七十話「再会。」
前回のあらすじ
ウミとルルカは『アラハバキ』との戦いの合間をなんとか抜け出そうと考えていた。魔道具などを駆使して隙を作ろうとするも、鬼神の如く勢いで常に噛み付きに来る『アラハバキ』に防戦一方の二人。
『アラハバキ』は戦いの手応えの中二人の目的が撤退だという結論にいきつきさらなる力を解放する、、
『界変技───、無垢死調雑』
あらゆる感覚をバグらせ人を堕とすその技で『アラハバキ』はルルカを人質に、そしてウミを後一歩のところで追い詰める。しかし暗殺者の『アラハバキ』ですら予測にしなかったものが現れ、一瞬の内に戦いを終わらせた。
「本当に眠っていますね。」
私はお嬢様の近くにつき、じっと彼女を見ながら紅月様へそう言う。
「えぇ。、間違いなく俺が無理をかけたせいです、」
紅月様はお嬢様の髪を少し触り、そう言った。
表情に落ち着きの具合はあまりない、心配だからかそれとも貴方様自身がこの時間で何か変わってしまったのか。
「紅月様、私たちがいない間何があったんですか?。」
私は思ってもないことを口に出した。
理由は紅月様がどこかいつもと違った雰囲気を身に纏っているから、ただそれだけこんなもの感情論と言ったらそれまで、しかし聞かざるおえなかった。
「後で話しますよ、とりあえずもう一人負傷者がいるので。ルルカを運んでいけますか?、」
「あ、はい。」
体は先ほどよりか動ける様になっていて、その気になれば走ることも可能だ。私はスッと違和感なく立ち上がりながら紅月様へ返事を返した。
「それじゃあ、ついてきてください。」
紅月様は立ち上がってそう言い残し、私たちをその場に置いていった。私は急ぎお嬢様をお姫様抱っこし紅月様の後を追った。
「あの、負傷者というのは。」
「、、レナだ。」
「っ!レナ様が。」
私は驚いた。レナ様も同時奇襲を受けていたこともそうだが、紅月様の『負傷者』という言葉から予測できる通り、レナ様は深傷を負っている様に読み取れた。
そして私の気持ちが焦りながらもしばらくして地面に横たわっているレナ様を見つけた。
状態は
「っ!!レナ様!!!」
火を見るより明らかでそれはそればたとても酷い状態だった。
紅月様は、近くまで行くとスラスターを切り、レナ様の元へと駆け寄った。
私もいい具合でブレーキをかけレナ様の元へと向かっていく。
「、かろうじてって感じだな、応急措置してなかったら多分やばかった。」
「っ。大丈夫なんですよね?、」
彼女の痛々しい体を見ていると汗が出てくる。一体どんなことをしたらこんなひどい状態になるのだろうか、包帯や軽い布でカバーされてある部分からは、血の様なオイルが滲み出ていて先ほど安心していた自分を正直責めたくなるほどだった。
「えぇ、でもこのままじゃかなりまずいので。一旦運びましょう、」
片腕は頭を、もう片方のアームは足を支え、紅月様は微妙なお暇様抱っこでレナ様を持ち上げた。
「私がレナ様を運びましょうか?、。」
「いや、バランスには自信があるんで大丈夫です。それよりウミさんはルルカをお願いします、」
「、わかりました。」
私はお嬢様をしっかり抱え、紅月様の言葉に返事した。そして私達は本国のプロイシーへ向けて橋を進んでいく。
「プロイシーまで一直線ですけど、一応最悪のことに備えて案内しますね。」
紅月様は私の横を並走する様にスラスターを調整する。、紅月様の口ぶりから私たちの一連の流れをまるで読み取っていた様に感じた、だからこそなのかもしれない。
「やっぱり見ていたんですか?。」
「、、はい。」
私の言葉に紅月様は少し間を置いて返事をした。その間にどんな感情が込められているかは明白だっただがそれだからこそ、なぜという疑問が浮かんだ。現状を飲み込めていない私ならではのアホらしい質問だ、、
「その口ぶり、私たちを観察していたということですか?。」
「、、。勘違いしてほしくないですけど、行けるならいってます。」
「っ!そういうことではありません!!。」
私は紅月様の白々しい様な言い方に何も考えず条件反射し大きな声でそう言った。
「貴方のことを心配している人はいくらでもいるんです。お嬢様もレナ様も、そして私も、、ですからせめて教えて欲しかった、生きているって。」
お嬢様を抱えている手の力がほんの少し強くなった気がした。ただ私の意思がそのままトレースされている握る力、この時はお嬢様に申し訳ないと一瞬でも思わなかった。
「、、。そうですね、今回全部ひっくるめて俺の責任です、だから後でしっかりと説明します。ですから今はレナを助けることだけに集中させてください、」
紅月様の声はよく通っていた、普通に喋っている声。しかしその裏にどこまでの可能性や、言葉にできない意味が隠されているか、私は今その事情にやっと目を向けたのだ。
「、っ。私の方こそすみません、メイドとして、、。」
「いやウミさん、貴方は俺が見てきた中で。一番のメイドだと思いますよ。」
─失格、そう言おうとした時には紅月様の声が私を遮って放たれていた。私はその言葉に深く心打たれた、自分のやったことはちっとも間違いじゃなかったと紅月様がいない空間での判断、その全てを肯定されたのだ『バトル』メイドとしての行動を…。
「こんなひどい状況でもプロイシーなら安全な場所が用意できます、。ウミさん、お疲れ様でした。」
「…はい゛。」
私は泣いていた。緊張の紐が解けた意味でも、ここまで紅月様がいないという現実が終わった意味でも…心の底から安心した。
そして、
「ウミさん。」
「!、は、はい。」
「つきましたよ。」
プロイシーに到着していた、前の記憶があやふやで気づけば門前だった。気が落ちたわけじゃなかったはずだが、不思議と記憶は存在していない。
ただ本当に気づいたら目の前だった。
幻想的な海中王国がそこには広がっていて、私が今回の旅で認識でしていた海というものから一番離れた光景だった。ここにある建造物、一つ一つがまるで水で構成されているような美しい造形、地上では見ることがない、、認識から外れた多種多様な海の生き物、そしてそれと寄り添うように生きるプロイシーの人々、それこそ共存世界という言葉が似合うほどに。
私が見てきたどこらかしこも泥に塗れてあるはずの海の中でここまで透き通っている世界が存在したのか、っと圧倒される。
「、ここが。」
「門には話を通してあるので、行きましょう。」
「、はい。」
門は正直飾りの様な感じが強かった。そこに城壁は存在せずプロイシーの住人はそれぞれ自由なところから本国に入る、この海で生きる生物も同様だ。私たちと泡で隔たれた先にある光景、地上のすべての認識が効かなくなるであろうと私は薄々感じていた。
門前まで行くと門は勝手に開き、私たちを通してくれた。いとも簡単に開いてしまう門に門としての役割を問いたくなる、「話は通してある」っと言っても何もこうも簡単に開くことはないのではないのだろうか?。っと思うもあまり深くは考えなかった、、
門番の人は体の一部に鱗が付いていて別世界の住人みたいな感じだった。
本人達は逆に私たちに対して全く興味を示さず、まるでそこにただいるだけのマネキンの様だった。
【SAMONN】の住人は表現豊かが売りのはずだが、、ここまで無表情だといっしゅうまわって少し不気味だな、っと思いつつ私は紅月様の後を追って少し早歩きで門を潜っていった。
そうすると門を潜った私たちに空気の膜が全身を覆うように張り付いた。私は驚きを隠さず、自分自身をキョロキョロとしていたところ。
「その膜は地上人専用のやつですね。ここに住む人たちは、ほら。」
紅月様が上の方向いて私にも見るように促す。私はその視線に従い同じく上を見るすると、、
「──!。」
私は目の前に広がる海の王国に思わず言葉を漏らした。城の外から見た光景は実に圧巻だった、しかし本当の姿は国の中にあったんだと私は認識し直した。住人が空を泳ぎ、私たちから遠く離れたところで幸せそうに過ごしている、自由自在にこの空間内を泳ぐその姿はまるでお伽話の世界を体現し尽くされた様子だった。足がヒレの人もいれば人型であるが全身に鱗がついた人もいる、私たち地上人のように海の人だけでも様々な種類がいる。それを打ち付けられた気分だ、
「これは、、すごい。」
「あぁやって上というより水中を通っていく都合上、門とこのは膜地上人専用なんですよ、まぁ郷に入っては郷に従えって感じですね。」
「私達は従う側ですかね?。」
「まぁ、元々寛容的じゃなさそうですし、。」
確かにっと私は感じる。先ほどから私たちを見る視線がすごく刺さる、地上人が物珍しいのかそれとも紅月様が言う通り寛容的ではないのか、、
「プロイシーのこと、案外ご存知なのですね。」
紅月様がわざわざプロイシーに行くと言ったのもかなり訳ありな感じがする。先ほどの口調から推測するに私たちと合流する前にプロイシーに来て、もしくは何かした。それが容易に読み取れてしまう、、
「案外って、まぁそのこともひっくるめて後で説明します。」
私は収まりのない心を胸に紅月様の後についていった。迷いのない様な紅月様の動き、そして周りからの視線、気になることが山積みの状態、ただ今の私には紅月様を信じる以外に方法も解決策もないともわかっていた。
そして少し歩き、一つの建物の中へ紅月様は入って行った。そこにドアは存在しなく建物の外観は巨大な貝殻を加工した様な感じでまず建物と呼べるのかどうかすら怪しそうだったが、先述した通り私は彼の後を追い建物へ入って行った。
内装はいい意味で芸術的、悪い意味で意味っぽかった。花瓶を模すかのように置かれているツボからは海藻が出ているし、変な海洋植物が天井から吊り下がりまるで電球の役割を代わりに果たしている様な感じで、入った瞬間から落ち着いた雰囲気を纏うことは困難に等しかった。
地上人の感性と海洋人の感性の違いというのをこれだった一部屋でよく感じる。少なくとも地上のメイドである私からしたら受け入れがたかった。
そして紅月様は何も言わず、開いている二つの石の上(おそらくベットだと思いますが、、)にレナ様を置いた。もう片方に誰を置くかはもちろん察することができた、問題は私が石の上にお嬢様を置くというこの行為に若干の心理抵抗があったということだ。
しかし地面に置くよりかはマシという感性は備わっていたので、あんまり乗り気ではなかったがお嬢様を石の台の上へ寝かせた。
「俺はレナを起こすために少しいじるので、ウミさんはルルカをお願いします。」
「言われるまでもなく。」
「、、怒ってます?。」
「そう見えますか?。」
「─いや。」
紅月様は気まずそうな顔をしながら、レナ様の機体へ触れて行った。応急処置をしていた包帯や布をゆっくり丁寧に解いていき、端から順に修復作業へ移って行った。
私は紅月様がどんなことをやっているのかいまいちよくわからなかった、もちろんそっち(機械的)の方の知識が乏しいという意味が9割以上だ、そのせいで胸の蟠りが大きくなって行くのを確実に感じていた。
「それで話してもらえますか?、。」
お嬢様もレナ様も起きていない、チャンスは今しかないっと思い私はそう口にした。
紅月様は動かしていた手を一旦止め、何かを考える様にため息をつき、口を開こうとした。
「実は──、」
紅月様が話しはじめようとした時、。
「みんなー!!紅月様がいたわよー!!」
『キャァー!!』
突如として入口方面にプロイシーの住人と思われる女性達が集まってきた。一人の掛け声と共に現れるそれはまさにどこぞのシーンを手本にしたかの様に完璧な流れだった。
「紅月…様?」
私は『紅月』の名前を読んだわけではない、ただなぜ紅月様が、尊敬の念100%で赤の他人から『紅月様』と呼ばれているのか純粋に疑問を持ったからだ、その疑問は私の中で1〜2秒程度のフリーズを起こさせるに十分な衝撃だった。疑問と同時に私は一種の怒りに等しい感情が胸の奥に湧いた。しかしそれも数秒後には跡形もなく吹き飛んでいた、
「紅月様、なんだか難しそうだわ。」
「紅月様誰と一緒にいるのかしら?」
「誰だって関係ないわ!紅月様は常にみんなのアイドルよぉ!?」
「もしかして!恋人だったり?!」
「こら!紅月様SST(好きな人がすでに付き合っていた)概念はまだ早いって言ったじゃない!ジュリアが失神間近で呪言の様に紅月様の名前を連呼してるわ!!」
「アカツキサマアカツキサマアカツキサマアカツキシマアカツキサマアカツキサマアカツキサマ─。」
「ジュリア!落ち着きなさい!まだあなたのバトルフェイズは終了してないわ!!もうくっついてるなら醜い地上人の様に奪い返せばいいじゃない!!」
「地上人を悪くいうのはやめなさい!!彼らの書いてる本はなかなか奥が深いのよ!」
「貴方転生系しか読まないくせに何を語ってるのよ!」
「地上人はね!NTR(寝取られ)なんていうとんでもない呪言を生み出したのよ!!思い出しただけでも殻に篭りたくなるわ!!まんまの意味でね!!」
「私たちが(紅月様を)寝取る分にはいいんじゃないかしら?」
『アンタはちょっと黙ってなさい!!』
「──」
私は思った。誰かかの状況を説明してください!っと、、ただそれだけ、先にあった複雑な情報過多な疑問や怒りに等しい感情はもう無くなっていた。
そして少しの興味本位と独特な心情を心に私は紅月様の方を見た。
「っぅ。」
紅月様は頭に手を置いて言葉にできない言葉、ため息にすらなっていないため息を口から絞り出すように言った。私の脳裏にあった紅月様への疑いというのは薄まりここまでくると逆に同情の念が浮かんでくる。
「あの、。」
「、いや止めてきます。」
まだ何も言っていなかった私だが、紅月様は分かっていた様で、いまだに論争(?)を続けている女性達の中に単身、それもとても悩ましそうな顔をした状態で乗り込んでいった。
そして紅月様が身振り手振り少しした後、女性達は求めていた回答を得た様な満足げな顔をして私の視界から全速力で消えていった。
戻ってきた紅月様の表情は無だった。
「、あれもしっかり説明してくれます?。」
「───気が向いたらでいいなら。」
紅月様の回答が飛んできて私は初めて今の質問はかなり卑怯で尚且つ気にしない領域のものだったなっと理解した。
もう少し早く気付くことができたら、紅月様の死んだ様な顔を見なくて済んだのかもしれない、それほどまでに今の紅月様は酷いテンションだった。
そして紅月様はレナ様の修復を黙々と始めた。
私はさっきの件の後だったからだろうか、それとも紅月様の雰囲気があまりに真面目すぎたからか、頭に変な疑問が浮かぶことも無くただただ凍りついた様な雰囲気に従って無言のまま気を読み続けていた。
「ぅん、寒い。」
お嬢様はそう呟きながら起床した。まるで熟睡から目覚めた様な大きなあくびをして、石の上からスッと起き上がった。私は雰囲気的にお嬢様の起床に対して大きく喜ぶ様な態度は見せられなかった、というかまず「あっ、お嬢様起きた。」程度のリアクションしか出なかった。
「ウミぃ何時ぃ?。」
私の姿を細めで見ながらお嬢様は寝ぼけながらそう問いかけてきた。現実でいつもお嬢様が私に聞いてくる言葉と全く同じな言葉で全く同じトーン、私は勢いに流され。
「お嬢様、今は──」
時間を言おうとしたが、そこに時計はなくただの壁だった、どうやらお嬢様だけでなく私までボケてしまったようで。
「──、あれ?ここ私の部屋じゃなくない?。」
「今更か?。」
お嬢様の言葉に紅月様は反応した、そしてその言葉に顔を傾けお嬢様は数秒固まった。
お嬢様の固まりと視線に違和感を感じたのか紅月様はお嬢様の顔を見て、
「─、えっとルルカ?。」
っと一声そして次の瞬間。
「──おに、お兄様?」
「─、うん。」
二人は固まりながらそう言葉を漏らし、お嬢様は目から涙を流した。唖然とした顔はだんだんと泣き顔に変わっていき、、
「っ!!お兄様ぁーーっっ!!!」
「ぅおわぁっ!?」
紅月様へ飛び込んでいった。レナ様の上を飛び越えて、お嬢様は紅月様を地面に突き倒す。
「っ、ルルカ、もう少し飛び込むのをな─!」
「っ、ぅぅ。」
お嬢様の何を言わない泣き言を聞いた紅月様は、倒れた体をあえて起こさず諦めた様に脱力する。お嬢様の背中にそっと手を乗せただ天井だけをみた、、
私はその二人に近づき紅月様へこう言った。
「私が言った意味伝わりましたよね?。」
「、えぇ。そうでしたね、そうでした。」
紅月様はそう答えてお嬢様の涙を胸で受け止め続けた。少し経って、紅月様はお嬢様を引き剥がしレナ様の修復作業に戻った。
お嬢様もレナの重体を理解し、紅月様から任意的に離れた、そして私はそんなお嬢様に現状私がわかる情報を全て伝えた。
紅月様がきたこと、ここがプロイシーであること、そしてお嬢様が眠っている間何が起きたことも、、。
「うぅ、。」
全てを聞いたお嬢様はすごく申し訳なさそうな表情をしていた。無理もない、、自分はただ眠らされた挙句、ここまでの大事があったのにも関わらず起きなかったのだから、
「きっと、疲れが溜まってただけですから。それに私もそこまで気にしてませんでしたし、、」
「でも睡眠薬とかなしにその、、爆睡しちゃってて。それに起きた時の態度なんて、、もうお兄様になんで顔向けしたら」
「勝手に殺すなー。」
「多分紅月様は気にしてませんので大丈夫ですよ、それにしてもなんともなくて良かったです。」
紅月様の言葉が何か聞こえた気がするが、とりあえず無視して私はそう言う。お嬢様のことは心配であったしかしいざこうして以前と変わらないお姿を見せてくれるのであればこれ以上に嬉しいことはない。
「それで、レナは大丈夫なの?。」
お嬢様は紅月様へ話を振る。紅月様はレナの機体に集中しながらこう言った。
「多分。動力部分は無事だし予備動力も少しかすった程度、体の機能もほとんど回復状態になってるから─、俺の魔力核のエネルギーを送りさえすればいつでも目覚められるっちゃめざられそう、、。」
やっと終わった、という顔をして紅月様はレナ様の機体を一通り見た後私たちの方へ語りかけた。
「エネルギーなら、任せて!さっき少しやったから。」
「ルルカ、」
「ん?なにお兄様!。」
「、、─やりすぎるなよ、」
勢いのままに行動することを懸念したのか紅月様は少し慎重な顔をしてお嬢様にそう横槍を刺した。
「うっ、レナにも言われたけどわかってるよ。」
そう紅月様の言葉を振り払いながらお嬢様は、レナ様の心臓部へ手を置く。そして一回の深呼吸の後、、お嬢様の周りには近寄りがたい雰囲気が無意識に集まっていた。
まるで魔法使いが今にも何かを成し遂げてしまいそうなそんな盛大な雰囲気、、普段のおちゃらけなお嬢様からはあんまり想像できない様な特殊な空気をいまの彼女は纏っていた。
そして目を瞑り静かに押し付ける手をゆっくり離した。離した手とレナ様の機体の間に明確に具現化された魔力の渦が見えた、あれがお嬢様の新しい力、、私は思わずどんなことが起きるのか目を開かせたまま刮目した。
「────、おりゃあっ!!」
「───ギィンヤァァァアアアッ!!!」
なんと力技、お嬢様は先程の雰囲気を台無しに持っていくほど場違いな声を出し、魔力の渦を思いっきりレナ様へ押し込んだ。
次の瞬間、この耳に届いたのは絶叫。レナ様の無慈悲なる叫びはこの部屋だけでなくプロイシー全体に届いたのではないかと錯覚してしまうほど大きな声だった。
「おい!」
紅月様はお嬢様に対して声をあげる。それはそうだ慎重に尚且つやりすぎない様にしてくれという願いは確実にお嬢様に伝わっていたはずだしそれをお嬢様自身理解していたはずだ、しかし明らかに今の行為は慎重性が仮に評価されてもやりすぎないという観点にしてみれば赤点もいいところだ。
「だって難しいんだもん!それにレナは壊れなかったじゃん!!」
「それは今時テレビを叩いて、言い訳しているおばあちゃんのセリフなんだよなぁっ!」
「まだ15歳だよ!!」
「知ってるよ!!」
「っ!!アンタ達いい加減にしなさい!!目覚めが悪いったらありゃしないわ!!」
そうしてまたもこの部屋は混沌を極めた。痴話喧嘩をする兄妹、乱入する先ほどまでズタボロだったのにも関わらずすっかり元気を取り戻したレナ様。
そしてそれをただみているだけで何をどうこうしようとは思わない私──ぃ
「う゛っ。」
『あ、』
私の顔には明らかな質量を持った石(?)が投げつけられた。幸いそこまで痛いわけではなく、まるで感触は枕の様な感じだった。お嬢様に遊び半分で投げられた枕の感触を思わず思い出してしまうほどに、、。
「─、スゥ。皆さん、、」
『───。』
「物を勝手に投げてはいけませーーン!!」
前言撤回、私も正直思うところしかありません、なのでご当主様申し訳ありません。このウミ僭越ながら大乱闘へ参加させていただきます。
こうしてプロイシーに来た私たちは互いの元気の良さを確認すると同時にその一角でとてもしょうもない争い事を始めてしまった。
この国に住む人々へ心からの謝罪を申し上げます。
そして無論、争い事はそう簡単に終わるはずはなく私たちはしばらくの間玄関が空いていることに気が付かず大声で互いの不満をぶつけ合っていた。そして取り付く島もなく永遠に続くのではないかと思うほど勢いが削がれず私達の言い争いが始まってしばらく経った時、客人が来た。
「あの!紅月お兄様いらっしゃいますよね!!」
その時まるで嵐が一瞬にして消え去った様な雰囲気が部屋を包み込んだ。言い争っていた私たちの声は明らかに自分たちより小さい声の一言によってかき消されたのだ。
その場にいた誰もがフリーズした、「紅月お兄様」という新出単語によって私たちの頭は一時的に機能停止に追い込まれた。
目の前の幼い見た目をした魚女子は私たちの落ち着き具合に、「えっとー」みたいな感じに変に困った様な態度を見せた、私たちが全員その子供の方向を向いているという事実に関連しているのはもはや明確だった。
「あ、メビア。」
「あ、どうも紅月お兄様。」
『──え?。』
「え?。」
「え。、、」
どうやら私たちは紅月様の話を聞かなければならないらしい、たとえ本人が望んでなくても、、事実を早急に…ここにいる面々が正気を失う前に。
『topic』
プロイシーには基本的に魚人族と人魚族の二種類が多く暮らしている。魚人族は魚が人になった様な形(顔は魚より)人魚族は上半身が人、下半身が魚の様な見た目、ぶっちゃけ見た目以外に見分ける方法は少ない。




