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隠話「紅月と運命」

前回のあらすじ


アズサと名乗る魚人族に案内され、メビアと紅月は工房へと向かう。アズサが接待室のような場所に案内し、突然紅月と一対一で話を始める。アズサは自分がプレイヤーだと紅月に明かし、二人の間で一悶着あるものの結果として紅月を信用に値する人物だと認めた。


メビアは二人の話が少し気になっていた様子だったがアズサの巧みな話術で話を上手く逸らされそのまま流れで工房に向かい、ようやく装備作りを開始する。


 





 「やぁ、おはよう。って言っても現実世界の時間ではいいとこ15分ぶりなんだけどね。」


そう言いながら"今日"初対面したアズサは俺に気前よく挨拶をした。


 「毎回思うんだが、プロイシーの時間感覚ってバグらないのか?。」


アズサと会うのはこれで4回目、つまりは4日ほど経っているというわけだ。そんな計算がいかにもめんどくさくなりそうなプロイシーの時間の流れについて俺はアズサに直接的な感想を求めるように世間話を振る。


 「うーん、まぁ最初は時間がかかるものだよ。でも短い時間で長く楽しめるっていうのはかなりいいし、今は不自由を感じてないかも。」


 「そういうものか。いや、そういうものだったよな。」


【SAMONN】であれば地上世界であろうと海中世界であろうと時間の流れが常に"現実世界と異なる"という事実に変わりはない。いいとこ遅いか早いかだ、そう考えてみれば地上世界の時間に慣れているから海中世界の時間がおかしいと思うのは最初からおかしな話だった。


 「地上からきたキミからしたら、1/2と1/4は結構差がありそうだね。」


俺を配慮するようにアズサは俺にそう言った。


 「それりゃもう。結構自重しているんだが、ちょくちょく時間を確認したくなるしな。」


 「それだけ大義があるってことなんだろうね。じゃなきゃ無意識でも焦ったりはしないよ。」


アズサの言葉でさらに自覚することができたのだが、やはり俺は少し焦っていたらしい。そんな予感はしていたものの、今はそれを考える時ではないと自分を押し込めていたらしい。


 「さて、キミのことも考えて世間話はそんなところにしよう。昨日頼まれていた物ももうできてるよ!。」


アズサは部品が広がっている机をトントンと叩き俺に完成品を見せる。

俺は近づきアズサが作った完成品と対面する。手に取り、頼んだ造形を目で確認しつつ分析にもかけ品度を確かめる。アズサの腕を疑っているつもりはないが精密機器も含めてこういうものは細かな確認がのちの完成に大きく関わってくる。ま、この確認自体にそこまで時間はかからなかったわけだが。


 「うん、正直言っていい出来だ。」


 「いやぁ〜よかったぁ、内心ヒヤヒヤだったんだよねぇ。」


アズサさんは顔を先ほどよりも緩めて、肩を落とした。どうやら自信満々に見せていたのは本心でもあり一種の見栄だったらしい。


 「あとはここまで作ってきたやつを全部俺につけたらおしまいって感じだな。」


俺は机に広げてある部品の奥に広がっている他の数多のパーツにも目をやりながら答える。


 「はぁ〜絶対鎧ほど単純じゃなさそう。」


苦笑いしながらアズサさんは目の前の光景に脱力した。

ゲレームではある程度の人員、ある程度に整ったアシストメカなどでそこまで時間がかからなかったことが印象深いが、、部位ごとに分かれた大きなパーツから小さなパーツ、そして内部の駆動系と直結させるための長く多くある配線、重ねがけを前提とした補強専用の装甲、、、想像しただけでここからの作業がいかに大変かが伝わってくる。


 「なんならまだ鎧のパーツを作った程度の進行度だからな。」


 「やっぱりぃ?。ここからネジつけとか機械がやるような細かいこともやらないとって感じ?」


 「感じだな。」


近くの壁に大きな設計図をくっつけながら俺はアズサの今にも溶けそうな声に気落ちしないように答えた。


 「、、引き受けるって言ったのは私だし、ここを通らないと完成しないならあと少しラストスパートとして頑張ろう!。」


 「あぁ、よろしく頼む。」


こうして残りのパーツを設計図を見ながら組み立てること数分が経過した。作る時とは違い鉄を短い時間内で打ったり冷やしたりする時間などがなかったからか、スムーズに進んで行ったが数が数であるが故に総合的な時間で言えばパーツを作る時間とさほどかからず、

設計図を見ながらでも該当するパーツを探したり、組み立てたりするのはプラモデル同様思った以上に時間がかかるものだ。ここに来て現代技術というかゲレームの設備性がどれだけすごいか関心を感じることになるとは思っても見なかった。


そうして4日くらいかかってようやく組み立てが終わることとなった。



 「ふぅー。これで最後だよね?」


 「あぁ、これで最後だ。」


俺は手に持っている最後の装甲パーツを胸部に取り付けた。ガチャンとパズルの最後のピースにはまるほどあっさりとパーツは装備の全体に溶け込み、この長かった戦いはついに終わった。


 「終わった。」


 「ついに終わったな。」


この過程だけで一つのドラマが作れてしまうんじゃないかと思うほど長かった。だが真実経過した時間は合計4時間ほどであり、長いか長くないかで言えば微妙なラインだった。

ゲームの中で寝落ちするハメにもなったし、(現実世界では小休憩の昼寝程度の時間)なんだか深夜にぶっ続けでプラモデル作った時と同じくらいの疲労だ。


 「、贅沢は言わないけど大切に使ってね。私はそろそろ寝るから。」


アズサは手を振りながら近くの机に向かって倒れ込むように眠った。ゲームの中で寝る経験をしたのはこれが初めてだが、現実の肉体的にこれは休めているのに入るのだろうかと、一瞬思ったが、今の疲労困憊の俺にとっては些細なことだった。


 「俺も流石に疲れたな。寝るのもいいが一旦ログアウトでも、、」


そう思ったのも束の間、突然扉が爆発するような音と共に開き、俺は驚きのあまり臨戦体制に入ってしまった。


 「紅月お兄様!!」


 「ど、っどうした?」


俺は驚いたは驚いていたはずだが疲労のせいで思った以上に大きなリアクションが取れず、中途半端な驚きを飛び出してきたメビアに見せそう返事をした。


 「今っ!とんでもない未来が見えたの!!」


 「わ、わかった。とりあえず落ち着いて、」


俺の方を掴み、必死さを伝えようと揺らすメビアに俺は疲労からくる落ち着きで返事をしつつメビアの話を聞くことに頭を集中させた。


 「紅月お兄様の仲間が、誰かに襲われてる未来が!!」


 「っ、なんだって!」


その言葉を聞いた瞬間、俺の中に溜まりつつあった疲労は遠い彼方へと飛んで行った。いや飛ばした。溜まりに溜まった疲労なんかよりもメビアの話の方がよっぽど重要だということに今更気がついたのだ、(本人は最初から必死だったのにも関わらず。)


 「お、落ち着いて〜!。しっかりと説明するから。」


 「、わかった。」


メビアの一言に我にも縋る思いを見せた俺は一旦落ち着くことにした。メビアが俺を思って伝えにきてくれたのならその思いや話をしっかり聞くことは一種の礼儀だと思ったからだ。


 「まずね。紅月お兄様みたいなこう、なんか全身鎧でできたみたいな人がこのあいだ見たメイドの人を乗せて飛んでいて、その後爆発が起こって、、二人ともやられちゃって、その後大きな帽子を被った女の子が出てきて襲撃した人を相手取っているところが見えて、。」


 「、。」


 「紅月お兄様?。」


 「、、アラハバキ達か。」


俺たちを襲撃する理由がある奴を考えてみれば自然とその名が浮かぶ。俺を倒すことを目的としていたが、情報の入れ違いかどうか知らないが俺がいない時に襲撃するとは、、だがここで大切なのはアイツらが俺を目的にしたことじゃない、。今現在ルルカやウミさんが危険な目にあっているということだ。


 「、悪い。用事ができた、」


そう言って俺はいてもたってもいられなくなりメビアの方から手を離し目の前にある完成した装備へと向かった。


 「待って!。」


 「」


俺は立ち止まった。メビアの話はまだ終わっていないということを無意識に感じ取ったからだ、、


 「…必ず帰ってくるって約束して、」


 「もちろん。」


そう答えるとメビアは満足そうな笑みを浮かべた。どうやら求めていた答えは得られたようだ、そう理解した俺は装備を身につけた。身につけること自体はゲームシステムがカバーしてくれるのでさほど時間は掛からなかった。


 [─装着完了。接続─完了、全システムオールグリーン、対海水侵入予想1%未満と予想。活動可能領域です。]


 (武装は?)


 [電力供給、エネルギー充填率、ともに良好。最終点検はしていないようですが特に大きな問題が見当たらないため。戦闘は十分に可能な領域です。]


 (誤差は?)


 [1.02です。修正範囲内です。]


 (よし…!)


工房の扉を飛び出し、スラスターをできるだけ吹かせ俺は近くの大窓から通路を飛び出して行った。


プロイシーの城下町の上を飛び、門前にを通るように着地する。スラスターを休めるついでに門番に一言据えようと門に近づいた時、一人の魚人族が立っていることに気づいた。(ヒレで地面から直立して見えるような感じ)


 「!。」


それが門番でないことはすぐにわかった。


 「、、。」


エリア。メビアの専属護衛である彼女がまるで俺を待ち構えているかのように、そして行手を阻むように立っていた。俺はそれを理解するとゆっくりと近づき、距離を詰める、たいしてエリアはこちらを確認するだけでどどうとは言わない。ただただ佇んでいるだけ、、何もしないという思わず違和感を覚える行動にこっちは近づくほどに相手の心境を心なしか探りたくなる。


 「紅月。」


最初に声をかけてきたのは意外にもエリアだった。第一声は俺の名前だったわけだが、その口から放たれたたった一言は俺の警戒を無意識にも上げた。それほどの気迫を雰囲気と声しつから感じ取っていたからだとすぐに理解した。

俺は心の底で身構え、エリアがこの場で俺に対して明確な"敵意"を向けていることを知らず知らずに予測した。


 「なんでここにいる…メビアの近くにいた方がいいんじゃないのか?。」


 「残念ながらメビア様は突然部屋から飛び出され、現在兵を使って捜索中だ。だが、何か重大なことが起こる…それは周知の事実だ。」


 「そんなんだからメビアからあんまりいい風に思われていないんじゃないのか?専属っていう肩書きがありながら当の本人は1番保険に走っているとか?。」


 「お前の戯言はどうだっていい。私からしたらメビア様の専属護衛に選んでくださった国王様が優先順位的には上だ。」


 「は……?。」


 「元々は国王様に捧げた命だ。貴様が驚くのは普通に考えればおかしいことだぞ。」


少なくとも俺が見てきた"主人に使える人"という像とは真反対だ。そういう思想が身についたとしてもメビアの見る目がないとは思えない。…演じてきたのなら尚更タチが悪い…


 「おかしいこと?。今従えている主人を大切にしない奴に言われる筋合いはこれっぽっちもないと思うが?。」


 「その言葉返してやる。国王様と会いもしなかった分際で、メビア様からの保護を受けている貴様に……理解できるはずがない。」


エリアは神秘を行使して水の槍を手から生み出す。そして明らかな臨戦体制を俺に見せこちらに大義を後ろ盾とした殺意を向けてくる。彼女が槍を俺に向かって振ると水圧が正面から襲いかかる。


 「そこになんの関係性があるんだよっ!。」


俺はそれを振り払い、エリアへと叫ぶ。


 「あるとも、メビア様と国王様を血の繋がった明確なご家族だ。国王様もメビア様にどこぞの馬の骨が漂っていたら振り解きたくなるものだ。」


 (分かってはいたがつまり最初から俺が目的か…まぁ正直この際どうでもいい…!)


 「じゃぁ、なんでメビアが調査に行くって言った時…お前も国王もどうして誰も手を貸してやらなかったんだか!」


 「メビア様はいずれ女王となられるお方だ。故に国王様はこれを試練と受け取ったのだ、そこに我々が挟む余地はない。」


 「それは言い訳だろっ!。それとも、なんだ……圧力がかかった程度ですぐに止まるほど頭が悪いのかよ?!」


 「国王様を信じていると言ってもらおうか。」


めちゃくちゃだ、っと思った。国王が死ねというなら死ぬ、それじゃまるでただの操り人形だ。

言ったことにはなんでも従う、間違っていない理論だが限度がある。現に俺の逆鱗を刺激するくらいには、、


 「っ……お前たちにとって国王様は絶対命令権を持った暴君かよ、」


 「言葉を慎め。国王様は我らが国を統括せし絶対的な海の王である。」


 (どこまでも妄信的な奴め。)


 「家族の心配もできない奴がっ!国の未来を本気で考えられるわけないだろ!いい加減にしろ…!!」


 「っそうか…そこまで口が腐っていたか、」


 「あぁそうだろ…未来を考えない国王が暴君以外の何もでもないだろ。」


 「2度までも口を開く、ならば国王様を侮辱した罪で貴様を………」


 「…っ!!」


 「今ここで殺す!!。」




『topic』


紅月はたとえ血が繋がっていようと繋がっていなかろうと、一般的な家族の常識すら守れない

人はあまり好きにはなれない…。


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