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隠話「紅月と泥の海」

この話は本編の『六十一話』〜『六十八話』の間に起こった紅月の視点を描いた物語です。


 より作品を深めるためにお読みください。


また、あくまで「少し詳しく書いた」という感じなので本編の方でざっくりとした概要は説明するつもりです。



意識が戻った時、俺は海の底にいた。目の前は真っ暗だが地上じゃ味わうことができない特殊な圧力いわば水圧に俺は無意識にここが海中だと言うことに気づき同時に、身の危険を感じた。

この機体は耐水圧加工が施されてある、よっぽどの深海じゃなければ、今耳に響く警報音は聞こえないはずだ。


 「っ───、」


俺は機体を動かし状態を意識的に確認する、独特の機械音がなり、自身の状態を分析する。

警報音が普段落ち着いている自分の心を急かす。


 [ピピ]


分析が終了し、目の前に報告結果が表示される。

機体の損傷率は55%、損傷部位は胸部を中心に全体に広がっており耐水圧管理機構に支障が出ていることがレッドマークで表示されている、また大きな文字で左目破損と書いてある。どうりで変に胸が痛くて視界が狭いと思った。


 (ここじゃまともな修復ができないな。)


スラスターに大きな損傷がないことを確認すると俺は手に持っていたレールクローガンを杖のように使い、地面から立ち上がる。

スラスターで地上に上がるという考え方が現実的だが、なぜだか俺の直感はそれを拒んでいた。泥に沼れた海にどんな危険が潜んでいるかわからないためまとになるような行為は避けたいっというものからくると俺は予想したい、だがもう一方で浮かんでいる考えは「今ここにいる自分という存在がとても例外に見える」という言語化が難しいものだった。


どちらにせよ、俺の勘が外れたことはない。俺は地上に上がるという案を捨て、わざと危険な海の中で安全地帯を探すことにした。


 正直言ってこの選択は俺を後悔させるに十分だったと思う、もし安全に地上に出られていたならルルカやウミ、そしてレナと簡単に合流することができたはずだ、そしてこの3人に辛い思いをさせずに済んだとも思う。

しかし生き急ぐ俺の思考にその可能性を考慮する分の容量はなかった。


 (──警報音が鳴り止まない。)


安全地帯を求めて進んでいる俺の脳裏にはいつもその単語が浮かんでいた。

スラスターは海水を取り込むことによって瞬間冷却がされるので、オーバーヒートを気にせずにまわせるのでかなり気楽だ。

しかしこの警報音はもはや不愉快だ、、だがこの警報音が鳴り続けている間は自分が一応無事だと言うことの裏ずけにもなっている、このジレンマにいささか複雑な心境にもなる。


 海の大地はゴツゴツとした岩ばかりだ、頭の中に思い浮かべていた幻想的な海の透明感と多種多様な海の生物はそこにはいない。全て泥に沼れた後のような酷い光景が広がっている、おかげでライトなしでは視界を保つことも難しいおかげで足元を見ずに歩くのは少し怖い、、。


 (無闇に彷徨っているのは流石にキツイな。)


しかし水の中から出るのは危険だと直感が告げている。だがこのままあてもなく海中で命を終わらせるのは流石に冗談ではない、。


 (一体どうしたら良いのか、。)


改めて自分に問いかける、直感から離れるように自分はこの海中にとどまることを選んだ、しかしそれを一時の感情に負けたと見れば今の選択を揺るがす要因にもなる。

この選択はなんのためになるのか、この選択は後で何につながるのか、、俺の直感は本当に正しいのか、、。

先ほどのルルカを助ける行動も、槍を投げれば済む話だったはずだ。それを俺はわざわざ自らを生贄にしたような攻撃で今ここにいる、、─冷静じゃなかったとか状況が状況だったとか、そういうのじゃない。


勘に突き動かされたと言った方が正しかっただろうか、まるでこの選択が全て最後には正しいものになるっと、まるでわかったように行動した。


 (くそ)


自分のことはよくわかっていたはずなのに、なぜだか今だけは真に自分がわからない。初めて自分自身と対立しているような感覚だ。


 [ピーピー!!]


 「それにしてもうるさいなぁ!!」


俺はあまりの鬱陶しさに声をあげ、一人海中内で孤独さを同時に感じる。


はずだった。


 [ッー]


頭に響く警報音の中で俺は何か別の音を拾う、。


 [っーっ]


それはまるで声帯を通して出した声のような、ともかく自然音が奏でられるものとは一線を画すような感じだった。故に俺の耳には警報音とは別にその音が区分けされて耳に入った。


 「助けて──!」


その声は間違いなく俺の耳に届いた。そして次の瞬間思考の海に俺の脳みそは落とされる。


 (人の声?いや、なんで声が聞こえる、オートマタじゃない限り水中で声を発することはできないはずだ、。、それなのに聞こえた、ルルカが言っていたプロイシーの住人か?、だとしてもこんな異常事態を理解できないのは危機感に欠けているとしか言いようがない、それこそ空耳だという可能性を疑っていない自分はおかしい、いや今のに『違和感』はなかった勘が反作用する時いつも気持ち悪いくらいな反発的な直感が走るはずだ。それが今回はないということは間違いではない、?、だがこれが仮に人為的に出たものだとして、俺の勘はそれがどんな持ち主かはわからない、それこそ罠だって可能性がある。海には人を騙す魔物だっていたはずだ、オートマタにそんな幻術が効くかどうかは…、いや大会の時のことを踏まえれば効くこともあるのか、だがピンポイントで俺に向けて言っている可能性は低いはずだ、しかし逆に俺にピンポイントで言っている可能性も否定できない、相手は海の魔物だ、ただ防水のシールを貼ったところで完全に海に適応できているわけじゃない俺とは違う、機械は生物じゃない、自己修復もできなく、脳も近いものをプログラムされているだけだ、本領を発揮している相手同士ならまだしも適性的には向こうが今回は上だ、それに装備の問題もある、ゲレームの近くには海がない、この装備のテストもきっと擬似海水用いてテストしたはずだ、つまり本場でやったわけじゃない、、迂闊に行動するのは御法度だ、加えて「助けて」という言葉、これが例の人を惑わす海の魔物だった場合俺は苦戦を強いられることは間違いない、装備の損傷率的に受けられるのは部位にもよるが2回以下が限界、よほどの雑魚敵じゃない限り幻術使いはこっちからのアドバンテージを取りやすい、そして不意をつくことにも例外なしだ、弱い部分を狙われれば最悪一回で堕ちる。じゃあ仮にプロイシーの住人が助けを求めていた場合は?、いやどっちにしろなんで「助けて」っと叫んでいるか予想したらわかるはずだ、おそらく魔物かその他の加害型知的生命体に襲われていると考えることができる。「助けて」の言葉的にもそっちの可能性が濃厚だ。)


圧倒的な情報量、一つのバケツに滝のような水が押し入れ込まれそして溢れ出て入れ替えられる。

今後の自分の運命を左右するターニングポイントっと言ったら良いだろうか、俺は「助けて」っという声にそれだけの価値とタイミングが無意識に仕込まれていると感じていた、故にいつも以上に頭をフル回転させこれを好機と取るか危機と取るか考えた。


 そして悩んだ末に出した答えは。


 「助けて!!」


 「っ!!」


俺は声が聞こえた方向に向かってスラスターを吹かし始めた。衝動的と言ったらそうなのだろう、だが俺はこの行動は自分自身で決めたことだと思っている、しっかり考えてリスクがあるということを承知で俺は今助けを求める方向へ向かっている。


先ほどまで利害がどうとか何が現実的とかで自分自身と争っていた気持ちはどこかに行っていた。よくよく考えれば分かることだった、


 (俺の勘は正解のヒントになる物を選ぶだけで正解を選ぶわけじゃないと。)


つまり最後に選択するのはあくまで自分、ただ勘に従えば間違った道を選ばないだけ。今のように勘が答えを導かない場合は自分が選択する時であると…俺は日常の中に忘れていた自分の法則を久しぶりに思い出した。


 海底の不安定な地形を俺は声が聞こえるの方へ向かっていく。声が近づいてきているところから俺は状況をできる限り汲み取る。

予測しうる可能性を想像して、次の場面を脳内で想像する。


レーダーに生命反応が三つ現れたところで、俺はスラスターの噴射を止める。そして感性をそのままに岩岩いわいわした地面を歩き現場へ居合わせる。


 「ひっ。来ないで。。」


その場には一人の子供とそれを襲う二体の甲殻類系モンスターが居た。助けを叫んでいた子供の見た目は俺が今まで見てきた人型で一番かけ離れていた、魚の様な尻尾が後ろの腰部から出ていることが何よりの証拠だ。

だが今の俺にとってもはや見た目はそれほど重要ではない、背後にある岩に寄り添って逃げ道をなくしたその子供を助けない理由には到底ならないのだ。


 (二体はこっちに気付いてない、)


いくら損傷した身とはいえ俺には確実に一体持っていけるだけの火力は備わっているはずだ。

今すぐ助けに行くというのも手だが、、今ここで2体を相手取ることができるのは俺だ、その俺がやられた場合を想定したら簡単には動けなかった。


 「ぅぅっ。っ、!」


子供は今にも涙を流しそうな勢いだった。俺はその声に呼応して今すぐにでも行きたい気持ちを抑え…、

そしてその行動が正解だと思うタイミングで、俺は飛び出した。


 2体の甲殻類はこっちの動きを触覚でいち早く察知していた、俺はその二体が完全に戦闘体制を取る前に1番近くにいた。蟹型の魔物の口にレールクローガンを押し込み二、三発打ち無力化させた。

我ながら呆気なかった、そのせいかもう片方の海老の形をした魔物に対して蟹を盾にするように向き合ったが、、。


 [パァァァンッッッッ!!!!]


 (!!)


海老がハサミを閉じる動作と共に、プラズマ波のような一撃が蟹の肉体を貫きそのまま俺の右腕を吹き飛ばした。


 (こいつっ!。)


俺は蟹の口に刺さったレールクローガンを引き剥がすため、風穴が空いた亡骸を海老に向かって蹴り飛ばした。

そして直ちに回避行動をとった。


 [パァァァァンッッッ!!!!!]


蟹の亡骸に風穴が空き俺の頬を掠め取る電撃が流れた。穴が空いたカニから見えるのは海老が左手に添えられてある巨大なハサミを今にも閉じる瞬間だった。


 「っ」


俺は地面にレールクローガンを差し込み、持ち手の部分を梃子の原理で下げ地面の岩をカタパルトのように海老に向かって放り投げる。

ゆっくりと進む岩を盾にスラスターで体制を整えつつ、エビとの距離を確実に近づけさせる。


 (打ってこれない?──そうか!。)


俺は海老の攻略法に気づいた。

それを試すために俺は現在周りに広がって落ちつつある岩の数々をレールクローガンで海老の方へ叩き押した。


 海老は近づいてくる岩に対してハサミで防御体制を取る、ハサミの一撃で岩を粉砕せず。それを確認すると俺はレールクローガンをバットに見立てそこにある岩を次々海老に打ち出す。


 (こいつは壊せるものにしか『あの攻撃』をしてこない、。)


つまりここにある岩は海老が壊せない類。しかし数に限りがある以上、この岩を用いるのは慎重に扱わないといけない。


 [パァァンッッッッ!!!]


岩と岩の隙をプラズマ波が駆けていく。回避行動を織り交ぜていなかったらおそらく横腹あたりに食らっていただろう、相手もタダでやられるほど落ちぶれてはいない、、いくら岩がこの戦いにおいて大きなアドバンテージを誇っていたとしても油断していい理由にはならない。


 (正確にタイミングを見極めながら、確実に仕留める。)


レールクローガンで岩を打ち海老にぶつける、そして合間合間に追撃のレールガンを入れ込み確実にダメージを与える。

追撃のレールガンと入れ違いに来るプラズマ波は予備動作の少なさと岩による射角の問題でまともに見切ることはまず難しい、神経をフル稼働させて相手の攻撃を一歩先に読む。


 [パァァンッッッッ!!!]


これができないとプラズマ波が容赦なく飛んでくる、今だって自分の首元を掠って行った。あの甲殻類に一体どんな射撃制度があることやらっと感心しつつ、命の危険を感じる。


そして、、


 「ッ!」


追撃のレールガンを入れた直後俺はレールクローガンを投げる体制になる。蓄積されたダメージは海老の殻にしっかりと跡を残している、赤い色が落とされ、白く削られた様な場所になっているところを見つけ、俺は岩と岩の間を縫う様にレールクローガンを投げる。


 [パァァンッッッッ!!]


しかしそれと同時に海老のカウンターが飛んでくる。プラズマ波は肩をかすめ表面装甲を削っていった、この時体のバランスは悪かったつまり良かった場合は顔に直撃していたということだ。


そして悪かった原因は間違いなく吹き飛んだ右腕。ある意味あの海老は自分の技で自分の技を外す羽目になったと言っても過言ではない。


 [ピン─]


俺は薄すぎるワイヤーを引き、レールクローガンを作動させる。

爆発音と共に海老は内臓にダメージをくらい、変わった色の血液を流しながらその場で直ちに動かなくなった。


 「──ふぅ。」


俺は海老がしっかり動かなくなるまで、待ってようやくため息を吐くことができた。相手の強さに関してはこちらより下だと思っていたので枚数差があったところで早急に済むと思っていたら…だが油断した。


 (するつもりはなかったにしろ、これじゃ笑われるな。)


誰に笑われるかはさておき、レールクローガンを回収する。今日の俺はやっぱり色んな意味で鈍っているのかもしれない、、。

そんな風に思いながら子供がいるであろう岩の方へ視線を向ける。


 (まぁなんとなくわかっていたけど、、)


子供の姿はなかった。それはそうだ、こっちがなんの申し出もなしに勝手に助けたんだ、地上人のことをあまりよく思わないのならこの場において逃げるという選択肢をとってもバチは当たらないだろう、特に子供なら尚更。


 (安全な場所について、少しは知りたかったが、、。)


仕方ないと思いながら、腕を取りに行こうとすると、、。


 「っ!」


俺は体の自由が奪われた様に片膝をついた。いやつかざるおえなかった。まるで何かの強制力に突き動かされたような、それでいてそれが嫌でも最善だと理解させられるような。


 (っ、そうかもっと早く気づくべきだった。)


命の危機に呼応するように俺の勘は鋭く現状を俺に伝えさせた。


 (俺はちっとも万全じゃない、それどころか動き一つ一つが危険を知らせてもいいくらい酷い状態だったんだ。)


損傷率55%、半分以上の機能がほぼ停止状態の中俺は『体が重い』程度の気分で立ち上がった。おかしい、どう考えたっておかしい、だって考えてみればわかることだ。

損傷率55%は明らかに大破状態、人間で言えば半身が動かないも同然だ。


たまたま各種機能だけやられていたとしてもいいとこ30%ほど、しかし55%は明らかに肉体的な異常が見られるはずだ。

それこそ痛覚モジュールを通して動けないほどの激痛を負っても。


 (だが、もし痛覚モジュールそのものがやられていたのなら。話は───別だ。)


体を動かしていた時に感じたのは『重い』というだけの感触、そして腕が吹き飛ばされた時脳頭にあったのは『吹き飛ばされた』っと何事も起こらず、感じなかった時の脳の回答。

俺は機械だ人間じゃない、アドレナリンが出て一時的に痛覚が麻痺するということはありえない、それつまりはモジュールが壊れていたことを暗示していた。


どこで壊れたか、そんなのはわかりきっている。逆に損傷率55%でモジュールが逝ってなかったら心当たりが本当にない。


 (─俺の勘が鋭いのはあくまで肉体の外部情報からのひらめきにすぎない。)


外部の情報が欠如または不安定な時、勘もまた比例して不安になる、今日の俺の調子が悪いのも、勘と変に対立してしまったりしたのも、全部これが原因だった。


 [バタン。]


 (勘に頼りすぎた、頼りすぎだった。おかげで自分でその場の状況を判断する時にこんなラグが生まれるなんて、、。)


ある物事をを一方に任せた結果それが突然無くなった時無力になる。人がよく教訓にする話題だ、そして俺は先代の人間たちがやったように過ちを犯した。


消えゆく意識の中で自身の体がこの後どうなるか、想像にかたくない。


 (これが仮に、)


肉体は地面に張り付き意識は吸われていく。


 (これが仮にゲームでも──)


鳴っていた警報はもう聞こえない。この過ちに気づいた俺にはもう必要ないっと、逆に言えば最初から俺を諭すためにあった警報は───。

、、何も聞こえなくなっていた。


 (──そうか、死ぬのは、怖いんだな。)


それを最後にテレビを消すのと同じくらいあっけなく俺の意識は無くなった。


『topic』


プロイシー付近の魔物は『泥』の侵食をまだ受けていない。

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