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五十五話「冗談抜きの怪しさ。」

前回のあらすじ


呪われましたね 呪われちゃったね 呪われちゃったかー。


 


 [ガタッ]


近くにあったカビた樽の蓋をそっと開け、中を確認する。案の定中には何も入っていなく、隣にあった樽に少しの期待を寄せて開けるが結果は同じ。先ほどからこれの繰り返しな気がする、、


 「なぁ、これって本当にイベントっていうか何か発生するのか?。」


ボイスチャットを利用して聞こえる紅月様の声は音すらかき消す雰囲気の中でかなり特徴的だ、お陰様でよく聞こえるわけですが…


 「んー。ハズ…なんだけど。」


続いてお嬢様の声も聞こえてくる。声の中にある若干の不服気味な感情が意識せずとも伝わってくる、お嬢様が『呪い』という状態異常にかかったことがないためかある種こういう系のイベントに免疫がないと思われる。


 まぁ私もかかったことがない人の内ですが、細かな捜索が決して嫌いなわけではないのでそこまで苦ではない。逆に【SAMONN】では戦いばっかりやっていたこともありある種心地いいまでくる。


 「似通った『呪い』というのも存在しませんからね、こればっかりは手探りでやる他ないと思いますよ。」


 「うぇ〜、めんどくさいなぁ。」


 「、。まぁ急がば回れっていうし地道にやるのが正解なんだろうな、」


お嬢様の今にも放り出しそうな声と紅月様のまいってはいるがやらなければいけないという使命感に駆られた声はとても特徴的だ。私は少し楽しいくらいなのだが、二人からしたらこれもいい思い出の一つとなるのだろう、そう考えると手が思った以上に早く動く。


 『呪い』を解くこととなった私たちがまず始めたこと、それがこの捜索だ。種類としては座標ループという名称がネットではよく挙げられている、一番シンプルで難易度も普通有り体に言ってしまえばどこにでもある『呪い』というものだ。もっともどこにでもあったら苦情待ったなしですが…。


この『呪い』の何がシンプルかといえばズバリ、攻略法と言える攻略法が存在しないということ、ネットのある人はこれを「ギャルゲーの恋愛対象攻略と同じ」っと言っていました、ギャルゲーにはあまり詳しくないのですがすごくわかりやすくいえば、それぞれに合ったやり方を試すしかない(手探りで)っというもの、。


これが初めての私たちからすればめんどくさいけれどもまだ新しみがあっていいものかもしれませんが、前述した書き込みをした人はおそらくとてもつまらなく、尚且つ面倒だということが文脈から容易に読み取れるほどだった。


 (まぁ、『呪い』が厄介なことにちっとも変わりはないのですが、)


 「あ、」


 「お兄様何か見つけた?。」


 「いや、クローゼットからコインがなんで?。」


 「、、。うん、まぁゲームの世界だから、」


一瞬でも期待した私がバカだった、みたいなトーンでお嬢様の声が聞こえてくる。、よく考えてみれば確かにクローゼットからコインが出てくるのはおかしいですよね。っと同意してしまう…、もしかしなくても私もかなりまいってきているのかもしれない。


 「それにしても街っていうくらいだから、めぼしいものが一つでもあると思うんだけど、。全然ない、」


 「確かに、捜索を始めてからかなり時間が経つっているはずですが、、まだ一つもないというのは逆に珍しいですね。」


廃墟・廃街には元々住んでいた人が金庫やら、宝箱などを持っているのが定石。しかしいまだにひとつも見つからない、いや紅月様がクローゼットからコインを見つけたことをカウントすれば一応ゼロではないのですが、如何せんコインはコインなので、、


 「、、。もしかしなくてもそれを自分のものにするってことはしてないよな?。」


 「何言ってるの?お兄様、見つけたら普通自分達のものでしょ。」


 (あ、これはお嬢様、まずいですよ。)


っと思った矢先、紅月様のために溜め込んだため息がボイスチャットを通して聞こえてくる。これ私にも届かないですよね?。っと自分だけ逃れようとしている心がいつのまにか芽生えるほどに、これからの展開が私には予想できた。


 「、、うーん。なんていうかなぁルルカ、その…あんまり人の家から盗むみたいな行為は控えてくれよ、それがいくら廃街になっているところだったとしても、」


 「うん?、でも誰も使ってな-」


 「なくてもだ、俺としてはそんルルカがあんまりその見たくないというか、考えたくない。俺個人の勝手で言わせてもらっている都合上、あんまり強く言うつもりはないんだが…それでもルルカがやっぱり盗みじみたことをやっているとなると、少し思うところがある。」


 「うん、」


 「だから、まぁいや、いいや。忘れてくれ、」


 「う、ん。」


お嬢様は紅月様の言葉をしっかり聞いてはいたものの、このゲームという括りが二人の話からとても邪魔そうに聞こえた。勝手に物を取るのは普通に考えればおかしいことだ、しかしゲームであればその行為はなぜか認められる。


好奇心が倫理を上回っているのか、はたまたこれはゲームだからという事情が成立しているのか、どちらにせよ。紅月様の見解はこのゲームの難しさを表現していると言っても差し支えないだろう。【SAMONN】が現実に似通っているからこそ言える言葉だと私は思った。


 まぁ、それは分析に過ぎずなんだがギスギスした雰囲気になるのはお二人方もとい私としても良い部類ではないので、、。


 「一旦集まって休憩しませんか?、このまましらみつぶしにやっていてもあまり良い気分ではないですし。」


 「サンセー!」


 「じゃあ場所はさっきのところで。」



そうして私は先ほど自分たちが居た場所へと戻っていく、『呪い』にかかっていても地図自体は正常に作動しているため、まず迷子になることは…




 「、、。すみません。迷いました、」


 「ごめん私も、。」


 「追撃を入れるなら俺も、」


どうやら離れ離れになってしまったようですあら大変。


 「えっと、地図見てきたよね?。」


 『もちろん。』


 「方角が間違っているとかないよね?。」


 『もちろん。。』


 「なんで迷ってるの私たち?。」


 『わからない。』


どう足掻いても間違えるはずのない一直線できているはずの私ですらなぜか、次の瞬間には迷っている。座標ループとはまた違ったような感覚だ、あちらは地図をしっかり見ているのにいきなり自分が地図ごと移動したような感じ、しかしこれは違う、地図も自分が進んでいる方向も気がついた時には別の方向に行っている。出口へ向かって歩いていたらそこは入り口だった、という表現が相応しいような怪現象だ。


 「、、『呪い』じゃなさそうだよね、」


 「はい、状態異常『呪い』に重複効果は存在しません。一つの『呪い』にかかった場合、解呪されるまで他の『呪い』が重ねがけされることはシステム上ありませんから、」


 「、、なら『呪い』じゃないならこの現象をどう説明する?。他の状態異常じゃないってことだろ、俺も迷っているっていうことは、、」


紅月様が唾を飲むような声で慎重にそう言った。私はなぜ紅月様がそこまで重いように言ったのか、その文脈で読み取れた。そしてその瞬間ゾッとした…


 紅月様の種族オートマタは状態異常がまずかからない、今回のイベント形式の『呪い』は付与率100%であり無効が貫通して付与される都合上、紅月様でもかかるということがわかるが…、ならばこの怪現象をどう表そうか?


 「…。ちょっと待って、私理解できないんだけど。」


 「、、私もですよ、。」


 「…、。」


シーンとした雰囲気がだんだんと周りを包んでいっている気がする、。ただの勘というよりかはまるで見えないけれども確かに感じる確信、勝手な被害妄想が出ているのかもしれないが、どちらか片方にレーバーが倒れないような感じ。

私はそれがどうしようもなく怖くなってきた。まるである日の誰かを見つめているような気がしているからで…


 「ルルカ、ウミさん、広範囲攻撃は撃てるか?。」


詰まって抜けなさそうな自分の心を落ち着かせるような真面目な声が聞こえてくる。紅月様が一瞬なんて言ったのかわからなかった、どうわからなかったかといえば全てだ。しかし今それを考えるのはこの問いを消すようなことだと弁えていた、ので。


 「私は当たり前でできるよ。いつもやっているし、、」


 「私も、地面に撃てば不可能じゃありません。」


 「よし、なら準備して、合図したらやろう。」


 「!、わかったお兄様!!。」


えっえ、と一瞬戸惑う。わけがわからない、なぜ同時にやる必要があるのか、なぜ広範囲なのか、聞きたいこと自体はこの瞬間に色々あった、でもそれが私の動きを止める要因の一つとはならなかった。簡単な理由だ、私は最初から最後まで主人であるルルカお嬢様に付き従うと決めていたから、気づいた時には炎拳フレイムフィストの準備段階として拳の目標を地面に決めていた。あとは突き下ろすだけだ…


 私はメイドになる時に決めていたことがいくつかある。


 (メイドは必ず主人に従う。)


 「3、、。」


それがいいことなのか、悪いことなのか、基本的に私は考えない。なぜならそれはこのありきたりな前提条件を作った私を否定することになり、今まで行ってきた本当の審議を問われるように聞こえるからだ。


 「2…。」


でも大丈夫だ、私はなんのためにメイドを目指すか決めている。だからどの、誰のメイドになったとしてもこのルールを適用することではないこのルールは


 (お嬢様だけのもの!!)


 「1…、。!」

 

 『炎拳フレイムフィスト!!』『魔力砲マジックカノン!!』『最光出力電雷爆破槍ライジング・ブレイカー!!』


 拳に纏った炎は地面へと打ちつけられ、ひび割れたところから炎がそこらじゅうへと広がる。今にも裂けそうな地面炎は範囲を広げて、ある一定の部分でまるで壁に当たったように止まった。


次の瞬間というのが正解か。遥か遠くで雷撃のような爆発のような一撃と、連鎖する小爆発が聞こえる。


 (方向は分かりませんが、おそらくこの霧の。)


霧に注目しているとパキパキパキっという音が鳴り、突如空中にヒビが入る。まるでガラスが今にも割れる瞬間のような光景だ、内側の圧力に耐えられなくなり、いつ壊れるかもわからないガラス、それが今始まる。


 [パリーーン!!!]


空中から割れたガラスの破片が降ってくる。しかしいずれも大きな形は残らず、空中で小さくなっていき崩壊して行った。


私は目の前の事象を考えることで精一杯だった、今のは一体なんだったんだ?っとこのゲームを長らくやっている私ですら疑問に思わせる現象…


 (、、今ならお嬢様達と合流できる?。)


考える前にそのことで埋め尽くされた。メイドとして私も磨きがかかっていたというわけか、気づいた時には先ほど集まる予定だった場所へと走り出していた。


 

 目的地まで数十メートル、というところで何かが私の頭上を通り過ぎて行った。煙の黒いモヤのようなものだった、目的地は目視で確認した程度だが、私たちが合流予定の地点だ。一体何が起きていて、今のは本当に、、っと考えるばかりだ、ただ見ずにわかる通りの不気味さが自然と私の心を刺激し、足を今以上に早めた。


呼吸が早くなり、心臓の音がこれでもかというくらい早くなり、目の前には大広間の道が見えていた。


 着いた時には誰もいなかった。


 (私が一番乗り?それとも、、。)


自分のに自信が持てないといえばそうなのかもしれないが、私は心のどこかでこれもさっきと同じ分けられた空間なのではないかと自然と思った。あることは二度ある、二度あることは三度ある、三度あることは四度あるともいう…考えていけば無限にあるのだが、、その言葉を鵜呑みにしたような考えたが頭でいっぱいに。


 「あ!ウミ!!」


 「っ!お嬢様!!。」


になる前に、私の声を呼ぶ。私は疲れが吹き飛んだようにお嬢様の元へと足を動かした。


 『ちっ!がーう!!』


しかし私が到着する前に、お嬢様がお嬢様へとドロップキックしていた。ドロップキックを受けたお嬢様は転がりながら広場の向こうへと倒れて行った。


 「お、お嬢様?!」


 「ウミ!騙されないで!!。」


その言葉を聞いた瞬間、身が閉まった。これは本物だと心の中で確信したからだ、何がトリガーとなったかはよくわからない。長年の間といえばそうなのかもしれない、しかし今はそれが問題ではない、一番に問題なのは。


 [グズグズー。]


お嬢様の形をとった偽りの化け物。形は人型から段々と泥のような形状へと変わって行っている、中途半端に作られた泥人形という表現がいかにもに似合いそうな見た目である。


 「あれは?、」


 「さぁ?新手の擬態系のモンスター、、だと思う。」


だと思う。、この回答を聞いた時、正直さらに身が引き締まった感じがし、お嬢様はこのゲームに情熱を注いでいる人だ。そんな人が今まで見たことない敵だというならばそれは警戒心が必然的に高くなる。


 [ビュン!!]


 「魔力砲マジックカノン!!!!!!」


相手が飛び動いた瞬間に合わせるようにお嬢様は高速詠唱ですぐさま魔力砲を撃つ直撃地点が爆発に呑まれ、煙が私たちの後ろへ通り過ぎる。


嫌に静かだ。


 [グズグズ!!]


 「っ!!。」


泥はお嬢様の目と鼻の先まで飛んでいた、私はそれにいち早く反応して、思いっきり泥を殴る。


 (いつのまに。)


 動きが見えなかった、といえばいいのだろうか、それとも相手が予想以上に身軽で早かったと…そうでなくては音もせずに突然現れるなどという芸当は普通できない。


 (そして。)


 [グズズゥン!!]


殴った泥はその感性を掻き消すかのように腕にまとわりついた。そして私の腕へ乗るような感じがすぐ同時に行われた。


この泥形状変化できるらしい、泥に目があるかどうかは定かではないが、明らかにこちらを狙っているという気がしてたまらない。


 (私の体が警戒信号を出すほどに。)


 「魔力砲マジックカノン!」


光の筒が私の目の前を通り抜け、腕にある泥だけを落とすような軌道をとっていく。そしてそのまま流れに呑まれた泥は地面へと叩きつけられ、同時に爆発する。


 「大丈夫?!、」


 「大丈夫です。問題は、、」


 [グズグズ]


効いていない、と言いたいほどに先ほどと全く変わらない動きをとる泥。叩きつけられた面影も爆発し吹き飛んだ痕跡もないように、まるで元からそうであったように…


 「思った以上にめんどくさそうですね。」


 「幻術もこいつのせいでしょ、お兄様の言った通りにしなきゃ気付かなかった。」


幻術、そうか。私は幻術をかけられていたのか、、通りで頭にその言葉が出てこないわけだ。紅月様は状態異常が効かないだけで魔法が効かないわけではない。


私は魔力量が多くなかったためか、最も簡単に幻術にかかり、、気づかなかった。お嬢様はおそらく魔力量が多かったから私よりいち早く気づいた、そして紅月様は、、。


 「紅月様、まだですか?。」


 「お兄様、足止めくらってるらしいの。だからここは私たちだけでやるしかなさそう、、」


紅月様を足止めしているということは、、先ほどの幻術をこの泥のようなやつ一人で行っているようには見えない、もしかしたら他にも同一個体がいるのだろうか、、そして紅月様はそちらを対処している。っと見るのが正解か…


 「速戦即決と行こう、ウミ。」


 「はい!!。」


 「魔力砲マジックカノン!!!」


お嬢様がそう唱えると、私は前線を張るため前へ出る。どんどんと泥との距離が近づいてくると、後ろから魔法を放った音が聞こえ、次の瞬間には私の上や隣を通って先行で泥へ攻撃した。


 [ドドドン!!]


私は変に避ける必要はない、ただまっすぐ。目の前の泥を、、


 [ドンッ!!]


 (殴る!!)


炎拳フレイムフィストが爆風の中で焼け、魔力砲をものともしなかった泥へと直接的に当たる。右ストレートがググッと泥を押し抜けてる。


 [グズグズ]


泥が炎の中私の腕に再度絡みつこうとする。


 「それは見ました!!。」


私は絡みつき止まった腕を思いっきり上げ、地面から泥を引きちぎる。そしてそのまま拳を裏拳のようにして地面へ打ちつけた…いわゆる台パンの構えだ、、


 すごい衝撃と共に、泥は私の腕を離れた。

その瞬間を逃すほど私たちは甘くない、、


 「審判鎖ジャッチメントチェイン!!からの!!魔力砲マジックカノン!!」


鎖が、溢れそうな泥をなんとか固形まで保ち拘束する。そして私が離れたことを確認すると、すかさずそう放ち拘束されてあった泥を四方八方から魔力砲で攻撃した。


周りが壊れそうな爆発が起こり、風圧が目の前から一気にくる。しかしそれも一瞬だ、まだやったという気にはなってはいけないと自分のメイドとしての直感が囁いてくる。そしてその直感通りにことは運んで行った。


 [グズグズ]


 「硬くない?。」


 「というよりも効いてますかね?。」


今のは失言に近い、言わなければよかったと正直思った。なぜなら効いていますの一言言えばまだまだ戦う気力を維持することができたからだ、この策がダメならこの策でやると言った気力は現在持ち合わせていない、まだまだ序の口だが今後の先を見据えるなら少し考える時間は必要だろうと思い行ったのだが、、


 「ふぅ、でもやるしかないよね。」


 「そうですね。少なくともここからでなければいけませんから、、」


サーチアンドデストロイというわけではない、私達の目的はここから出ることであってこの泥を倒すのが仕事ではない。しかし感じる、この泥が全ての元凶だということになぜだか自然と思ってしまう、、ちなみにこれは幻術ではないと思う。


 「炎拳フレイムフィスト!!」


地面に拳を叩きつけ、炎が垣間見える地割れは敵の足元へと伸びその身をやけ焦がす。


しかし泥はまるで脂のようにその炎の中依然と行動しそうな兆しが見える。


 [グズッ!!]


その頭の中で展開していた通り、泥は液体から形を変えは、固形に鳴りこちらへと尖った針のような先を向けてくる。


 (ならば、その針を壊すまで。)


私は炎を再度腕に絡ませ、真正面から砕こうとする。しかし、泥はいきなり方向転換、針のような形状から枝分かれをし、私の拳を避ける軌道でもう一度繋がり顔を刺しに向かってくる。


まずいと思った時には遅く、目と鼻の先。


 (どうする?、流石にこのままでは直撃は免れない、少し顔を横にずらす?。いや、この泥のことだそうしたところで執拗に追尾してギリギリでも避けきれない。)


死ぬ時、人はスローになるという。見ている風景、体験している時間がゆっくりになる感じ、それが今私に起こっている。つまり、これは私は次の瞬間死ぬということか…あー。


 (いい人生、でもありませんね。これ、)


 [バチンッ!!!!!!]


 「攻撃被弾盾アタックダメージシールド!!」


 「っ!!フレイムっーフィスト!!!」


渾身の一撃が、固形化した泥の表面を壊し、本体まで通る音が聞こえる。私はここに追撃を入れたかったが、如何せん頭が回らないため、体全体で炎を回し近くの建物に泥ごと炎を押し飛ばした。


 [ドドン!!…、バゴーーーン!!]


建物は炎と泥をうちにため、待つこと2秒。大炎上した…家全体に火の手が一気に周り、まるで今にも燃え滓となろうとしている状態であった、霧の中に水分が混じっていたとは言え、それも蒸発するほどの熱気が使用者である私にですら届く。


 《炎射フレイムストライクを習得。》


どうやら私はまた一段と強くなったらしい。自分を褒めて讃えたいところだが…


 [バキンッ!]


炎渦巻く廃墟の中から、明らかに崩れ落ちていく木の音と一線を画す破壊音が聞こえる。その音はどんどんと大きくなり、。


 [バーーン!!]


家から出てきた。まるで火山が噴火したかのような勢いで出される泥はまるでマグマであった。液体が逆噴射しているような光景を私たちは見て、そして恐れた。


 [ピンッ!]


泥の中に赤い二つの点が現れる。こちらを見ているようにも、まるで遠くを見ているようにも見えるそれはまるで瞳のようだった。

仮にそうでなくとも勝手に心が「あれは瞳だ」っと理解してしまう…随分と心理戦がお得意なようでと褒める暇なく、無尽蔵に出てくる泥は針のような形となり放り注いできた。


 [シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!!!]


地面にグサグサと刺さる。その針はまるで空から剣が垂直に落ちてきているような光景であった。落ちる地点に関しては完全にランダムゆえ、下手に動きさえすれば当たるのは


 [ザス!!]


 こちらの方だ。


 (いっ。!)


腕に思いっきり刺さるその針は肩にかかる力を緩ませ、私の体幹を崩した。メイド装備の私は防御力がかなり高く設定されているのにも関わらず、その装備、いや腕はたった一刺しで貫通まで持って行かれた。


 「ウミ!!」


 「っ!!炎射フレイムストライク


なけなしの力をもう片方の腕に込めて、天へと放つ。しかし泥は炎に遮られるものではないと自己主張するかのように、抜けてこちらへとさらに降り注いでくる。


 「攻撃被弾盾アタックダメージシールドドーム!!!!」


 [キンキンキンキンキンキンキンキンキン!!!!!!]


行き着く暇のなく降り注ぐ針が展開された魔法にこれでもかと音を立てて割りにくる。

意図しているものなのか先ほど私が当たったことはとても幸運なのではないかと思えるほど、その針は強く、早く、多くこの場へと落ちてく

る。


雨の小雨がまるで傘を穴開けるまで振り続けようとする大雨に変わった時のようなそんな気がした。


 「お嬢、、様。」


私は力が抜けていき感じを悔やみながらその場で膝をつく。


 「待って!いま手当するから!!」


 「、、すみません。守るはずが守られるなど、、。」


 「うるさい!!バカ!!無理しないで!!」


そう強がりな態度を見せつつも、お嬢様は突き刺さった針をどう抜こうか手をあせあせとしている。


 「自分で、、。」


 「ウミは力抜いてて!!」


 「、はい。」


今一番大変なのはお嬢様だ、魔力を絶え間なく展開し続けるドームはかなり消費が激しい。なおかつ現在進行形で攻撃されているとくると、なおかつ魔力を修復用と維持用で使う。


持って数秒といったところだ…


 「行くよ。せっーの!!。」


 「ぅ、ぐぅ。」


腕に突き刺さった痛みが裂ける痛みへと変わっていく感じがする。まるで爪を剥ぐかのような痛さ、元々刺さったままで自然と皮膚と一体化してしまったものを外すようなおかしな感覚。


 「ぬ、抜けない!!」


 「お嬢様、、。」


時間がないことはドームが知らせている。先ほどまで色を健在だったドームは少しずつ光を失っていっていき、今では半透明にまで落ちている。


 「私のことは、、。」


 「いや!!ウミも死ぬなら私も!!」


 「っ!あなたはここでは終わらないでしょう!!…行ってください。」


 「!でも!!」


 [パキパキ]


ドームにヒビが入る音だ、これでお嬢様も、、。


 「っ!。」


 「私もうまく避けますから。」


 「っ、、。絶対?。」


 「はい。約束します。」


 [ピシピシピシッ!!!!!!]


 「わかった。、信じる!!」


そう言いながらお嬢様は、わたしから離れた。さて、現実に戻ったらどう言い訳すればいいのか不肖、このメイドウミ、、わかりません。


 [パリン!!!]




 

『topic』


防御魔法はダメージを与えると耐久力と、相手の使用魔力を削れる。また、被攻撃時に防御力を一定にしているときは通常よりさらに多くの魔力がかかる。

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