七十七話「惨劇」
前回のあらすじ
スーパーバーサーカウミ。
──アズサ専用工房──
「いやぁ!新兵装の開発に尽力できるなんて我ながら光栄だよぉ〜。」
そう言いながら、アズサは慣れた手つきでボトルを回し、パーツを一つずつはめていく。
俺はレナの装備に必要な素材を近くの机にドンっと置き、ふぅっと息を吐いた。
「これで全部か?。」
「あぁ、主に脚部位のパーツに使う予定だから加工する時はちょっと慎重にね。膝に矢を受けたじゃ、こっちのメンツが丸潰れなわけだし。」
「膝に矢を受ける?……矢なんかで装甲を貫通できるのか?。」
俺は単純な疑問を口にしてアズサさんに言葉を返す、アズサさんは「そうきたかー」みたいな顔をしつつ少し悩んだ。
「言葉の比喩よ紅月……膝に矢を受けるってことは大変なコトっていう風刺的な意味があるのよ、もっともアンタは矢になんか被弾しないから関係ないと思うけど、」
「当たり前だろ?…っていうかそういう意味だったのか。」
ファンタジーのことをルルカの勉強会で少しずつ知って入っているが、いまだにそういう類なんかはよくわからない。「あーね」が「あーなるほどね」の短縮系だったことと同じ感覚に近い。外国人からすればここらへんの日本語スラング絶対理解するのに相当な時間がかかると思うが……俺も今その類だ、
「──そういえば、レナはもう装甲には馴染んだ?。まだ表面だけだけど、」
「まぁ、一応は。それにしてもこんな短時間でできるなんて考えてなかったわ、内臓(内部機器)も結構やられてたから……正直デスする方が早いと思ったけど。」
「私もそう思った時期あるよ、でもね。やっぱり死ぬのは辛くてめんどくさくて、なんだかそう簡単に受け入れてはいけない物だと今は思っているよ。」
「そうなんだ。」
「あぁ……特に紅月は私以上にそう思ってるらしいしね。」
アズサさんは優しい目をこちらに向けてくる。俺はその目を一度見ると目を瞑り、ため息を一回した後作業へと戻った。特にコメントすることもないと思ったからだ、誰かが簡単に死ぬなんてそんな世界があってたまるかと……幼い自分が、自分の本心が心からそう願っているだけ──たったのそれだけなのだから。
(当たり前のことを言うのに、意味は要らないが逆に必要もない。)
「だから、アンタを助けている時のこいつは結構頑張ってたよ。」
アズサは一息付きレナに安心した口調でそう答える。
「どうだか、コイツ鉄血の死神って呼ばれるくらい敵をなんの抵抗をなくあっさり殺すけど……。」
「──俺は、基本的に命を尊んでいるわけじゃない、ただ自分とか自分の周りにいる大切な人達が黙って死ぬのはゴメンだと思ってるだけだ。」
「───…。」
「ぁ〜あ、これは結構な………。」
「…?、なんだよ。」
アズサはニヤニヤとこちらとレナの方を目でチラチラと追う。それに釣られて俺もレナの方を見ると、なんともいえないような……それでいて満更でもないようなへんな表情をする。しかし耳がなんか赤くなっていることくらいはアイツが俺からそっぽを向く瞬間に捉えていた。
「……?。」
それに対して俺は疑問を浮かべるだけだ?結局アズサは何を言いたかったのか?そしてレナは一体どんな表情をしていたか、。それに頭が少し引っ張られた気がした、
「ところで、メビア様から何か聞いていないかい?。」
「……なにか?」
「いやね、最近妙にバタバタしてるし。定時連絡ってわけじゃないんだけど……なんだか嫌な予感がしてて───」
「ほら、紅月。アンタ向きの話よ。」
「俺の勘を頼りにしたいって考えるなら、後にしてくれ、生憎自分で操れるほどあれは万能じゃ───」
そう言い終えるとき、何かとてつもない違和感が俺の体を駆け巡った。とてつもないプレッシャー、いや正直言葉に表すのはとても難しいと感じた。だがこれだけはいえる、
「っ────。」
それは間違いなく俺が感じ取った、今までにない最悪の予感だと。
「紅月……?、」
「っ!ふせろ!!」
[ドォンンンンンン!!!!!]
俺がその言葉をかけると同時に地面は割れるような勢いで揺れ始めた。立つことはほぼ不可能であり、俺は身体の重量をそのまま地面にぶつけるように倒れた。
「っ!何これ…地震?!」
「そ──、そうみたいだ。っ!。」
幸い、揺れ自体はすぐに終わった。後から来る予感もない……だが俺の心は一度たりとも油断をしていない、それつまりは
[──警告。敵性反応を複数体観測しました、識別個体データバンクへの該当なし。───………」
「……これが本命じゃないか──!!」
[類似するデータから算出───識別個体を『泥』と推定。目的:大規模の侵略行為だと推測。]
「レナ!準備しろっ!!」
俺は地面に倒れているレナをダンクルオステウスで軽く持ち上げ、地面に立たせる。
「ちょっ!何が起きたのよ──?!」
「『泥』の侵略だ、それも大規模のな。データを送るから…援護を頼む!!!。」
「ちょ!アンタは?!」
「住民の撤退まで時間を稼ぐ!!!」
その言葉だけ残すと俺は近くの広間から飛び立ち、レーダーが指す『泥』の大群へと向かい始めた。
──プロイシー城下町・上水──
[シュンシュン!!!]
「──っ!」
『泥』の大群から突然、針のような攻撃がこちらに向けて無数に放たれる。俺は回避行動を取り、針を難なくかわすが一向に止む気配が見当たらない。まるで三段撃ちを味合わされているような気分であり、本隊に俺が近づけない理由にもなった。
(こんな距離から─っ!)
索敵能力が以上に高いと俺は心底思う。こちらの武装の中で一番の射程を誇るレールクローガンがいまだに攻撃圏内に入っていないところを見るに、伊達に軍隊的に行動しているわけではないと考えられる。
そしてこの針のような攻撃、射程もさることながら射速もかなり速いとわかる。
(懐に入り込めさえすれば。)
いくら一斉掃射だの、三段撃ちだのをしたところで結局は内側に入ればいい。攻撃の隙を見て着実に近づいて、一撃離脱戦法を取る。
これが最善だと思うと俺はスラスターを前に吹かし、無数の攻撃が飛び交う中針の穴を縫うような軌道を取りつつ軍隊へ直接攻撃を行う。
レールクローガンの射程に入った瞬間、見時間時間内で与えられる最大限の打撃を『泥』に向かって叩き込む。
(『最光出力電雷爆破槍』───!!)
[ドォォォォォッッッン!!!!!]
『泥』たちは雷の一撃をくらい、バラバラと砕け散る。槍をクローアンカーですぐさま拾い、『泥』の集中砲火を回避するため大きく弧を描くような軌道で回避行動を取り、大きく固まっている『泥』の軍隊へ再接近する。
そして再度『最光出力電雷爆破槍』を軍隊へ向けて放ち、大打撃を与える。
そしてクローアンカーで槍を拾い直し、回避行動を織り交ぜた。充電行動に移ろうと本隊から一気に離脱したところ、
[シュンシュン!!!]
背後からの突然の攻撃に、俺は回避する間もなくフレキシブルプレートに直撃を促す。
「──っ!!。」
[ガシンッ!ガシンッッ!ガガシンッ!!!]
フレキシブルプレートに付着した。針は金属片の塊のようになりプレート本体をどんどんと侵食していく。俺は即座にプレートをパージして、機体への侵食を阻止した。そして攻撃された方向を確認すると……空中、いや水中から羽のついた虫のような見た目の『泥』が複数体こちらに向けて攻撃を行ってきた。
[──攻撃を分析、敵個体を分析。『泥』の高機動タイプ、攻撃には侵蝕属性が付与されており、直撃すればこちらのコントロールが乗っ取られる可能性があります。ご注意を……]
(前ウミさんが当たったのとは性質が違ってことか。)
「厄介な……っ!!。」
地上の方も気に掛けなければいけない状況にこいつらの相手はかなり面倒だと思い。一気に高速戦闘に持ち込み、レールクローガンによる迎撃を試みる。
[バァンバァンバァン!!!]
しかしよもや自分よりも早い機動性の中当てるのは困難を極めていた。自分に射撃の自信がないわけじゃなかったが、こうもこちらの動きをよく見られながらの攻撃に流石に焦りを感じる。
「っ!!」
[シュンシュン!!]
そしてその焦りを逆手に取るかのようないやらしいタイミングで『泥』は攻撃を開始する。
相手の速度はこちらと同等以上、地形適正とでも言うべきか常に相手がこちらより上だと錯覚し得ないほど連携が取れているオールレンジ攻撃に……予想より遥かに苦戦していた。
(速い…!ウザイ…!しつこい…!手数が多い!!)
[───スラスターヒート率7割を超えました。]
水中戦に特化するため水式冷却型にしているが、あまりにも吹かしすぎたためかこのような警告まで出てくる。早急にカタをつけなければ先にやられるのはこちら……、動きをできる限り追って一体だけを確実に仕留める。
「───っ!コレならっ!!」
ダンクルオステウスによって群がる数体のうちの一体を確実に掴む。潜水能力を司っているであろう羽を完膚なきまでに噛み壊し、シールドに内蔵してあるレーザーコンバットナイフ(改)を引き抜き、抵抗する相手をスラスターの噴射とダンクルオステウスの引力によって一瞬で近づけさせ、ものの見事に一刀両断する。
[グルゥングルゥン───バッ!!!]
しかし切れたと思った相手は固形としての器を捨て泥団子のような瑞々しい形へと姿を変え、次の瞬間には破裂した。
ダンクルオステウスはその破裂に巻き込まれ、泥に直撃する形で多く付着した。
[───ダンクルオステウスの機能停止・機能侵蝕を確認……切除を提案。]
「──っ!!!」
俺はなんの迷いもなく、自分の腕についているダンクルオステウスの接続部を切り伏せ、レールクローガンによって追撃。
『泥』乗っ取られる前に破壊することに成功するが、
[シュンシュン!!]
隙を見逃さず、無数の針がこちらに向けて放たれる。回避行動を行うまでもなく、わかった。
これは直撃コース、つまりはフレキシブルプレートへのずらしも他の部位への肩代わり受けもできない、向かってくる地点は顔。
顔をやれればおそらくコントロールは乗っ取られる。
(───しまッ。)
ちょうど針の先端が目の前まで来ていた。気づい時には既に遅く、目の前で起こる光景が何倍も遅く感じ……直接的な覚悟まで自分の中で決まる。
[────ビィィィン!!!]
長い沈黙かとも思えるほどの時間を過ごした気がした、しかしそれは一筋の緑光線によってたちまち現実に戻される。
俺の目の前を掠め通るような精密射撃により針は一気に光に飲み込まれ、次の瞬間には爆散した。
「──っ!……レナか!。」
『ご明察。』
通信チャンネルを通してレナの自身ありげな声だけが聞こえてくる。
『アンタにしては随分と手こずってるみたいじゃない─え…のんびりしすぎて頭までボケたのかしら?。』
「っ─、言ってくれる。だが事実だ、手伝って欲しい。」
『言わずもがな──っよ!!』
そう掛け声と共に再度緑色のビームが前の方を通り抜け、俺の左上から攻撃を仕掛けようとしていた『泥』をものの見事に狙撃、一瞬にして無力化させた。
『ほら!──ちゃっちゃと動きなさい、別にアンタが加勢しなくとも、私なら動いてる的を外すへぼはしないわよ。』
その言葉は確かにとても仲間にかけるような言葉ではなかった。が…レナは何をやって欲しいか、今俺がやるべきことを一番に理解し、そしてそれを促すような声かけであったことを俺は悩まずとも理解していた。
背中をレナの狙撃に預け、俺はスラスター残りあるスラスターを吹かしながら侵略されていく城下町の方へと向かって行った。
[シュ─────ビィィィン!!!!]
また一体、こちらに攻撃を仕掛けようとした『泥』が葬られた音が背後から聞こえる。そして俺はレールクローガンにエネルギーを蓄積し始め、充電し次第『泥』の殲滅行動に移った。
やり方は単純明白、『最光出力電雷爆破槍』を大部隊に向かって投げ続ける。回収はクローアンカーに任せ、ノーリスク。
それを繰り返すこと数回、エネルギー的にもそこそこ限界だった時。『泥』全体に動きがあった、
「なんだ……?。」
『泥』達が一斉に進行を止め、猫から逃げるネズミのような勢いでプロイシーの外へと撤退を始めた。武士というわけではないが、敵意がない相手に攻撃するほど俺も落ちぶれてはいない。
逃げていく『泥』を見ながらどこか心につまりがある感覚をずっと探し続けていた。
[────────ドジュンッ!!]
それはまるで避雷針のように城下町のあらゆるところに一斉に刺さった。どこからともなく現れ、そこをマークしていたかのような精密なそれでいて違和感しかない配置に一瞬身が逆立つような気配を感じ、直感的に『最光出力電雷爆破槍』の準備をした。
[──高連鎖反応。]
そのアナウンスが聞こえた途端突き刺さっていた槍のような避雷針は弾け飛んだ。
そして付着したあたりの家には鉄結晶のようなものがドンドンと増え始め、その勢いは止まるところ知らずだった。
「ッ───!アイツら!!!」
俺はすぐさま300%の『最光出力電雷爆破槍』を地点に放ち、鉄結晶の侵蝕を防いだ。しかしあたりいくつもにあった避雷針は次々と連鎖するように弾け飛んだ。俺は急ぐしかなかった、
エネルギー量を鑑みれば残り数発程度で限界だったところを、考えず次々とノータイム『最光出力電雷爆破槍』を使い続けた。
かなりギリギリなところもあれば、安定したところもある。がいずれの侵蝕現象も容認できるものではない、もし一片たりとも残っていれば建物を渡るようにプロイシーは一気に『泥』の制圧化になってしまう。
最初からこれが目的だったのかどうかはわからない。だが、今の俺にとってこれが最善で一番やるべきことに変わりはなかった。
「後一カ所。───ッルルカ?!」
そこにはルルカとウミさんがいた。ウミさんのちょうどに最後の侵蝕地点があり、一刻を争う状況の中、俺はルルカにすぐさま声かけをした。
「ルルカッ!ウミさんを連れて離れろ──!!!」
俺の声はルルカにしっかりと届いた。こっちの姿を確認するや否や、ルルカは強引にウミさんを連れて戦線を離脱、俺はそこに躊躇なく、最後の『最光出力電雷爆破槍』を放つ。
そして、エネルギー切れを起こした俺は一旦回復に帰還、生存者とルルカとウミさんを回収するため再度出撃した。
──プロイシー城下町・元道路(戦域)──
「これが今まで経緯。またちょっと長くなってしまって申し訳ありません。」
紅月様の長話を聞きながら、私たちはあるところへ向かっていた。私の想像上だがおそらく避難所のようなところだろう、紅月様の言葉を汲み取るなら"回復"できるような場所とでも言うほうが正しいか……どちらにせよ、魔力の過剰消費でダウンしてしまったお嬢様を休ませるにはそこにいくしかない。
(まぁただのお昼寝だったらいいのですが、)
っと私の腕に頭を置きたまに寝言を垂れるお嬢様を見ながら私は思う。毎度のことお姫様抱っこにも慣れてきた気がする、いや慣れるべきなのだろうかとも思うが………
「いえ。───それより……大変でしたね、」
私はまたもや無くなってしまった紅月様の右腕部を見ながら、そう口に出した。
「?──あぁ、これに関しては今更なので……、それにウミさん達が腕を拾っててくれたおかげで、新しいのは作らなくて済みそうですし、何より強化案までありますからね。もしかしたら今まで以上に強くなるかもしれません……!、」
元気のいいような声で紅月様はそう答えた。私は自分が言ったちょっと卑怯な問いに少々後ろめたくなりつつも、話を無理やり変えた。
「住民の方々は──。」
「………一応、半数以上は無事だそうです。残りは行方不明……と。」
「───、そうですか。」
私は……自分がやった行いを別に悔いたりしない、だがもう少し理性的に動けたのなら紅月様が一瞬口を紡ぐ暇なく、もっといい知らせを聞けたのかもしれないと……少し、考えたりました。
「でも……俺が思うにウミさんとルルカが大部分を抑えてていてくれたおかげで格段に生存者は増えたと思いますよ、ですから──その、あんまり気に病まないでください。俺なんて最後まで助けるなんてことはせずに、敵の殲滅に集中してましたから。」
「──────。。」
気まずい雰囲気になり私はまたもや自分の質問が起こした悲劇なのだと理解した。
「今後、どうするつもりですか?……『泥』が侵略してきたとなりますと、正式な対応が必要となるはずですが、」
「はい。なのでこれからメビアとアリスさんと、レナとアズサと、その他大勢で話し合いをするつもりです。メビア曰く、国王直属の兵士は使えないそうなので……戦力に不安だそうですが─。」
これだけのプレイヤーがいても不安と唱える。メビア様が一体何を見据えているかはわからない、だが私のこの感覚的にも……彼女の不安という言葉は理解できなくない。
少なくとも、今回の戦いは激しいものになってくるはずだと……なぜだか容易に想像できてしまう。
──プロイシー・工房──
大きな鉄門をくぐり、中に入る。中には大勢の魚人族や人魚族の人達がおり、全員沈んだ空気に身を包んでいた。私達が近くを通るたびになんとも言えないような視線を向けてくるのが、とても辛かった。
そしてそんな辛い空間を抜け、だんだんと芸術的な空間へ変わっていく。ガラス細工で建てられた城のような上品な空間、先ほどとは一歩変わった風景に見惚れながら紅月様の後を遅れないようについていく、幾つもの道を越えたどり着いたところは会議室のようなところ、中には代表格たるやメンツが勢揃いしていた、
レナ様、メビアさん、アリスさん、そして知らない人魚族の方。いずれもただならぬ雰囲気でこの場を囲っていた、中央にある地図と水晶玉……他にもいくつもの資料が重なっており、私がいてもいいのだろうかと自問自答したくなった。
(紙って海の中でも使えるんですね。)
ツッコんではいけないのだろうが、私はツッコ混ざるおえなかった。
「連れてきた。」
「……ど、どうも。」
私は一礼しながら前に出て、頭を少し下げた。
全員が私を一斉に凝視する、(もしくは寝ているお嬢様を。)レナ様からは安心、アリスさんから信頼、メビアさんからは─特になし。そして知らない人魚族の方からは(多分寝ているお嬢様対して)少し苦笑を。
しかしいずれも歓迎されている様子だった、
「ここ、使っていいですよ。」
知らない人魚族の方が近くの椅子をトントンと叩きお嬢様を寝かせる分のスペースを譲る。私は一礼しつつ、そこにお嬢様を寝かせ……入り口の近くというメイドの定位置に付く。
「さて……役者も集まったことですし、話し合いを始めましょうか?。」
アリスさんはメビアさんに視線を向けつつ、そう口に出した。まるで誰も食べたことのない食事に初めて手を出して感想を述べたかのような筋かであり始まりを感じてしまう言葉……なぜだか相性の関係で身構えてしまう。
「今回──の突然の『泥』の襲撃、皆さんありがとうございました。ですが、『泥』の脅威は治ったわけではありません、故にこのような場所で今後の対策を正式に練ろうと考えた次第であります、ご足労いただきありがとうございます。」
メビアさんの丁寧な口調に思わずメイド魂が刺激される。なんだかこちらまで優雅になってしまう、っというかそれが普通メイドというか、優雅じゃないのは〜〜うちのお嬢様のせいですね──はい。(つまりはカリスマがない。)
「それでは各方々、今後の対策のための情報提供を────、」
メビアさんが次の言葉に言葉を続けようとしたその時、中央に置かれた水晶が光り。一人の人物をホログラムのようにその部屋の中央に映し出した。
「なにコレ…?。」
「放送?。」
紅月様とレナ様がそれぞれ疑問を口したところで目の前のいかにも偉そうな人魚族?(足とヒレが生えていて顔が人っぽいので疑問系)が大きく咳払いをし、言葉を話し始めた。
《プロイシーに住む民を聞こえているか…?、私は43代目海洋国家プロイシー国王、ギルバルド・フェインシーである!!!。》
そう大声で叫ぶこの人は言った言葉はまさしく海洋国家プロイシーの現国王の名前だった、しかしにわかには信じがたい。なぜなら情報が不足しているから……ここでメビア様が何か反応すればもちろんそうなのだろう──
「お父………様。」
────つまりは国王だったわけですね。
《我は悲しんでいる、プロイシーに突如として現れた謎の生命体……彼奴等は我が国とそこに住まう民を蹂躙した。結果──美しき秩序で守られた我が国はその6割を更地に変えられることになった!。》
「メビア様の報告書を読んでないな、アイツ。」
先ほどお嬢様に場所を譲ってくださった方がイラつくような小声な口調でそう言った。
そのことから、このへんに漂う胡散臭さの原因というか、直結というか、そういうのが色々見えた。
《だが……地上人が彼奴等から我々を守ると語っておきながら、城下町の半分以上を更地に変えたのもまた事実だ。》
「──っ。」
紅月様はその声明に、悔しそうな声を出しながら、そっぽを向いた。
《使者というのは偽りであり、地上人ははたから侵略が目的だったと言えなくもないだろう!!。》
「───。」
アリスさんはその言葉に睨みを返した。国王と一回会っていると本人は話していた、おそらく袂をわかるはずもないことが、この声明に含まれる強情さからわかる。
《しかし民達よ、安心してほしい。我々はかの生命体と共存関係を結ぶことに成功したッ!!!》
『───っ?!!?』
その時会議室は一斉に驚きの声が上がった。冷静に場を分析していた私も思わず身を乗り出し、放送の内容に耳を深く傾けた。無論、この場にいる全員もそうだ、
《謎の生命体の力はとても素晴らしい……皆もきっと気に入ってしまうほどに魅力的だッ!!!、新たなる力、新たなる革新。
それらを心のうちから知ることができる!!もはや我が国は他国の侵略をも受け付けない絶対的な国家となったのだッ!故に──我々は海という縛られた世界からの脱却を目指す!地上に蔓延る蛆虫どもの掃討へと移る!!。
新たなる力を得れば……地上人侵略をも容易い───我々は!コレより地上全土への侵略行為を開始するッ!!!!》
ホログラムに映る姿の向こう側には『泥』によって見た目が反転した近衛騎士のような姿があった、いずれも人型に化け物を出したような悍ましい見た目になっており、姿からして呪われていそうだ。
「───なっ。」
「。正気……?、」
「───っ、」
「馬鹿げてる。」
「………まさか、」
「ど、─────。」
《我らが新しい栄光が為に!!!どうか力を貸してほしいッ!!!!。
我らの神秘に───天下あれッ!!!!!!》
[プツン────。]
そしてホログラムは消えた。残された部屋の中に漂っていたのは、驚きと焦りと虚無。
かの国王が言ったことは間違いなく歴史の再臨、人類が辿ってきた世界戦争の始まりの一言であった。
そしてその姿を見たことによって一人の少女が打ちひしがれた。
「どう………して、」
『topic』
国家間のいざこざはあれど基本的に【SAMONN】の中では3万6204年前に起こった、世界崩壊戦争を除いて戦争行為が行われた形跡はない。なお、その戦争後国家間での戦争は禁止条約とされている。




