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七十三話「束の間の休息」

前回のあらすじ


紅月の長い話を聞いた一行は少しのいざこざを経て今回の一件に関与することを正式に決めた…




 「確かここのはず…」


私は一枚の紙を持ってそこそこ大きい建物の前で歩みを止めた。紙に書かれた地図とサインは確かにここを指しているものだった。


建物はそこらにある住宅とは緯線を隠すほどの大きさを誇っていた、まるで穏やかな村に高層ビルが一つだけ立っているような感じだ、もちろん注目をアブてしまうんだろうかと近づくたびに私は考えていた、ところが現に周りには人っ子一人おらずまるでここの場所に近づいてはいけないと誰かに言いつけられているような雰囲気を感じ取ってしまう、

それほどまでに静かで自分の今いる場所に不満を漏らす環境だった。


 「うまく話が進んでくれるといいのですが。」


紙を握る力を少しだけ強め、覚悟を決めて建物の入り口に進んでいく…それと同時に脳裏には数十分前の光景が浮かぶ。



 ─数分前─


ログインした私たちは、今日はどうするかの計画を立てていた。

プロイシーでの人間の立場がまだ微妙にわからない私たちは紅月様に適当なアドバイスをもらっているところだった。


 「おはよう。」


扉をたたきながらメビアさんはすらっと家の中に入ってきた。私達は話を止め彼女に注目を向ける。


 「メビア、何か用か?。」


静かになっていた雰囲気を流すためか紅月様が穏やかな口調でメビアに話を振った。


 「あぁうん、実はこの間の後にね。少しあって、」


 「少し…?」


 「昨日人間の使節団みたいなのがきたらしくてね、お父様の気に触ったらしく王城は終始最悪状態、私が抜け出ていたことはギリギリ伝わっていなかったけど、それでも昨日は特に苦労して……」


 「使節団か…、この国に?」


 「そうなんだよねぇ、この国に。。それで人間だったから何か知らないかなって?…」


その時私とお嬢様とレナは顔を見合わせ互いに察した。その使節団と呼ばれた人たちが誰かということを。


 「アリス達じゃないかしら、多分。」


 「知っているのか?」


紅月様はレナ様の言葉を聞き逃さず、それでいて説明を催促するように言った。


 「私達が一時的に協力体制を結んでいた人達で、プロイシーの入り口まで運んでくださった方達です。一緒に行く予定だったのですが、まぁ少しありまして。」


 「…で、三人で行ったところを襲われたって感じなのか──そう考えるとあいつらけっこう策士だったな。」


 「めんどくさいくらいにね、装備もボロボロになっちゃったし。」


 「(装備というか体もやられているんだが…)ま、まぁ後でいいとこ紹介してやるよ。」


 「お知り合いなんですね…。会ったりは、しなくていいんですか?」


メビアさんはなしを戻すかのように私達へそう言った。入ってきた時の気の緩さからでは想像がつかないほどのお淑やかさ、丁寧語は本心ではないのだろう。


 「うーん、そういうわけじゃないと思うけど。逆に、会いにいく理由もあんまりって感じの縁だし。」


 「そうですね。ですがよくよく考えてください、私たちは口約束みたいな感じにあっさり流しましたがアリスさん達ともしっかり契約をしています。今後の彼女達の動向は気になりますし、今の私たちの共通目標とはかけ離れた目標に向けて進んでいるのかもしれません、一度会って話をした方が…。」


 「それもそっかぁ…レナは関係ないとしても私達の件で足ひっぱりたくないもんね。」


 「こちらも安請け合いしてしまうのは考えものですからね。」


思えば私もお嬢様の意見を第一に考えてしまうことが多い。しかし取引の基本ルールは流石に入っている身、私も慎重に物事に対処していかなくては。


 「では、使節団の滞在場所をお教えします。…多分ここの住所で間違いないかと、。」


メビアさんは待ち構えていたかのように紙を取り出しなんの迷いもなく住所を書き残した。そしてそれを私へ渡す。


 「ありがとう。」


 「あんまりプロイシーに詳しいわけではありませんがいただきます。」


 「いえ。これからは仲間ですから、私もできる限りを持ってサポートします。ドンドン頼ってください!、」


メビアさんは胸を張り少し自慢げにそう答えた。その姿からは年相応の幼さが多少漏れ出ていて、私は次になんてセリフを言うべきか決めた。


 「では、お願いとして。苦手な敬語の撤廃を求めます。」


 「え…、」


 「そうだよねぇ。」


私がそう言うとメビアさんは固まった、まるで思ってもないお願いが飛んできた時のお嬢様を見ているようだった、そしてお嬢様も相変わらずの勘の良さでメビアさんの本心を見抜いていたようだ、さすがとしか言いようがない。


 「メビアさんが言うように私たちもメビアさんの仲間です。ですから下手に他人行儀ではなく、話しましょう。私は〜その、メイドなので変えませんが…」


 「ウミのその理論はあんまりだと思うけど、私も堅苦しいのはあんまり得意じゃなくてさ、だからもしよかったら普通に話してくれると嬉しいかな。」


お嬢様は私のことをさらっと流しつつメビアさんに近づきながらそう言った。まるで妹に教える姉のような立ち振る舞いとして見られる、


 「わかった。私もこっちの方が話しやすいから、これからはよろしく。」


 「うん!、よろしくね。」


二人は互いに顔を見合わせながらにこやかにそう言った。私からしたらその光景は極めて微笑ましかった、まるで切っても切れない何かが今この場で成立したような、そんな気がしたからだ。


 「ちなみにアリス?、達の場所には誰が行くんだ?。」


紅月様がタイミングを見計らって私たちの1シーンを止めるかのようにそう言った。


 「そうですねぇ、まぁ恐らくは私じゃないでしょうか?。」


 「あれ?ルルカはいいのか?。」


 「それはもちろん居てくれたらそれだけでも嬉しいのですが。紅月様、お嬢様を使いますでしょうから、」


 「あれ、私って使われるの?。」


お嬢様が不思議そうな顔をしながら今の発言を繰り返す。自分が使われるという単語に妙な違和感を感じ取ったらしい、


 「言葉のあやだな。どちらかというとレナのAEDとして一役買ってもらおうかとおもってる。」


 「AEDって、あの心肺蘇生する時の?。」


 「そそ、今のレナはダメージが大きすぎるからな、それこそいつ内部電力が尽きたり機能不全が起きてもおかしくない状態だ。そんな時ルルカがいてくれたらレナを手遅れになる前に蘇生できる、この間やったみたいにな。」


 「いつ壊れてもおかしくない機械で悪かったわね。」


 「なるほどね、わかった…私が多分ついていってもあんまり役に立たないと思うし、私はお兄様と一緒にレナのAEDに回るね。」


お嬢様は紅月様の方に寄り添い、私の元から離れる。正直言ってしまうとお嬢様がいるだけで私の気分が楽になったりとかそういうことが起きなくはないのですが、まぁここで市場は優先できないとわかっていたので渋々我慢。


 「それでは私はアリスさん達のところに向かいますが、何か伝えたいこととかありますか?。」


 「あ、私から。ウミさん、っでいいよね?できればでいいんだけどアリスさん達に"第二王女の私が依頼主"だ

って伝えて。」


 「え、はい。わかりましたけど、それだけでいいんですか?。」


 「うん、昨日少し聞いた感じ向こうならこのくらいで察すると思う。」


メビアさんの目にはまるで遥か遠い未来が見えているような顔だった、当てはまる予定のピースをあらかじめ知っているような、そうな見た目に反したただならぬ気配の鱗片を感じた。

それを真っ先に私は信じ彼女の言葉を伝えることを脳頭に入れた。


 「それじゃあ俺達は重症者を運んでいくかな。」


 「誰が重症者よ!?」


 「ほらほら、いろんなところ貫通してるから暴れないでレナ。」


そうなだめられながらレナ様は紅月様とお嬢様の手によって軽々く運ばれていった。その光景を見送った私とメビアさんはその場に取り残されなんとも言えない雰囲気のまま固まっていた。


 「─ところで質問なんだけど。」


メビアさんが静かになった部屋のんかで紅月様達が去っていてった方向を見ながら次のように言った。


 「AEDってなんですか?。」


私はその問いに答えることはせず少しはぶらかしたような口調で家を出ていった。


 

 それが先ほどまでの出来事、長いようで短かった私達とメビアさんの情報交換。その後メビアさんは多分王城に戻ったと思う、すごく難しそうで面倒くさそうな彼女の顔からは王城がいささか過ごしにくい場所だということは火を見るより明らかだ。

私自身もメビア様によく似た人物を知っている、もっとも本人とは似ても似つかないほどの自由人なのだが。


して、そんな回想をはたに置いて私は扉を叩く。


 [コンコン]


はーいという声が聞こえ建物から人の足音がだんだんと近づいてきていることを耳で聞き取る。プロイシーの人々はメビアさんを除いて基本的に足がない、それゆえこの足が奏でる音というものはこの世界に生きる"私"にとって少し安心する。


 [ガチャ]


感情に至っていると扉が開き、一人の泡の膜を張った私と同じ人間が姿を現した。


 「───どんなご用で…ってあなたは。」


 「ご無沙汰しております。アリスさんに少し用がありまして訪れた次第です。」


 「は、ははぁ。たしか全知の魔女のメイドさんっであってますよね?。」


 「はい、申し遅れましたウミと申し上げます、再度お見知り置きを。」


 「これはご丁寧にって、ここじゃなんですのでどうぞ中に。」


 「お気遣いありがとうございます、」


そうして私は建物の中に入っていく。建物の中の作りは古くも新しくもないと言った感じ、もっとも現実の感性がプロイシーのこの建物に適応した場合に限るが…それこそ見方を変えたら客人に対してすこしぞんざいな場所とも見える。内装はいくつもの部屋で区分されており、第一印象はアパートという言葉が似合っている。

扉を通っていくたびに日常音がすこしだけ聞こえてくる、おそらくアリスさん達はそれぞれプライベートゾーンをもらっているようだ。


 「なんだか集合住宅みたいですね。」


 「そうですね、もっとも自分たちでしなくちゃいけないことが多いですけど、」


 「管理人とかは?」


 「いませんよ、。よほど嫌われてるみたいですからね。」


 「─そうですか。」


接客の態度としては0点、私は早々にそう見切りをつけた。そして同時にメビアさんがなぜ父親に対して複雑な感情を抱いているのか、すこしわかった気がする。


 「このままアリスさんの部屋に案内しますね。多分もう起きてる頃なんで、」


 「いつもは遅いんですか?」


 「えぇ朝にはめっぽう弱いですから、あ…本人には内緒で。」


 「はい。」


 「もうここに5日間も滞在しているので、もちろん…ログアウトとかも挟んではいるんですけどね。」


 「……プロイシーは時間の流れが早いですからね。」


私たちが昨日から今日までの約10時間くらいの間、プロイシーでは数日間が経過している。メビアさんは特に疑問も持たない様子だったことを見るにそこらへんの違和感消しはうまくいっているのでしょうか?。変に不安になってしまう、、


 そしてしばらく歩き階段を登り、一室の前でその人は止まった。


 「ここです。俺は他にやることがあるんで、ご一緒できずにすいません。」


 「いえ、ご案内ありがとうございました。引き続き頑張ってください。」


 「ありがとうございます、では。」


その人は先ほど通ってきた道を戻るように去っていった。私は一度深呼吸をして扉を叩く。


 「どうぞ。」


声が聞こえてきたことを確認し扉を開ける。


 「失礼します。」


 「、待っていましたウミさん。」


アリスさんと最後に対面したのは、心がぐちゃぐちゃになっていた頃だった。1日しか経っていないというのに私の心は彼女との対面を数週間ぶりだと誤認している。

しかしそれは今は関係ない、ふさしいという言葉を言う前に私は彼女にもっと言うべき言葉がある。


 「。先日は身勝手な行動、並びに度重なる発言、大変申し訳ございませんでした。」


私は頭を下げ謝罪を彼女に向けた。


 「いえいえ。私もきっと気が動転したらそうなるでしょうから。」


アリスさんはニコッと笑いながら私のことを軽く許した。その寛大な心の彼女が次の言葉をかけるまで。


 「それよりも、何か用件があってきたんですよね。」


 「はい。」


私は彼女が気まずそうに話を逸らした時顔を上げた。そして次の言葉を喋ろうとした時彼女が向かい側の椅子に手を添えて「どうぞ座ってくださいと」合図をかけた。私はその気持ちを無碍にする権利はなかったので椅子の方に向かいながら話し始めた。


 「実は私たちはプロイシーの第二王女から依頼を新たにもらいまして。」


 「ほう。」


私は椅子に腰掛け、彼女の興味の目をしっかりと見ながら言葉を続けた。


 「内容に関してですが、現在進んでいるの

"イレギュラー"『泥』に対しての第二王女からの協力要請でした。」


 「…」


 「具体的な目処は立ってはいないものの問題解決含め私もお嬢様もレナ様も"協力"するという結論に至りました。また、第二王女は更なる戦力を求めているようで、」


 「ウミさんが私たちの元に来た、というわけですね。」


 「はい。」


私は唾を飲んだ。

これで相手が降ってくれるならそれはそれで最高だ、しかしアリスさんは中々に理知的な人間、それこそ今も心の中で私の言葉の隙を狙う蜂のような風格を感じる。

全てに余裕があるような態度、私が最も苦手とするタイプだ。


 「えっと、あんまりそう構えないでください。よく言われますが私はそんな裏で策略を練るタイプじゃないですし、今は現地リーダー的な感じなので少し深く考えているだけなので。」


 「そうでしたか。失礼、つい癖でして。」


 「。ウミさん、質問ですがメビアさんはどんな人でしたか?。」


なぜその名前を知っているとは言えない。そうなればかまかけに乗ったことにもなるし何ならこの時の驚いたリアクションを取ることもまた不手だったからだ。

私は紅月様やお嬢様のように勘がいいわけではない、しかし目の前のアリスさんを見切ることができるほどの観察眼は兼ね備えてある。

自己申告できるくらいには、、


 「はい。フレンドリーな方でしたよ、信用していいと思えるくらいには。」


 「…そうですか。」


アリスさんは思った以上の収穫を手に入れたような少し満足げな顔になった。しかしその実私の発言に驚きを感じていたように思える。


 「…ちなみに第二王女さんはこう言っていましたよ、。」


 「?。」


 「第二王女の私が依頼主っと。」


 「……なるほど、」


アリスさんは少し笑ったようにそう言い目を閉じた。私にはこの言葉がどんな効力を発揮したか正確に測ることはできない、


 「…では私達が国王様に行ったのは間違いだったということですかね?。」


 「何か言いましたか?。」


小声で何かを言ったアリスさんの言葉をもう一度しっかり聞こうと私は彼女にそう言った。


 「いえ何も。…では結論を早めに出しておこうと思います。」


 「…はい。」


私は思った、今の言葉で確実に勝った。っと


 「第二王女様へ伝えてください。"我々はあなたの指揮の下、全力でこの一件の解決に向けて動きます。"と、」


 「はい。承りました。」


その答えを聞いた私は話を終え椅子から立ち上がり一礼、私は部屋から出ようと扉の方へと向かう。


 「あ、最後に一言だけいいですか?。」


 「はい、?。」


 「紅月さんはお元気な様子でしたか?。」


 「…えぇ、片腕を失っているのにも関わらずびっくりするぐらいですよ。」


 (本当にこういうタイプは苦手だ。人によってこうも態度を変えるのだから、、、)


そうして私は部屋を出て建物を出て一呼吸置いた後その場を後にして変えるべき場所へ帰った。それ以外の感想は特にない、、、



・・・


 「少しカマをかけすぎましたかね。」


私はさっきの話を頭の中で繰り返しながら個人反省会をする。


 「でしたが思った以上に手強いですね第二王女は、こちらの行動がまるで読めているような…いくら未来見通す力があってこちらより先手を取れたとしてもここまでことを運ばせるにはそれだけでは足りないはず。」


窓の向こう側に映るウミさんを眺めながら私はそう口にする。


 「紅月さんやルルカさんのように"直感"もち、ではないハズですが。──気をつけておかなくては。」


 「まぁ、私の役目はもうほとんど終わってる感じなのですけれどもね。無理に引き抜くにしても勘付かれたり、最悪墓穴を掘られるのはごめんですし…ほどほどが一番ってところですかね?。」


私は窓から離れ少し歪な内装の部屋を見渡す。


 「野望は大きくと言いますが、正直あの人には敵わない気がしますね。"練鉱国の女王"。」


近く遠くそれでいて離れていない距離、言語化は難しくともその本質は変わったりはしない。誰しも抱えたり、悩んだり逃げたりする。


それを回収するのが今回の私に与えられた役目。


 (───うまくいく、)


そう確信しました。





『topic』


アリスとメルドは互いに凸凹みたいな関係であり、それでいて友達である。


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