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隠話「紅月と予兆」

前回のあらすじ


城下町での日々に一転した紅月はプロイシーの人々から信用を勝ち取りつつ数日が経過した。

ルルカから工房の許可が降りたことを知り二人揃ってプロイシーの工房へと向かった。



 女魚人族の人に案内され、俺とメビアは熱苦しい工房からどんどん遠ざかっていく、肌の周りを覆っていた熱気は比例して冷たくなっていき反響して届いていた製鉄の音はいつしか聞こえなくなっていった。


通路を通って先ほどとは違う雰囲気を纏った落ち着いた造形の建物に入っていき、その中の一室へと俺は二人に続いて入っていった。


 (無視されているわけじゃなさそうだ。)


扉に入る合間の時間を考えれば自ずと見えてくること、エリアみたいにメビアを1に考えているという見方の方がいいのか?、いやだとしてもなんか対応が違う気がする。

まるで嫌っているとも嫌っていないとも、かえって変な目で見ているわけでもなく、。


正直、一二回程度の視線や意識感での探りが難しい感覚を取られている気がした。


 「どうぞお座りになってください。」


メビアが座ったことを確認すると俺もその隣に座った。相手は向かい側の椅子に座り手を膝に置きつつもその姿はとても侮れない雰囲気を纏っていた。少なからずプレッシャーをこちらが感じるほどには、、そして全然関係ないが人魚族が椅子に座る時はなんだか不思議な感じだ、思わず「どこら辺が腰なんですか?」と問いたい気分にもなってくる。


 「それでは、ご用件をお伺いしましょう。」


といいつつ女魚人族は俺に一回視線を送る。おそらく要件自体はなんとなく察しがついているがメビアの口から話させる気があるというまぁ変な話上手い人だなぁと思った。

それと同時に俺は部屋を見渡した、俺が今借りている家と同じような内装、だがこの空間には明らかな緊張感が無理にでも漂っている気がする、まるで交渉を前提とした部屋、何がこれから始まるのか予測するまでもない。


 「、、別にそんな堅苦しくしなくても良くない?。」


 「、、っぱそうですよね。じゃなかった、そうですねぇ〜。」


メビアが口を開きそう言うと砕けた口調でメビアの苦笑いしながら目の前の女魚人族はそう言った。


 (そういう関係か。ま、そうか。)


俺はこれに驚きはしなかった。前にメビアから片付けがどうとかで使えないと言っていたことを聞いていたので距離感的にはそんなに遠い存在ではないことがすでに読み取れていた。

今回だってメビアの父親が変に邪魔しただけでおそらく契約書なんてものは書かなくても気楽に来れる程度の場所だったのだろう。


変にプレッシャー感じだ自分が一周回って馬鹿馬鹿しくなってきた気がする。


 「でもほら、一度でいいから威厳あるところを見せたいっていうか続けたいっていうか、わかりません?。」


 「いや、わからなくないけど。少なくともあんなに大声で言わなくても良くない?周りの人達びっくりしてたじゃん。」


 「いつもキャラが定まってないんですから今更ですよぉ。」


 「キャラ?はわからないけどまぁ定まってないは、、。そうだね。」


二人が世間話のように先ほどの一連を話している間、俺はこの女魚人族について頭の中で整理を行なっていた。どういった距離感で接すればいいのかやどういう人柄なのかは常に探っておくのが大切だ。


 「で、メビア嬢の依頼は。」


俺と女魚人族の目がパチっと合った。


 「そのオートマタに関することですか?。。」


獲物を見つけたような好適な笑みで俺を見つつその女魚人族はメビアにそう言った。


 「知ってるんだ。」


 「そりゃあ…。製鉄が専門ですから、」


どこか勢いの削がれたような口調で女魚人族はメビアに自慢げに言った。変なNGワードでも踏んだのだろうか?、それとも単に知らなかったと思われていたことに少し傷ついたのか、どこか違和感のある言葉だった。


 「それじゃあお願いできる?。アズサだったらきっと私よりこの、紅月のこと知ってそうだし。」


 「えぇ。ですけど案内する前に、紅月って言いましたっけ?、彼に少し質問いいですか?すごく簡単なもので終わったらすぐに取ってある工房に行くんで。」


 「うん。私いない方がいい?」


 「ご自由にって言いたいんですけど。できるんなら、、」


 「全然いいよ。貸してもらうのはこっちなんだし、あ!でも変なこと聞かないでよ?。」


 「ありがとございます。、、ちなみに変なことって?。」


 「変なことは変なことだよ。」


 「うん?。はい、まぁ聞かないようにします。」


 「ならいいや。それじゃあ待ってるね。」


俺を抜きにした会話がドンドン進展していきメビアは退出。残った部屋にはアズサと呼ばれた女魚人族と俺の二人だけとなった。


メビアをしっかりと見送ったアズサは立ち上がり、窓の外に映るプロイシーの風景を両腰に手をつけながら見始めた。

俺と話を始めるというのに、まるで俺が椅子から立ち上がるのを待っているような雰囲気を彼女はだした。それにどんな裏が含まれるか含まれないか予想する子はいくらでもできる、しかし俺は立ち上がることにした。さもなくば話が絶対的に進まないと思ったからだ、


 「すぅ───。自己紹介をしましょう、」


立ち上がった音に反応してアズサさんはこちらを振り向き。


 「私は有野アズサ。この世界でいうプレイヤーと呼ばれる側の人だよ。」


 (やっぱりか。)


なんとなく予想はしていた。彼女の言動はメビアとの間に若干の差を感じたからだ、その差というのは例えにするならば現代人と大昔の人が言葉が双方違和感なくわかるという条件下で会話して時に成立しないような違和感。

現代では通じるであろう「キャラ」という言葉や略し語が向こうの人には通じない、そんな感じだ。


 そして俺の中で違和感で留めていたものを決定づけた瞬間はこのアズサさんがメビアでも知らないオートマタについて知っていたという事実だ。


俺がプロイシーに来てからというもの、メビアや他の人にもそれとなく聞いたことがあった。

「オートマタを知っているのか?。」という問いをかなり遠回しに、しかしいずれも答えはノー。一般的に知れ渡っている情報ではなく、それでいて王族のメビアですら知らないとなるともはや知名度は期待できないはずだ。

それなのに知っていた。


「製鉄だから」という言い訳もあの会話のあいだにあった変なで誤魔化しきれないところはある。メビアはすっかり気づかず騙されていたが。(まずメビアがプレイヤーというものがどういうものか知っていればの話だが。)


と、なると話は変わってくる。


 (変に出れば余計なことになることが直感通して伝ってくる。心当たり自体はある、のでここは、、。)


 「、俺は紅月だ。」


 [ジャラ!!ガシ!]


 「っ!!」


そう口に出した瞬間、俺の体はいつのまにか鎖に巻かれている状態になっていた。俺が直感で勘づくよりも早くそれでいてまるで用意されていたかのように、、。


 「、意外と秘密主義なんだ。鉄血の死神さんは。」


 (やっぱりそこか。)


俺につけられた不名誉で畏怖として知れ渡った二つな的なやつ。プレイヤーなら知っている人は多いとルルカに前に言われたが、、


 (いくらなんでも海の底まで知ってるとかないだろ。)


傍迷惑ったらありゃしない。よりによってこんな大事な場面で裏目に出るなんて…


 「、その感じ図星っぽいね。いやぁ私も一回や二回聞き齧った程度だったんだよね、超危険人物ってことを。」


 「───。」


 「あぁ、別にキルするつもりとかないよ。鉄血の死神を倒してみたァーっていうの証拠ありきで載せたって私が迷惑しちゃうから。」


それはそうで安心したけどよりによって自分の損害を本人の前で言う?。俺が迷惑な人みたいじゃん。


 「かといってバラバラにするのもなんか元に戻せる感じしないし。」


 (怖。)


キルより恐ろしいんじゃないのかソレって俺はこの時思った。


 「だから質問は一つ、どう答えたって自由だし結末は変わらないよ。」


 「。。。」


 「メビア様をどう思っている?。」


聞き慣れた質問。そう思ったのはこのアズサさんが口を開き終えた直後だった、、あらかじめ決めていた答えを口に出そうとした時、一瞬待った。


口を開き、しかしそこに何かを加えようと俺は魔が差しこう口にした。


 「俺はメビアのお兄様だ。」


人には人の求める答えがあり、それが総体的にどれがいいかなんてものはもちろん決まっている。紆余曲折あろうと問題の決められた答えになっていればマルをもらえる仕組みと同じだ。


 だが俺は今回それを逸脱してあえてギリギリ、マルにしてもらえるんじゃないかというていで答えを出した。


一歩間違えれば落ちない地獄行き、かたやアズサという人からいい評価をもらえる。

それだけのために俺は言ってやった。


 「───ふ、。アハハハ!!!」


 [ジャラン。]


アズサさんが驚いた顔の後に出たものはこの上なく面白かったと表現されたにこやかな笑顔だった。

そして俺の体に巻きついてあった拘束は雰囲気に合わさるようにとかれる。


 「─っ、いやぁ!人は見かけによらないね!。いやほんとそうくるとは思わなかったよ、アハハハ!」


 「正解か?。」


 「あぁ、大正解だとも。警戒したこっちが損したくらいには、、!」


アズサさんは先ほどメビアと話していたときのような人柄に一気に戻る。俺はそれを感じ取り椅子にもう一度落ち着きを取り戻すかのように座り、アズサさんも笑った時に出た涙を擦りつつ椅子に吸い寄せられるように座った。


 「っはぁ。ホント、紅月って聞いた時には身に死の感覚が走ったよ。正直どうなるかと思った、もちろん私がね。」


 「そんな覇気出してないんだが、、。ちなみにやっぱりその二つ名有名か?。」


 「そりゃもちろん。今じゃ【SAMONN】で大盛り上がり、ほら全身アーマーに包まれてたでしょ、最後まで誰も顔を見てない以上。みんな誰が紅月なのかって時点で考察飛び交ってたよ!。私も怖いなぁ程度に思っているところを本人が出てきたんだ!!、一気に身構えちゃったよぉ〜。」


 「なんか、悪いことしたな。」


起伏を激しくして自分の感情を伝えるアズサさんにここまでくるとなんだか申し訳なくなってくる。


 「いやいや、にしてもとんだシスコンだったとは。」


 「あー。」


 「おっと気を悪くしたようなら謝るよ、ごめんねぇーこういうところ私の悪いところでさぁ、よくリア友になんかも言われちゃうだよねぇ。」


ハイテンポでなしというか自分語りが続いていくアズサさんに正直ついていけない自分がいる。シスコンについて反応しようとしてもその前に話を戻すかどうかの選択肢が飛んでくる。一体どこから言っていった方がいいのか困る。


 「っと悪いくせそのニだ、話を大きくずらす。これ以上ずらすわけにもいかないからいい加減仕事の話に少し戻ろうか。


よかった。と心の中で思いつつ俺は先ほどのアズサさんとは少し勝手が違うことを頭に入れながら何も言わずに彼女の話を聞く。


 「今回の工房を貸すことについて、当てずっぽうでいうならそのボロボロの見た目をなんとかしたいってところであってるかい?。」


 「あぁ。あんまり時間はかけさせないつもりだし、設計図をすでにある。」


 「用意周到って感じか。ならよし、私もそこまで来たなら手伝わない理由は作れないからね。、ここにサインしてくれ、」


そう言ったアズサさんは紙とペンを俺に渡す。

俺はそれに適当なサインを書く、内容はあんまり見ないことにした、パッと見こちらに不利な要素が何も見つからなかったからだ。

今更だが海の中なのに紙は無事なのかと思う。それとペンも…


 「はい。これで正式に私の管轄下に入ったことになるねぇ〜。」


 「余計なちょっかいが出ないってことか?。」


 「そんな認識でいいよ。」


アズサさんは紙をぐるぐる巻いてプレイヤー特有のアイテムボックスに入れる。

そして椅子を立ち上がり扉へ向かって歩き始める。俺もアズサさんのその行動を見て扉へと向かう、


 「あ、話し合い終わった。」


扉を開けたアズサさんの前にいたのはいう扉が開くかどうか待ち望んでいたメビアであった。


 「えぇ!。中々いい人ですねメビア様。」


 「え、うん。」


アズサさんの反応にメビアは少し気圧されたような言葉を返し、アズサさんはメビアを横ぎりそのまま歩いて行った。そして俺が部屋から出ようとした時、



 「えと、紅月何質問されたの?。」


 「えっーと。装備のことに関してかな?。」


 「…ふーん。」


メビアは何かを察したような表情をして顔には不満の文字を挙げた。俺は絶対察したものが違うと思い弁解しようと口を開いくが。


 「メビアが思っているような事は多分ないぞ。」


 「、どうだか。」


ジトーっとした目でメビアは俺への不信感を心なしか上げたように言った。


 (今のは失敗だったなぁ。)


 「お二人、場所へ案内するよついてきて。」


そしてそんな俺達の複雑な心境を感じ取りもせずアズサさんは悠々自適に通路を歩き始めた。俺はこの人がきっと友達に他にも指摘されるところがあるんだなぁっと心底思いながら彼女の後をメビアと共に追いかけた。


 「アズサさん少しいいですか?。」


 「アズサでいいよ、敬語もなし私の方こそ紅月には会いたかったし。それでなんだい?」


本音はアズサとメビアの関係について話すつもりだったが、、今はそれよりも気になることがあったため俺はアズサが言い終えた直後に口を開きこう言った。


 「メビアにオートマタの事は事前に言ってなかったんですか?。貴方なら魔物の素材を渡した時点で気づいているはずだ。」


一回メビアを見た後俺はできるだけ声を静かにしてアズサさんにそう言った。


 「、まぁね。メビア様が引っ張ってきた時はまだその泡の膜がはられていなかったことになる。その間普通の人間なら呼吸できずに死んでいるところを生きているんだ、少なくとも呼吸を必要としないタイプだとは予想していたよ。魔物の素材を求めた点でオートマタって目星がやっとついたけどね。」


 「思ってたんですけど結構キレがいいですね。」


俺は微妙な心情を口に写したようにアズサへそう言った。


 「。ってのもあるし最近は貴方に見習ってオートマタ人口を珍しくなくなってきたからね。」


 「そうなんですか?。」


 「そりゃあ、プロプレイヤーの真似を初心者がするのと同じだよ。アンタはいろんな意味で期待されてるってことかな?」


プロプレイヤーと評されるには俺もまだ火が浅い気がするが、、だが俺が与えた影響がそこまで広がっていたとはあんまり実感していなかった。影響されやすい人が多いのかはたまた俺以外にも別の要因がバックとしてきているのか、一度ついた火が中々消えないのと同じ理屈だといいのだが。


 「で、なんで言わなかったかについてだったね。御法度なのさNPCに"余計な世界観"を与えるのは、、」


 「余計な世界観?。」


 「少し難しいと思うけどこのゲームのNPCはおかしいほど質がいい、中には私たち以上の切れ者だって少なくない、そういった世界観に合わない例えばSFみたいなものを布教したらどうなると思う?。」


 「世界水準が上がるとか?。」


 「ご明察。そうなったらここはもう【SAMONN】じゃない、別の世界になってしまうことがある。だからみんなが知らないことを私だけが知っていてそれを広めるというのもダメっていう暗黙の了解なのさ、」


世界観を守るために本来得ていることを秘匿する。知らなくてもいい世界があるっていうのとなんだか似ている気がする、余計なことを知って後悔したりめんどくさいことが起きないようにするのも知った者の役割ってことか。


 「ま!、別に知っていたって大した事は起きないと思うよ。私たちとこの子達じゃ世界の前提が違う。魔法や神秘がない現実世界こっちにできないことがあるように電脳世界そっちにもできないことはある。話の飛躍なんかも考えて一回で全てを知るなんて芸当はたとえ神様でもできない。でも私はこの世界が好きだから秘匿する、そうした方がゲームを楽しめるでしょ?」


 「、そうですね。」


少し暗い話になっていた気がするが、基本的に思うも言うも考えるも同じな気がする。理解できるのか理解できないのか、人によってどう態度を変えるのかとか、あんまり難しいことを考えいても仕方がない。

ただ自分がやりたいことを決めたことに習ってやっていく、それくらいがゲームの楽しみ方としてはあながちちょうどいいのかもしれない。

俺はそう思った。


 「ねぇ、なんの話?。」


メビアが首を俺とアズサの間に首を突っ込ませて話に入ろうとした。


 「んー、大したことのないただのしがない技師たちの話だよ。王宮生まれのお嬢様にはちっとも理解できないくらい難しめのね。」


 「な!私だって勉強すればそのくらいわかるんだから!」


 「かもしれないね!。」


アズサはメビアを揶揄うような口調でそう言った。メビアは自分がおちょくられていることを自覚しているようで少し怒ったような表情を見せつつ、アズサにさらにツッコミを入れて行った。


そうして賑やかな廊下をゆっくり歩き、ついに念願の部屋に辿り着いた。


 「ここが、あの暑っ苦しい工房とは違った最新式のニュー工房!。」


アズサは鉄でできた少し重そうな扉を両手で横に開き、中へ早歩きで進んで行った。


 「さぁ、ご覧あれ!堅物な国王様が書類なしでは絶対に見せてくれない黒鉄の工房を!!」


そこに広がっていたのは美しさと生臭さを両立した美しい工房。もう少し具体的に言えば道具一つ一つがまるで新品のガラス細工のように見えるほど美しく、かまどは一種の芸術作品錬成装置とも見て取れてしまうほど完美な造形、何一つごちゃごちゃしたものがなく、それでいて部屋の中には戦利品かのように今まで作られたものが壁に飾ってある。

ルルカの工房を見た時とは明らかに違った反応をせざる終えないほど異世界な風景は俺に驚きを与えてくれる。


 「おおぉ!。」


 「す、すごいよね?。」


 「もちろん!。設備は最新、使用者は私だけ!。個々として完璧なものを作ることができる私が夢見た世界!!、人に自慢でできないのが心残りな感じだったけど、誰かに見せることができるなんてやっぱり気持ちがいいね!うん!!。」


俺はそう高らかにこの部屋を紹介するアズサを横目に近くにあった武器を見ていた。ただ切るためにあるその大剣はプロイシーの芸術が加わりもはや1作品としての威厳すら感じられるほどだった。

つまり出来栄えに驚きしかなかったのだ、俺も1作品家としての目利きはそれなりにある。

プラモデルであっても人を斬る大剣であってもそこに広がりつつある世界は嫌でも理解ができる。


アズサがこれを作っていたと考えると現実とはまた違った形の世界が広がっているのだと思わず感心してしまう。


 「どうだい?いいところだろ。」


 「あぁ、凄くいい。ここなら求めているものが作れそうだ。」


 「それはよかった!。設計図があるんだっけ見せてくれよ、」


俺はアズサに持っていた設計図を渡した。思った以上の大きさにアズサは少し驚きつつも、両手をうまく使ってその場で設計図を自分の前に広げてみせた。


 「…。」


 「行けそうか?。」


帰ってこない返事に少しの不安を抱きつつ俺はアズサに聞いた。


 「っ、なにこれ。初めて見るんだけどっ!!え?、はぁぇ?!え、これは。なんというか、、」


 「。」


俺と設計図をちょこちょこ見ながらアズサは驚いた表情を見せる。そして持っていた設計図を俺にもみせられるように近づき耳打ちを始めた。


 「これ、本当にすごいね!。実際に見てないけどこれと同じくらいって考えたら優勝は確かに目指せるよ。本職は機械系だったりする?。」


 「いや、そういうわけでもないが。」


 「できれば企業秘密じゃなければ細かいところとか、どうやって作るのかとか教えて欲しいんだけどどうかな?。」


その言葉を言われて俺は少し迷った。迷った理由に関してだが


 『できれば企業秘密じゃ。』


 『なんでだ?。』


 『なんでって。お主が本当に優勝してしまったからじゃよ。こんなのオーバーパーツを誰でも持っていたらそれこそ世界の均衡が壊れかねん!。よいか!絶対にいくら信用できる相手でもみせてはならんぞ!エズと約束じゃ!』


このエズとの会話を思い出してしまったからだ。エズの言っていることには一理ある、だが今目の前にいるアズサはどちらかと言えばエズと同じ感性を持っている、なんならさっき本人の口から嘘偽りのない本音を聞いたばかりだ、真っ当な善意だけでもなんとか叶えたいと思ってしまう俺の心は今揺れに揺れている。


 「ほんっとできればでいいんだ。もちろんこんな物が溢れないように気をつけるからさ!先端だけでもいいんだ!特にこの装甲材とか!!」


 (これは、、なんかヤバそうだな。)


ルルカに言われた気がする先っちょとか先端とか何かと限定的な物言いで言ってくる輩は信用してはいけないと、、。


 (ここは申し訳ないけど。)


 「、すみません。一応これを考えられたのは一人じゃないんで、それに技術は盗むものって俺は思うんですが…。」


 「、、かぁ。それ言われたら押せないじゃん。でも確かにね、今のは私が悪い。プロイシーが誇る技術者が他種族に頭下げてみるなんて解雇案件だよ、それに技術は盗むっていうの私的にはかなり好きだし、うん!。今のは忘れて欲しい!!。。」


 (ふぅ。)


なんとか阻止することができた。俺は他の人からのお願いにそこそこ弱いことがあるんだよなぁ。騙されないようにルルカにたまに色々教わって入るけど、役に立つ日が来るとは微塵も思ってなかったルルカありがとう。


 「いいですよ。それよりここにある素材用意できそうですか?。」


 「おっとそうだね、ふんふん。うん、問題ないかな?この大型の魚の骨っていうのがあんまり理解できないけど、」


 「大型アームとして利用するんですよ。骨からの内部と外部装甲による補強の方がかなり効率がいいと思ったんですけど、」


 「なるほどぉ!。それならかなり硬い方がいいね。用意しておくよ!。」


アズサはそういうと、何かを取りに行くように工房の端の方へと向かって行った。そして入れ替わるようにメビアが俺の元へと来た。


 「私はそろそろ戻るね。エリアが余計なことしそうだから、」


 「あぁ。(それって黙って抜け出したってことじゃ。)」


俺がそう思っているとメビアはそそくさと少し慌てる様子で部屋を出て行った。

そしてまた入れ替わるようにアズサがこちらによってきて。


 「はいこれ。」


っと鍵を渡してきた。


 「ここの鍵か。」


 「そう!、なんならここらあたりにある扉全部に使えるマスターキーみたいなやつだからね。帰る時も来る時もそれを使えば楽チン。」


 「アズサはここによくいるのか?。」


 「そりゃここが持ち場だからね、滅多なことでしか抜けないから手伝って欲しかったりした時はなんでも言って。ほら、私としても盗みたいしさ、」


 「OK、わかった。それじゃあ早速今できることをしようと思うんだが、手伝ってくれるか?。」


 「もちろん、ない腕の分もしっかり働くよ!。」


遠回しに俺の腕のことを指摘したあまり笑えないブラックジョークをアズサは軽くそう言った。俺は苦笑いしつつまず全身の素の安定化を目指すべく自身の体の仮止めしてある部分や装甲を補うことにした。

ゲレームほどの専門的な場所ではないにしろ、それを十分に補える施設が揃っていたからか思った以上に早く修復が進んで行った。向こう(ゲレーム)では鉱石精錬システムがほぼ自動化されていたこともあり、自分の手で鉄程の固いものを打つという機会はあまりなかった。


アズサにそのへんはサポートしつつ、俺自身はいちメカニック的な立ち位置で出来上がっていったものを体に接続していく。それを繰り返しそこそこキリがいいところで一旦やめにして俺は性能のテストを含めた経過観察でその日は終わりにした。日という概念がどこまであるかわからないが、、



『topic』


基本的にプレイヤーはNPCに紛れて過ごす人が多い。

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