六十七話「夢と事実と現実」
前回のあらすじ
ルルカが"魔素"の掌握に成功し、『アラハバキ』を圧倒的に物量で撃退した。
ちょっと昔、少し昔、私とお嬢様はいつも通り一緒に【SAMONN】をプレイしていた。
いつも通りにログインして、私は今日お嬢様がどんなところに連れて行ってくれるか内心ワクワクしていた。
「今日はね。図書館に行くよ!、」
図書館といえば現実世界であればさまざまな本が置いてあるところっという認識でとどまるであろう。
もちろん【SAMONN】も例外はない、だがこの世界の図書館というのは一般知識で得られるもの以外にもさまざまなものがある。
(例えば魔本)
【魔本】とは魔力、魔法、魔術の理論を内蔵した本。書かれているのは魔法や魔術そのものだったり、はたまた理論を集約した研究結果だったりする。
お嬢様は現実世界では基本図書館にいかないものの、【SAMONN】では違う。より多くの魔法や魔術を知るために常研鑽を怠らない姿勢を見せる、それが誰のためであるかまた私も知っている。
「ウミ、あれ取れる?」
お嬢様が上の本棚の中の一冊を指さして私に伝える。棚とお嬢様には距離があり身長の低さから私に頼んだということが伝わる。
私は何の違和感もなく、少し背伸びして本棚にある一冊取りお嬢様へ渡した。
「これですよね?。」
「うん、ありがとう。」
お嬢様は私から本を受け取ると、本を開き少し早いペースでページを巡り始めた。
ページを数回めくるとお嬢様は難しそうな顔をした。
「、、せっかくですしどこか机で読みますか?。」
「う?、うん、そうだね。」
お嬢様は本に夢中になりながら私の言葉に答えた。これは動くと言って動かないお嬢様の返事だなっと理解した私は少し補導する要領で近くの机と椅子まで誘導した。
お嬢様を机に座らせると私も自分の本を探しにまた本棚へ戻った。
(あの調子ではまだまだ読み終わるのに時間がかかりそうですね。)
それにしても。
(、、いつ見ても圧巻だ。)
私は聳え立つ本棚の間を通っていきながら言葉をもらす。本棚にはこの世界のあるとあらゆる思想、歴史、知恵が内蔵されている、それだけでもワクワクするというのに適当に手に取った本は全て私が見たことなのないものだらけだ。
(学校で習ったことのある言葉をただ見つけたのとは訳が違う。)
私も学校に行ったことのある身、義務教育で習ったところを頭の片隅に置いてあることがある。現実の図書館に行った時に感じるのは、
(つまらない。)
というものだけだ。私からすれば知っている情報に補足を付け足しただけの紙束、そしてそれがただただ羅列してあり、いかにも興味をひかなさそうな形をしているただそれだけだ。
ですがここの図書館は違います。
(まるで別世界に訪れてしまった、もしくは迷い込んでしまった。。)
心の底から探究心と絶えないワクワクが響き続け、薄っぺらい関心が180度ひっくり返る様な感じがする。
目の前にあるのはまだ見ぬ物語、情報という人が伝えやすくするにはどうしたらいいか?など堅苦しい汗風から外れただただ探求と常に待っている新しい知識が何度も上書きされ私の心は決して色褪せない。
(ここにきて良かったと毎回思う。)
それほどまでに、ここにある書物達はそれぞれ負けないほどの価値を秘めている。
私はそんな高揚感を身に纏いつつ、自分に必要なものを棚から取り出す。
お嬢様の元へ戻る頃には手に取っていた本の数は勝手にイメージしていた数の2〜3倍ほどにまでなっていた。
「─うわっ、いっぱい持ってきたねウミ。」
「えぇ、はい。」
変に、本を手に取る行為自体が恥ずかしくなった。お嬢様の本の数と自分が持ってきた数、それとの差を考えると、、。
(まるでこちらが夢中で本を手に取っている子供の様な、、)
「?、」
お嬢様は私の顔を見ながら首を傾げ、いかにも気にしてなさそうなというか眼中の一つにすら浮かんでなさそうな顔を見せる。
私はその能天気さに少し複雑な感情を抱きつつ、手いっぱいにある本をお嬢様が使っている机に置き、私は反対側の椅子に座った。
「うわぁ、。」
「─どうしました?。。」
「これ見てよ、」
私が本を手に取った瞬間お嬢様はあからさまな驚きを見せた。私はお嬢様の驚きに反応して魔本をそのまま受け取った。
「"大気魔素還元"の理論ですか?。」
私が難しそうな文字列の中で唯一強調されている言葉をそのまま口しお嬢様へ向かって言った。
「そうそれ、結構めんどくさく書かれてるけど、要はそれ。魔力を無制限に使えるやり方らしいよ、」
「魔力を無制限…─へ?。」
私は驚きすぎて頭が一瞬フリーズした?。
「うん、やっぱりそんな反応になっちゃうよね。現に私もそうなりかけたもん。」
「──冗談ですよね?」
「もし冗談だったらこんなところに(本が)置かれてないかもね。」
私の言葉にお嬢様は食い気味で答えてくる。その顔には私の心情に対しての深い同意とある種達観しすぎている様な、お嬢様らしさが欠けていた。
「──空間中に無限に散布してある魔力、別名"魔素"を行使する方法、それがそこに載ってるの。」
私たちが普段空気と一緒に取り込んでいる【魔力】
魔力は空気同様呼吸から取り込み体内で貯蔵、そして魔法や魔術、その他身体能力を上げるときなどに発揮する。
このとき"魔素"が肉体に順応して形質変化し、MPになる。
いわば"魔素"はろ過される前の水、そしてMPはろ過され飲むことができる様になった水である。
体内でろ過が自動的に行われていると考えるのが自然だろう。
「"魔素"の掌握ですか、、。」
「もう一周回って呆れちゃうよ。」
お嬢様がクターっとして椅子に寄っかかる。私はお嬢様ほどではないが、ことの大きさを理解している。やっていることは相手の魔力を奪う、いわば『魔力吸収』と一緒だ。
この魔法は読んで字の如く相手の魔力を奪い自分のものにできる魔法、原理としてはまず相手の魔力をこちらの展開してある魔法に含まされている魔力で上書き、そこから一定数の確保可能な魔力を相手から吸い取り自分のものにする。
が、ただ文字で書かれただけではいまいち実感がわかなかった。
「─お嬢様でしたら、どんな難易度だと思いますか?。」
っと興味本位で聞いてみた。確かに私も魔法を使えることができるがお嬢様ほどのプロフェショナルから答えを聞いた方がこの無駄な思考を少しでも擦り切れると思ったからだ。
「うーん例えばね、台風があるじゃん。」
「─はい、。」
「でェー、その台風を使いたいの。」
「はい、──はい?。」
「それでね、台風を使うために自分が出した台風でその台風を飲み込んで、。」
「───お嬢様?、」
「それで使うの。」
シーンっとどこからともなくそんな音が聞こえてくる。私はまたもや頭がフリーズした、もちろん理由はお嬢様の説明の話である。
もちろん今の今までお嬢様を理解しようという気持ちを絶えさせたことはない、が気持ちだけではどうにもならないというのを今の言葉から感じ取った。
「わかりにくかったよね。」
「、、はい。、」
私は言葉に遠慮を含ませずお嬢様に言った。
「、お兄様の教え下手が回ってきたのかも。」
「単純な経験不足であると願いたいですね。」
私のフォローになっていないフォローにお嬢様は苦笑いした。
「とにかく例えなしならとてつもない難しさってところだね。」
「なるほど。」
お嬢様でさえそれを『とてつもない難しさ』と評価する。となると本当にこの本の通りにできる人がいるのだろうか?っと一瞬疑心暗鬼にでもなってしまう。
「でも理屈的には通ってるから。仮にこれができた人は多分。。」
「、、多分?」
「最強の魔導士になれると思う。」
私はその言葉を聞くと体が遠くなっていったのを感じた。物理的な意味ではなく感情的なものだ、そしてそれを自覚したのか私の思考は目の前の本ではなく、自身の気持ちに向いていた。
(お嬢様はどんどん先に行く。)
考え出すと不安になる話題だ、瞬間的に自虐的になる気持ちが溢れる。
(なら、、私は?。)
『ガコンッ!!』
その瞬間まるで、いきなり穴が空いたかのように床が崩壊した。私はお嬢様を捉える前に意識が途絶え底なしのような暗黒空間に飲まれていった。
───そして真っ暗になって自覚する。
(夢)
「は──!。」
私は悪夢から目覚めたように飛び起き上がる。
そして確認する、あれは夢ではなく記憶もちろん最後の部分は夢そのものだが、ベースとなっているのは間違いなく過去の記憶であると…
「わっウミ起きた!。」
背後からお嬢様の声が聞こえたのでゆっくり振り返った。
「、大丈夫ウミ?。」
私の顔が変なのだろうか、お嬢様の驚いた顔は少し心配な気持ちを含んでいるような絶妙なものに変わっていった。
「──はい。」
私は一呼吸おいてお嬢様へ返事をする、いつも通りの自分ではないような気持ちが心の底から渦巻いている気がする、ただわかることは今の自分には余裕がないこと。
「本当──?。」
お嬢様の言葉は単純で純粋な優しさから生まれたものだと、『頭』では理解していた。
しかし先述した通り私には余裕がなかった、そのせいで今のお嬢様を正直煩わしいとまで考え始めていた。
まるで遅れてやってきた反抗期のようで私の心はかなり若かった。
「はい、。少し」
これ以上お嬢様に何か喋らせてはいけない。っと染まりつつある私の良心が苦渋を出すように今の言葉を弾き出した。
「そっか、よかった。」
お嬢様も私の慎重とも言える声に気づいたようでそのごは特に何も言わなかった。おかげで私の心は驚くほど早く落ち着いた、お嬢様に察させてしまったっとそっちの心の方が寝起きのイラつきを上回ったとみてもいいだろう。
「っ─。」
「!?、ウミ!!」
落ち着いた思った瞬間、遅れてやってきたかのように私の肉体は不可解な激痛を内側から放った。私は体を抱えるような形でそのばで蹲った、もちろんお嬢様はそれを見逃すはずなく、こちらによってくる。
私は一瞬「大丈夫です」といえば住むだろうと思ったが、痛みは増すばかりでついにはその言葉を出すよりも、激痛を抑えるため思考が上回り、結局は何もいえなかった。
お嬢様は回復魔法をかけ続けて私の痛みを緩和しようとしていた。しかしこれはある種の後遺症のようなものだと私は理解していた。お嬢様もしばらくしてそれに察して魔法ではなく私の気持ちに寄り添うような態度で私に接してくれた。
私はそれに対してお嬢様の成長を痛みの裏で感じた。
そしてちょっと経つ頃には痛みも引いてきて、なんとか話せる領域まで安定した。
「すみません、こんな姿を。」
「うぅん、私の方こそ。遅れてごめんね、」
お嬢様の言葉を後に深呼吸をして、私は話を切り出す。内容は、、
「お嬢様、私が眠っている間何が起きました?。」
痛みの気紛らしにでもとこの話を今切り出す。周りに『アラハバキ』や『ネル』がいないこととレナ様の姿を垣間見たことから彼らを撃退したものは容易に想像できる、問題はその過程でどんなことが起きたのか、、。
きっと普通ではないのだろうと軽く予測できる。
「、、。私が眠っている間にそんなことが起こったんですね。」
私はお嬢様の口から全てを聞いた。私が倒れた後のこと『アラハバキ』との死闘、そしてお嬢様の覚醒。どれも想像以上であり、これほどまでに理解するための頭を使ったのは久しぶりかもしれない。
それと私もお嬢様に『アラハバキ』達の標的となっていることを伝えた。彼女はそんなに驚いたそぶりを見せず、ただそうだったんだっと少し落ち込みを見せた。
「うん。ごめんね、勝手に出てきちゃって。」
「、いえ知らなかったこちらも問題でしたので。それにしても、、驚きです。」
お嬢様はあのとき、自分で言っていたことを自分で達成して見せたのだ。"魔素"の魔力核を掌握し、そしてそれを自分の手足の様に使うことができる、いわば魔導士の頂点的存在───。
「なんか、できちゃって。」
お嬢様は少し照れくさそうに反応した。私はその姿に今までと変わらないお嬢様だと安心し、言葉を続ける。
「おめでとうございます。お嬢様」
私は一呼吸おき、お嬢様に心から感謝お心を告げた。
「うん!、ありがとう。」
それに対して、お嬢様は満面の笑みと言葉で返す。
私達は両者そんなに状態がいいわけではなかった、しかしながら今こうしてなんとか無事な事実を変に意識してしまう。
私に関しては度重なるカウンターの反動で体が多少痺れており激しく動かすことはできない、服も何発もの爆発にさらされてまたもや焦げ跡がよく目立ってしまっている。
お嬢様も基本的に大きな外傷はなくとも、おそらく体内で魔力を貯める【魔力貯蔵部】と自身の魔力を使用するときに使う【魔力口】がかなりダメージを受けていることだろう。
"魔素"を体に取り込み→浄化する。
という工程をすっ飛ばし、
"魔素"をその場で浄化→体との相性が悪いまま行使しているはずなのでおそらく見た目以上に辛いはずだ、それこそ今魔法を使えないくらいには。そんな状態にも関わらずさっき私に魔法を使ったのだ、そう考えると申し訳なさが残る痛みを上回る。
「それであの、レナ様は?。」
「あ、レナならさっき予備パーツ?、をつけて少し先に行ったよ。」
──海正道・少し先──
「ハァ、全く。」
ルルカには毎回驚かされる。正直あの場所に自分がいること自体が場違いに感じるほど…
(比べても仕方ないわよね。)
そう思いながら私は不完全な状態で『海正道』を進んでいく。パーツの修復と武器等は正直信用できないレベルだ、、私もあれだけ意気込んできたというのに手ひどくやられた。
「ふぅ。」
スラスターを少し休めるために私は空中ブレーキをゆっくりかけ、地面へと着地した。先ほどの戦い崩壊した場所とはにても似つかないほど綺麗な街道だ。
正直、心ですら落ち着きを取り戻していっている。
「、、。」
少し止まって考えた、どうしてアイツらはルルカを狙ったんだろうと。紅月はまぁあの化け物具合じゃ誰が討伐依頼出してもおかしくないよねっていう中途半端な理論でも大丈夫そうだが、、それこそルルカは違う。
【SAMONN】の代表格的な立ち位置もあり、尚且つプレイヤーの中では時にSSSランクより注目されることだって珍しくない、天才的な才能と一人で国すら制圧できかねない戦力、もしかしたらそこが問題なのかもしれないと考えてみるもどうにもパーツがしっかりはまらない。
ジグソーパズルで例えるならピースの形的にはまるはずなのにはまらない。最後の一つが見つからないのとはまた違った意味での違和感だ。
(ルルカの人柄は世間的割れている、それこそルルカを殺すという意味がこの【SAMONN】で何を意味するのか知らない?。いや知っていてもやっている?。)
ルルカはある種【SAMONN】プレイヤーか、寵愛を受けている。あの無邪気で少し控えめな性格で発揮される圧倒的なビジュアル力は正直嫉妬心すら生まれないだろう、(本人が戦略的にやっているかはさておき。)
それこそルルカファンクラブなども存在する。(本人非公式だけど)数は数えるのをやめるくらいであり、噂では国の人口ほどいるのかもしれないとまである。
それこそ本人一言でファンが国を攻め落とすことだってできる。(と言われている、珍しくない噂だ。)
(ファンでないただの友人の私が知っている話だ、例えリサーチを怠っていたとしても嫌でも耳に入るだろう。それこそ見越した上でやるならよっぽどの命知らずだ。)
まぁどちらを暗殺しようにもどっちかが意地でも敵討を取りに行くほどの仲の良さだ。「両方倒せ」はある種正解なのかもしれない、、
(紅月も場合によっては単騎で国を沈めそうなくらい強いし。)
そんなことはどうでもよくて、ここまでの経歴というか噂というか能力があることを事前に見抜けないのは流石におかしい。仮にお遊び半分で【死屍】を派遣してくるにしても人脈や依頼料が双方それなりには必要だ。
(そうなるとやっぱり依頼者は間違いなくこちらを下に見れる人物。)
と考えてもいいわね。
[─ザ]
背後から足音がした。この空間に突如として現れた完全な違和感、私はそれがなんとなくわかっていた。
だからゆっくりと尚且つ慎重に振り向いた。
「───ネル。」
金髪で、見覚えがあって、私が嫌いな暗殺者がそこにはいた。
「、はぁい。」
ネルは余裕そうな表情を浮かべ挨拶と共に手を振った。
ウミさんによってつけられた傷は頬に残っており、最初に見た時の顔よりもっぱら酷いったらありゃしない、正直半分同情してしまうほどにね。
「、アンタ一人?」
私は魚の骨をきれいに取り除くかのような敏感さで周りの気配に目を配る。正直目の前の奴は心底どうでもよかった。
「そう警戒しなくったっていいじゃん─」
ネルは余裕そうな表情からこちらを嘲笑うかのように、むかつく顔へとドンドン変わっていく、私はその瞬間をただただ目で追いながらこう感じた。
(、次の言葉はきっと「アレ」だ。)
私の神経が、体が、意識が、それを全力で伝えてくる。その言葉が嫌いなわけではない、ただただ『一言』だけ。伝えたい。
「───お姉ちゃん、。」
「何を、今更──。」
『topic』
【SAMONN】は現実の本人がアバターとして投影されるので、キャラメイクなどで正体を基本隠せない。
しかしそれと同時にネームプレートの開示もされておらず、特定プレイヤーへのイジメも設定をすれば攻撃すら通らないようにできる(条件はある)




