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百六十四話「第三回公式大会《33》」

前回のあらすじ


紅月とフライ。どちらも満身創痍が近づく中一歩も譲れぬ戦いを繰り広げる。しかしそれにも限界があり違いにどんどん消耗して行く形の泥試合へと成り果てようとしていた。




 「っらあああぁぁ!!」


 「!!」


 どれほどの時間が経過したのだろうか、空の色は紫と橙が混じり合うような幻想的な色へと染め上げられ、合わせるように雲の色も夕陽の光を反射させ不毛となった大地を荒野のごとく照らし続けていた。紅月とフライの戦闘が開始してから互いに一歩も譲れぬ死の間際を何回も体験してその精神は生真面目というよりもヤケクソに近くなっていた。互いの武器が衝突し合う音は未だに鳴り響いていた。


 「っ!」


しかしフライはもはや視界がぼやけるほど血が足りていなかった。出血しながらの戦闘であるからして、彼は圧倒的に不利であるのにも関わらずただただ肉体が走らせる生存本能と闘争心だけで紅月を追いやっていた。


 「────エネルギーっが!」


対して紅月はSystem:タイタンの制限時間がきれ、オーバーロード状態になっていながらも戦い続けていた。しかしエネルギー供給量を上回る使用量によってパワーダウンを起こしていた。その隙をフライが狙う。


 「逃すかああああ!!!!」


フライが紅月の装甲の隙間を狙い穿ち、傷ついた装甲はついにその一部が弾き飛ばされた。そのまま胸ぐらを掴むようにフライは自身の翼に力を込めて空中にいた紅月と自分諸共地面へと叩きつけた。両者に大ダメージである。


 「っが。」


 (無茶をする、が……代償はこちらも大きいっ!)


紅月がコンソールを確認すると、そこには数々の武装が使用不可能となっていた。フライの先の一撃によってエネルギーバランスの劣化とオーバーロード、そして蓄積によって招かれた損傷が大きくきたのだ。もはやサポートAIであるエルドでさえその機能の大部分は停止しており、ビーム兵装も使用不可能となっていた。


対してフライも同じである。今の一瞬に込めた力が肉体の全開で出せる最後のものだったようで、立ち上がることすらままならないほどである。加えて大量出血によって目がほとんど使えないのである。肉体を上乗せしていた魔力もほとんどなく。状態は酷かった。


 『だが。』


紅月はコンソールの警告音を全て取っ払い、装甲にかかっていた補助動力を起動する。エネルギーを使い切り、装甲、ないしは肉体の稼働に不祥事が起こった時の妥協策である。今の紅月はハイパーパワーの装甲を持って全てを蹂躙する兵器ではなく、ただ重い鎧を見に纏っただけの戦士に違いなかった。


そしてフライも最後の最後の力を振り絞り体に落ちた地面をなんとか起き上がらせた。その際、錘となっていた聖槍を地面へと投げ捨て、両腕を身軽にした。だがそれでも立ち上がるだけでフラフラであり何かが続けばそのまま倒れそうであるがその色褪せそうな瞳の中の闘志はまだ相手を倒せと叫んでいた。


 『─────!!!』


互いに言葉はいらない。殴り合いが始まった。

武器は己の拳だけ、フライはガントレットもなく生身の拳であるため紅月のただ硬いだけの装甲に皮膚が刺さるのがしょっちゅうであったがそれだけで攻撃が止まることはなく、エネルギー接続が曖昧な紅月の装甲パーツをいくつも飛ばした。

紅月は重くなった鎧を必死に動かし、慣れない近接戦闘を仕掛ける、今の彼は現実世界の自分のように運動不足で軽快に動けるわけでもない、なんならまだ運動していたというアドバンテージで重くなった体でもまだ振り回せるフライの方が何倍も鋭いパンチを繰り出せていた。

だが紅月にも意地はあり、そしてまだフライほど頭に余裕があった、装甲がガシャンっと音を立てて跳ね返る時にまだ体に余力を残し、追撃するフライの拳捕まえてそのまま投げ技へと転じた。


 「っああ!」


 「──!この!!」


トドメの一撃を頭に入れようと腰を屈ませる紅月を蹴りで吹き飛ばしフライはまた立ち上がった。その体は先ほども述べたように満身創痍であるはずなのに彼は殴られれば殴られるほど火がつくようにだんだんと軽快になっていった。それもアドレナリンが爆発しているからだ。

しかし紅月の機械の体にはアドレナリンなどない、壊れたところからさらに壊れて最後は動かなくなる。それよりも前にフライを倒すべく頭を動かすのだ。


蹴って、殴って、落として、踏みつけて、投げ飛ばして。そんなボロボロの戦いが数十分続いた。その光景はある種少年漫画の泥臭さが丸ごと体現したようなものだった。

紅月が倒されても、ルルカや他の仲間がフライにとどめを刺せばそれで終わりである。だがフライが倒されたらここまで戦ってきた仲間に報いることができない、彼の味方は1人もいないがそれこそが翼が折れても戦う大天使の戦闘意義へと繋がっていた。


 「────あぁ………」


 「──────っ」


フライの顔面は血だらけになっていた。装甲の鋭い部分でなんでも切り裂かれたせいで少し自慢であった彼の顔は酷いものである。対して紅月も一部はフレームにパーツが食い込んで刺さってしまっているため動かそうとしても動かない部分が多々ある。まともに動かせる部分など存在しないのだろう、それこそ次の一手で確実に腕も足も体も使い物にならなくなる。

その点、フライも同じであった。


両者限界の一歩手前、最後の攻撃が交わされようとしていた。


 『──────ッ!』


フライが体を捻った時、ついに横腹から避けるように上半身と下半身がちぎれた。今まで何度も無理な動きをしていたせいでダメージが蓄積し、そのせいで起こったのだ。だがフライは痛みを噛み締めながらただただ体を高く前へと伸ばした。その背中に生える天使の翼が一瞬輝きを取り戻し、さらに背中を押したように前へとブーストをかける。


対して紅月も補助動力の残り1%もない力を前へと絞った。こめるのは左の最後の拳である。その他の部位はすでに着々と役目を終えて止まって行く中でただただ装甲から垣間見えるネオン色を放ちながら痛烈な一撃をフライの心臓へと当てようとしていた。


 結末はなんとも不思議な形で終わった。


紅月の手の平からはビームの刃が形成され、フライの拳とぶつかるよりも先に彼の心の臓を穿っていた。フライは穿たれたことをまるで知らないのかのようにほんの少しだけ体が前に進み、その一撃で紅月の頭部に固まっていた装甲をもれなく全て吹き飛ばした。


両者は互いに胸を空に向けた状態で倒れた。

だが先に停止した(死んだ)のは限界を超えて戦い満足したかのような笑みを見せたフライであった。





『topic』


大会のルールによってオートマタは頭部が破壊された時点で敗北という特殊ルールが設けられている。

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