六十九話「禁句《2》」
前回のあらすじ
レナとネルは姉妹喧嘩ならぬ姉妹死闘を始める。
ネルの挑発を機にレナは猛特攻を仕掛け確実に殺すつもりだった。
しかし薄っぺらさのない挑発は間違いなく罠でありネルの内に潜む残虐性にレナは痛覚伝導神経を通し恐怖を感じた。生かしたまま苦痛を味わう地獄の様な時間が一時的に落ち着き正気を取り戻したレナは突然として紅月と遭遇する、一命を助けてもらいネルの撃退にも成功したレナは機体の損傷で一時的に眠り、紅月はウミとルルカを気がかりにする。
[ドガァァァアアアッ!!!]
一直線の赤い斬撃が、私の元へと放たれる。こちらに向かってくる死の攻撃に私は集中する、。
「─ッ!反攻」
真正面から赤い斬撃を受け、肉体全体に痛みが走る。しかし攻撃の受け止めには確かに成功し、そしてこれをさらに上乗せできる。
「──炎射!!!」
熱線のような火炎放射は『アラハバキ』に向かって一直線、
「おらァッ!!」
『アラハバキ』は地面に斧を刺し、てこの原理利用して床を剥がし盾として応用、そして反攻炎射を防ぎながらそのまま勢いよく私に向かって蹴り上げた。
床と床が擦れる音が近づいてきているとわかると私は真正面からそれを粉砕する。
「ハッ!」
「っ?!」
そんなことはとっくに読まれていたようで『アラハバキ』は私が粉砕したはずの床板の裏から現れ、手に持っていた斧をすでに頭の上へ掲げていた。
私は腕を前に出し、自分の肉体を守ろうとした。勢い的に完全に肉を断ちにきていることが見て分かったので、私は正直自分の腕を差し出す覚悟でガードをした。
[ドグァァァン!]
しかし次の瞬間『アラハバキ』は横からの衝撃波によって私に攻撃が届かずして吹っ飛ばされた。
「大丈夫!?」
「はい!。」
どうやらお嬢様の魔道具による支援だったらしい。見た目は小銃のような感じだが
先ほど『アラハバキ』を吹き飛ばした威力を見れば、その真価は大砲クラスだと思ってもいいくらいであろう。
[キリキリキリキリキリキリ!!!]
金切り音が聞こえてきた方向を私は直視する。
一瞬なんの音かと思ったが、その真相は地面に斧を刺し、吹き飛ばされ上がった自分の重心を力技でこの場に留めた『アラハバキ』の姿だった。
「、流石にそんな簡単にはいかないよね。」
隣からお嬢様のそんな声が聞こえる。顔を向けてどんな表情で言っているのか気になっている自分だが、今『アラハバキ』から目を避けたら何が起こるか?、想像に難くない。
「たっく、面倒だな。」
『アラハバキ』は斧を地面から引き抜き肩に置く。そしてもう見慣れてしまった不気味な不敵笑いをこちらに、正確にはお嬢様に向けて見せてくる、あの顔を見るたびに毎回思うのが単純な恐怖そして、、
(筋金入りのバトルジャンキー)
そう解釈してもおかしくないほど、『アラハバキ』の言動は狂気を常に帯び続けていた。
それが相手の気分や士気を落とすためにやっているのか、それともただ単に楽しんでいるから笑っているというだけなのか、はたまたどっちもなのか…考えている暇はないが思わず考えてしまう。
「十中八九、タイミングよく逃げ出そうってんだろうが。そうはさせねぇ、」
そう言うと『アラハバキ』は自分の斧を掲げた。そのポージングになんの意味があるのだろうかと頭の中で巡らす、こんな戦闘の真っ最中にしかもあの『アラハバキ』が、、それこそあり得ない。
(何か絶対的な意味が───。)
「ウミ!!、阻止して!。」
「っ!はい!!。」
私はお嬢様の言葉を聞いた瞬間に飛び出す。何を阻止するのか?、なぜ阻止するのか?、どんなことが起きるのか?っと走り出した後にさまざまな思考が脳内を飛び交ったしかし、結局面倒くさくなって最後に思ったことは。
(お嬢様をいつだって信じる)
という事実だった。まぁその他にも嫌な予感はしていた、『アラハバキ』のあの行動がこの戦局にどんな影響を与えるか、緻密な情報ではなく直感でそれを感じ取った。故にお嬢様に言われた瞬間余計な思考は自然と浮かばなかった、浮かんだのはその後の話だ。
直感的だった、『アラハバキ』に対してどんな攻撃をするかと決めた後に出た様々な可能性の中に一際目立つものがあった。
お嬢様が言っていた。『アラハバキ』は真技を使える、という情報、そしてそこから求められるモノは。
「界変技───、無垢死調雑」
『アラハバキ』がそう口にすると掲げていた斧の先から黒い何かが天を覆った。そしてこの世界に光を一つも通さないという意思を勝手に察してしまうほど、その黒い何かは私やお嬢様を含む一定の範囲を光が一切届かない暗黒空間へと閉じ込めた。
[ドクン、ドクン、ドクン、]
間も無くして私の耳には真っ暗闇と無縁な心臓の脈拍のような音が耳に入ってきた。その音が鳴るたびに一瞬だけ地面が細い血管を表現したように赤く光る。真っ暗闇でその光だけは異様に目立ち、私は思わず目で追う他なかった。
目で追った先にあったのは中心部と解釈できなくもない、血管たちの集まり。足元を一瞬の音と光で照らすこの奇妙な世界で、そこが決して気にならないわけがない。
私はその場所に向かって無謀にも向かい始めた。
(もしかしたら『アラハバキ』がいるのかもしれない)
という誰もが考えつきそうな思考を胸に、近づいてくる血管の集まりに若干の恐怖を抱きながら私は向かい続けた。そして近づいていくたびに余計に感じてくる先ほど知覚していた世界とは明らかに違う別世界感、確かにそもそもの環境自体がまるっきり変わっているのもそうだが、『アラハバキ』が起こしたこの現象は少なくとも半径だけでいえばお世辞にも広いとはいえなかった。
しかい現状はどうだろうか私が中心に向かい始めて、数十秒。全く近づいている気がしない…
まるでゲームキャラが見えない壁に防がれながら歩いているモーションを繰り返しているような絵面。
これが進んでいるのか、それとも進んでいないのか、今の私に知覚できるものは限りなく少なかった知覚できない。
「無駄だ。」
聞いたことが声が耳元で聞こえた。次の瞬間には鋭く冷たい冷気のそうな感触がすぐ自分の首元によせられていることが、限りなく少ない知覚情報から読み取れた。
「っ!!」
私は思考が回るより早く体を反射的に動かし、肘をヤツがいるであろう場所に思いっきり打ち込む。
しかし私の攻撃は虚空を打っていた、確かに聞こえたはずの声の主はそこにはいなかったのだ。
私は再度驚いて、声が聞こえたはずの方向を半身ではなく体全体で見る
一瞬光る赤い光を頼りに探すもまるで幽霊だったのでしょうか?っと疑いたくなるほど気配がない。
「無駄だと言っただろ?」
「今度は!!」
振り返るも案の定そこには誰もいなかった。しかし耳に残る気味悪い声は確かに頭に反響するように残っている。
「だから─」
「っ!」
「無駄だと─」
「!!。」」
「言っているだろ?」
「─!。」
声が聞こえるたびに拳に力を入れたり、どれだけ早く突いたとしても決してその声の主には届かない。
私に諦めることを強制しているのだろうか?、っと考えたが意図がわからない。
「この空間では、お前の感覚はほぼ無意味に近い。つまりどういうことかと言えばな─」
[ダジュッ!!!!]
声が聞こえ私は先ほど通り身構えた。しかし彼が言った通りそれは無意味だったとすぐ気づいた。
自分の胸を斜めに切ったような大きな傷が皮膚と服を切り裂く音と共に聞こえた。
冷たく冷徹な刃の感覚は覚えなかった。まるで最初から切られていることを今の今まで認知していないような感覚、、薄汚れてはいたがほぼ白に近いメイド服に自分の血が流れる光景を見ていると叫びたくなるような恐怖が数秒後、激痛と共に襲ってくる。
「あぁぁああ、、。っぅ!。」
一旦目を瞑り恐怖から目を背けた。ぬねを裂かれた痛みは歯を食いしばり無理矢理我慢した。
涙が出てもおかしくはなかった。失神してもおかしくはなかった。
でも、お嬢様をこの空間に残して先に行くことはできないっと、全ての精神がそちらに向かったことで今の私はかろうじて、痛みにうずくまるだけで済んでいる。
「はぁ…っ─。」
それにしても痛すぎます。本当に、もう少し深く切られていたら確実に死んでいた、なんなら泥の時より痛いですし。
(して、一体どこから。)
次の攻撃が来る前に頭を回す。先ほど真正面から切られた気配はなかった。
刃を肉体に通された気配も微塵も感じませんでした。
つまりはあのネルと同じ不可視の斬撃?いや、そうだとしても何かしらカマイタチのように物体的な圧力がかかるはず、
私は頭の中で整理をしつつ、ネルの攻撃を1から記憶として掘り起こした。
(紅月様がお嬢様からネルの攻撃を受けた時、アレはまるでまっすぐ飛んでいる見えない玉を潰して起爆させたような感じだった。)
つまりは見えないだけで物体はある、しかしそれが紛れもなく爆発一歩手前の手榴弾。相手のやりようによっては…物体に触れる前に起爆は可能だ。
(それに仮に触れたとしても、爆発の痛みで感触がかき消されますね。)
となると今回のも同じなのだろうか?、。ネルの爆発を手榴弾と例えることができるなら、、。
(イメージするのに該当する武器は一つ、、!)
私は痛みを飲み込み拳に炎を纏う。そしてあたりに散らすように炎や火の粉を散布する。
あたりは真っ暗闇ではなく火の海へと変わる、しかしどこも燃えている気配はない。このドクンッと高鳴っている血管も所詮は作り物だということがわかる。
(紅月様のようにできるかどうかはわかりませんが、やって見せないと。)
本人がどうやったのかなんて正直わからない。それこそ天性的な直感力により当てた可能性のがまだ現実味がある。
しかしそれでも努力しないこととは違う、私はそういう天性的なものがなかった、だからいつだって努力を惜しみなく発揮した。
やりたいことが見つかっても、それが自分に100%あっているなんてことはまずない。
この世に適性がある人なんて星の数ほどいる。だから進み続ける、自分が心の芯から終着点だと決めるまで、本当の自分がそうだと決めるまで。
「私は─ッ!」
[チリッ!]
炎に何かが燃え移ったもしくは焼けた反応が、耳を通して聞こえてくる。
「絶対に─ッ!」
その反応が着実に近づいてきているのが、わかり私は胸から出た血を手で掴み、握りしめる。
「諦めま──!」
[チリチリチリチリ!!]
火の粉が複数回当たった音が一瞬にして聞こえてくる、自分の背後だということはとっくのとうに気づいている。
この瞬間を待っていた私は血で濡れた拳にさらに力を入れる。拳に付着した血は段々と薄く変わり、マグマの様な赤さを私の手の中で宿らせた。
。振り下ろされる刃、火の粉が空中で斬られ、斬られ、斬られ…私の元へとやってくる。
左足を後ろに右足で地面を張り、体をを半回転、目標を正しく狙う様に左腕を刃がくるであろう地点に添え、利き手である右腕をこれでもかと燃え上がらせる。
「─せんっ!!」
一瞬でカタがついた。刃はすでに放たれていて私の顔に向かって直進していた、それに対して私は拳をひと突き。
しかしわかる。これだけでは足りない、威力も私が安心するための気持ちも!、
(炎の槍───紅炎槍(ぐえんそう!。)
紅く燃え上がり、どんなものでさえも貫き通す。そんなイメージの元生まれた槍は炎でかたどられていき、いつしか炎でありながら確かな実態を持つ武器として私の拳の先へと現れた。
そして二つは追突する。炎の熱によってあらわになった半透明な刃を正面から打ち砕くように私の槍は拳より一歩先に刃と相敵する。
当たった瞬間ギリギリギリっとまるでドリルと鉄板が触れたような音が聞こえてきた。
私の槍は炎の渦から形成されたただの槍ではない、全体的な形成状は先端が尖っただけの槍に見えても微細な回転が槍全体にはかかっており、それは槍というより。
ドリルに近かった。
「くっ!!。」
腕にかかる負担が尋常ではない、目の前の刃がどれほどの強度か想定していなかったわけではなかった、なかったのだが。
「これはいくらなんでも硬すぎると思います!!!」
口に出して、弱音を吐きたくなってもしょうがないほどに硬い。今まで多くのものをこの拳で砕いてきたつもりっだが、手応えすら感じなかったのはこれで2回目かもしれない…
押しているはずなのに押し返されている、こっちにはドリルの回転と体の捻り一心に加わせた渾身の一撃だというのに、。
炎の槍が砕ける様子はなくても、無垢な刃が槍をかき消しながらきている感覚がダイレクトに伝わってくる、逆噴射のように接触部炎が辺りへ巻き散らばせられる。
自分自身がその炎にさらされることはないと知ってはいるが、どうにも危機感しか今のところ見に覚えがない。
[ガガガガッガガガガ!!!!]
(お、押し負ける─っ!)
左腕で右腕を支え、後ろに下がりそうになる体をなんとか前に押し留める。
満身創痍の肉体でどれだけ保つかなんてわかりきったことだ、しかしここで防がなければどうなるか、わかっているの自分。今ここにいる自分を守るためにも、この先にいる人たちを守るためにも、
「絶対に────負けません───!!!。」
声にならない声を叫んで私は圧倒的熱量と恐怖の対象である目の前の刃を恐れず、突き進んでいく。
一歩一歩と突き進み、これ以上押し込めない槍を押し込む。
音がより強烈になり私の耳を刺激する、振動が体に伝わり、今にも力がゆるまりそうになる。
それでも、絶対に負けないと自分の口で言ったのなら。
「ハァァアアアア!!!」
[ッ。バギィィィン!!!]
「ッ砕けた!!。」
刃は跡形もなく砕け散り一つひとつがガラスのように砕け散り、ドクンっと鳴る地面の上へと落ちた。
「─はぁ、─、ハぁはぁ。」
出し切ってしまった、そう思ったのは止まらない動悸を手で感じた時だった。、今の自分には少しの魔力も残ってはいない、書いて字の通り空っぽだ。
「──、っはぁ」
それでも体はかろうじて動く、何かの拍子に動けなることを理解しつつ私は体を動かし、この地面にうかぶ血管もどきの中心部へと向かって行く。
[パチパチパチパチパチパチ]
どこからともなく、拍手が聞こえてきた。
「アレをいなし切るのは無理だと思ってたんだがなぁ。」
奇怪。先ほどと違って声は背後からではなく、周りから聞こえてくる、スピーカーを通じて言葉を通している様に響いてくる。
違ったアプローチで来られると余計に思考が回る。なぜ、背後ではないのか?っと。
「煽りですか?。」
「まさかっ、賞賛してんだよ。」
正直賞賛よりアナタの顔面が欲しいっと言いたくなった、もし現れてくれるなら怒りを燃料に思う存分拳を入れられるだろうに。
もっとも感情に体がまだついてこれるならの話ですけれども。
「ただのメイド?。が瀕死の状態でここまでやれたことに正直驚いている。」
「っ、何が言いたいんですか?。」
私はくだけた体を持ち上げて、体勢を整える。足は思えばガタガタだ。
(早くお嬢様を見つけて─)
「だからな───」
『アラハバキ』が手を挙げると、彼の使っていた斧が空中に複数個現れた。私を全方位囲むように配置されたソレは私の心を完全にへし折り足りる衝撃だった。
「─もう少し、頑張ってみろよ!!!」
斧は次の瞬間動き始めた。そして私の時間がゆっくり経ち始めた、一秒が数十秒に、数十秒が数百秒になる。
この世界で私だけが浮いている、空中にポカンと取り残されて、そして今その浮いているものが排除される。
(ここまで、ですか。)
私は体すべてを脱力する。もうここまで来たら悔いはない、お嬢様のこともレナ様のこともすごく気がかりで今にも動きたい気分ではあるが、本当に体が動かない。
わかるのだ、これ以上動けないことを、これ以上動いてもどうにもならないことを、感情の上下によって変動する肉体はとっくに尽きており、今あるのはただただ果てに果ててしまった肉体。
死に体ではないにしろ休息の必要は間違いなくあり今、歩くことすらままならない現実がソレの表明だ。
(最後に。)
私の頭の中にはお嬢様もレナ様もいなかったただ一人だけ。
(紅月様。)
本当に悔いがなくなった、一度口にするだけでも十分だと思った、だから私はゆっくり進む時の中で目を瞑った。
体全てに抵抗を入れず、ただ一思いに儚い現実を受け入れようとした。
[バチッ]
「?、」
目を閉じた瞬間、一筋の稲妻が頭を駆け巡った様な感じがした。私はその違和感ある音と演出に疑問を感じながら自然と閉じた目を開けた。
[ゴンゴンゴン!!ガラガラン!]
目を開けた私に待っていたのは、なんの力を加わらなくなった無数の斧がただ目の前から落ちる光景だった。
「っ─?」
本当に何が起きたかわからなかった。『アラハバキ』の態度からして私に攻撃をやめるだなんてことはあり得ない、そう確信していた。
しかし実際に斧が無気力にも落ちていくザマを見せられていてはその確信も疑いたくなる。
そして、
「なに──?。」
『アラハバキ』の自分も予想だにしていなかった、を表現した様な顔はさらに私の思考を加速させ疑問の迷路へと誘う。
[バチッッ]
また、あの音だ。どこからこの音は聞こえてくるのだろうか?、
そう私が思った。思った瞬間だった、ソレが起こったのは、、
[ゴゴォォォォーーン]
世界が回ったかの様に思った。いや正確には地震だ、全ての感覚が狂うこの空間内で地震が発生したのだ。
「っ?!何が起こってやがる!!」
[ゴゴォォォォーーン──!]
私の体はまたもや、空間の揺れにさらされ、バランスを崩し地面へと避難する。
[ゴゴォォォォーーン、ゴゴォォォォーーン、]
二回ほど、地震が追加で空間を襲った。立っていた『アラハバキ』は訳もわからず不服そうな顔をしながら、私同様身を床に逃がしていた。
[───]
「収まった?。」
今の地震がなんだったのか?、私は純粋に頭に浮かべた。先ほど考えていた奇怪なことと同様に今この時に何が起こっているのか本当にわからなかった。
今、この場に彼が舞い降りるまでは、、
[バギャァァァァァァォォォン!!!!バリバリバリーン!!!!!!]
真っ暗な空間の中に、青白い光を見た。その姿形はどことなくレナ様に似てはいるものの、同一だという認識は自然と浮かばなかった、
だってその姿はレナ様とは似ても似つかなく、それでいてとても魅力的だったから。
まるで天使が舞い降りた様な感じがした。
天使の翼はなく、手に持っているものもかなり物騒で、自分でもなぜ天使という言葉を選んだのか?っと疑いたくなるほど似ていなかったはずだ。
でも私にとってあなたは天使だ。今この状況を打破できる切り札なのだから。
(紅月様)
「っ!おいおいおい、オイオイオイオイ!生きてやがったのかよ、、!」
「────」
紅月様の見た目はかなり不恰好で、格好で隠れているかもしれないが人型と認識するにはギリギリだ。腕に関しては遠目で見てもわかる通り完全に人型ではない、化け物の腕をくっつけた様な奇妙な造形が見える。
ソレでも今ここにきた、というより生きてここにきたということは。
「当たり前だろ─、」
機械混じりの声を持ったまま紅月様は『アラハバキ』の方向を見る。
「ルルカを返してもらう。───、」
手に持っている槍を『アラハバキ』に向けた。
紅月様の雰囲気を私は薄々察していた、
今彼はとてつもなく起こっている『アラハバキ』の答え次第ではいつ殺しにいけてもおかしくはない。
「っ──死んだと言ったら─[グォガァ!]」
その時、紅月様の右腕はひとりでに動いた様に『アラハバキ』への真正面に来ていた、そして
口の様に開く手の部分。
今すぐサメに丸呑みにされる人間の様な構図が私の目の前に広がる。そして、
「っ─!!」
[ガギ!ググググォンォン!!]
『アラハバキ』持ち前の反応速度と判断能力で、自分がアームの餌食になる前に斧で天井を支え足で下顎を蹴り、なんとか噛みつかれる一歩手前にまで押さえ込んだ。
「──。」
しかし紅月様はソレを逆手に取り、口が閉じる前に『アラハバキ』を近くの柱へと放り投げた。あの長いアームのどこにそんな精密性があるか、いや紅月様ならではの特異性なのだと解釈するほかなかったそうでなければ今までのことも含めて貴方様の行動を言い表せない。
それほどまでに紅月様は私から見ても異端だった。
もちろん、これほどまでないくらいいい意味で
[ドガァン!!]
柱に吹き飛ばされた『アラハバキ』は柱の崩れに巻き込まれて、姿が見えなくなる。
私は意識だけ身構える、一体やつがどの地点に現れるのか今この場において紅月様を上回るであろう立場を得るためには何が必要なのだろうか、一言で言えば私は自分の優位性に気づけていなかったと思う。
「──!」
影が写り振り向いた、そしてその先にいたのは『アラハバキ』で今にも私の喉元を掴みかかろうとしていた。
(しくじった、)
そう思った。『アラハバキ』は根っからの武士道ではない、目標達成のためならどんな残虐な行為も許すそんな冷徹な暗殺者だったことを私は愚かにも忘れていたのだ、
して、この場において私はもう一つ忘れていたことがあった。それは、、
「遅かったな。」
「─!?」
『アラハバキ』の背後にはすでに紅月様がいた、手に持っていた槍には十分な電力が溜まっていて、今にも『アラハバキ』に向けて放出寸前だった。
(紅月様は、常に人の先を予測できる。)
「!─初無───」
[ゴオン!!バゴォォォォーーーーッッッッン!!]
私に攻撃が当たらない様にする配慮なのか『アラハバキ』が初無血を発動するより早く紅月様は片腕でバットを振るかの様に『アラハバキ』を別方向に殴りぶっ飛ばした。
「!!」
『アラハバキ』は空中に放り出され、感じたこともない速度を前に自身の体を素早く動かせ、空中でまるで瞬間移動の様に離脱した。
[シュン、シュン、シュンシュンシュン!!]
空中滑空を行っているのだろうかっと思うほど早く、目にも止まらないスピードで『アラハバキ』は私たちの周りを囲む様に翻弄する。
(ギリギリ姿形が見えるレベルには低下したもののやはり早い!)
私はたまに黒い物体が通行する程度でしか見れなかった。紅月様はこの動きを確実に捉えているのだろうか?という疑問が浮かんだが、考えないことにした。
なぜならその余計な考えが先ほど私たちを危険に晒す直前にもなったからだ。
[シュン]
「シネェ!!」
(上!!)
声がした方向を見上げると『アラハバキ』が斧を頭の後ろに、私ではなく紅月様の頭上に現れていた。てっきり私を利用すると考えたが、紅月様がいる前で恐らく私は使えないと思ったのだろう、そう考えれば本体を狙うのは必然、しかし私からすればそれは最も恐ろしい手段だ。
[ガギィィィンッ!!]
「っ?!嘘っだろお前ェ!!」
私も目を丸くしてその光景を刮目した。『アラハバキ』の目にも止まらない一撃は紅月様の武器一つだけで受け止められた、しかも紅月様はまるで力を入れていないかの様に棒立ち、腕はちっとも動かない。
レールクローガンから一瞬の火花がいるが、それ以外は特に何も起きず静かな時間が1秒続いた。
そして。
「これで終わりだな。」
紅月様はパッと手を離す。、そうすると重力に従って『アラハバキ』はあっけなく落ちていく、バランスはすでに崩れてはいるが、自然に体はまっすぐになっていた。
そしてそれに対して紅月様は
[ドズゥゥゥ!!]
『アラハバキ』の腹をレールクローガンで思いっきり貫いた。体が変形しているのではないかと思うほど、腹部は歪んでおり。『アラハバキ』はそれに対して驚きのあまり声が出ない様だった、それともあまりの痛さを通り越してしまったのか。
私にはあの狂気じみた表情から一変した今を見ると彼も人間だったのだなと思う。
ただそれだけですが。
「吹っ飛べよ、暗殺者。」
[ジィィ─ バゴォォォォッッッッン!!!]
『アラハバキ』は体に電気を纏わせ、吹き飛ばされた。地面を転がり、橋から落ちていった。
しかし私は最後まで彼が武器を持っていたことに、落ち着いた狂気をまた感じていた。
「っ、、!お嬢様は!」
私は『アラハバキ』が言っていた言葉を信じてはいなかった。もし殺しているなら殺しているとヤツなら言うはずだと、そう思っていたからだ。それと単に私がお嬢様を諦めていなかったから、
「大丈夫ですよ、ウミさん。ルルカはそこで寝てます。」
そうして紅月様の言葉に反射して声の先へと目をやると、お嬢様は静かに就寝していた。
あっけらかんだ、焦った自分が少し恥ずかしいと思った。
「、良かった。」
私はそっと胸を撫で下ろした。全てが終わったと思ったいや終わってくれと願った、、
「ウミさん、」
紅月様は優しい目でこちら見てそう言った。口元を隠していた布を限りある手で引っ張り口元を見せた、彼は穏やかな表情をしていた。
「…多くは言いません。
私は限りある力の中で立ち上がり、紅月様と同じ目線になる。そしてこう口にした。
「ただ、、お帰りなさい。」
「はい、若葉紅月──ただいま戻りました。」
私は彼と同じ表情をしようと顔を緩ませ、そう言った。彼はいつもと同じ顔で私にそう言ってくれた、このやり取りで私は心の底から安心することができた。そのせいか無意識の中で涙が頬を下る感覚を感じた…
私、いえ皆さんの長い様で短かった時間の幕引きだ。
『topic』
【界変】
自身の技能、魔力などを使用して一時的に一定距離の空間を掌握する力。技の場合【界変技】となり、魔法の場合【界変魔法】、魔術の場合【界変魔術】となる。
いずれも最上級能力であり、天賦の才や研鑽を積み続けることで獲得することができるとされてあるが人によって性能が異なったり同じ名称でも類似してなかったり、なんなら獲得できなかったらなどもある。
大きくリソースを使う能力ではあるが扱えばほぼ確実に勝てるほど強い。




