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隠話「紅月と水鉄」

前回のあらすじ


紅月が悪い。





プロイシーに来て数日が経過した気がする。なぜ体感かというと実際に日数を確認することができないからだ、いくらプロイシーの周りには澄んだ水が広がっているといっても海面までもが泥に沼れたわけじゃない。


透き通った世界のその先は確かに黒い異物が潜んでいることがわかる。


 (ここだとなぜか現実世界の時間がわからないからな。)


画面に映る表記を見て、若干の恐れとその感情を抑制するような意志が俺とは別に現れる。まるで洗脳でも受けているような感覚だ。


 (まぁでも流石にセーフティだってあるはずだ。ゲーム如きで大事になるなんてことはないだろうな、、)


それにメビアの言葉を借りるなら地上との時間にかなりの差があるともいっていた。

元々地上で生活している1日〜3日の時間が現実世界の1〜3時間ということもあり、計算するのは面倒だが思った以上に現実世界では大丈夫という事例が多い、どういう仕組みなのかと普通に問いたくなるが、


 (今はそんなことを『考える』のはやめよう。)


兎にも角にも、俺がここに来てから色々あった。具体的な進捗に関しては全くといっていいほど進んでいないがある種ここでの俺の立場というのが変わった気がする。


 まず、ずっとメビアの部屋にいるのもなんだから、という理由で城下町(?)みたいなところに家を一軒借りることになった、この行動に関しては正解だと思っている。


 『多分ずっと私の部屋にいたらさすがに、怪しすぎるし何より立場っていうのもあるし、、。』


とメビアが危険視していた通り、俺が移ったちょうどすぐに読んでもないのに兵士がメビアの部屋を訪れたらしい。

純粋に心配してきてくれたのか、王命なのかは本人曰く微妙なラインでの訪問だったらしくわからなかったこと、、それに加えて俺が城下町に移って時間が少し経過してみれば誰かに見られているような感じがしていた。

メビアに相談してみたところ神秘でみられているらしく、解くことはできないが注意しておいて損はないとのこと、


 『まぁすぐには来れないと思うよ』


と本人は言っていたが。本当に大丈夫だろうかといまだに心のどこかで不安が残るばかりだ、お前は専門家じゃないだろと言われたらそうなのだが、、。


 この一件もあってか俺とメビアの関係というのも変な方向で詮索される可能性があるということで、設定を設けることにした。


 『ある日突然助けてくれた白水馬の王子様!!』


という設定はあまりにも何ともだったので。


 『ある日突然拾った謎の知的生命体。』


になった。(メビアはこの上なく不満そうだったがぐうのも出なかったようで渋々承諾した。)


普通に地上人と書いて後で変な目にでもあったら弁解の余地はない。それこそメビアが地上人を匿っていたなんてことが流れたらとんでもない。ここでは地上人=罪人みたいな見方がいいのかもしれないとも俺は思った、正直気が引けるが。

ではなんて仮称しようとなるとこれまた表現が難しい、メビアがオートマタを知らなかったようにプロイシーではオートマタという存在自体がもはや新出生物的な見方だ、


 『オートマタです。』


 『うーん、絶対伝わらないよね。』


ということで、再度考え直し。

できるだけプロイシーの人たちに親しみがなく、かと言って何を指しているのか分かりやすく、それでいて間違った表現を使っていない仮称、仮称、、仮称…。

っと考えているうちに出たのが。


 『ある日突然拾った謎の知的生命体。』


という感じでこれになった。いいのが出るまで粘るべきかと、まぁそんな余裕ないし後にも先にもこれに落ち着きそうだからという理由で渋々決まった。

それだけで本当に大丈夫かな?と俺はメビアに言ってみたりしたが


 『私が新しいおもちゃ見つけたみたいな感じになったら特に気にしないと思う。』


という返答を聞き、なぜだかすごく納得してしまった。メビアが確かにそう言えば通せると自然に感じ取ってしまうほどにその言い分というか答えは適切すぎた。

本人はもう少し賢い言葉を張りたいようだったが、まぁそれは俺がいなくなった後にでもしてくれと思った。


 そんな経緯で立場と家を持った俺はいくらメビアの言葉とは言え人々から信用を勝ち取らなければいけなかった。

向こうからしたら変な生き物が勝手に移住してきて気味が悪い程度に思われていても仕方がないことだろう、閉鎖的な国であれば尚更異物は上の命令であってもよく思われない。


なので俺はどうしたかというと、城下町でしばらくボランティア的なことをするようになった。メビアはそんなことしなくてもいいと言っていたが、俺が変な噂立てられた時それは同時に連れてきたメビアのメンツにも関わることだったのでやることにした。それにここまでされてもらって何もないもしないのももはや今更の話で、工房の許可が降りるまで時間はかかる予定だったので俺はその間城下町で信用取りを行うようになった。


信用取りの具体的な内容といえば、時に配達、時に狩り、時に子供の面倒見と言って仕舞えば何でも屋みたいなことをやっていたせいでそこそこ多忙でいい意味で退屈はしなかった。

やっている最中も人との交流は続くものだし、何より評判がどんどん上がっていくのも身を思って感じることができていたため変にストレスということも気になるということもあまりなかった。ただ一つを除いて。


それは狩りの最中に『泥』の魔物と出会ってしまったということだった。そんなに強くなかったため容易に倒せるほどで終わったが、問題はそこじゃない。


メビアは泥の調査をしていると言っていたが、プロイシー付近には泥の痕跡自体があまりなかった。それこそメビアがプロイシーを大きく外れることにならないと遭遇しない程度には、、


しかし俺が遭遇した場所はプロイシーからさほど離れていない場所だった。俺自身も泥があれだけ海に広がっているのにプロイシーが無事なのは『神秘』などが関係して守られているのではないかと思っていた。

もし泥が海から発生したならプロイシーはとっくの当に泥に沼れているからだ、、しかしこの美しい空間を見ているととてもではないが何か別の要素が関係していると思いたくなる。


ちなみにメビアもプロイシーが無事な理由はわからないそうだ、故に泥という存在をじっくり調べることもプロイシーがなぜ無事なのかと考えることも調査項目には入っていたそうだ。


今回の一件をメビアに報告してみたところ、プロイシーも侵食は遅かれ少しずつ泥の影響が迫ってきているのではないかと仮説を立てた。俺もその仮説自体には事実性があったためいいと思ったが根本的な『なぜプロイシーが無事?』という形にはいきつかなかったため、警戒を怠らないという形でその時は終わった。


その一件から狩りに俺が赴く頻度も増えてきた。プロイシーの住人はどうやらあの泥に触れたらかなりまずいらしく中には神秘が一時的に使えないという状態にあわされたものまでいるようだ、ということですオートマタの俺が多くなったというわけ。


そのおかげで信用度もかなり上がった。自分たちの命を脅かそうとする奴をいとも簡単にノーリスクで後してくれるのだ、彼らからしたら俺を頼らざる負えないことに変わりはなかったのだろう。信用度稼ぎが目的のこちらにとってもそれは喜ばしいことだった。


そうし時間が経ち。


 「工房の許可が降りたよー。」


メビアが一つの契約書のような物を俺に差し出してきてくれた。書いてある内容は極めて厳重的なものばかりでどうしてここまで?という疑問が尽きなかったため


 「結構難しいこと書いてあるな。」


と思わず漏らした。


 「いやぁ〜ねぇ。お父様がちょこちょこちょっかい出してきてさー、意地でも使わせないみたいな意思があって、結果こんなめんどくさい書類まで書く羽目になっちゃってさ、、。」


 「工房一つも譲れないって感じか?。」


 「うーん、もっと深い理由があるって私はみてるけど。ま!考えてもしかたないよね、早速行こう、案内するよ。」


メビアに連れられ俺は念願の工房へ向かって行った。道中メビアに幾つか質問をした結果、工房はプロイシーの中で一つしかなく魔物の素材を使った武器や防具、また研究も行っている場所らしく。ある種機密の塊らしい、俺は国王、メビアの親がどうしてここを使わせなかったかが遠回しに読み取れた。


 (普通はそんなところが妥当だが。)


何か引っ掛かる。まぁメビアの言う通りそんな引っかかりも今の考えてもしかたない事項だったのでスルーすることにした。


 「ここが工房だよ。」


そのまま案内されたどり着いたところは他の建造物と一線を画した作りの建物。王城を白亜の城と例えるならこちらは山にある江戸城と行ったところ。ともかくそれほどまでに建物を覆っている雰囲気は段違いであった。


場所は王城のすぐ近くでありながら城下町からもさほど離れていないところ、前々からなんの建物だったかと不思議がっていた自分に聞かせてやりたいくらいだ、ここがその目的地だと。


 「ずいぶん様変わりな建物だな。」


 「まぁ、、ね。」


メビアは答えにくそうなふうに目を逸らしながら言った。まるで言われればその通りだねぇ〜的な感情で返された気分だ。


 「中に入ってもいいんだよな?。」


 「うん。」


俺がこう確認を取るのには少々理由があって。

実をいうと今対面している工房、、の扉。

どう表現したらいいか困るがとにかく大きい。いや本当に、、そのせいでこの扉開くのか?や本当に開けていい扉なんだろうか?っとこちらが悩んでしまうほどだ、


しかしここを通らなければ話をつけることもここにきた意味すら失ってしまう気がしたので、俺は扉を


 [コンコン]


怖くてノックした。


 [────ガガガガガガ]


扉は静かな海の中とは思えない重苦しい音を立てながら左右横にずれていくように開いていき、そして見えてくる風景と共に熱気が俺達に当たってくる。


 『〜〜〜〜!!』


 (ここは鍛治屋か?。)


体全身が燃やされそうな熱気、ガヤガヤしていて何を言っているのかわからない声、製鉄上にきているのかと錯覚してしまうほどのうるさい鉄鋼音。

正直この間メビアがここに素材をとりにきたという話が嘘のように聞こえてならない、こんな少女がここにくるのだろうかと疑いたくなるのとほぼ同義だ。


 (とりあえず進むか。熱いけど。)


そう思いつつ、俺は歩き出す。そして俺たちが入ったことを確認しきったところで扉は自動的に閉まっていった。どういった仕組みだよ。



 中に入ってまず第一に感じたことは熱いの一言だった。それもさっき門前で感じたような熱さじゃない、それとは比にならないほど高熱が金属でできたこの肉体を比にかけたフライパンのように熱していく。

背後からくる冷水の冷たさと前からくる熱気で調和が取れていた空間はもはやどこにもない。

こんな高温で良くもまぁ活動ができるわけだ、


 「紅月お兄様、なんか熱い、」


 「うん。ごめん。」


熱気に当てられた金属がどうなるか、もちろん熱伝導率の影響上金属が高温になりもはや俺自身一つの熱源と同等レベルの熱気を誇っている。


 「オートマタが熱変動大丈夫じゃなかったら今頃中の回路が焼き切れてるな。」


 「、、なんかそっちずるくないこっちは挟まれてる気分なんだけど、。」


 「挟まれたもあるか?、俺からしたら感覚がおかしくてどこも頭が痛くなりそうな熱さなんだが、。」


 「それはそうだけどやっぱり紅月お兄様が特に熱い。」


 「いやごめんって。」


そんな何気ない会話をしつつ俺たちは奥へと進んでいく。中でやっている行動は主に鉄鋼業に似た何かという感じだ。魔物の素材を青い炎に入れて加工して金属製の防具に…、


 「何あの青い炎?!」


 「え?あぁあれは水熱炎すいねつえんって言って水の中でも燃えることができる炎だよ。まぁ私は本物の炎見たことないからわかんないんだけど、」


 「、怖いな。」


遠目で見たら鬼火に見えてもしかたないほどにメラメラと燃える炎、そして何より怖いのがそれに恐れ知らずに手を突っ込む魚人族なんだが、、


 「この中で貸してくれる場所があるのか、。」


どこも埋まっているように見え、また俺たちが入れそうな雰囲気ではないところというのが俺からこの言葉を出す理由になっていた。


 「うん。一応アポ取ってあるから、まぁその本人が見当たらないとって感じだけど。」


 「責任者を探さないことにはってところか。」


 「うん、そんな感じ。」


探すと言ってもメビアしか会ったことがないとなるとだいぶ難しい、そして今ここにいる人たちの数を数えるのもまた難しいったらありゃしない。


 「メビア、手分けして探そうと思うんだが、何か特徴とかないか?。」


 「特徴、、特徴。」


メビアは悩ましそうな顔をして腕を組んだ。

そんなに特徴がない人物なのかそれとも言い表しづらい人なのか、、。


 「声が大きいとかかな?。」


 「、、今俺たちが聞いたら音や声よりかか?。」


 「ごめん、聞こえなかったもう一回。」


 「俺たちが聞いたら音や声よりも大きいのか?!!」


 「あぁ!うん多分一回でも聞いたら忘れられないくらいは大きいよ!!」


そんなバカなっと言いたくなる。ここにいるだけで熱気とうるささで頭痛が起こりかねないっていうのに、そんな二つを吹き飛ばすくらい大きな声の持ち主なんているわけ、、


 『メビア様ァァッッッッ!!!!!!!!』


 [キーン]


暴声、そう呼ばれても差し支えないような大きな声がこの広々とした空間を一気に静まり返させた。それと同時に俺の聴覚機能が一瞬フリーズした、(元に戻ったけど。)

モンスターの咆哮にも等しいほどの声は俺が思っていたよりもはるかに大きくメビアの言った通り俺の脳内に確かに刻み込まれた。


 「、見つかったな。」


 「あはは。次からはこっちに迎えにきてもらおっか、私もいまだに慣れないし。」


そして声がした方向を見てみると一人のガタイがいい女魚人族が周りの人々を押し捌けながらズンズンとこちらへと迫ってくるこれが標準的な歩き方なのか聞いてみたいと思った。


 「メビア様、お迎えに上がるところをわざわざご足労いただきありがとうございます。」


その女魚人族はメビアに綺麗な角度で頭を下げ先ほどの咆哮とは違った落ち着きのある声でそう言った。本当に同一人物だろうかと失礼ながら俺は傍で耳を押さえつつ思った。


 「いやいやいや、私が勝手に来たからいいよ。」


 「ハ。ありがとうございます。」


 (マジで同一人物だろうか?。)


 「それより、どこか落ち着いて話せる場所というか。場所とってあるんだよね、、?。」


 「えぇ!もちろん。案内しましょう。」


女魚人族はメビアを連れて案内し始めた。まるで俺の言葉自体眼中にないみたいな態度だったのがいささか思うところではあるが、これも信用と考えると納得せざる負えなく俺は二人の後をついていった。




『topic』


【水熱炎】は水炎石という石を叩くことで燃え上がった炎であり、主に水中での製鉄に役立たされている。

水炎石は海底火山付近で取れる石であり、少しの衝撃でも炎が吹き荒れることがあるため調達は困難を極める、反面一度入手してしまえば半永久的に燃え続けるので交換する事はあまりない。


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