四十九話「夏だーっ!海だーっ!お兄様だーっ!」
前回のあらすじ
鉄血の死神ってやべーな。
──ルカの家・ルカの部屋──
「ふんふふ〜ん。」
私は水色のバックに夢と希望が詰まったアイテム達を綺麗に整頓しながら入れる。明日のことを考えるだけで顔のニヤケが止まらない…
「お嬢様、準備はできましたか?。」
ナミの声が突然背後から聞こえた私はビクッと驚くことでもないのにすごくびっくりした。
「う、うん。…ノックした?。」
「はい。少なくとも五回は、、」
怒っている感じじゃなさそう、っとわかると私は色んな意味でため息を吐いた。
「そっかごめん。明日のことが楽しみで、」
考えるだけでもワクワクする。明日はなんとお兄様と一緒に海に行くのだ、もちろんお父様とナミもついていくけど、それでもあのインドア派のお兄様が今回のことに応じてくれたのはとても嬉しい!。
暑い砂浜、煌めく海の水、それと私の完璧で究極なお兄様ぁ〜!
あぁ〜!、想像しただけで声が聞こえてくる。
『ルカぁ〜、俺を捕まえてみろぉ〜!。』
『えへへぇ〜、待ってよ〜、お兄ちゃん〜!、』
「えへへ。」
「お嬢様?。」
再度ナミからの声が聞こえると、私の妄想は煙となって消えた。
「は!な、なに?」
またもや自分の世界に入り浸っていたことで顔が変になってないか、少し確認しながらナミの声に反応する。
「、明日は早いのですからしっかり寝てくださいね。楽しみなのは十分にわかりますが,」
「も、もちろんだよ〜。せっかくお兄…海に行くんだから、体調を崩したりしたら元も子もないでしょ、そのくらい私だってわかるもん。」
お兄様からも最近は自分のことを大切にするように言われているし、これくらいわかっていなければ私の面目が立たない。それにいつまでも子供として見られるのは…
「、そうでしたね。ではおやすみなさい。」
ナミは扉に手を掛け、一礼した後部屋を出ていった。
「おやすみ〜。」
私は扉が閉まるまでの間にそうナミへ言い。バタンっとしまった扉を少しの間見つめ、考えながら。
「私も寝よう。」
っと小声で言い、大きくあくびをしながら持ち物でパンパンになったバックのチャックを閉め。
目をこすりながら薄い掛け布団のベットは潜り込み、枕に首を降ろす。
明日が楽しみで仕方なかった私だが、どうやら日常的な疲れには勝てないようで、
「zzz」
その夜はぐっすり眠ることができた。
──???──
「ル…カ」
「うむぅ〜。」
誰かが私に声をかけてきているナミかな?何かあったのかな?でも私は眠いからおやすみぃ〜。
「ルカ!、」
「はっ!お兄様?!」
私はナミかと思っていた声が実はお兄様だったことに気がつくと私は飛び上がりながら起き上がる。
「全く、もう疲れたのか?。」
「え、あ?え、?!」
私は寝起きだったからか、状況がわからずにいた。お兄様がそこにはいて、さっきまで私は何かしていて、それだけしかわからなかった。
そして、頭の整理ができないうちに、、
[ギュッ]
お兄様は私を抱きしめていた。
「?!っ」
私は一瞬で顔が熱くなるのを感じると同時に驚きと恥ずかしさで、顔を思わず隠したくなった。しかし顔を隠せる所といってもそれはお兄様の肩、記憶では涙を拭くのに使ったことはあっても…恥ずかしから隠したことはなかった。
「ん、何を恥ずかしがってるんだ?。」
耳元で囁かれる声に体が反応し、ビビビっとする。まるで体全体を一瞬にして全部触られたかのような気持ちいいようで気持ち悪い感覚、でもお兄様だから、私は嫌がりはせずただただ必死に困惑するだけだった。
「あ!えっと、!?お兄様?!」
「もしかして、忘れたのか?。」
優しい声がまた、耳に響く。思考がだんだん溶解されるように体がお兄様へ預かられていく感覚がする。
「なら思い出させてやる。」
お兄様の湿気がこもった声と舌の音がさらに私にブーストをかけるが、精神はしっかり反応していた。
「!待って!!」
「またない。」
「ダメダメダメ!ダメだよお兄様!!こんなの!!」
「なんだ?いらないのか?。」
「ほ、欲しいけど!!欲しいけどー!!!」
「なら、おあがり。」
「ン〜〜〜!!!」
私はそれを口に入れる。柔らかい食感と甘々しい味が口一杯に広がる、私は思わず。
「おいしぃぃぃぃ〜!!!」
っと叫んでしまった。
「今日は食べ放題だからなぁ〜、いっぱい食べろよ。」
テーブルに並ぶ多くの甘味を前にお兄様は私のためにまだまだデザートやスイーツを机の上に置いてくる。
「もー!お兄様!!こんなの出されたら食べるしかないよー!!。」
私はそう口にしてはいるが、それと同時にこの場にある甘味全てを食べ尽くすが如く、口にクレープを入れる。目の前にある美味しい欲望には誰も勝てないのだ…、。
「別に食べたって減るものないだろ。いいじゃないか、たまには。」
お兄様は私の隣に座り、手に持っていたモンブランを机においた。
「ウムウム、確かに、たまにはいいかもしれないけど!女の人っていうのは色々気にするものがあるの!!。私も例がじゃないし…ウムウム。」
「、、って言いながら頬張っているのはどこのどなた?。」
目を細め、モンブランを食べながらお兄様はまるで私に言っているかのように言う。
「、っ。私だよ、でも仕方ないもんお兄様が持ってきたのが悪いから、、」
それに対して、私は少し恥ずかしくなりつつも、お兄様を言い訳に食べる手を続ける。こんないい機会二度とないのかもしれない、今のうちに食べておけるものは食べておかないと…。
そうして私は数多くの甘味を食べた。でも不思議と太らなくて、そのまま美味しいものをお兄様と食べて食べて食べて…。
──ルカの家・ルカの部屋、朝──
[ピチチ]
いつのまにか半目で私は天井を見据えていた。
「…何今の幸せな夢。」
覚めないで欲しかったっと小声で呟きながら、仕方なくトボトボ起き上がる。
(もうちょっとお兄様とビュッフェデートしたかったのになぁ〜。)
でも今日がどちらにせよいい日になることには変わりない。だって今日はお兄様と擬似的にデートできるのだから!!
私はそう心に決め、閉じていたカーテンを両手でバサっと開く。
[ザーーー!!!!]
「へ?。」
私が開けたカーテンには五月雨のように降る雨が庭を水浸しにし、窓に大きな水の塊が打ち付ける光景が広がっていた。
[シャ]
思わず目を背けたくなるような光景に、目を背けるのではなくカーテンを閉めるという行為で私は今見た光景を拒絶する。
「…。」
大丈夫、天気予報は晴れだって言ってたし、降水確率は少なくとも10%だったし、周りの県の天気も、行く先の天気もどちらも良好だった…ハズ!!
「きっとカーテンをもう一度開ければそこにはどんよりとした空気の始まりじゃなく!清々しいほどのいい天気があるはずー!!」
そう思い切って私は再度カーテンを開ける!
大丈夫!運命は私の味方を!!
[ザーーー!!!!!]
「…。ふぇぇぇぇ〜。」
こうして私の夏の浜辺デート作戦は幕を閉じた。
しばらくして、私はお兄様と電話していた。
「天気、変えて。」
「そんな無茶な。」
お兄様は当然の回答として返す。私自身でもよくわかっている、でもきっとお兄様ならなんとかできる方式で頼んでみたが、やっぱりダメそうだ。
天気予報は昨日のが嘘みたいに大雨、どうやら早い梅雨に突入したとかなんとかネットでは話題になっている。今週いっぱいは雨模様で、来週も雨になる可能性が高い、せっかくの夏休みを全て台無しにされた気分だ。
「ムー。」
「、今日の日のことを楽しみにしていたことはわかってるよ。だが天気はもちろん変えられない、今度何かで埋め合わせするよ、、」
「ムー。」
「、それと今日は海に行く予定だったし、今週も特に大きな事は入れてないんだ。何かしたくなったらいつでも連絡をくれ、。」
「うん。」
[ピ]
私はお兄様との電話を切ると、枕に顔を埋めた。お兄様は私に気を遣ってくれている、それはとても嬉しいが今の現実を理解し、受け止めるには少し私のメンタルは弱かった。
[ガチャ]
「お嬢さ、。」
「…、。何?、」
ナミは私の洗濯物を手に持ちながら扉を半空きしたところで止まっている。私の様子を伺いにきたのか、はたまたタイミングが悪いと感じたかのどちらかだろう。
「いえ、洗濯物を。」
そう言いナミは私の部屋に入ってきて、クローゼットに洗った新しい服をハンガーへかけていく。私はというとその光景をただただボーッと無気力状態で見ていた。
「海、残念でしたね。」
「、、うん。」
ナミも残念そうな声で言う。そっか、ナミも行きたがっていたんだなぁ〜っと私は過ぎたことのように思う。
「今日のお仕事はそんなに多くありませんので、お嬢様さえよければ【SAMONN】に行きませんか?何か新しいイベントがあるかもしれませんし。」
「うん。」
どうせ行くならお兄様と、っと言いたかったがなぜだかそんな気分にはなれず、。
仕事が終わり次第私とナミは【SAMONN】へ潜り込んだ。
[ジジーー]
体がロードされ、前回やめた地点で戻される。思えば最近はテストとかで忙しく、あまりログインしてなかったなぁ〜っと思う。
ゲレーム内の施設はいつも通りオートマタ達が慌ただしくしているのがわかる。
「いつもバタバタしていますね。」
隣に立っていたウミが私に軽く言う。
そうだね〜っと、私も軽く返事をする。
「とりあえず、お知らせを見て見ましょう。何かいいのがあるかもしれません、」
「うん。」
私はウミのテンションに合わせながらメニュー画面を開き、お知らせ一覧を開く。
「…結構溜まってる。」
「最近はやっていませんでしたからねぇ〜。」
画面をスクロールしザーっと内容を片手間で見ている中、ウミの声が私の上から聞こえてくる。しかしイベントと言ってもどれも目を引くようなものはなく。
運営はもうすぐ始まる第三回大会の内容の一部始終を開示することで今期のイベントを先延ばしにしている感じだった。
しかしおそらくそれは本来の目的ではなく、第三回大会に向けてプレイヤー達が準備する中、イベントをやってしまっては楽しんでもらえる人が少ないと見ているのだろう。
せっかく作ったものが無駄になるのはよくない、お兄様がよく口にしていたのを私は思い出した。
しかしそれはそれとして別なので、
「ハァ〜。」
色々溜まったため息を吐いた。
そして私たちは
「、、。買い物とか行きますか?」
「ぅ〜ん。」
もはや何もしたくない。何もやる気が起きない、雨の日特有の気怠さか、私はそう思ってしまった。もしかしたら、今日お兄様と海へ行けなかったショックも入っているかもしれない。いや、多分それが7割以上だろう…
「あー!もうっ!。」
私は人目を気にせず、天井へ向かってそう叫ぶ。周りの人達は特に気にする様子もなく、各々仕事に向かっていっているのがわかる、別にそれに対してどうこう言うつもりはないが、、なんというかここにいる人達はみんなバタバタしてそうだなぁ〜。っと改めて思う。
「これこれ。ここは叫んでいい場所じゃないぞ、」
一つの足音が私の前で止まり、そう喋りかけてくる。この声は知っている。
「エズ様、こんにちは。」
「うぅむ、こんにちは。」
私はいつも通り白衣を見に纏ったエズを見て、失礼だがさらに心がめんどくさくなった。
「何しにきたの?」
私は若干イラつきを覚えながらエズに対してそういう態度を取る。
「お嬢様、、。すみません、今日は雨で。」
「あーあ。わかっておる、十中八九やる気が出んのじゃな。」
エズはウミに苦笑いしながら、私の方へ首を向ける。
「ふむ。相談くらいなら妾が乗るぞ、」
「…。」
私はハァ〜っと嫌そうなため息を出し、エズに語った。エズはそんな私の態度になんの変化も見せず、熱心に事を聞いてくれた。
「海かぁ、確かに季節ではあるの。ここのところ暑くて、、妾もコーティングしてないと装甲が持たんとくる。」
「オートマタにもそんなことが?。」
「うぅむ、下手に日の光なんぞ浴び続けたら装甲が剥がれ落ちてな、結果内部機能の劣化にもつながって、、。って今はその話題は置いておくとしよう。」
ウミの質問に律儀に答えようとするエズだったが、私の顔を一目見て諦めたように話をやめる。
「海じゃったな。それならいい提案があるぞ、」
「いい提案?。」
「うぅむ。ちょうどオープンクエストが新しく出ての、。」
そう言いかけると、エズは辺りをキョロキョロした。それは何かを探しているというよりかは誰かに見られているかいないかっと少しの不安が混じっている感じが動きからわかった。
「ここじゃなんだ、場所を変えよう。」
そうして私たちは施設を出て、ここにきた時と同じ大きなエレベーターに乗る。つい最近乗ったばかりだというのになんだか私の胸は寂しく感じた。そして、そんな心を感じながらエズと出会った客室にまた戻ってきた。
部屋に入ると私は記憶が一気にフラッシュバックしてくる、。部屋はきた時と同じ、時計、同じ間取り、同じカーテン、同じ椅子、。まるで『また』ここにきた時の感じだ…しかしそのことを考えると私の隣がひどく寂しく感じる。…いるといないとでこんなに変わるんだなぁ〜
「懐かしいですね。」
「ここでお主らに会ったからの。感情深いわい。」
「、そうだね。」
いつもならテンションを上げる私は今日はかなり落ち着いている、どうしてか?。理由なんて1番自分がわかっている…
「さて、すまんがビジネスの話じゃ。適当に座っておくれ、、」
私たちはエズが、座る椅子と向かい合う形で椅子に座る。エズは着ていた服の中から紙を取り出す。
「なんで紙?」
普通にデータを送ってくれればいいのに、っと意味で私は口に出した。
「実はの。」
エズは一呼吸置いて、机に置きかけた紙両手で持ち直し空気を変えた。もしかしたら何か特別な理由があってのことかもしれないと、私は思わず唾を飲んだ。思えば私もお兄様に似てきてしまったなぁ〜っとこの後すごく思って、すごく喜んだ。
「最近、画面の見過ぎで目が痛くての、、たまには原始に戻ろうかと。」
「…。」
あきれた。、【SAMONN】(VRゲーム)をやっている時点で目が痛くなったりするのは当たり前だし、なんならエズの場合やり過ぎで目が痛くなったというのがそうだろう。でもきっと言ったら、、
『妾は大変なの!あれもこれもやらないといけないの!!だって女王だもん!!』
とか返されそうだなぁ〜そうされたら面倒臭いなぁ〜っとやる気のない私はとてつもなく失礼に思ったため。
「ゆっくり休んでね。」
っとだけ伝えた。
「うぅむ。もしかしたら老眼かもな、、(こやつ今なんか失礼なこと思ったじゃろ。)」
「それでその紙は?。」
「あぁ〜そうじゃったな。それで、これがそのオープンクエストの紙じゃ、」
ウミの言葉に気を取り戻しつつ、エズは両手で持っていた紙をテーブルに置き、見やすくこちら側に向けた。
私とウミは出された紙を覗き込ん、でも良かったが見やすくないので手に取って改めて2人で見る。
「心海王国プロイシーの、海洋調査?」
「、お嬢様。」
ウミは何かを見つけたように紙に指を指し、私に何かを伝える。私はその指がある場所をスッーと目で追って思わず驚いた。
「えっ?!」
「やっぱりびっくりするじゃろ?。」
「当たり前じゃん!!」
何がびっくりしたかと言えばそれは賞金の話。
そこにはオープンクエストとは思えないほどの大金が描かれてあった、、どのくらいの大金かと言えば自分で街を建てることができるくらいの大金だ。
「まぁ、驚く気持ちはわかるがそれを逆手に読めば、、。」
「、ただの海洋調査じゃないってことですかね?。」
ウミが慎重に口を開きエズに言う。
「うぅむ。そう見てもらったほうが安心するじゃろな、向こうもこちらも。」
エズはいつもと変わらない声でそう答えた、、。
「それで、私たちにこの依頼を受けて欲しいってこと?。」
話の進み方に違和感を覚えた私は深読みし過ぎではあるがエズに聞いてみる。
「いいや、お主らが暇そうだったからな、思えば面白いものがあったものだと我ながら思っただけで別にこれは強制じゃないぞ。」
(本当かなぁ〜。)
「…なんじゃあ、その顔は。」
あっといけないいけない、顔に出てた。
「うーん。」
私は悩む、エズは別に報酬が欲しいとかなんとか思っているわけじゃないとは思うけど、、なんだが手のひらにいるみたいな感じがする。そのせいかあんまり乗り気じゃない、確かに何もやることがなくて【SAMONN】にきたのはそうだし、出されたオープンクエストの報酬は魅力的だし〜。
「お嬢様、」
「ん?どうしたのウミ?。」
「プロイシーは海の中に本国自体はありますが、領地自体は地上にもあったはずです。」
「え?、うん。…、」
「それつまり、浜辺があり、。」
「…、、!」
※ルルカに電流走る。
──アパート・若葉暁の家──
「オープンクエスト?」
「うん、お兄様も一緒に行かない?。」
俺はルルカのワクワクした声を流石に否定することはできなかった。それに今週は暇していると言った手前、無理とは言えない。
それに曇っていたルルカがここまで喜ぶことがあるとは、それはそれで兄として嬉しいので結局行くしか選択肢はないのである。
「あぁ、ルルカが行くなら俺も行くよ。」
「本当?!、じゃあ、、えっと明後日の10時からで良い?。」
「もちろん。」
なぜ明後日なのか、なぜ10時なのか、俺はあんまり気にせずその後電話を切った。
しかしよくよく考えてみれば女性には女性の準備というものがある。そしてそれは年齢問わず彼女たちにも有効なのである…
そして俺にはプラモデルという準備がある。
──練鉱国ゲレーム・ゲレームMk ~Ⅱ──
「よし!お兄様の了承を得たよー!」
「やりましたね!。」
心を落ち着かせていたのか、ウミも私の知らせを聞いた途端テンションがいきなり上がった。そしてそれを凝視した私に咳払いをし、いつものウミに戻った。
「うぅむ、申請は妾の方で出しておこう。お主らは城下町で準備でもしておるが良い、、」
エズは紙をヒラヒラさせながら、よっこらせっと椅子を立ち上がった。
「ありがとう、エズ。」
私は本心からエズに感謝の言葉を伝えた。
「なぁに、紅月にはちと借りがあるからの、このくらいはお安いご用じゃ。せいぜい観光を楽しんでくると良い。」
エズは上機嫌にフフンっと軽やかに笑いながら得意にそう言い部屋を出た。
それに対して私はなんだか少しもやっとしたが、、お兄様が褒められたので何も残らなかった。少しばかり気にしたお兄様がした借りについて気になったがまた今度聞こう、時間はたっぷりあるのだから、、。
「それではお嬢様、買い物に出かけましょう。」
「あ、そっか!。」
海といえば必要な物は一つ、私達はそれを買いに部屋を早速出て、城下町は赴く。
──練鉱国ゲレーム・城下町──
「…。」
「…。」
私たちは必要なものを買いに城下町へ降りた、しかしそこに広がっていたのは以前買い物で見かけた時とは違った、発展しているが明らかに『何か』が起こった後のような風景だった。
今もなお賑わいは途絶えていないものの、それに反比例するかのように建物のいくつかは現代の工事でよく見る布と鉄筋があったそれと明らかに工事している人たち。
「…なんか工事しているのかな?」
その不思議な光景に私たちは道中キョロキョロしていたが、何か話したいと思い私は口を開いた。
「というよりは、、。」
ウミは近くにあった他とものを見た、建物は人が住めるような形状ではなく、ワイヤーが今にも崩壊しそうな家の上部分をしっかり固定させ、何人ものヘルメットをつけた人が作業しているのがわかる。それは、建築というより修復だった。
「壊れたものを直しているように見えるね。」
私はウミのセリフを奪うように同じ方向を見ながらそう言った。それと同時に次になんて言ったらいいのかわからなくなった。
「、、紅月様と何か関係しているのでしょうか?」
「…。」
そのウミから突然発せられたら言葉に私は空気が氷より冷たくなった気がした。それは『冷え切った』というよりもとにかく『冷たい』という感じがした温かい空気が少しも入ってこれないような冷たさ、、それをたったの一言で生み出すことができるのは目の前に広がっている風景と、気になっていたお兄様の『借り』というのが主な理由だろう、もしかしたら雨だからという理由も関係しているかもしれない。
「すみません、、。」
ウミは自分が言った言葉を失言と捉えたようで冷たくなった空気をなんとか動かし、落ち込む顔を見せた。
「うぅん。、、後でしっかりお兄様に聞いてみよ、ウミ。」
「、、はい。」
私がそう言うとウミは優しい目をしながら、静かにそう言った。そんな、落ち着いた雰囲気と保ちながら私たちは目的の店へとついた。
「いらっしゃいませー。」
周りと同じ雰囲気のまま店は前に訪れた時と変わらずの態度だった。店の内装は嬉しいことに相変わらずではなく、改築したためだろうか以前来た時より明らかに広くなっている、それに伴い内装もとい服の種類も充実しており、もう直ぐ夏だからか水着の販売自体も行われていた。
そして長らくお待たせしました本時の目標は、、おにぃ、、じゃなくて。
プロイシーに向けて水着の調達を行うこと、、そう海、夏、浜辺は女性にとってはまさに決戦舞台!。
勝負をしているつもりはないけど、狙いを定めている異性に対して確実にアタックできる合法的な機会なのだ!、そして私が狙うはただ一人!!お兄様もといお兄ちゃんもとい紅月お兄ちゃんもとい!!!暁兄いちゃん様!!!!。
初めて会った日のことは本当に忘れたことはない!、私が一人で凍える外を歩いている時颯爽と現れ、私の先輩をしてくれた。自分のことを顧みないように上着をかけてくれたり、優しい言葉をかけてくれたりと、、。
あの1時間弱で私の心はあの瞬間からお兄様のものとなった。
※あくまで個人の見解です
お兄様は鈍感だけど今年こそは絶対に振り向かせてみせる。【SAMONN】内では誰でも理想の自分になれる(物理的でもキャラ的でも)そこをうまくついけば、現実よりさらにパーフェクトな自分になれる!!。
現実では見慣れてしまった体も
この【SAMONN】によって最高に美化された!パーフェクトボディで!今年こそ、今年こそ、。
勝負しているつもりはないけど!!お兄様(の理性)に勝つ!!!!
「お店が無事でよかったですね。」
「ぅえ!?あ、あーうん!。」
ウミの突然の世間話に私の炎は一時的に治りつつ、会話には答えないといけないので私はフツーに答えた。少し慌しかったけど。
「?、どうしましたお嬢様?。」
「う、うぅん。なんでもない、。」
すぐ顔に出てしまうのは私の悪い癖だなぁ〜っと思いながら、水着選ぶのに集中する。
(今回はお兄様を誘惑するのが目的、となると選ぶは)
「お嬢様、こんなのはどうですか?。」
ウミは私のことを甘く見ているせいか、見てわかるほどの子供っぽい水着を差し出してきた。ブラとパンツという概念は存在せず、パッと見小学生が着るような本当に子供向けの水着、ある種の変人には効果はバツグンだと思うが、、お兄様をこれで釣れるとは全くもって思えない。というかこの年(16歳)になってまでそれを着ようと思えるのは逆にすごい。
スゥー、、おそらく悪気はないんだろう。じゃなきゃこんなのを提示したりはしない筈、、
「ウミ、私は小学生じゃないんだよ?。」
「?、。」
「『?、。』じゃないよ、流石にこの水着は、、」
着たくない、着るのに抵抗がある。周りの目が気になる。っと理由をいえば私情だらけだが、水着というのはそもそもそういう感じだった、、筈!
「ちょっと子供っぽすぎるかな?。」
ウミは別に悪気があったわけじゃないんだと思う。なんなら普段の私が子供っぽい…っと言われたら何も反論できないのが悪い。
「そうでしょうか、私はお似合いだと思ったのですが…。」
ウミはシュンと落ち込みながら私にそう言う。その表情を見てしまったらなんだかこっちが悪い気がしてきてしまうが、ここはグッと堪える、こんなところで止まっていてはお兄様を誘惑するもしないもないのだから。
「私的には〜こっちのほうがいいかなって思っているんだけど。」
それはシンプルな水着、しかしどことなく魅了のステータスが付与されていることを私へ感じている。(実際にはそんなステータスついてないけど)私のこの絶壁ですらマシに見せるほどの可能性がこの水着にはあると睨んでいる、、これがあればお兄様を誘惑できることに違いない、お兄様は派手さを嫌う性格寄りなのでシンプルで尚且つ『素材』の味を最大限出せるやつの方が良い。
大人っぽさと子供っぽさの中間をいくデザイン、どちらに転んでもお兄様の狭い守備範囲を撃ち抜けることは確実!!
今回は大人っぽい風にしようと考えていたけど、、。
この絶壁では無理。
…まだまだ努力不足なのかもしれない。これでも毎日牛乳を飲んでいる筈なのに…
「ダメです。」
…。、、?
「ど、どうして??。」
「これでは刺激が強すぎます。」
「え、ぇ〜?そうかなぁ?。」
私の体じゃそんないいアクセントにならない気がするけど、、っとは言えなかった。
それではお兄様を誘っていると、見破られてしまう可能性があった。いや、そうで無いにしてもかなりマシな方だと私は思っている。…常識的な意味で、本当に、、
ウミは私の言動にはある種かなり警戒的だ、主にお兄様関連なのだが…おそらくお兄様に何か言われているのだろう、じゃなきゃこんな水着くらいで何か言われることは普通は無い。
「はい、お嬢様に悪い虫が寄ってきたらどうするおつもりですか?」
「そ、それはもちろん実力行使で。」
「なりません、紅月様ならともかく。お嬢様はもっと穏やかに解決しなければいけません、ですので最初から身につけなければ良いのです。」
「ぇぇ〜。」
流石に文句は言いたくなってくる。もちろん理由は私のことをまだ子供として見ていることと、ウミの偏った考え方である。
私だって一応高校生なのだからそれなりの身の振る舞い方というのがあって、別に特別頭が悪いわけでも無い。しっかりとした社交辞令はできるし学校での人間関係は概ね良好だし、
もう立派な大人の仲間入りだ。なら少しくらい水着でオシャレしても文句は言われない筈、、
それとサラッとお兄様を暴力で解決してもオッケーな人みたいな言い方した気がするし、、。
「はぁー、ウミ気持ちはわかるけど私だって自分の身くらい自分で守れるし、今はもう高校生だし、このくらいはオシャレしたいもん。」
これで納得してくれたら。
「……こちらとしてもわからないくはないのですが。」
「なら、わかってるでしょ。」
ここは押し通す勢いで強気に出なければいけない。なぜならこうでもしないとウミが引かないことを私はよーく知っているからだ。
「、、紅月様なら止めますからね。」
「やったー!!」
よし!!第一関門はクリア。次に第二関門、水着選び。
(正直私としてはビキニを期待と思っている。でも、ちょっと攻めすぎかなぁ〜?、、それにあれって胸が大きく無いとあんまり意味ない気がするし、、お兄様だったら次の瞬間、何か上着とかかけてきそうだし、。)
「お嬢様、悩んでも仕方ありませんし、いっそのこと店員さんに聞いてみては?。」
ウミが悩む私に気を向けたようにそう言う。
「うーん。それはできるだけ避けたいかもなぁ〜。」
ウミとおんなじ反応されたら困るし…。
「?、そうですか。」
「うん〜。」
お兄様のことを考えよう。お兄様ならきっと褒めてくれる筈、そして
『ルルカ、とっても可愛いよ。』
凛々しいお兄様の200点満点の笑顔が
「ふおわぁぁぁぁぁぁぁ〜。」
「お嬢様?!」
そうだよね、きっと褒めてくれるよね。そして、私はお兄様を手に入れることができるよね!。
そう考えると、やばいやばい顔に出ちゃううぅ。
※出てる
とにかく、悩んでも仕方ない。ウミにはお兄様を狙っているとバレない程度で水着選びを手伝ってもらおう。
「ウミはこっちとこっちどっちが似合うと思う?。」
「え、?っと。そうですね、私ならこちらかと、、。」
「あー、、やっぱりぃ〜!。そうだよね、こっちにしようかなぁ〜。」
やっぱりウミは大人の女性だ、センスもあるし、顔立ちもいいし、メイドだし、胸もそこそこあるし、スレンダーでいつも綺麗だし、。
まるで、私とは正反対。←低身長←人並みより少し顔が良い(童顔寄り)←胸はそんなに無い。
「くぅ。」
「どうしましたお嬢様?。」
「なんでも無い。」
兎にも角にも、私はこの隣に立つ強敵に負けるわけにはいかない。逃げたら一つ、進めば二つって、、。誰かが言ってた筈!!!!!!(ヤケクソ)
「お嬢様、決まりましたか?。」
「うん。これにする。」
「…。そうですか、、」
(あれ?何も言わない。)
普段なら何か言ってきそうな雰囲気ではあるものの、ウミは不思議と何か言わなかった。
そして私たちは水着を買い、ゲレームへと戻る理由はお兄様との合流をいち早くするため、それとログインしたお兄様に一番に挨拶するため、
本当に待ちきれない。私はこの時を何年、っというほどでも無いがかなり待っていた。今年こそはイチ女性だと言うことをお兄様に絶対に意識させる!!
お兄様の鈍感さなら、水着から攻めていかなくては解決にならないのだ。
「お嬢様は紅月様のために水着を進捗したのですか?!」
「ホーッ?!?!」
ウミの私の心の中を考えない言葉に私は思わずとてつもなく変な声を出した。
「、。。」
ウミは私の変な声に何事も思っていないかのように回答を待っているようだった。ので私は…、。
「う、うぅ〜ん。ま、まぁそんなところかな、えへへ。」
「。。。」
「ウミ?」
「すみません、ぼーっとしていました。ですが安心しました。」
「う?うん。」
ウミの言葉に私は頭を傾げた。しかしこの疑問は不思議なくらいに考察しても『これだ!』という結果が見えてこないこともあり、私は【SAMONN】をログアウトするときにはこの言葉もすっかり忘れていた。
──ルカの家・ルカの部屋──
「それではおやすみなさいお嬢様。」
「うん、今日はありがとう。おやすみウミ、」
私はお嬢様にそう挨拶をして、部屋を後にする。窓から見える真っ暗な世界の中で、庭の灯りは確かに光っている。私はこの光景が好きだ、まるで暗闇の世界に数多とある星々のよう、ここにいるほとんどが希望を持ち、明日も明後日もこの世界の一部分を照らし続ける。
詩人でも無い私はふとそんなことを思いながら、用務員室へ戻る。
残っているのはわたしたったひとり、お嬢様の専属になってからはや3年、意外に時間が経っているようで経っていない、お嬢様との関係は私個人としては、まるでずっと昔からお嬢様の成長をみている気分だった。でも、それは筋違いである、なぜなら私は彼女のメイドである以上に母親でも姉でも無いからである…。
自分が持ってきた荷物とメイド服を簡単にまとめ、この豪邸を静かに裏門から出る。
人が寝静まりきっていること時間帯では鳥の声すら聞こえない。夏だからどことなく虫の声が聞こえたりする、、おそらくどこかの家に庭があるのだろう。、、
「…、、。」
…、。。。。
「なんでモヤっとしたのでしょう。私。」
ふと喋る話題がなかったからくらい闇の中で私はそう言う。
しかしそれは誰にも聞こえず、誰にも聞かれず、誰にも言えなず、、。
ただ私の独り言であり、それ以下であった。
『topic』
プロイシーの依頼書には達成有無関わらず、遊ぶこともOKと書かれていた。




