七十六話「それはもう唐突ですこと……」
前回のあらすじ
ウミが新たな力を手に入れた。
──プロイシー城下町・紅月の家──
プロイシーに来て一応4日経った。地上世界がこれでまだ数時間しか経っていないのだから、本当に世界が違うのだろう。
未だプロイシーは平和だ、別に争い事を求めているわけではないのですが。平和すぎるのも中々に退屈だ、いつくるかもわからない『泥』に対して常に気を張ることは詰まるところ疲労の蓄積にも繋がる。
寝て覚めて何もなかったでいっそ終わってくれとも思うほど私個人としてはこの事変を重く見ている。
が、もちろんそう思わない人もいる。例えば
「プロイシーの生活って結構不便だよねー。」
お嬢様がスキルパネルをポチポチと弄りながら私に話を吹っかけてくる。本当にこの方は……っと一瞬呆れてしまう。だが、こんなことは当たり前、この程度で動揺していたらメイドのウミとは名乗れない。
「そうですね。人魚族の人たちは基本泳いで行動しているわけですし、足がある魚人族の人も基本的に高速移動の際はドルフィンキックとはいかないですが、水を蹴って移動しますからね。」
「うん〜…お陰で空中から室内に入るタイプだと浮遊魔法使わないといけないし、インフラが進んでないと思うんだよねぇ。」
(インフラはおそらく進んでいて、足りないのはどちらかといえば異文化交流なのでは……?)
っと思ったが、言わずが花だ。私はメイドとして主人の機嫌をできるだけ背けないように、それでいてオブラートに話に参加する。
ポジションでいえばゴーストライターみたいな感じだ。
「ですが、思った以上に平和でよかったですね。変な爆発も近くの公園で決闘をやるなんて事態も全く見られませんし……」
「う、うん〜。そう考えるとサイモンって結構野蛮だったんだね……今思えばアレが日常化していた世界で感覚が麻痺って他のかも。」
「……それもそうですね。」
サイモンでは爆発、決闘、小競り合い、PK、などの紛争行為は多々あった。プレイヤーが多い街ということはそれだけ、現代感覚での争い事が絶えないということ。
無論自警団なんかはいますが手に負えないレベルの上位プレイヤーがいた場合はその場の人たちでなんとか止めるといったさしずめ大乱闘状態に移行する、記憶が正しければそれで家が1〜2個ほど崩壊か半壊になる場合が多いので、今のサイモンで対家防御装置を持っていないことは家が壊れてもいいという覚悟表明にもなるほどだ。
「お嬢様の隣の家が壊れた時はヒヤヒヤしましたからね。」
「家に防御魔法をかけていたんだけど、流石に他人事というか……うん怖くなったね。その後二重がけ仕様にしたんだけど、いやぁ〜久しぶりに危機感感じたよ。」
(いつも危機感を持ってほしいのですが……)「隣の光景を見てしまうと,次は自分だー。みたいな感じになってしまいますもんね。」
「うん…笑い話に全くならないほどにね。」
お嬢様は自分の家兼工房に対してはかなり情を抱いている。理由はお嬢様がこのゲームを始めた頃「家を買う」ということを第一目標として活動していたことが要因していると思う。実際に見ていてどの家にするのかとか、どんな土地だといいのかとか、内装はどうしたらいいのかとか、本当に色々悩んでいた。
「お嬢様にしては、その点に関してとても自信無さげでしたね。」
「お嬢様にしては、って言い方初めて聞いた気がするんだけど!。で、……うん、まぁ魔法は得意だよ、でも私より強い人はやっぱりいるわけだし、対魔法特攻攻撃も中にはあるから。それに……
「それに?。」
「初めて自分で大きなもの買ったから…その……大切にしたくて。」
「なるほど……」
私はその言葉を聞いた瞬間思わず小さく笑った。
「、何かおかしかった──?!」
お嬢様が少しムキになりながら私へそう言った。別におかしかったわけではない、ただ
「いえ、お嬢様がそういうお方で改めて安心しただけです。」
「…………………え、つまりどういう意味?。」
お嬢様は少し考えたようなそぶりの後、私に驚きが混じった仕草を見せた。私はその姿に今以上に小さく笑みを浮かべて笑った、お嬢様も私の顔を見てなんだが少し恥ずかしそうな笑顔を浮かべて一緒にその空間を笑いで満たした。
「それにしても暇だねぇ。」
「ですね。一応気の抜けない状況ではありますが、今のように雑談できるくらいの余裕はあることですし……」
「──そういえば昨日帰ってくるのが遅かったけど、何してたの?。」
「あぁ、少し特訓を…近くに修練場がたまたまあったものですから。」
「へぇ〜、ウミも特訓とかするんだ。」
お嬢様はスキルパネルの画面を閉じ、私の話に意識を向ける。もしかしたら単に終わっただけなのかもしれないが…、
「はい、これでもそこそこしている方ですよ私?。」
「エェー本当ぉ?。」
お嬢様は目を細め、私の話を鵜呑みにしていないような態度で口にした。
「………お嬢様も地道な努力をしないと後で大変なことになりますよ。」
私はそのお嬢様の雰囲気に仕方ないみたいな態度になりながら、本人に忠告する。
「うむむ、でも!お兄様が実戦は訓練より効果的だっていってたし、当たって砕けろ!とか名言があるわけだし!!。」
「紅月様だからそれを言えるのであって、お嬢様が真似していいことじゃありませんからね……少なくとも。。それと──当たって砕けたらどうしようもないですからね、砕ける前に砕けないようにする努力をしましょう。」
教訓を学ぶのは何も悪いことではない、しかし学んだ教訓から10個に分岐できないのであればそれはうまく学べなかったの表しだ。私からすればお嬢様に二回も同じ壁に体当たりしてもらうなんて場面を想像しただけでこっちまで辛くなってしまう。
「別にいいじゃん〜、ゲームの中くらい。」
「現実でもやっていたらその言葉は通用しますよ。」
「それとこれとは関係ないじゃん〜!!」
「大有りです!いくら点数が良くても、心構えというものがよくなることはありません。単純な作業を繰り返しているような心構えでは身につくものも身につきませんし、心がだんだんと堕ちていきますよ!。」
「っ!──いつも真面目にやってるってば!!。」
「ならせめて素振りくらいはなんとかしてください!!見ていてこっちがヒヤヒヤすることもしないでください!!」
「何おう〜っ!!」
言い争いが取っ組み合いにまで発展していきそうな勢いが部屋中を汚染している…今日という今日は許さないと私メイドのウミと主人であるお嬢様が同時に思い、行動に起こそうとしたその時。
[ドズンッッッ!!!!]
地面が大きく揺れ、私たちは宙に無理やり跳ねるように浮かされ地面へと叩きつけられた。
「痛っ!!。」
お嬢様のその声を聞いた瞬間、先ほどまで内にあった不満という不満は一瞬にして無に還元された…そしてお嬢様の状態について頭がいっぱいになった。
「っ!お嬢様、大丈夫ですか……!」
「平気、でも今の何??…」
二人とも床に伏せ、互いに顔を見合わせながら頭を回転させる。
お嬢様は他に意識を集中しているのか、もしくは深く考えていらっしゃるのか、何も言わない。私は張り付いた空気と何か行動を起こしたほうがいいのでは?という危機感に駆られ口を開いた。
「地震ですかね…?」
ありきたりな模範解答を口に出すとお嬢様は静かに眉を動かし次のように言った。
「──どうだろう?、にしては周りが騒がしいと思わない?。」
お嬢様のその言葉を聞いて、私は騒がしかったであろう外の音に初めて気を配ることができた。
近くの閉まっているカーテンを開き、聞こえてくる外の状況をこの目で確かめる。
「な───っ。」
驚きだった。先ほどまで流れていた平和な雰囲気が一瞬にして崩され今から始まる厄災の予兆を私の目は皮肉にも捉えてしまった。
逃げ戸惑うプロイシーの人々は宙を泳ぎ、左から右へと流れていく。左の人で溢れた光景を見てみればそこには『泥』が居た。だが単体ではない、複数体…そればかりか軍隊のような一種の統率性を見せながら進行していた、まるで『霧江の入り口』で戦った『泥』たちのような、それに似た光景が容易にフラッシュバックした。
「───、ウミ。」
お嬢様は自分の服をパンパンとはたき、立ち上がった。そして真剣な眼差しで私の目を見た。その瞳に魅入られたように私はいつも通りの言葉をお嬢様にかけた。
「──、何なりと。」
手を合わせ落ち着きを見せ、私はお嬢様に自分の行動権を託すように言った。
「……、行こっか!!。」
お嬢様がそういうと私たちは家を出た。そして目前まで迫っている、泥に向かって奇襲をかける。
「炎拳ッ!!」
炎の一撃が一体の『泥』に命中し、そのままボーリングの玉のように転がっていき他の三体の『泥』へと命中した。三体は炎が燃え移り、程なくして火のついたガソリンのようによく燃え始めた。
「追撃は──まっかせてーッ!!」
お嬢様は地面に魔法陣を高速で描き、杖の先端部分に投射、そして単発の魔力砲にも似たビーム砲を速射させた。
直撃した『泥』は小爆発とともに弾け飛び、跡形もなくなった。
「新しい魔法ですか?!」
「うん!対『泥』用の為にわざわざ組んだ最新術式だよ!!。魔力を吸収されないように工夫してみたんだ──」
そうお嬢様が自慢げに話し始めると他の『泥』たちが一斉にこちらを攻撃し始めた。
『泥』たちの体の一部が刃のような鋭い形状へと変化してこちらに攻撃を仕掛けてくる。
「させませんっ──炎壁!!」
手の周りに炎を纏い私たちと『泥』の間の地面に解き放つ、すると炎は一気に炎上し、私たちに届くはずの攻撃を全て防ぎ切った。
「このくらい、私の方で防げたのに……」
「ソレ、今言います……?」
少なくとも私がいないところで言って欲しかったと思いつつ、私はそう答えた。
[シュン──シュン─シュン!!]
「──ほらっ!攻撃被弾盾……!!」
お嬢様の魔法盾が空中に浮かび上がり迫撃砲のように炎壁を、超えてきた『泥』の鋭い攻撃を防いだ。そして一呼吸後にまた『泥』の攻撃が降ってくる。
「ねぇ……!これなんか降ってくる地点変わってない?。」
「おそらく撃ちながら微調整しているのでしょう。どうやって命中したかどうか確認しているかは知りませんが、───ッ!」
攻撃被弾盾によって弾かれた地面に落ちた『泥』が蠢き、お嬢様へ攻撃を仕掛けようとした。その黒い針のような一撃を私は拳で叩き潰し、間一髪のところのお嬢様を助けた。
「えぇ?!──コイツらも!!」
「ッ─。どうやら完全に倒さないとダメのようです。」
蠢く破片たちは瞬く間に一つの存在に合体し、私たちがよく見る『泥』の一個体として完成した。
(迫撃砲はお嬢様が防御している…しかしこのままじゃジリ貧だ。相手は炎壁が時間経過で消滅したのち、私たちに向かって挟み込むような乱戦に持ち込むはず……市街地戦ということもありお嬢様も魔力砲のような広範囲技は使えない、一体殲滅するのに時間が掛かれば、他の『泥』たちは市民を狙う。)
「まずいですね──この状況っ!!」
私は再度攻撃してくる『泥』に炎射を当て続け溶解させる。『泥』は溶けてなくなり、正直呆気なく感じたかったが、周りの破片たちが再度素早く合体を済ませてくる。
「うぅ〜!機転が効かないぃ〜〜!」
「………。」
お嬢様は普段から行っている戦法を使えない、それゆえ起点がいつもより回らないのでしょう…かくいう私もあまり大立ち回りをできるほどの無双力があるわけではない、どちらかといえばタイマン向きなほうだ。しかしここをなんとかしなければあとで大変なことになるのは確か。
「ウミぃ〜!!」
「考えていますとも──っ!」
急かされてもいいものは出ない。そんな気持ちを胸に炎拳を『泥へと打ち込んで、炎壁まで引きずって投げ飛ばした。バチバチっと炎が本体を焼き焦がす音が隣で聞こえる中、私は別の『泥』に向かって炎射を両腕から浴びせ、再起不能にした。
「今日なんか殺意高くないっ?!」
「どうでしょうっ──ね!!。」
自分でもなんだか違うことは理解している。いつもより精神的高揚が感じられる、戦闘に入った瞬間からだ……おそらく私は。
(戦闘を楽しんでいる。)
その理屈にたどり着いた……やはり今までとは違う。今までは戦いに楽しさなど感じなかった、ただお嬢様を守るということに喜びを感じていた私は確実に先頭に向ける感情は無に等しい。しかし今の私は間違いなくこの状況を楽しんでいる……そしてそれに対して何にも罪悪感を感じない、この状況をどう打破しようか───、そのことについて頭がいっぱいだ。
「っ───。」
「ウミ?。」
最後の一体を叩き潰し、私は拳を止めた。なぜならこの状況の打破策を思いついたからだ、しかし勘のいいお嬢様は私のことに気がついている……何をしようかはわからないにしろ…この先の行動に関しては代々察しがついているだろう。
「お嬢様、私を信じてくださいますね?。」
「……………………………………………………………、うん!。」
お嬢様の長い沈黙の最後にあったのは元気のいい返事だった。それを聞いた私は自信満々に、いくべき方法へ向かっていた。
炎壁は触れたもの全てを焼き尽くす無差別攻撃だ。もちろんこの私も例外ではない……しかし先ほどから私に付与されているこの感情と違和感にも等しい高揚感は炎の壁に突っ込めと命令してくる…そして私は自分という可能性を信じて炎へと直走っていた。
炎の壁と今その時衝突する瞬間、私はこう口にした。
「───────光焔槍ッ!!!」
自身が作り出し炎壁の炎を掴み、ちぎり取るかのように目の前へ一歩大きく歩む。そして、ちぎり取った炎は私がイメージしていた通りの形となる。
炎の槍、全てを焼き尽くし己が何よりも優位性をとれる武装。
目の前に広がる『泥』の軍勢を焼き払う、そう考えるだけで私のうちなる何かが強く呼応し、同時に高揚感で満ち溢れる。
「1匹残らず、焼き払うとしましょう────ッ!!」
私の中身が切り替わったように声と気持ちも一新する。まるで今この瞬間から新しい何かが生まれたような、そんな新鮮さに体全体が覆われる。
そして私は目の前の跋扈する敵を一網打尽にする為、単身被害を顧みない心意気で突撃していった。
『泥』を切り、『泥』を切り、『泥』を切り伏せる。前にも言ったが槍の使い方は弁えている、どうやれば相手を燃やすことができるのか、どうやれば相手を切り捨てるできるのか、新しくなった自分が改めて教えてくれる……一つのことを学んで10否………100も違う。
1000……そう1000のことに転用できる。今の私ならそれができる。慣れきった手捌きと慣れきった体の高揚感に全身を通し、光焔槍を両手に縦横無尽に駆け回る。
いかなる攻撃も、いかなる防御もこの槍は貫く、守り抜く。
(あぁ。楽しい……!)
誰かのためではなく、自分のために自分の力を使う。ここまで楽しいものなのか、っと思わずニヤリと笑ってしまう。
(……楽しい!──でも、)
私がここに立つべきではないともまた、思ったりする。現在の心とは全く違う別の視点からこちらをみている私、
「少なくとも視野が広くなくっちゃね。」
切り伏せた背後に誰かが立っていた。まるで一歩あるくことを禁ずるように、いや…止めるという意思をもちながら助言するような優しさを感じる言葉だった。
そして私は止まった。何にもその言葉に疑問を持たず、
[────ドジュンッ!!]
槍のような物体が、私の歩むはずの一歩手前に刺さり、私は嫌な予感を瞬時に感じ取り大きく後ろへ後退した。
その予感は的中するように、槍のような突き刺さった物体は、歪むような音と共に弾け飛び無数の黒い針となって私を含めた半径数メートルに攻撃を開始した。後退したことによって脳が冷静だった私はこの突発的な状況を見切り、光焔槍で二回切り払いを行うことで一発の直撃も防いだ、光焔槍によって焼かれた針はそのまま消え、残り周りに撒き散らされた針は家やその他の建物に突き刺さった。
(今……のは、)
「───ウミッ!避けて!!!」
感傷に浸っている私に指示が飛んでくる。大雑把な指示だったが私の視線は自然と針の方向へ向いていた、針は静かな金属音を自力に唱え、次の瞬間。
[バギバヂバギハギバキ───ッ!!]
針から溢れんばかりの鉄の塊が家やその他の建物を同時に一気に侵蝕した。侵蝕された建物は針から溢れ出た謎の金属片によって押しつぶされ、すぐさま原型を止めなくなっていき、最終的には一つの鋼鉄脈のような物体に変貌した。
無論私はお嬢様の指示でもさらに一歩引いていたため全く当たりもしなかった。
「お嬢様───、」
[グイッ!]
「まだ終わらないってばーッ!!」
お嬢様が腕に筋力強化の魔法をくくりつけ、私の服の一部を引っ張り、急いで来た道を戻り走り出した。私は「うわぁっ?!」っと間抜けな声を出して状況が飲み込めない頭になっていた。
お嬢様に引っ張られ身動きや体重を彼女に受け渡し、先ほどの針山を見る。
[──カンッ───ジジジジジジ!!!!]
一つの鋼鉄の槍が先ほどの地点に刺さり、周りの電力を全て収束し瞬間。一気に爆発させた、
爆発の風圧は余裕で私たちの方まで及び、お嬢様は近くの遮蔽物に身を転がり込むような形で私と一緒に隠れた。
隠れたその後、背後にから電気的な熱の通過を感じ振り返ってみる。建物が電気のエフェクトが出ると同時に一片ずつ崩壊していく様を見ていれば先ほどの攻撃の恐ろしさが何倍にして伝わってくる。
「もう───バカウミ!!」
お嬢様が私の体に抱きつき、涙を出した。私はそれをどうしようか一瞬悩んだ、だが一応抱き返すことが正解なんだろうと思い、少しオロオロしつつ彼女に抱きつこうとした瞬間、
「なんで呼びかけに答えてくれないのっ!!なんで私の声を聞いてくれないのっ!!!………なんで一人だけで行こうとしたのっ!!!!!!!。」
外の崩壊音を跳ね除けるほどの大声が私の包み込む予定だった腕を跳ね除けて聞こえてきた。その瞬間、私は自分が何をしたのかも察した。
自分がなぜそうしたのかは不思議とわからなかった、ただこれだけは言える。
(私の中身はもとに戻った。)
「ぁ。」
「……とにかくもうこんなことしないで──。」
お嬢様は私の服を再度掴み、涙をこすりつけた。私は止まっていた腕をお嬢様の背後に回し、優しく抱きしめる。
「はい……。」
と口では言ったものの、私はおそらくこの度で更なる危険を犯すことを…なぜだか不思議と予感していた。しかし今はその予感を一旦忘れて、お嬢様のケアに励もうと二人そのままその場を動かず静かにしていた。
しばらくの時間が経った後、外が少し騒がしくなった。互いに互いをじっと抱きしめあっていた私たちからすれば、いきなり背後に光がさしてきたことには正直驚いた。しかもそれが早く動くものですから、私は首をよく傾けた。
お嬢様は静かに寝息を立てていて疲れ切っていたことはわかっていた。
(少しお待ちください。)
少し強く抱擁をした後、私はお嬢様を持っていたハンカチの上に頭を寝かせ、一人外に出た。
そしてその時、一機が空中に上がりこちらを見つけたようにそっと視線を私たちの方へと向かせる。
機体はスラスターをゆっくりと吹かせながら私たちの前に立ち、その顔を晒した。
「ウミさん……。」
鉄で覆われた顔をボタンひとつで明らかにした紅月様、まるで宝石を見つけたかのような瞳で安堵の気持ちを顔で露わにしていた。
「紅月様…、ご無事で。」
「そりゃもちろん。ルルカも一緒で?」
「はい、そこに。」
紅月様に場所を伝えると、彼は少し駆け足を取りつつ、私たちが非難していた場所をみる。
そして「よかった」っと小声でつぶやいた。
「……紅月様、何があったんですか──?。」
「。。。、『泥』がきたってことですよ。」
「──っ!!」
ゆっくりとそれでいて、眉間に少し皺を寄せて紅月様は私にそう言った。私はなんとなくで感じていた予感が……紛れもない事実だったことに驚愕はしなかった、ただ静かに、冷静に口を紡ぐんだ。
『topic』
プロイシーは『泥』への奇襲をモロに受け、城下町のおおよそ6割の多大なる被害が出た、死者も決して少なくはなかった。




