七十九話「作戦」
前回のあらすじ
衝撃の事実に心の整理ができないメビアは部屋を後にしてベランダに向かう。
メビアの気持ちに寄り添うことができると思ったウミは紅月の頼みを受けながら、彼女と話すことに……ウミは自分の過去を振り返りつつ、メビアに自分とは違う人生というものについて語る。
ウミの激励に心を決めたメビアは再び会議室へ歩みを始める。
──プロイシー城下町・工房(会議室)──
「ごめんなさい……!。」
メビアさんは部屋に入り次第、そう大声で頭を下げて謝罪した。私も含め、全員驚いたような表情を見せつつも彼女の姿をじっと見ていた。
「一人で勝手に行動して──、みんなに迷惑かけちゃった。」
彼女は顔を上げると続けてそのように言う。申し訳なさを表しておるように彼女の顔は髪で少し隠れている。
「でも──、今はそんなこと言っている時じゃないってわかったの。だから、その………」
「……力を貸して欲しい?。」
メビアさんが言葉に詰まるとその先の言葉を言い当てるはめるように紅月様は口に出した。
「───うん。」
彼女は紅月様の顔を見た後、少しだけ自信に溢れたような口調でそう言った。
紅月様はその言葉に一度目を瞑り、開いたと同時に彼女の前へと歩く。
「わかった……力を貸すよ。」
彼は優しく眼差しでメビアさんにそう言った。
「……いいの?、また──迷うかも知れないのに。」
「別に…そうなったらウミさんや俺たちを頼ればいい。迷うことは悪いことじゃないし……メビアはもう、進むことを決めだってことなんだよな。」
「───、一度お父様と話し合ってみたい。今はそれが最善だと思うし、何より……最後までその真意を聞いてみたいの………自分の耳で。」
メビアさんは紅月様の言葉にしっかりと返すようにそう言った。部屋全体の雰囲気が逼迫から解放された感じを肌で感じつつ。
(良かったですね。メビアさん、)
と心の中でそう思った。
「やることは決まったって感じね。」
レナ様がらしくないような乗り気な口調で少し遠くから二人について感想を述べた。
「では、改めまして作戦会議を始めましょうか。アズサさんを呼んできますね、」
そう言いアリスさんはアズサと呼んでいた先ほどの人魚族を連れに行った。
──数分後──
メビア様は近くにあった大きな紙を中央のテーブルに敷いた。私、レナ様、紅月様、そして起きたお嬢様、アズサ様、アリスさんがテーブルを囲んでその紙に目を通した。
「…王城の地図ね。」
「正解。城攻めはやったことないけど…今回は役立つかなと思って。」
「攻め入るなら、もちろん必要になる。──にしても意外に大きかったな。」
紅月様がそう言葉をもらす、確かに言われてみれば構造的にはそこまで複雑化していないものの規模としては大きい。外から見た感じの内装が3倍くらいある感じだ。
「この広さならどこからでも攻めていけそうな感じするけど…、」
「仮に四方八方から仕掛けるとして……相手との戦力差が割れてないのにこっちの部隊を分割するのは得策じゃないわね。」
お嬢様の言葉にレナ様がそう返し、一同は静かに唸る。
「だとしたら、やはり一点集中ですかね?。」
「それも考えられるけど……相手は『泥』だ。しかも紅月を圧倒できるほどと考えるなら対策が山ほどあったって無理な時がある。物量なら尚更──。」
「……僭越ながら申し上げますと──囮が必要なのでは…?」
アリスさんとアズサ様の言葉に割って入るように私が進言する。その言葉に一同また唸る。
「分かってはいたけど…やっぱりその作戦しかないわよね。」
「失敗した時のリスクを考えるなら避けたい道ではあったんだけどな。」
「本体が噛まれるか、囮が噛まれるかの勝負試合だしね。」
紅月様とレナ様は珍しく、意見が合うような言葉を並べた。
「まぁ、思いつくのにも限界があるし……決めるなら早いほうがいいかもね。」
「『泥』のあの様子からして自己増殖はオハコみたいな雰囲気ですからね。早ければ早いほど敵の数が少なくなるぅ〜、、とまではいかないにしろ、多少なりともマシにはなるかと……。」
「───自己学習に、自己増殖。修復がおまけでつきたくはないかな…わたしも。」
アズサ様は私の言葉に少ししかたのないように返した。
「メビア…エリアやその他の城にいる兵士はどうだと思う?。」
紅月様が話を変えるようにメビア様にそう話を振った。
「──やられたことは考えたくないけど……、やられない未来が見えないということもないかも…。」
「──未来といえば、未来視はどうなんだ?」
「………それが、『泥』が進行してくることも、お父様がああいうことを言うのも全く写ってなかったの。」
「未来視が使えなくなったって考えるのが妥当でしょうね。そうなると、千里眼じみたアレもできなくなってるって考えられるかと……」
紅月様とメビアさんの会話に補足を入れるようにアズサさんは私たちにも伝わるような口調でそう言った。
「してやられた感が重なった感じがするわ……ま、いずれにしても状況は最悪を見ていいって感じだけど。」
「レナの言い方はともかく……現状俺たちには確認できる以上の援軍は来ないと見ていいかもな。で、結局囮作戦をやるかやらないか何だろうけど。」
一同はシーンとした。リスクがある行為だということもわかっている、しかし自分が面と向かって戦いたくない、やこの戦略で果たして正しいのだろうかと訝しんでいたりもするわけであり。沈黙はさらに加速した、、
「作戦自体は悪くないと思う。だけど…本当に誰が囮をやるか……ここだけは簡単に決めていいところじゃないと思う。」
「──まず、物量でくるであろう『泥』の大元を防ぎ切らなければなりませんから……それこそ並大抵の実力ではいきませんし、かと言って本丸を落とす戦力も維持しなければなりません。」
「アリスさん率いる人間部隊も『泥』との交戦経験はありますし、何とかできないわけでもないですよね?。」
「はい。ですが物量はあちらが上、我々は基本的に1対1を視野に入れています、私が司令官をやるとしても……ここにいる面々のお一人くらいは手伝って欲しいですかね。強いて言うならですけど、」
「………なら、私が行こっか?。」
お嬢様が周りをキョロキョロした後手をそっと上げた。
「お嬢様──!。」
「……広範囲で攻撃できて尚且つ足止めができればいいんだよね、?。」
「はい。」
「なら、私以上に適任はいないよ。ウミも無双する時はするけど、スペシャリストっていうわけじゃないし。お兄様も今は無力なわけだし………」
「無力で悪かったな。」
「いいじゃない無力で、私なんて戦力に数えられてすらないのよ。」
二人がいつものようにため息混じりに互いの点を主張しつつ、お嬢様はアリスさんに向かって顔を上げた。
「で?、どうかな。」
「……おそらくですが、長期戦になる上に最悪の結末がこちらに回ってくることもありますよ?。」
「いいよそれは……お兄様無力でも絶対勝つから──!。」
ふふんっと得意げな顔をしてお嬢様はアリスさんへ語る。その姿にアリスさんも安堵のため息を出しつつ了承。
お嬢様はアリスさん率いる人間部隊と囮役をやることとなった。
「あとは……紅月、私で本丸かしら?。」
「───ウミ、手伝ってあげて。」
お嬢様の声が私に届く。私もお嬢様の身勝手を黙認した身だ、彼女の命令を素直に聞けなくてどうする。
「はい。承りました。」
「……+ウミさんで、アズサさんは?。」
「私はァ〜ジョブチェンジそう簡単にはできないし、元々生産職寄りで武装してもあんまりって感じだから──パスで。」
「ま、オートマタじゃあるまいしね。」
そう考えると装備だけで事足りるオートマタってかなり強いんだなぁ〜と私僭越ながらこの時感じました。
「となると三人で本丸か。何が起こるかわからないわけじゃないけど……やるしかないな。」
「そうね。アンタと組むのはちょっと得意じゃないけど…援護射撃くらいはするわ、」
「トドメは俺が刺すって感じか……?。誤射するなよ、」
「私に限ってそれはないわよ。ふざけて戦力さく訳にはいかないでしょう?。」
お二人の永遠に続きそうな会話が始まったところで、先ほどから静かなメビアさんに私は目を向ける。彼女の目的を叶えるのなら、ことが終わったあとよりも始まる前のほうが重要だ。
「……紅月様、レナ様。このウミ進言させていただきます。」
「─、どうしたのよ。改まって、?」
「……。」
「、本丸ということは、国王に合うということ、つまりはメビアさんを連れて行くべきだと私は思います。」
私がそう口にすると、一斉に話し声が止まった。自分が場違いなことを言っている訳じゃない、もちろんそれは全員が理解しているはず、ただ今ここで、それを出すか?という根本的な眼差しでこちらに視線がくる。
「───、ウミさん。」
「確かに……ことが終わった後にメビアを呼ぶわけにもいかない。何ならメビアに説得してもらうことも一応できなくはないと俺は思うよ。
でも、同時に失敗した時───メビアをどう責任取るかが問題だ。」
「もしものことがあった時───メビアさんは……私が責任を持って退避させます。」
その言葉を聞いた紅月様は柄にもなく、少しため息を吐き、こちらに向かってきた。
「ウミさんを信頼している。尊敬もしている、だけど───本当に傷一つ付けずに、できるんですよね?。」
「はい。私が信じるメイドは……助けるべき人を必ず守るのが役目でもありますから。」
「、。合格───ま、元々連れて行くつまりはあったけど。」
紅月様は打って変わって柔らかな表情に戻り私にそう告げた。
「──メビア、本当にいいんだな?。」
「うん。、もうこれは決めたことだし……逃げることも、諦めることも…もうしたくないから、」
「わかった。じゃ俺とウミさんとレナとメビアで本丸に行く。ルルカとアリスさんと人間隊は囮。アズサさんは住民の避難をいざとなったらしてもらおう、それともう一つ仕事を渡そうと思う。」
「仕事?。」
「後で話す……とりあえず異論はないよな?。」
『────。』
「よし、それじゃあ今から丁度1時間後に決行だ。各自準備を怠らないように!!。」
紅月様の掛け声をはじめに私たちはそれぞれ1時間後の戦いに向けて様々な準備を取り行った。
──プロイシー城下町・アズサ専用工房──
「で、肝心の仕事って?。さっきも言ったけど在宅ワークで済ませられるタイプじゃないと困るんだけど…、」
アズサが部屋に入り開口一番でその言葉を並べた。これからとんでもない仕事を任せるこちらにとってはその余裕にも似たような態度は若干申し訳なさも出てくる。
「今からこれを作って欲しい。」
俺はアズサに一通のファイルを渡した。
アズサはデータ化されたファイルを手元に出すと早速開いていて中身を確認する。
「───っ!これって……、」
「期限はなるべく早くで頼む。少なくとも、『泥』との戦闘がある以上、ソレが必要になる。」
「───。わかった、だけど一つ条件をつけたい、」
──プロイシー城下町・工房(別室)──
「以上が作戦の内容です…意見がある人は速やかに言ってください。ない場合はすぐにでも準備に取り掛かるように───。」
アリスさんが大勢の前でそう言い終えると同時にザワザワと不安の声が耳に入ってきた。
「───俺たちは囮役。しかも最悪生贄コースじゃないかこれ?。」
「住民に被害が出ること防げるならいいだろ、文句言うなよ。」
「だが相手はイレギュラーだ、最悪通常の死に方は望めないかもな。」
「全知の魔女がいるとはいえ……本丸は別のやつが落とすそうじゃないか。」
「なんでも鉄血の死神と数人が落とすらしいぞ。知らんけど。」
「勝算薄くないか?──こないだ買った炭酸並みに。」
「どういう例えだそりゃ。」
不安を募らせたり、自信に満ち溢れたり、楽観視したり、人の数だけ考え方はそれぞれだ。だからこそこの作戦に異議…ほどではないにしろ思うところがある人はいる。それこそ、今ここにいる人たちは一度プロイシーから願い下げされたのだから……助けようと思ったらそれがおせっかいだと言われた、そんな失礼なやつに手を貸すべきだろうかともまた思う。
「───見返りは?。」
一人の女性が手を挙げアリスさんにそう告げた。確かにここにいる面々は現状アリスさんに従うような形をとっている、しかしそれ以前に人間という生き物は常に徳を求めるものだ。私だって美味しいシュークリームを食べるために勉強を頑張ったりする身、何も手に入らないのなら頑張りたくもあんまりないと思う。
「───。」
アリスさんはもちろん黙る。自分が見返りを用意するというのは尚更筋違いだというのをよく理解している証拠だ……、手を挙げた女性が求めているものがなんであれ、誰から渡して欲しいかという要望は決まっている。
自分たちはプロイシーを助けた、ならプロイシーはその対価を支払うべきだと。
(いま言うのかな───それ。)
そういう人がいると言うのは理解している。だがお祭りの雰囲気を壊すかのようにこれからの面倒臭い予定を話す人がいたら、一体どれだけの人間が不快に思うのやら…少なくとも私は少しだけ"強欲すぎない?"とは思った。
そういえばお兄様はそう言う類のことをいう人じゃない……あるのかな?お兄様自身にもそういう善徳概念みたいなものが。
「───報酬はこれだよ。」
私の横を通過してあるものが女性の開いた手にちょうど落ちた。彼女はそれを手に取り両手で投げ渡されたものをじっと見た。
「地上人専用に作った特注品のアクセサリー、ソレをつければたとえ泡がなくても水中で呼吸できるようになる……それでどうだい?。」
アズサさんはアクセサリーの解説をするように私たちの前へと現れた。そして女性はアクセサリーを手首につけると持っていたナイフで即座に泡を割った。泡は小さな空気の塊となって水中に消え、女性は閉じていた口を開き深呼吸をした。
「確かに……これなら十分な報酬だ。」
「ならよかった。ちょうど作り余っちゃってね───」
アズサさんは手に持っていた箱の蓋を開けて中に詰まったいっぱいのアクセサリーを私たちに堂々と見せつけた。
「事前報酬。ってことで全員分……これならいいだろう?。」
アズサさんは得意げにそう言った。そこに異議も不満も唱える者はいなかった。
水中戦においてこちらにかかる最大のデバフは泡であり、これが破られでもしたら酸素ゲージがなくなるまでの強制ターンバトルが始まる。
長期戦を想定するなら、このアクセサリーが必須であることを全員わかっていた。
「──とのこと。異議はありませんね?。」
アリスさんは少し圧をかけるようにそう言った。その言葉に対してぼちぼち声を上げる者はいたもののほぼ全員が納得しているような様子だったことは明白だ。
「では、準備を始めてください。時間は待ってはくれませんからねっ!。」
アリスさんは念を押すように大きな声で全員に言った。身がピシッと引き締まるようなそぶりを見せ、あまり一面にいた人々は自分の準備を各自始めた。
「ほい……。紅月と違って人間だろ?、なら必要だよね。」
アズサさんが私に数あるアクセサリーの一つを私に渡してきた。
「ありがとう。……それともしかしてだけどプレイヤー?、」
直感的ではあったが外れたと感じるものではなかった。アズサさんはあの中では確かにプロイシーの一住民のような振る舞いを見せていた、が実際のところソレを演じているようにも私は見えていた。と言ったところから根拠的にいえばだけど…、
「あ──。うん、やっぱりバレるもんなんだ…」
アズサさんはあちゃーっと顔をして私にそう言った。
「まぁ何となくだったけど。」
「紅月よりよっぽど恐ろしい直感だなぁ〜、兄弟っていうの本当なんだね。ちょっと信じてなかったんだけど……」
「そ、そんなに似てる?。」
「似てる似てる!!、逆に似てないの?。」
何も知らないアズサさんの言葉は私にとってかなり嬉しいものだった。お兄様とは血が繋がっていないことを皮切りに似ているところなんてほとんどないと思っていた。
それこそ私がそう呼んでいるだけであるから……、
「うん……それならいいんだ、えへへ。」
「、にしても……紅月はとんでもないね。あ、すごいってほうだけど、、まぁ?やばいって方もあるけど。」
「───その感じだと、またお兄様何かやったの?。」
「あぁ。いつものことならこっちもその認識で行くことにするよ、これから。……なんせ無茶言うなんだもんこんな時に、、」
一体何を言ったのだろうか…お兄様。
「じゃ、私はアリスさんにコレ押し付けて作業に戻るね。魔女さんも準備に準備を重ねておきな……。」
手を軽く振りながら彼女は重い腰を上げ、箱を持って行った。何気に魔女さんとか初めて言われたので私は新鮮な心意気で準備を始めた。
──プロイシー城下町・工房──
「やはりここでしたか。。」
私は彼女の姿を見つけるとそう口にして、ベランダに顔を出した。
「───ここが、好きだから。」
そう口にする彼女の隣まで歩き、さっきも見た風景をまた見る。
「空、やっぱり……。」
「うん、まぁこれを乗り越えればきっとまた前と同じ色に戻ると思うから。」
空の色は黒く曇っていた。おそらく水面に『泥』があることが問題なのだろう、しかしそんな世界を知らない彼女にとってはこの上に映る光景全てが空に思えてしまうのだろう。
王女として育てられたのなら…尚更、、。
「決断はしたけど、やっぱりそう簡単には変われないんだよね。」
「はい、基本的に急変するなんてことは本来起こらないことですから…何事にも。」
仮に"急変"という事態が起こったのなら、それはおそらく溜まりに溜まったものが溢れかえっただけで、日頃から気をつけていれば起こりかねない事態だ。
ただ、人と人との意見が交差し続けるのと同様に全ての物事がきっちり溜まらず流れていくわけではないということ……、
「───だから、メビアさんは別に演じなくてもいいですよ。誰かのためにだとかも……私も含め、皆さんわかってますから。」
「……そうだね。よし、ちょっと忘れ物をとってくる。」
そう言いメビアさんは先ほど以上に元気な様子でベランダを後にした。ここに残された私はベランダから見える空の先を見ながら、
(いつか、本物の空を見せてあげたいですね。)
っと思った。
──プロイシー王城門前──
私たちは不気味な雰囲気へと様変わりしてある王城の前へと近づき、様子を窺っていた。
隣にはアリスさん、そして背後には大勢の人達。
「ウヨウヨいるね。」
そう口にする私の視線の先には、言葉通りの『泥』達がそこらを跋扈していた。門番というよりは自分の縄張りだと主張するように歩いているようなそんな感じだ。
「作戦決行まであと2分。」
「正面突破って話だけど、ここら辺にある遮蔽物って使っていいかな?。」
「えぇ、できるのでしたら遠くのものをお使いください。一応奴らの攻撃は遠距離だそうなので……、」
「……オッケー。」
私がそう返事し杖を取り出すと後ろにいた人達も私の行動をトレースするかのように次々と武器を取り出し、武装待機状態になった。
アリスさんが持っていた時計のカチカチが妙に耳に残りつつ、今か今かと敵を動きを見続ける。
どちらが狩人なのかはいまだにわからない。
「作戦開始!!。」
その言葉と共に私は物陰から飛び出し、あらかじめ仕掛けてあった後方の建物(家)を杖一本で二軒ごと引き抜き、『泥』目指して投擲した。
[──ッゴジャァァン!!]
続いて二投球目。次は4軒引き抜き、追い打ちをかけるように投げつける。
[───ドジヤァァァァァン!!!]
「詠唱速度上昇…対異生魔力砲っ!!!」
[バババババッゴーーーン!!!!!!]
新魔法が建物に埋もれた『泥』ごと吹き飛ばし、跡形もなく消し去る。爆発によって吹き飛んだ門の奥には大勢の『泥』がおりすぐさまこちらを向いた。
「総員突撃ッ!!前線構築を急げ!!!」
その声と共に後ろに控えていた人たちは一斉に飛び出す。無論その声に呼応するかのように『泥』も物力を従えて門から溢れ出てくる。
「対異生防御壁……!」
半透明な水色の盾壁を衝突する『泥』の前におく。『泥』はまるで壁にぶつかったように私が展開した魔法によって遮られ突撃していく人々はその隙を見逃さないかのように攻撃を次々と開始していく。
「体制制御付与 ──ッ!(お兄様、なる早でお願い…!!)」
援護魔法を駆使しつつ私は目の前の『泥』を抑えるために魔力が続く限り迎撃を続ける。
ここに全知の魔女という名がある限りこの人たちは絶対にデスさせない。その思いがこの戦いにおいて最重要であり何よりも心の中で強くなったものだと私は感じた。
──プロイシー王城・王の間付近のベランダ──
「───、クリア。」
紅月様はそう言うと、軽快にベランダに乗り込みすぐさま廊下の警戒にあたった。私はメビアさんに持ち上げられ、ベランダに足をつけた。
「すみません、泳げないわけじゃないんですが……、」
「いいよ。気にしないで、」
「よし、二人とも急ごう。」
紅月様は確認が済んだのか、私たちにハンドサインを送りつつそう言った。私は彼が少し急足で歩く後ろをついていく、彼と私の間にメビアさんを入れるようにして護衛を一目標として入れる。
「レナ様は良かったんですか?。」
「アイツなら後で合流します。時間に正確なら大変な時に来ることはないと思いますし。」
「……紅月様は──。」
彼の姿を見ても、私にとっては不安ばかりだ。
眼帯をつけていた目の部分は修復されたものの先の戦いで失ったアームはそこにはない。
つまりは彼の主兵装のレールクローガンと、新たに入手したボロ布のようなマント。
危機感を持って行動し続ける紅月様にはらしくないような装備構成だ。
彼を信じていないわけではないのだが、心配になったりするのも、もはや仕方ない。
「──そこも考えてあります。ですから安心を、」
「っ!そこに何かいる。」
メビア様が何かに気づいたように、一旦足を止める。その言葉に私と紅月様も身を切り替えて気配を感じ取る。
「2.3.4〜、体多くはない。でもここは通らざる負えないルートだ。」
「警護がなっているということですね。、お任せを───。」
私は紅月様の報告だけ聞くと、装備を腕にしっかりと付け直し。単身で突撃した。
警護用と想定していた割に『泥』は弱く、なんならそこら辺に屯っていたという表現が似合うほどの弱さだった。
私はそれらを軽くあしらい、先頭のまま王の間へと向かっていく。道中はとても静かで、お嬢様達が頑張っているという事実がどれだけの影響を与えているのか確かめるには十分すぎるほどだった。
「その大扉の先!!。。」
メビアさんがそう言いながら、足を早める。
門番はいない、とても珍しいと思いつつも気の抜けない心構えで私は彼女の横にすぐさま付いた。
扉の前に立つ私たち三人。緊張という金縛りが常に襲ってくる気配を感じながら一歩も引けない思いでメビアさんの覚悟を待つ。
「───…行こう。」
彼女覚悟を秘めた瞳を確認した後、私と紅月様は大扉を開けた。死の感覚が首に伝わる気分を味わいながら。
『topic』
・対異生魔法はルルカが独自に作成したオリジナル魔法であり、イレギュラーと該当する敵に対して大ダメージを与えられるような魔力、魔法陣調整がされており。
ただでさえ高難易度と呼ばれる魔法制作を対象を定めて完成までこぎつけたルルカの技量が存分に伺える。




