隠話「紅月VSエリア」
前回のあらすじ
ついに装備が完成した紅月は安堵のため息を漏らし、疲れた機体を眠りにつかせようとする。しかしメビアからの朗報を聞き辞退の重要さを理解した紅月はルルカ、ウミを助けるためにプロイシーの外へと向かおうとする。
正門を潜ろうとしたその時、エリアが紅月に襲いかかる。
「2度までも口を開く、ならば国王様を侮辱した罪で貴様を………」
「…っ!!」
「──今ここで殺す!!。」
エリアは手に構えていた槍をほぼノーリアクションの速さでこちらへ投擲してきた。そしてそれを事前の少しの動きで感じ取っていた俺は右腕のダンクルオステウスで薙ぎ払うように弾き返した。
それを確認するよりも早くエリアは次の行動へ移らんと水剣を一瞬にして形成して、こちらの攻撃を考えてか魚類特有の足ヒレを使った弧を描くような軌道で接近してきた。
休む暇なく向かってくるエリアにレールクローガンを大振りに叩きつける。
しかしそれを見切られ滑らかな剣筋を通るようにレールクオーがんはものの見事に軌道を逸らされた。
(早い──っ!!)
剣先が首元を貫通する勢いで飛んできたので一度やった感覚を思い出しつつ俺はスラスターを逆噴射させそのばでバク宙回避すると同時に刺し突かれる剣先を足で蹴り上げた。
エリアは蹴り上げられた剣に目もくれず勢いを保ったまま今度は弓を作り出し、こちらに2発即射させてくる。
(神秘の消費は無制限に近いのか…?。じゃなきゃそう簡単に武器を捨てたりはしないはずだ。)
二つの矢がこちらに向かってきたが、フレキシブルメインプレートを拡張状態にさせ、2射とも装甲によって防いだ。
そしてすかさず反撃を入れるようにレールクローガンで遠距離攻撃を行う。
四発の電磁砲がエリアに向かって超速発射される。エリアはこちらの攻撃に気付くいていたが回避はせず盾を形成して直撃を避けた。
(レールクローガンの射速を流石に回避することは出来ない。)
そのことがわかると防戦一方だった俺は強気にもスラスターを前に噴射してエリアとの距離を詰める。
エリアは盾を構えたまま俺に攻撃に合わせるようにシールドタックルをしてくる、しかしこちらは機械特有の超反応と超速攻撃を利用して時間差での攻撃を盾に向かって突き込んだ。
金属音がその場に鳴り響きエリアは盾を投げ捨てる選択をし、盾影に隠していた槍を俺へと突き出す。
もちろんシールドタックルだけで終わるとは到底思っていなかったため俺も首元スレスレだったが槍を回避した。
(…なんだ?。)
違和感を感じつつ、俺はエリアとの距離を離すためレールクローガンを横に振りかざしエリアと数メートルの距離を作る。
エリアの行動にはどこかしら違和感がある、今自分が考えているエリアの能力との人知れない差異が。
「どうした?…攻めて来ないのか?」
「っ。」
できるだけ早くエリアを突破しなければいけない状況。攻めたいのと山々だが
(そう簡単にいけるほど甘くないって感じだ。)
「─ならばこちらからやらせてもらうっ!」
エリアはそう言いながら弓を一瞬にして作り出し、こちらへ向けて躊躇いもなく撃つ。先ほどと同じ手だと思った俺はエリアが剣や盾を作り出す前に決着をつけようと何も考えずに再度後世に転じる。
矢をダンクルオステウスで叩き弾こうとした瞬間。
一つに見えていた矢はこちらが近づくにつれ2、3本と増えていき気づいた頃には軍兵が一斉に放った矢の大群がこちらに向かって放たれている構図になった。
「っ!?」
全てをフレキシブルプレートで受け流すのは無論至難の技だった。そのためダンクルオステウスで全体の下段を振り払い、上段はレールクローガンに搭載された電撃機能で矢を蒸発させた。
かなりギリギリだったため、許容範囲内の攻撃はスラスターを駆使して一時的に避け、フレキシブルプレートで残りはカバーした。
「もらったッ!」
「っ!」
エリアは俺がちょうど着地した瞬間に距離を詰め、気づい時には目と鼻の先程の距離になっていた。この至近距離では確実に攻撃を与えられる、エリアは俺の行動からそう察したのだろう。
確かにこの状況だったら蹴りを出すにしても予備動作が大きく彼女ならばいとも簡単に見切ることができる、つまり俺に残された迎撃法はほぼないわけだ。
(もっとも全くないという感じじゃなくて本当に良かった…ッ!)
俺は腕部のシールドからレーザーコンバットナイフの剣先をパタのように出しエリアが突き刺しにくる水剣を真っ向から切り裂き払った。エリアは驚いたような顔をしつつこちらと距離を離すためにドルフィンキックをしようと顔の前に足ヒレを蹴り出そうとする。
「もらったァッ!!」
エリアがドルフィンキックを仕掛けるより早く、こちらのダンクルオステウスは彼女の下半身のヒレをガシッと掴んだ。
「なっ──!!」
エリアが声を発そうとしたその時俺はダンクルオステウスのロックを解除し、彼女をまるで鞭を操るように地面に叩きつけた。ダンクルオステウスはロックを解除することによって最長15メートルまで変形することによって伸びることができる、また魚の口を模したような先端の粉砕部は高性能なモーターを使用しており、もはや採掘まで可能なくらい硬く拘束力がある。
つまりは俺の気がすまない限り、もしくは粉砕部が破壊でもしない限り今のエリアは一方的に振り回され叩きつけられることを強制されるというわけだ。
「ぐっ、─カハッッ!!」
(いくらエリアであっても一方的な引力に流石に体のバランスがつかないか、なんなら体を直立させるのにも使っている足ヒレを固定されている時点でこの結果は目に見えている。)
一度振り下ろしては道や門の隅に叩きつけ、痛々しい打撃音を鳴らす。なぶる趣味は俺に存在しないがエリアは別だ、今こいつを倒さなければ俺はルルカ、ウミさんを助けに行けない。そして仮に口先だけだとしてもメビアを馬鹿にしたことを後悔させる必要がある。そう思いつつも俺の心はこの一方的なやり方に心底気に入らなかった。
「っ。」
ドン!!っと最後の一撃を床に叩きつけ俺はダンクルオステウスをエリアから解放した。
「、、。く。」
エリアはすぐに動き出した、しかし身体中についている傷を見れば限界が近いことは明らかだ。腕を床につけ上半身を起き上がらせた。下半身の足ヒレはダンクルオステウスのスピードと圧殺力について来れなかったのか、骨が曲がったように赤い血液を垂れ流している。
「もう諦めろ。お前が何をしたって俺には勝てない。」
俺は施しを与えるように起き上がれないエリアの元へと歩いてそう言った。
「っ、それが引く理由になるものか……」
その不屈の意志を見届けた俺はエリアを通り過ぎて門の向こう側に行こうとする。
エリアは不屈な声を上げながらただその場で起きあがろうと奮起する。しかし彼女の悔しさを含んだ声を聞けば自ずと背後の状況は予測できる。おそらくもう攻撃してくることはないだろう。
そして俺は油断した。エリアが最後の力を振り絞って投げた一槍に……
ガンっとフレキシブルプレートに何かが当たって砕けたような音が聞こえた。
「っ!…エリア。」
俺は振り返り砕け落ちた槍を見た後にそれを投げ、満身創痍ながらなんとか立ちがったその姿を刮目した。
「私はここを託され…たんだ。今貴様を逃すわけにはいかない!。」
「おい、よせ。。立ち上がるのが精一杯なんだろ?、下手なことをして傷を増やすのは。」
俺は正直驚いた、ここまでの執念を持っている人に会ったのは人生で2回目だった。一回目は唯一ずにその人を思って、そして今回は大義を持って。双方しつこいという点では同じだが、俺はこの二つに決定的な違いを今感じている。
「、情けをかけられるほど…私は弱くはない。」
エリアがそう口にすると彼女の手から薄緑の光が溢れて彼女を纏った。そうするとみるみるうちに彼女の擦り傷や破壊部分は治っていった。俺はその光景に驚き、言葉を漏らす。
「神秘…なのか?。」
「、好きにとらえてみろ。」
そう言ったエリアの言葉は明らかな余裕を帯びていた。奇跡とも思える行動をまるで狙ったように起こした、一言で表せば不敵に笑っていた。
「…まだ私は終わらない、少なくとも貴様から答えを聞くまでは!!」
「…そうくるか。」
これはウミさんと同じだ、何度折ったって希望があるなら立ち上がる…今まで死ぬほど見てきた中途半端で完成された人格。正直羨ましいくらいだ、
「──やるしかないか。」
左肩にマウントされたレールクローガンを持ち、俺は再び戦闘体制に入る。
エリアもその俺を見て両手に水剣を作り出す。先ほどより早いスピードでこちらに突っ込んでくる。
(早いな…!。)
しかし驚くだけでは終わらせない。先手を打つように俺はレールクローガンをチャージして電流を一気にレーザーコー線のように放出する。エリアは速度を落とさず光線を迂回するように回避し、こちらへ突っ込んでくる。
「ハァ──!!」
足ヒレをくねらせ自身で回転をつけた二剣の連撃がレールクローガンを掠め、それに脊髄反射する様に俺は一歩下がりダンクルオステウスでエリアを叩きつけようとするが、エリアはそれを楽々回避、すぐさま背後に回りつつあるエリアに俺は彼女を追うようにレールガンを撃ち続ける。
一発剣にヒットしたところを見逃さず俺はその場で射撃を続け、エリアは次々にくる高速電磁弾を全て見切って切り伏せ、再度距離を詰めようとする。
(近接戦闘なら俺に分がないと思ったか。)
その行動に合わせて再度ダンクルオステウスで掴みかかろうとするも、エリアは双剣から大型の盾に切り替えダンクルオステウスの軌道を上にそり抜ける様にパリィをした。そして盾を投げ捨て今度は身の丈ほどの大剣を手に持ち自身のヒレを用いた回転に合わせるようにこちらへ振りかざしてきた。
「っ重い!!。」
ガンッ!!っと片腕で受けるにしてはやや重すぎる一撃に俺は思わず声を漏らした。
「っまだ!!」
エリアは大剣を消し、細剣を作り出し両手で構える。レールクローガンで受け止めていた大剣とエリアの間にあったわずかなスペース、そこを入り込むように彼女は剣を俺に突き刺した。
パチンッ!!あっけない音と共に、俺を覆っていた空気は弾け、装甲には少しの傷がついた。
しかし俺に"損傷"を与えるには決して届かなかった。
「っ!それでも!!」
エリアは剣を一瞬にして消し、盾を再度形成する。そして俺の懐に思いっきりシールドタックルをして、吹き飛ばした。
(やっぱり水中戦ではいくら適性があったって、向こうが上か…!)
吹き飛ばされた俺はダンクルオステウスで硬直のあるエリアを掴みにかかる。
「2度もくらうかッ!!」
その声と共にエリアはは盾を投げ、ダンクルオステウスの空いた口を封じる。そしてその隙に再度距離を詰めようと近接戦を仕掛けようとするが…
「それはこっちのセリフだァーーー!!」
吹き飛ばされる体を無理やりスラスターで押し返し、俺はレールクローガンにありったけの電力を貯める。
本来なら避雷針のように落雷を多少利用しなければできない技だが、今回の改修によってENをそのまま電力に還元することで海中内でも電撃を扱うことができるようになった。
(つまり……!!)
現実的にENが続く限り電力を生み出し続けられる強力な一撃、実質的な。
「(150%の)『最光出力電雷爆破槍ァ───!!』」
「っ!!。」
エリアがとっさに腹部を鎧でカバーしたがそれを貫通してレールクローガンは確実にエリアへと刺さっていった。
そこらへんの腹パンとは大違いな威力にエリアの体は一瞬で無気力になった。
そしてそのまま近くの地面に流し放り投げるようにレールクローガンを振りエリアはそのまま地面にゴロゴロと転がりながら動かなくなった。体は少しの帯電しており、起き上がる可能性はかなり低いと俺の直感も囁いた。
俺は安堵のため息を漏らしレールクローガンを再度背後に戻した。
「終わりだ。」
そうエリアに言うと俺は今にも出る勢いで門の向こう側に向かおうとする。
「ま、て。」
俺の直感はハズレ、エリアは顔だけこちらに向け声を出した。
「。。」
しかし俺は警戒をしないエリアはもう動けない、ここの部分だけで言えば俺の直感が外れたことはない。つまりは戦闘的な意味では俺の勝利で終わっている、それはエリアも理解しているはずだ、さもなくばこれ以上声を出す必要もなかったはずだ。
「最後に…メビア様をどう思っている?。」
一度聞いたことがある問、もう自分の中での答えは決まっている。
「。メビアの一応兄であろうとしている──お前の嫌いな地上人だよ」
「っ。そうか、」
エリアはそう言うと後には何も言わなかった。ただ気を失い自分が負けたことを俺に見せ、そして満足そうに動かなくなった。死んだわけじゃないはずだ、もとよりそんな風に戦っていなかったからな。
そう思いつつ俺はその場を後にした。自分にはエリアが言った以上の大義があり、役目があるから、、。
だから、今一時だけは仲間としての"紅月"を通しにいく。
『topic』
魚人族には脚がある。




