隠話「紅月とメビア」
前回のあらすじ
海でシステムダウンした紅月は、見知らぬ部屋で目が覚める。何も分からないまま、下半身がヒレになっている現地人に殺されかけたが、メビアと名乗る第二王女にその場を助けられる。
人払いが済み彼女との会話を重ねていくうちにここが海の王国プロイシーであることがわかる。
「まぁ、人間じゃないからな。」
「そうなの?。」
「あぁ、オートマタっていうんだなこれが。」
「オートマタ?、聞いたことないけど。」
メビアは首を傾げて俺にそう言った。その言葉に俺は心底驚きながら
「知らない?のか。」
そう返した。
「うん。」
メビアの回答は変わらない、悩むようなそぶりをすぐ見せるも短くしてそんな顔も表情から消えていた。正真正銘に何も知らないのだ。
「そうか。まぁあんまり気にしなくていい。」
「そう言われると気になるけど──、そういえばオートマタさんの名前は?」
突然話が変わりメビアは俺にそう問いかける。
「俺?紅月。」
「紅月。変わった名前だね。」
「まぁそうだな。」
「どこからきたの?」
俺は一瞬躊躇った、これは出身地のことを聞かれているのか、それともここまでの旅路のことを聞かれているのか瞬時に判断するにはあまりにも情報が少なかったからだ。しかし別に真面目に答える必要はそんなにない、ここは適当に。
「ゲレームっていう、砂漠とオートマタの国から。」
適当な偏見だし実際にそんな肩書きがあるわけじゃないことはわかっていた。だがわかりやすく説明するなら時に自分が名付け親になるのも悪くはないだろう。
「ゲレーム、聞いたことないや。」
「そうか。まぁ俺自身歴史はそんなに興味がないから実際に国自体が何年前からあるなんて知らないし、特別故郷ってところでもないからな。」
これはただのゲームであって別に知らなくても生きていけるだろうというのが俺の認識だ。故に興味もないし知りたいという気持ちも探究心も中々湧かない。
「そうなんだ、じゃあ故郷は別にあるの?。」
「──、」
メビアのこの言葉から俺は彼女がこの『SAMONN』においてどういった存在なのか察した。エズの件もあったので淡い期待を抱いていたが、所詮はそんな程度だった。
っと俺は見切りを一旦心の中でつけ、メビアの質問を返す。
「結構遠くにあるんだ、残念だが名前がない場所で。」
「。。。」
そう言うとメビアは何かに気づいた様に黙った。俺はそんなに変な回答だったかな?っと少し考える、メビアの中で俺の今の答えが何かに引っかかったのなら、関係継続のためにも今度からはそういう会話を、、。
「寂しくないの?。」
「え。」
「故郷は遠くて、名前もないところなのに、寂しかったり、帰りたいとか思ったりしないの──?。」
「!、」
俺一旦口をつぐんだ。メビアの言葉が不意に別の意味に受け取れてしまったから。
俺の家は確かにここから近い、時間で言えば一分もかからないだろう。目を瞑って開ければそこは部屋の中、着くつかない以前にそこにすでに着いていたという表現が的確だろう。
だが、故郷というのは時に指すものが違ってくる。先ほどの俺は自分の家を故郷と定義した、単純に俺がそう思っていたからだ、だが今の俺は。
「そうだな、たまに帰りたいと思ったりする。」
「─」
「だが、あそこはまだ俺が帰るべき場所じゃないとも同時に思うんだ。」
「どうして。?」
「、秘密だ。だがいつかは帰ってみたいとも思う。」
俺はメビアに深くは伝えずそう言う。顔に出ているかもしれない、言葉に不意に含まれているかもしれない、だがこれで察してはくれるだろう。俺はあそこへはまだ帰れないということを。
「そうなんだ。」
メビアはそういうと、なんだか落ち込んだ様な表情を見せる。俺はやっぱり今度も言葉をミスったかなぁっと思いつつ適当に浮かんだ話題を今の流れから言う。
「なぁ!、メビアはどこか行きたいとかないのか?。」
「えっ。」
「見た感じあんまりどこかに行くなんてことはないみたいだから。」
「あ、うん。私は──」
俺はメビアの次の言葉を待った。しかし彼女は言いそうで言わなかった。口を少し開けるたびにまた閉じ、それを繰り返した。
なんとも含みしかない行動に俺はついに言葉を発してしまった。
「無理に、言う必要はないからな。」
明らかに人のやる気を落としかねない言葉、やはり俺は相も変わらず教えるのが下手らしい。
「うん。」
この部屋の空気感が悪くなり、俺はなんて声をかけたらいいかわからなかった。この雰囲気間から逃げる様に俺はアイテムボックスをひらき、エズが入れていた追加装備の方に目をやる。
「追加装甲と海中戦仕様の特殊スラスター。」
中に入ってあったのは特に珍しくないスラスターと装甲だった。どちらも海中戦闘に特化した仕様になっており、本格的な水中戦が考慮してあると読み取れた。
特にスラスターの方は大幅なテコ入れがされており、装甲と合わせることで水中での抵抗を5%までに抑えている。
つまりは地上での運用と何ら変わらない快適な使用感を味わえるというわけだ。
「──メビア。俺を回収する時、近くにあった槍は置いてきたか?」
「あ、うん、アレなら一緒に回収してきたよ。多分必要かなって思って、」
「でかした。」
メビアはそういうと部屋の奥に行った。おそらく槍を取り出してきてくれるのだろう。
[──エネルギー安定化。エネルギーの一定貯蔵を確認、低出力モードから安定稼動状態へ移行します。]
(さてこれからどうするか、ここで回収作業をしてもいいが、いささかパーツ不足だ。エズが持たせてくれたやつはいわゆる追加で装備するものであり、修復用のパーツじゃない。現地調達も視野に入れるか。)
「よいしょ、これであってる?」
メビアは体に見合わない槍を抱えながら俺の元へと運んできてくれた。槍は布で包まれており大切に保管されていることがわかった。
「ありがとう。」
俺はメビアから槍を受け取り、布を外した。少し損傷してはいるもののレールクローローガンは概ね状態が良かった。
今まで乱暴に扱ってきたぶんが響かなくて良かったと思っている。
(そんな簡単に壊れるように作ってないはず)
[──レールクローガンの耐久率89%]
レールクローガンの万全のデータを使って調べてみた結果が目の前に表示される。
細かい損傷箇所などが明確に表示されるため、これからやるべきことが俺の頭の中でどんどん明確化される。
(よし。)
「メビア。」
「なに?」
布を畳んでいる最中のメビアが耳だけ傾けて俺の声に反応した、もっとも耳というかヒレだが。
「ここから俺が気絶した場所まで案内できるか?」」
「できなくないけど。、、なにしに行くの?。」
「飛ばされた腕を回収するついでに、ちょっと魔物の素材が欲しい。」
流石に片腕じゃできることが限られる。そして装備の増強も含めた上で質量的な物質がいやでも必要になる。となると魔物を狩ってそれを素材として使うのは極めて合理的だろう。
「えっと、その状態で戦うの?」
「。そのつもりだが。」
多少リスクはあるにせよ、流石にこれ以上誰かの手を借りたりするのは気が引ける。それに現状メビアは助けてくれた俺に安全地帯を用意している、お返しとしては十分過ぎるほどだ。さっきの姉様の反応を見るに城下町に出ること自体あまりいい策とも思えない。
「腕一本ないのに?」
「片腕があるなら十分だ。」
「結構見るからに傷だらけだけど。」
「当たらなければどうということはないし。」
「当たったら?」
「まぁ多分おしまい。」
この状態だったらあの海老のプラズマ砲で一発だし、元々万全な状態じゃない。そのことを覚悟した上でいかなけレバならないってのが少し怖いが、、背に腹は変えられない。
「わかった。案内はする、でも私も連れてって。」
「──それって狩るのを手伝うってことで合ってるか?」
「うん!。」
この時俺の脳内は一瞬フリーズした。それはなぜか理由は単純だ俺はメビアのことを高貴で頭のいい王女認識していたわけだ、しかし今のメビアはまるで、、。
(無鉄砲お嬢様。)
そう表現せざるおえないほどだった。
「─いや、メビアは案内だけでいいよ。」
「でも一人より二人の方が絶対楽だし──」
「だとしてもだ。メビアは戦闘向きじゃないだろ?それにこっちは危なくなったらすぐ逃げるし。」
メビアが襲われて俺が救ったって形を考えるにメビアが仮に豪語したとしてもそんなに強くはないはずだ、あの海老とカニに手を出せないくらいには。
「うん。」
「まぁ目標はあくまで腕の回収だし。魔物の素材がそこら辺に落ちてるなら話は別なんだがな。」
そんな都合のいいこと絶対ないと思うけど。
そう思っているとメビは何かを考え出した、先ほどまで見せていた子供っぽい表情とはいきなり打って変わっていたので俺はちょっと驚きつつ、メビアの様子を伺った。
「メビア?。」
「、わかった少し待ってて。」
何か思いついたようにメビアは俺を置いて部屋を出てしまった。変なことをしでかさなければいいんだがっと心の中でまるで親のような視点でメビアのことを案じつつ、俺は区切りを置くように休むことにした。
休んでいる間、各損傷部位の修復プランを立てることにした。全体的な走行増加はもちろん、失った分の耐水圧性能の回復、それと見込める確率は低いが破損した左目の修復プランも一応立てておく。
その素材が入手できるかは不明だが、あまりにも暇な時間が長かったためそうすることにした。
・・・
「メビア様!」
私は部屋から出てきたメビア様から事情を伺ったしかし、なにが何でも理解できなく。今彼女の背中を追いながらそう叫ぶ。
「なに?」
メビア様は真面目な顔で私の方を向いてきた。期限が悪いと私自身察してはいたが今のメビア様からみて取れる表情は明らかに私を避けているようだった、不用意に声をかける引きではないとわかっていたがそれでも私は聞かざるおえなかった。
「─なぜあの者をそこまで?。」
言葉を選びつつ、それでいて彼女を刺激しない程度に私はそう言う。自分自身言葉選びは下手な方だ、それこそメビア様との仲は良くも悪くもといった程度だ。仲が悪くなるならないを含まず、今回ばかりは自分の疑問を知りたいという気持ちをしっかり彼女に伝えたい。
「言ったでしょう。私はあの方に命を救われました。それ以上に何の理由がありますか?」
「それは──しかしタダで助けたと言うにはあまりにもタイミングが良すぎます!それこそ地上人らしい狡猾な─!」
「なら尚更こちらは向こうの望んだ品を用意した追い返せば良いのです。」
メビア様の冷徹な視線が私の心に刺さった気がする。右側に広がっている見慣れてしまった青白い風景がまるで彼女の心を表しているように─。
私は時に置いて行かれたように彼女についていけなかった。そしてしばらくして彼女の言葉を頭の中で考え直した。
(メビア様はあぁ言ってはいたが)
おそらく彼女があの地上人を追い返すということは無い。私を指すようなあの瞳は確かに冷徹であったが同時にそれは私に限定的に向けられたものとも取れるのだ、私にあった発言をしたと言ったらわかりやすいだろう。
まるで自分の所有物に悪口を言われた時のような反応、私は彼女の瞳から自分の意思とは別の他人にかける音場のような空気を感じ取っていた。故に私はあの地上人に対して、不思議な感情が湧いた。
一種の探究心というものだろう。
(なぜメビア様をそこまでさせるか。)
そうして私は決して手を出してはいけないであろう彼女の部屋へ入って行った。その扉は簡単に開いたが私の覚悟は生半可ではなかった。
・・・
[ガチャ─バタン]
扉の音が聞こえ、退屈だった時間にも終わりが来たと不意に思った。考えた設計図の画面を閉じ、会話の準備を整える。ただいまの一言くらい言ってあげようと口をひらこうとした時違和感を感じた。
「─誰だ。」
ここは自分の部屋じゃない、死守する必要は最悪ない。しかし俺を少なくとも信用して部屋を出たメビアにはそれなりの恩返しをしないといけない。
「、驚いた。まだなにもしていなかったのだが。」
俺はその姿をしっかりと刮目した後、背後の背負ってあったレールクローガンを持ちすぐさま発射準備を完了して相手に向ける。
「おあいにくさま人を見る目はあってな、メビアがここに来たら足音のひとつくらいすることはわかってるんだ。」
「、本人が仮に許可したとしてもメビア様と付けることが懸命だぞ。」
「そうかい。ご忠告どうも、で何のようだ?」
俺は照準をずらすことなく目の前にいる『姉様』と呼ばれていた奴に向け続ける。明確な敵対意識は相手から感じられない、しかし時に言葉と行動が反転するように、今の不完全な俺にとっては相手の一挙手一投足が命に関わるほど重い。
「お前と話をしに来た。」
「話?問答無用で殺しかかって来たにも関わらずか?。」
「あぁ。」
即答。意思は十分とみていいのか、それともあらかじめこちらの言葉を読んでいたのか。どちらにせよレールクローガンを下ろす理由の一つくらいにはなりそうだ。
俺はレールクローガンの矛先を下ろすが決して手から離すことはなかった。
「それでいい。」
「───。」
何だか見下されているような態度で見られている気がする。が、それも仕方ないか、慕っている相手が変な奴を連れてきたんだ、怪しむだけでも助かってる方か、、。
「お前の名前は?」
相手はその辺に寄っかかると俺にそう言ってきた。断る理由が特になかったので俺はそのまま答える。
「紅月。」
「─紅月。なるほど、」
「変か?。」
俺の名前を聞いた瞬間、納得とはまた別の意味を変に汲み取られた気がした。ゆえに敏感になった様に俺はコイツに突っかかる。
「いや少し、程遠い名前だと思っただけだ。」
(ほ、程遠い?。)
拍子抜けだ、返ってきたのは罵倒でも肯定でもなく、まさかの距離的な問題。明らかな含みを入れた言葉だったが否定的に取るのは筋違いだと思う声のトーンだった、どちらかと言うと言葉に慈しみを覚えているような、、そんな感じだ。
「私の名前はエリアだ。見ての通り人魚族でメビア様の専属護衛の役職を賜っている。」
どうやら彼女はエリアという名前で、人魚族という種族らしい。前にルルカから聞いた魚人族と何が違うのだろうかと一瞬考えたが、彼女口から出てくる情報と言い慣れた自己紹介にそんなものは置いてかれた。
「専属護衛?、姉じゃなくてか?。」
「─メビア様がおっしゃっているだけだ。」
エリアは目を横に逸らしながらなんともいえない微妙な表情を浮かべた。
そして俺は思った、
(どこでもそういう人っているんだな。)
っと。
「なんだ?、その妙に生暖かい目は。」
「いや、なんとなく。」
「──。同情なんて生ぬるいものはいらない、特に地上人のものなんてのはな、」
エリアは俺の言葉を真っ向から切り伏せる様にそう言い放った。前々から言っていた妙な地上人嫌い、今回の言葉も含めて気になった俺は思わず聞いてみた。
「どうしてそこまで地上人を毛嫌いするんだ?。」
「、神秘を大切にしないからだ。」
「?、神秘?。」
「お前たち地上人にとっては馴染みないものかもな。お前たちでいうところの魔力や魔法と同じだ、」
俺たちが魔法って呼んでいる一方、人魚族とかでは神秘って言ったりするのかっと少し学習した気分になる、しかしこの偏屈的な態度を見るあたり話はまだまだ続きそうだ。
「私達は生まれながらにして海を生業としてきた。そして進化していく過程で神秘と触れ合い、今の私たちは武器やさまざまな道具を水から生み出す力を得たのだ。」
そう言いながらエリアは先ほど戦った時にも見せた様に周りの水を一刀の剣に形成して見せた。そしてなんの抵抗もなく剣先を俺に向けてきた、
「だが、お前たち地上人は神秘を道具の一種としてしか見ていない。生まれにして神秘と触れ合い、行使する力を身につけることができるのにも関わらず、中には神秘を使わないものもいる。身につけられるもの、持っているものに何も不思議と感じず、自分の生まれを幸福と知ることができず、結果恵まれた力を持っていてもその才を腐らせることをする。」
「」
「貴様たちのその体たらくな価値観はすでに我々の中で刻まれている。故に私は貴様たち地上人が嫌いだ。」
なるほど、要はこいつ、もしくはこのプロイシーに住む人たちは自分たちがどれだけ恵まれているか理解している、
また『そういった』経験がある。
神秘と呼んでいて地上では魔法と類似される、しかし彼らにとってはそれは尊重すべきことであり、魔法と同じにされたくない、それか魔法という概念で扱っている地上人が心底気に入らないってところか。
今回の話題、魔法に関しても神秘に関しても知らないことだらけの俺が毎回口に出せる内容じゃないことは重々承知だ、だが。
「それは偏見だと思うぞ、」
「なに?。」
「仮にお前がいうように地上人が神秘、を大切にしてなかったりそういう人たちがいたとする。お前たちの文化からしたらそれは多分肉親を嫌うような行動と差し違わないだろう。でも、それはそういう人がいるだけの話だ。」
「──何が言いたい?。」
エリアの圧力が剣先をなぞり俺に糸を刺すように伝わってくる。
この言葉自体を切り伏せたい気持ちが今寸でのところなのがよくわかる、だが俺はこの話を止めるわけにはいかない。
「よく人が間違える問題だ、総体的な意見を鵜呑みにして認識を決めつけようとする。俺が思うにそれは合理的だ、なんせ簡単だからな。だがお前が見たり聞いたり、実際に感じ取った人間はいわばこの世界のごく一部だ、ましてやその行動すらもしていないなら認識を改めた方がいい。」
「、抜け抜けと。」
「それと話をしに来たんだよな。ならしまえよ、その剣。」
「っ。」
エリアが俺に行ったように俺もエリアが提示したように言う。正直冷や汗をかいてもおかしくなかったが、なんとか剣を収めてくれて助かったと正直思っている。
「で、結局のところ本題は何だ?」
「は、、?。」
「話に来たんだろ?、なら流石に話題や目標を決めてきてるだろ。」
「──。」
エリアは不服そうな顔をみせ、少し黙った。俺に支持されるのがそんなに嫌だったのだろう、まぁ説教された相手を逆に好きになれという方がおかしい。
「見極めるためだ。」
「?。」
「貴様がなぜメビア様が信頼をおいて部屋まで貸したのか。」
メビアが部屋までっと言う言葉が妙に俺の中で引っかかった。言葉から察するにメビアは誰でもあんな態度をたとるわけじゃない、多分俺だけだったのか?。故にこのエリアは俺のことを疑っていた、助けたっていうことは知っているはずだから問題はなぜそこまで肩入れしているか、それが聞きたかったってことか。
、、本人に聞いてほしい。
「、で?どうだった。?」
「、それを今から確かめる。」
そういうとエリアは俺の目に明確に視線を合わせてきた。俺は今この部屋でまた戦闘が起きるんじゃないかと警戒して持っていた武器を強く握り身構える。
「そうか、。」
この部屋に張り詰めた空気が今にも爆発寸前なことをすでに知っていた。両者の手には武器があり、エリアの言葉の雰囲気を察するなら次の瞬間起こりうる事態が目に見えている、予想がある種確信に変わった瞬間でもあった。
「貴様は、メビア様のことをどう思っている?」
「───。」
呆気。俺の脳内にはその言葉浮かんだ、明確な殺意、明確な敵意、その二つを向けられ直感すらが次に聞こえる音は金切り音であると確信していた。しかし聞こえた音、いや声はとてもシンプルで裏表がないただただ呆気になってしまう質問だった。
「俺は──」
スッと言葉が出るように俺は口からそう出した。この言葉の続きを答えられると思った、なぜなら火をみるより明らかな答えだと思ったからだ、俺がメビアのことをどう思っているか、そんなのわかりきったことで本当に単純なことなのだと、。
「──っ、」
しかし言葉は詰まった。言えない、まるで言うと言う行動を禁じられているかのように俺の口から続きの言葉が瞬時に出ることはなかった、理性と本能のはざまとでも言うべきか、俺の直感が『』を推奨している一方、俺の頭脳は『』を答えとして出している。一つのものに本来あり得ないはずの二つの要素が無理やり融合されたような生物的不愉快を感じた。コレではまるで
(さっきとおんなじ。)
直感の働きが中途半端なわけじゃない、ポテンシャルで言えば平常だ。しかしなぜこのようなバグが見つかってしまうのか、何かを見落としているという気すら起きない。全てが不快で、全てが不自然で、なのにそれは普通なことで。、
(普通。)
今までであったら、何か適当な結びつきだったり理由付けができるはず、しかし今の俺にはその話題に対する答えも自分に対する答えも一時的に見出せない状態になっていた。、いわば『不自然』な若葉紅月なのだ。
[ガチャ]
部屋に扉があいた音が響き渡る。俺の脳内がリセットされたように、音の方向に顔を向ける。
「紅月お兄様、実はいい知らせが───。」
聞いたこともない単語を抱えながらメビアは俺たち二人の前にたった。エリアのことを認識していなかった正しく認知していなかったのか、手に持っている何かをいじりながら俺の方をまず先に向いた。しかしその次にはエリアの方に明確な視線を向けていた。
「エリア───。」
「メビア様。」
エリアを見たメビアはすごく驚いた様な表情を見せた、どちらかといえばそれば喜びというより少しの絶望を孕んでいたことを遠回しに暗示していた。
対してエリアはメビア様がきたことにさほど驚いていないような様子だった。ただきてしまったというだけ、それ以外のリアクションは特にしかった。
爆発はしなかった雰囲気に硝煙が纏う様に黒い煙がこの部屋に巻き起こって来ている気がしてきた
「どうしてここにいるの?。」
メビアの顔が大きく変わった。明らかな嫌悪をエリアに向けており、先ほど抱いた無邪気なお姫様という印象がまるでひっくり返ったような感じだ。
「紅月と少し話をしようと思いまして。」
エリアはメビアの明確な嫌悪には気づいているはずだった、俺が思うにそこまでキレが悪いやつではないはずだ。しかし今言った言葉にしてはまるで一個人が言ったと思えないほど機械的だった、ただただ忠実であり忠誠的であり、失礼だと思うが俺は横にいるエリアが一瞬、生き物とは思えなかった。
「、私の気持ち、理解できないわけじゃないよね。」
「───失礼します。」
エリアはそう言い残し、その場から退出した。エリアとメビアのもう一つの顔を俺はこの場で刮目した、人は見かけによらないというがメビアがエリアを姉様と言う理由の裏ずけが今の場面だけで困難に感じるほど、緊迫した雰囲気だったことには変わりない。実際にメビアはエリアのことを姉様とこの時この場面では言わなかった。
そして。
「答えは次会った時必ず。」
エリアが俺を横切って部屋を去るときにそう言い残したこと。そしてその言葉は彼女が去った今メビアと俺の二人しかいない空間を、いや俺の脳内空間に巡り続け変に賑やかにしていた。
「、エリアがごめんなさい。」
エリアの言葉にまたもや起こされた感覚を覚え、俺はその言葉に適当に浮かんだ言葉を当てはめる。
「いや、別に仲を悪くしてたわけじゃないし。」
「それでもこっちの責任でもある、エリアは現に紅月お兄様のことを殺しかけた。」
「──心配してるんだよ、メビアを。俺だって知人の部屋に見知らぬ誰かがいたらすごく警戒する、場合によっては盗みとかそういった類に見てもおかしくない。それと同じようにエリアも心配してるんだと思うぞ、」
「──、それはわかってる。だから後でしっかり話を聞くつもり、」
俺は余計なおせっかいだったなと思った。メビアは王女様だ、いつか誰かの上に立ち色んな人の意見を聞いていくのなら専属護衛の気持ちを理解していないわけじゃないはずだ。なんなら長い付き合いを経験しているなら尚更。
「それでいい知らせっていうのは?」
「あ、うん!実は魔物の素材が楽に取れそうなの。これ使えそう?」
メビアは両手に抱えていたに何かの欠片のようなものを一つ取り俺に渡してきた。俺は欠片を受け取るとしっれっとそれを分析にかける。
[───分析完了。クリファルネスの厚鱗破片。修復部位の補修から接続まで使用可能な柔軟性がある素材です。]
分析結果をざっと見た感じ、加工方法は熱による軟化が効果的だということや、他にも魔物のデータなどが記載されておりトカゲと甲殻類を合体したような見た目となっている。
耐衝撃にも強いと記載されてもいたので素材としては十分だろう。
「使えそう?」
「あぁ、十分だ。他にもあるか?」
俺は鱗の破片をメビアに返して、また違う尖った素材をもらった、見た感じつのっぽいが。
[───分析完了。ジューマスの鋭爪。衝撃性、電動性に優れていますが、熱変動には弱い素材です。レールクローガンの発射口による安定素材の一つとして使用できると推測。]
次にもらったのは石のような表面をした硬い板のような物、正直どんな魔物がつけていたかの方が気になる。
[───分析完了。アスラの甲尾。補足、アスラの尻尾は先端部位に鉱石結晶のような硬質化した鱗が無数についており尻尾を使った攻撃などが───]
(すまんとりあえず今は使える部位の提示を頼む。)
[─。アスラの生命活動が終わると硬質化は石質化し灰色となり耐久性は著しく低下します。]
(ダメじゃん!。)
[ですが、魔力を再び通すことによってアスラが実際に使用していたほどの性能になります。また石質化状態は加工しやすいため、加工し終わった後魔力を通すことで万能な使い方ができると予測できます。ペーパープランとして存在していた『改良型AMAM』の素材として実用段階の性能が期待できると思われます。─]
(AMAMっていうと、第二回公式大会に使ったAMAMのことだよな?、確か魔法に対して無類に強くて吸収効果があった。)
[──AMAMの弱点であった。質量兵器への耐久性に対する弱点をこの素材は克服できると思います。]
(肝心のAMAMは?、)
[─────────あくまで改造プランを提示しただけです。]
「なんじゃそりゃ!?」
「わっ!どうしたの!?」
メビアは近くの机に素材を一つ一つ並べていた手をとめて俺の方をびっくりしながら振り向いた。
「ぁーいやなんでもない。」
(で、何に使えんだ?)
[─この機体の戦闘データをまとめた結果、脚部位を用いた攻撃を頻繁にすることが多いので脚部位の装甲強化、レールクローガンは発射時に使用する内部電力は微量の魔力を含んでいるので、発射寸前で相手に攻撃するときなどに使えます。]
(ん?ちょっと待て、なんで微量の魔力があるんだ?。)
[──。。。フレームとコアから検出されるようです、原因は不明。]
(フレームは確かエズでも未知数って言ってたな、コアはぁ〜ぁーまぁエズが少し改良したんだろうな、あいつ研究大好きだし俺が知らない要素を含んでいてもいいか。、まぁ元々は俺の体のわけだけど)
自分のからであるのにも関わらず、俺は適当な認識でこの事実を逃した。別に何かこれが危険だという予感はしなかったし、魔力法衣が使える理屈もまだ謎に包まれていたので、同じ物だろうという認識で一掃した。
その後はメビアが持ってきた素材を一つずつ調べて、どのパーツに使えるか分析機能もフルに用いながら進めていった。どれも物珍しいものばかりであり、メビアには感謝しかなかった。
『topic』
紅月や地上人がプロイシーを訪れる際、地上人用の入り口を通っていくがこれには理由があり。
入り口には特殊な泡の膜が張られている、それを通り抜けるコトで自身の周りに酸素が溜まっている泡のような膜を身に纏うことができ、基本的に地上人はこれがないとプロイシーで活動することができない。
また、泡は特殊な神秘を媒体に生み出されているモノで物理的、魔法的な干渉は受け付けず、基本的に割れもしない。




