六十話「暗殺って冗談でしょ?!」
前回のあらすじ
紅月一行はSSランク冒険者メルドに導かれるまま、難金者の広場へと足を運ぶ。
かなり上から目線で仕事人なアリスから素材収集を押し付けられ、メルドと共に魔物狩りを行いにいったのだった。
[シュキン!!タダン!ボカァーン!!]
「悪いねえ、私としては無理に協力させるつもりはなかったんだが、、。アイツ、やっぱ少し休ませるべきだな。」
メルドさんは謝りつつも大剣を豪快に振るい、目の前にいる敵を薙ぎ払った。
アリスさんの助言のもと、ジュースで休憩中であったメルドさんを連れて必要な素材を取りに来た、元々は休憩がてら招待したつもりが、アリスさんが新しく入った新人かと思い、依頼を渡したそうだ。
『難金者の広場』はプロイシーの異変を調査するための前哨基地らしくプロイシーの元々のオープンクエストで集まった人達が集結しているらしい。(メルドさんが教えてくれた。)
ホテルでチェックインして休んで終わりかと思ったら休む暇なくして夜まで連れまわされるあの感覚とよく似ている。
「いえ、メルドさんもわざわざすみません。」
「いいんだよ、私は。基本的に竜しか狩らない都合上、準備運動だのと捉えられるから、、。」
そういう風に言いながらもメルドさんの剣撃は敵を次々と倒していく。本人は竜種以外には興味なく、なおかつバルムンクも竜が本領発揮となる。通常の敵は苦手という概念はその素振りから感じられない。
「メルドさん、竜以外も狩れるんだね?。」
お嬢様がとても意外そうに聞く。そしてどことなく失礼…、
「そりゃあ、竜しか狩りませんでした、で履歴書作れるかよ。特攻がない分やりにくいことには変わりないが、別に勝てないわけじゃない竜と戦った時手早く進むってだけだよ。それと竜と戦ってる時が楽しいし、」
戦いやすい相手っていますもんね。
「?、履歴書?。」
珍しく紅月様がメルドさんの言葉に反応した、もしかして紅月様は履歴書システムを知らない?。
「あー、そっかお兄様は冒険者ランク自体は低いもんね。上位のランクに進むとちゃんとした履歴書っていうのを作らなくちゃいけなくて、カードに記録されてある依頼達成率とモンスター討伐率が内容の主になるんだけど、、」
「ただ同じ種類を狩ってるだけじゃなれなくてな。ランクレベル、種別討伐数、依頼達成率、チームで動くんだったらチーム貢献率なんかも入ってくる。で、言葉から伝わってくるようにこれがアホほどめんどくさくてな、取り締まりが厳しいったらありゃしない。」
「現実と遜色なさそうだな。それ、、」
紅月様が難しそうな顔をしながら説明してくれた二人にそう言った。
「PR対策にしては、ですよね?。」
PR、低レベルの人が高レベルの人と一緒にプレイし経験値のチーム分配効果を利用して高速でレベルを上がらせる方法、履歴書システムがこんなにも複雑なのはそれ対策だと予測する説がかなり多い。リアルを目指すVR MMOだからという理屈で通ったとしてもこっち側はそんなに納得できない。
これはもはやそういう次元なのだ。
「私もそれ言われたけど正直そんなに関係ないと思うぞ。」
「やりこんだもん勝ちのこのゲームで、PR自体起きにくいもんね。」
【SAMONN】のレベルシステムは基本的に魔法やスキルを解放していくための足枷程度に思うことが多い。実際そうだ、レベルが高いから強い、のではなく真に実力があるから強い、廃人プレイヤーがレベル1縛りを半年以上続けられるくらいにはこの【SAMONN】のゲームシステムはレベルという概念に依存していない、、装備、アビリティ、他第三要素の恩恵が時にレベル以上の性能を出すことがある。
【SAMONN】はそういうゲームだ。
「結局のところなんで何だろうな?。」
紅月様が敵に槍を刺し倒し、そう言った。
「うーん、多分だけど。」
ルルカお嬢様が口を開き紅月様の質問に答えようとした時。
「それは、我々がお答えしよう。鉄血の死神、」
向こうの崖の上からいかにも寒気が走りそうな男の声が聞こえた、私たちはすぐに目をやる。
「、、フフ。」
「、。」
そこにはどこかで見覚えがある二人の男女がいた。一人は高身長で黒を基調としながらもこちらを達観するためだけにきたかのような服装でまるで何かを確信していたような口調だった。
もう一人の女性は背丈は女子高生くらい、金髪ツインテールにこちらに興味を示していない様子、しかしらながらその男とまるで二人でセットという違和感が拭えないほどに異質、。
(なぜギャルがここに。)
そうして二人組は無表情ながら、崖をを降り、こちらへ向かってきた。崖からの距離はかなり近かったためそれほど時間はかからない、しかし異質な雰囲気+どこか危険を漂わせる香りは緊張感を刺激する。
「誰だお前ら。」
紅月様が嫌悪の声を出しながら、敵に刺した槍を取り、警戒態勢に入る。
「なに、ただのしがない旅人だ。そんなに警戒しないでほしい、、」
「、しがない旅人ねー。よくもまぁそんな嘘がつけるな『アラハバキ』」
「!、『アラハバキ』って。」
『アラハバキ』、【SAMONN】のゲーム内において一大暗殺グループ『死屍』に所属するエリート暗殺者、、暗殺者でありながらその身を隠さない態度にいまや危険人物としてこのゲームで知らないものはいない。
手配書で見たことはありましたが、一体何が、、。
「これは、これは、メルド殿。ご無沙汰、、以前会った時は確かぁ〜、任務中でしたね、どうでしたっけ?。」
「あぁ、私達の食糧奪いやがって、せめて半分は置いてけっ!半分は!!」
「おいていくも何も食べてしまった、ないものはおけない。だろぉ?」
「せめて悪気は見せれよ、、。」
さっきと同じ反応で平然と口にする『アラハバキ』はメルドさんから呆れられていた。
食べ物の恨みは恐ろしいというがここまで開き直ると逆に対応に困るというもの、、
「まぁ、今回は貴方。ではなく鉄血の死神に用があるもので、」
「俺に?。」
話の内容は開けてみてからだが、決してこっちに利益があるものとは思えないい、大体暗殺者がなぜここにいるのか、、火を見るより明らかな話だ。
私は身構えた、いくら近かろうが距離は距離縮めるには最速でも1秒はかかる。その内に、、
「ネル、。」
『アラハバキ』がその言葉を口にすると名前を呼ばれたかのように隣りの少女が反応する。
「ん、送信。かんりょー、、」
手に持っていた携帯端末をこちらに向け、ポチッと画面をタップした。その行為にいったい何の意味があるのかそれは1秒後にわかることだった。
「っ!ルルカ!!」
「わ、!?」
紅月様が何かに反応しお嬢様を抱えながら飛び出す。
[バチバチバチバチバチ!!!]
紅月様とお嬢様がいたところは次の瞬間電撃の檻のようなものが突然展開され、砂を撒き散らす。
「うわ、うわ!!アキ、あいつ気持ち悪いっ!!」
「ああ、そうだな気持ち悪いな。さて、では仕事を開始しよう。」
ネルと呼ばれた少女は『アラハバキ』のことをアキと呼び、目の前で起こったことが信じられない風に言いながら彼をグラグラと右へ左へ揺らした。
『アラハバキ』は達観している様子で彼女に揺らされながらもその奥にはどこか真剣に物事を見ているような気がした。
「お嬢様!紅月様!!。。」
私は砂に身を横たわらせている二人の安否を心配して急いで身を走らせた。
「おいおい、どんな手品だよ!。」
メルドさんは状況を読めないながらも剣を抜き、彼らを警戒する。
「何とか避けれた。」
「もう、逆にお兄様何で避けれたの。ホントありがとうだけど、、」
紅月様が咄嗟に避けていなければ二人は今頃檻の中、そう考えると本当に良かったと思う。
「おニ人方大丈夫ですね。よかった…」
紅月様がなぜ先読みできたか、それは今の時点ではどうでもいい。
暗殺者が来たなら追い返すだけ、、私は起き上がる二人をサポートしつつ戦闘態勢に移る。
「鉄血の死神、技量だけでは計れなさそうだな。」
『アラハバキ』は「はぁー」っと疲れたようなため息を出し、武器を取り出す。武器は黒金に光りつつもどことなく赤いヒビが入った斧、切る目的ではなく鈍器としての運用をするつもりか鎖が刃に巻き付いている。
黒いコートで隠れた肉体とはいえ、細身でありながら自身の三分の二を占めるほどの武器を
いったいどのようにして支えているのか、着痩せしているのか、それとも、、。
「もー、すぐ終わるはずだったのにぃ〜。」
こちらもめんどくさそうな態度、しかしながらどこか笑っているように見えて仕方がない。まるでこの状況を望んでいたかのような口ににやわない声だった。
「お兄様、狙われてるらしいけど、どうすんだい?」
メルドさんが紅月様のことを気にかけながらそう言った。どうやらもういつでも戦えるらしい、、
「そうだな。巻き込んだ手前こんな要求したくないけど、『立ち退いて』もらおう。」
「は、。気にった。」
紅月様の言葉にメルドさんはクスッと笑い、そう言った。
両者は足並みを合わせながら、近づいていく。私もお嬢様もそれについていく、
相手も場をわかっているのかだんだんと近づいていき、そして。
[バッ!]
紅月様と『アラハバキ』互いに前進して武器を振るう。
[ギィン!!]
武器の音が戦いの合図となるかのように私は二人に続いて飛び出した。狙うはネルと呼ばれた少女…。
「はい、バーカ。」
そういった瞬間何か違和感に気づいた。一言で言えば地雷を踏んだ感覚、足元から突然光が放たれ私の視界に嫌でも入ってくる。
[バーーーン!!!!!!]
「突っ込んでくるって無策すぎw…」
「っ!!。ハァー!!」
「え?!ちょやば!!」
そういう反応になりますよね。お嬢様が無詠唱で攻撃被弾盾を貼っていたおかげで何ともない。信じて突っ込んでみるものですね!。
[バンッ!!]
「ぶなっ!」
透明な何かに私の拳は遮られ一撃は当たらなかった。シールド?、、しかし展開がいくら何でも早すぎる、スキルでしょうか、?。
「はなれーろっ!」
[ドバン!!]
携帯端末には何かを入力したとら思った次の瞬間、風圧がない何かが、私を攻撃被弾盾ごと押し返した。
(直撃だったら全身骨折ですねこれは!)
受け止めるものが押し返されるなんてことは通常ない、しかしこれは何だか理自体が違う気がする。
単純な物理魔法で分けられる話ではない気がする、もっと根本的から…。
そう考えながら私はザザーと、吹き飛ばされた体を持ち直し砂浜に着地する。
紅月様とメルド様、『アラハバキ』は未だ交戦中、二対一という不利な状況であるはずの『アラハバキ』は巧みな技量でそれぞれを牽制している。
(私たちはネルと呼ばれるこの少女ですかね。)
「ねーぇ。二対一とか卑怯じゃない?。」
「、かもね。でもお兄様の命令だから、、」
そう言いながらすでに用意された魔法陣から魔力砲を発射するお嬢様、実に容赦がない。
[ビビビビビ!]
「ちょっ、キッツ。」
それをまたもや防ぎ切る、ならばと思い私は素早く背後に回り込み。炎拳を溜める、。
『炎!ー。』
「みてんだよ!!」
こちらに手を出し、またもや防ごうとするネル。甘かったですね、、!
『射ッ!!ー。』
「ちょちょちょ!!!!!!」
炎射を防いだネルだったが、顔色は芳しくない。当たり前だ、その万能な盾は継続ダメージにめっぽう弱いのだから。
先ほど一撃を抑えられた時にわずかに感じた手応え。この万能盾は許容量をオーバした時、または継続ダメージを入れ続けられた時壊れる。
どんな盾でも弱点は存在する。おそらくこれは時間経過とともにエネルギーを回復するタイプ、なら回復する隙を与えなければ完封できる。
「殺すつもりはありません、投降なさい!。」
「んっ!くぅぅぅ、、誰がそんなダサい事ぉ!」
口ではそういっているネルではあるが、顔は余裕がない。ここまでくると暗殺者としての維持というものか…!
「ネル手こずりすぎだ!。」
[ドズン!!]
地面に叩きつけられた斧は波紋を呼び、私の炎拳を解除にまで至らせた。ただの衝撃波とは経路が違う、解除系統特有の衝撃波、。
私はそのことが理解できると危険と判断して一旦お嬢様の元まで離れる。お嬢様も衝撃波をもらったのか、先ほどまで続いていた魔法陣もパリンと儚く散った。
「あと少しだったのに。」
「ですが、切られたら流石にひとたまりもありません。正解でしたね、、」
お嬢様も『アラハバキ』からすでに距離を置いていた。仮に切られないとしても暗殺者、深傷を負わせることは意識せずともできる筈だ。
警戒を緩めることはできない、
「もーアキ遅い!。そっちこそじゃん!。」
『アラハバキ』が合流するとネルは怒りながらそう言った。
一瞬この人たちは暗殺者なのでしょうか?っと思ったが間違いなく暗殺者だし、強いことも確かだと思った。ネルの方はわからないがが『アラハバキ』は少なくともお嬢様が尊敬に値する二人のプレイヤーの猛攻を耐え切っているとみて取れる。
タイマンですら紅月様を相手取るのはかなり難しい、しかしそれに加えてメルドさんもいると考えるとネルを相手取っていたことが最善だったと改めて思う。
「ルルカ!、わるい、離しちまった。」
「中々抑えられないな。」
紅月様とメルドさんが合流、最初の対戦状態に戻るり、私たちは頭を巡らせて無力化の方法を模索する。
「どんな感じだった?。」
「正直言ってうまいね。私達二人がかりだっていうのに息一つ切らしてねぇ。」
「ルルカの方は?、」
「すぐに抑えられたけど。、もし抑えなかったらかなり不味かったかも。」
案外簡単そうに見えても、それは相手の防衛手段が極端に少ないだけの話、おそらくあのネルは攻撃型、もしくはトラップ方。
「それとおそらく彼女の攻撃は目に見えないタイプです。」
「一番面倒じゃんか!、」
「はい、ですので早めに抑えられたら、、。」
そうして私たちが意見を交えながら相手の出方を伺っている頃、相手は落ち着いた表情でこちらを達観している様子であった。
まるで最初から手の内がバレているような気がしてたまらない。
「ねぇーアキ、わたしそっち相手取りたい。」
「はぁ、わかったよ。お前は確かに『そっち系』だしっな!。」
地面を叩き割るような勢いで振り下ろされる斧、そして斧から放たれる縦振りの赤い斬撃は私達を引き裂くほどの威力であり、殺し過程で引き離すことを目的としているのが嫌というほどわかる。
結果は火を見るより明らかで、私たちはうまく分断された。
「さて、じゃあくたばるかくたばらないか選んでもらおうか。」
狩人の目、完全にこちらを追従してくる感じですね。私も攻め派の人間ですが、紅月様やメルドさんのようにうまくできるわけじゃない、、後ろには多分お嬢様がいる、援護してもらうことを前提にしてもらうにしてもヘイト管理は大切だ…どうしましょうか、。
「さて、どうしようね。」
「、、えっ、!?メルドさん!!」
「何だい、私じゃ悪いか?」
「いえ、そうではなく。、、てっきりお嬢様かと、」
「あー、アイツらの思い通りじゃしゃくだからね。斬撃が飛んでくる中入れ替わっといたんだよ。ルルカは今頃紅月さ、」
「そうですか。」
私はその言葉を聞くと少し安心したのか胸をホッと撫で下ろした。
「だから心配すんな。ルルカならしっかりやるし紅月だってかなり賢い、こっちも負けてらんないよ、、!」
メルドさんはそう勢いよく言うと飛び出し、『アラハバキ』に向かって突っ込んでいった。
「またお前か。」
「美人が来たんだよ!もうすこしテンション上げたらどうなんだ!!なぁ!!」
豪快に剣を振り上げ、勢いを乗せた動きで『アラハバキ』を押し込む、私はその姿に少し激励され、彼女もと同じように突っ込んでいく。
・・・
「そこっ!」
[バン!!ババン!!]
爆発が紅月のいくところどころで起きるも、スラスターによる高速移動と意識された回避運動によってことごとく躱される。
そろそろ苛立ちを覚えてくるネル。
「早すぎっしょ、しかもこっちの予測も全部見えてるみたいに、、。あー!気持ち悪い!!」
(感情的な奴だな。弾幕形成能力はバカみたいに高いが突破できないわけじゃない。)
[バァーン!バァーン!バァーン!]
(砂煙による視界不良も高性能カメラなら難なく見える。問題は、)
紅月は一気に近づき、槍にエネルギーを回し鈍器のように叩きつける。
[ゴコォン!]
(この壁だ。)
「あっちいけあっち行け!!」
ネルは近距離で攻撃を仕掛けるが、紅月には一発も当てられないなんならその次の攻撃も、、
[ガキン!ガキィン!!]
紅月の槍によって叩き落とされる。
(不可視の攻撃なのに、なんで!)
[ビー!!ビー!!!!!!]
そう思ったのも束の間、ルルカの魔力砲(マジックカノンが飛んでくる。
(くそっ、これじゃあ『打つ』時間が足りない。)
ネルはさらに苛立つ、継続的にダメージを出し、味方のサポートも行う後方魔法使い、SSランクと聞いていた時は楽に行けそうだと感じていた彼女の心にはほとんど余裕がなくなっていた。
(無属性はダメージ等倍、魔力率に依存する攻撃ならなおかつ倍率補正が、、!)
ゆえに攻撃を防ぐしかないのだが、防ぎ続けられるわけでもない。こちらからも攻するべきだと頭ではわかっているが、鉄血の死神がいいところで刺しにくる。
ネルの武器、スマホは射速式の遠隔攻撃端末だ。タップによる回数を稼ぐことによってて威力と射程距離が増す技であり、対面であれば無類の強さを誇ることは違いない。
しかし紅月はこの攻撃をなぜか回避できる。本人もこの理屈は理解していないものの、便利だから使っていると言う状態だ。
それ故の理不尽感というのがネルを襲う。
ルルカに向けて攻撃しようにも、回避も可能でありうことが不可視の攻撃をも撃ち落とす死神が常にマークし続ける。
ストレスがたまらないはずがない…
(でも、明確な突破法がある。かなり難しいしやりたくないけど…)
そう思っていた矢先、紅月が突っ込んでくる。チャンスだと思ったネルは賭けに出る。
「マイン!!」
「っ!!」
本来なら地雷方の技なので自分もろとも焼き払うような自爆技としては運用しないのだが、今回ばかりは不意をつくしかない、これで両者とも視界不良。
だがネルも相手の弱点をわかっていた。そのせいか次の攻撃に向けての防御に回さず、タップに回した。
標準はすでにつけてある。
(さようなら!魔女さん!!。)
「刑押!!!」
[バンバンバァーーン!!]
最大20連射の爆発系攻撃、あらゆる耐性を貫通後固定ダメージを相手に与える最高火力技、ネルが使うのを躊躇うほどの一撃だ。なぜならこれを使えば数分は武器が使用不可になるから、何より人に対してやるにしては人道的ではなさすぎるから。
[バババババ!!]
(攻撃被弾盾だろうと次には持たないはず!、最後の高火力お忘れずに!!!)
もう片方いるが一体削っただけでもかなり頑張ったほうだ、残りは『アラハバキ』に任せようと思い、次の攻撃を覚悟したその時、っと考えていると一つの影が自分を横切っていった。
「え。」
向こう側にいる魔法使いは、シールドが砕け、次の一撃で確実に戦闘不能レベル、うまく行けば即死レベルの攻撃になるはず、。
しかしその影は、なんの防御兵装も持たず、ただ自分の装甲だけを身に纏ってその不可視の一撃に追いつき、まるで魔術師を守るかのように槍でそれを突き刺した。
魔法使いは一撃死がないようにあらかじめいくつか呪文を貼っておくことが多い、故にルルカはこの状況で死ぬことは限りなく可能性として低いはずだ、しかし紅月にとってはそんなことを知ったことではない。
たとえそれが自分を大破状態へ持っていく攻撃だとしても、犠牲になるのが妹であっていい理由にはならない。
ゆえに突いた。自分が逆に弾け飛ぶかもしれない攻撃を、ただただ必死になって。
[ボォガァァァァアーーーーーーーン!!!!!!!!]
激しい爆発が砂を吹き飛ばす。別れていた陣営の誰もがそれを見た、演出がゲームのそれではない、決して受け止め切れる領域のものではない、そんなことはわかっていた。
なぜならその爆発によって吹き飛ばされた機人がまるで帰っていくかのように海へ落ちていったから。
「お、にいさま?…。」
紅月はルルカから防御呪文を重ねがけされていない、必要ないからだ。全て避ける紅月はルルカに自分のことに集中してほしいと先んじて言っていた。だからルルカは紅月にかけなかった。
しかしこれは、この結末は誰も予想ができなかった。仮に予想できていたとしても実際の最悪は予想を常に裏切るものだ。
『topic』
「今回は海が舞台じゃから、爆発反応機構はいらんじゃろ。今までだって役に立つことなかったしのー。」
っという案でエズは対爆装甲を今回織り交ぜていない。




