力で。)
背後から剣状の『泥』を持ち斬りかかろうとする二体、一体目に刺さっていた対人刀を回しながら切り抜き…振り返り様に左肩から右腰に向けて一刀両断する。
もう一撃両断された肉体をさらに両断し十時切りのようにしてから、頭部にエネルギー砲を撃ち込み、爆殺。三体目の『泥』に向けてビームライフルを5発回避行動を織り交ぜながら命中させる。そして右腕に搭載された盾を剣収納形状のオープン型にさせ、開いた部分にヤツの頭をねじ込み…盾状態に戻す閉じる構造を利用してそのまま頭部を潰した。その後すぐさま肉体に右手のエネルギー砲を連続で3発撃ち込み、白い爆発と共に爆殺。
最後の一体の触手攻撃と針攻撃を右手のエネルギー砲のディフェンス形態すなわち盾のように構築して正面からの攻撃をカバーした後、対人刀の距離に持ち込んだ瞬間俺は四体目を滅多斬りにする。切り離されるはずの肉体を何度も何度も何度も切っては切っては切っては切り返し、最後の最後には汚い『泥』がまるで滲んだ血のように水中を漂い始め、最後に頭部を対人刀で突き刺し…原型止めず切り死に。
「─────、。」
頭部に刺さった対人刀を切り抜き、エリアと国王が戦っているであろう…元へと急いで向かう。俺は決して振り返ってはいけないと思った、どんなに後悔したところで彼ら彼女らは救えなかったとそう思うしかなかった。
そしてここで得た怒りと経験を無碍にしないためにも国王を確実に倒すことが最善だと思うことにした。
『topic』
この世界の"王"は民の信仰によって強さが決まる。




