百六十話「第三回公式大会《29》」
前回のあらすじ
ルルカとレナに追い詰められるケルスト、第三勢力ともいえるパラディスの介入、そしてペルシドの援護もあって選挙区は緩やかに変わっていく。
「………っく!!」
エズはエンドとポルマーからの猛攻撃をシルギスと共に掻い潜っていた。爆発物の投擲と連鎖的な暴音が広野を響き渡らせ、大地をリアルタイムで震撼させる。同時に風切り刃がそれらを置き去りにしてただ一点一点と狙いを定めながら不規則に動き続けていた。
シルギスの風の守りは硬く、爆発によって燃やされ充満する二酸化炭素すら防ぐものだから空気の入れ替えが激しいこの戦局において、呼吸的な面のアドバンテージはとっているのも同じだった。しかしながらその風の壁が逆手に取られることもある、風が周りの煙を押し除けるものだからシルギスにとっては深海に沈められたライトもない潜水艦のような視認性の劣悪さがあった。対してポルマーとエンドはこれらを対策し切っている。
サーモグラフィー、暗視ゴーグルといった現代の戦争でもよく用いられる最先端を折り詰めた複合カメラを用い、シルギスとエズの場所を正確に測りその位置にロケットランチャーや手榴弾といった小物をなんでも使い爆撃を行っていた。フレンドリーファイアーが当たり前のこのゲームにおいて、その派手な戦闘スタイルは時に災いするがポルマーとエンド、どちらも爆発物に対する対応がスペシャリストなためこの点は除かれる。
(こうも視認性が悪ければ打って出ることも難しいか、風の流れからエズは無事だとわかっても…)
ドォンっと爆発物による連鎖が再びシルギスの目前でオレンジ色の光として映し出される。次に訪れる煙の嵐は一度晴れた視界を一瞬にして覆い隠した。
(まただ!)
風の魔法を使うことができる彼にとって、爆発によって自然的な流れが大きく乱されるのはフラストレーションが溜まるのだ。同時に心の余裕も欠けていく。秩序が暴力によってねじ伏せられるかのような横暴性が今のシルギスの心を的確に乱す。
「っあはははは!!!」
「………。」
マスクとゴーグルを纏った彼女達はまるで光学生物のようなどこか邪悪性を感じる存在になっていた。元々その笑みには邪悪が詰まっていたが見た目も相まって酷いものである。
「機械頭と!援軍がこの程度ねェ!!」
「………。」
ポルマーの大きな煽り声とは裏腹にエンドは戦局を常に観察していた。この時点で相手が自分たちより有利に出ることはないとわかっていても常にクールに立ち回り司令塔のして機能するのが彼女の役割だから。それは油断を常になくす行動であったのには違いない。
「!」
そうその油断をなくす行動がエンドの手を伸ばしポルマーを制止させた。後ろ首根っこを掴まれたポルマーの不服な顔が彼女に振り返るよりも先に、シルギスの鋭い剣先が煙と爆炎を掻っ切りながら彼女達の首元へと接近した。
「ッ!」
「……!」
ポルマーが動揺する隙に、シルギスは再び後退しようと地面を蹴るが、それのがさんとポルマーを盾がわりにする動きでエンドがサプレッサー付きのハンドガンで迎撃を行う。
遮音の銃撃にシルギスは回避と撃ち落としを織り交ぜ、気づいたポルマーが再び爆発物を消えていった方向へ投げ続ける。
「今私のこと盾にした!?」
「近くにいたからね。感謝してよね。」
首根っこを離し、つままれた部分を少しさすりながらポルマーは文句を言った。再び爆炎が覆い隠される中、エンドは時間が惜しいと感じゆっくりと前進する。
それを見たポルマーは小声でそうこなくっちゃと言い、エンドを援護する形で爆発兵装の投擲と射撃を敢行する。
バックの中に格納されていた4連ロケットランチャーを両手に担ぎ、まっすぐエンドの前を走り出すポルマー。
「やっほーーーーーーーッ!!!」
狂気的な笑みと愉快な声にごまかせれてはいけない。縦横無尽が如く引き金を弾きつつ周囲の被害を気にしないその攻撃方法は子供の無邪気さがそのまま形になったようだ。エンドもそのポルマーのやり方にため息は出るだ直感的で正しいやり方だと思って走り出す。
決着をつけるのは一瞬である。どちらにしてもポルマーもエンドも時間も弾数もそこまであるわけではない、一人倒せて漁夫の利できれば大勝ちくらいなのだが。それで満足せずにこうも派手に行くあたり彼女達のうちに秘めた闘争性があらわになっているのだろう。
ただただ純粋にゲームとしての自分の立ち位置に満足し続ける。それは誰でもできる簡単なことではない、何かしらの責任感やら意識やらが向くのがゲームである、だがどこまでいっても遊戯なのは変わりはない、遊戯として本気になるというのを感情移入によって防がれるのはどこであっても同じだ。
だがそうなれば彼女達はミリアリズム、『無数の現実』なんてクラン名をつけないのだ。
二人の少女が決め手にかけて攻撃を仕掛ける中、エズとシルギスは一旦合流しつつ自律兵器による防衛でひとまずの呼吸合わせを行なっていた。だがその自律兵器の大半以上はもう焼かれ、次の瞬間には少女と直に対面することになる。それを二人はわかっていた。
「わかったそれで行こう。」
「よし、あの爆発娘を頼んだぞ!」
アイコンタクトと情報共有はほぼ終わり二人が明確に口に出したのはその言葉だけだったかもしれない。どちらにせよ、心を決めた二人は向かい合う形で走り出した。
エズはこう考えていたポルマーというあの爆発娘はきっと最後に自爆を選択するほどの狂気性があると、対してエンドは頭脳的でそして軍人かのような動きでこちらを殺しにかかってくると、それがわかっているのならエズがするべき対応はほとんど決まっている。やかましいものが肩についている彼女にとってエンドの方が百倍相手にしやすいのだ。
「………」
エンドも自分が機械頭と戦うことを理解していた。そして予想通りに彼女は両腕部に特徴的な動力装置をつけた大手型のマニュピレーターを携えホバー移動で突撃してきている。前面に二つのマニュピレーターがすぐさま展開し、エンドを苛立たせた。
(有効射程を計算してッ)
ハンドガンの有効射程に入ったから、撃とうと引き金に指をかけていた彼女は眉間に皺を寄せ、舌打ちしかけながらもさらに加速した。
すぐさま煙の中の暗視が明確になることを悟って、装置を頭から乱暴に放り投げて目視に切り替える。エンドは自分の目の良さには自信があった、だからマニュピレーターの隙間を縫うように射撃を始めた。
三発の銃弾が発射され、二つはマニュピレーターによって弾き返されたものの一つはエズの装甲の一つに被弾した。大した決定打にはならない。両者も落ち着きながら観察を続ける頃に、エズの方がおもいっきって行動を開始した。
「とぅ!!」
大きくスラスターによる跳躍、そこからマニュピレーターの人間的なパンチがエンドに放たれる。
「っ!」
受け身を取りつつダメージを軽減させ、追撃阻止の射撃を行うもエズの大手の反応が銃撃よりも早かった。エンドはこのハンドガンでは打ってなしとわかると、腰に備え付けてあった筒形の装置をエズへと放り投げる。
「!」
エズは迎撃として掻き切るが、瞬間青白いほのが彼女のマニュピレーターから身体へ向かって燃え広がった。魔法の炎は点火性があるかないかにかかわらず対象にスリップダメージを与える。そしてスラスターを内蔵したオートマタの場合、これは冷却システムに異常をきたすことになる。
「っち!」
すぐさまエズの脳内には警報が流れ、冷却システムがオーバーヒートを起こしたと知らせが届いた。戦闘慣れしていない彼女は便利機能を詰め込んだつもりであるが強制冷却機構を積んでいなかったのだ。
「!!」
「っ」
その隙を狙ってエンドが射撃追撃を開始、エズは動力系統にも燃焼が広がったせいで動きが鈍くなり、マニュピレーターによる防御と動きが中途半端になっていた。それを見て確信したエンドはさらに走り出し一気にエズとマニュピレーターの合間に入り込んで彼女の眉間に銃口を突き立てながら押し倒した。
バランサーもイかれたたため、装甲で覆われた体は防御性能はともかく力は少女そのものだ。
「終わり。エンド。」
エンドはそこで勝ちを確信した。が、それこそ慢心であった。
「んの!!」
エズは脚部を逆回転させ足裏にヒートナイフを内蔵させていた。それが飛び出すと同時に回転していた脚部がエンドの背中を突き刺した。
「っが、ぁ!?」
「は、ふふ。甘く見おった、次からは隠し腕ならぬ隠し足を考えておくべきじゃ───な!!」
動きが止まって吐血するエンドにエズの大型マニュピレーターがその頭部を鷲掴みにする。そして鋭い爪先が彼女の後頭部に食い込み、次の瞬間にはスイカを割るかのような勢いで彼女の頭部は握り潰された。血液がボタボタと流れ出し、彼女の腕はだらんと下がりその手に握られたハンドガンはエズの胸へと落ちた。
彼女の体はそのまま粒子となり、出血ごと消えていったがエズの口に偶然飛び散った血は消えずハンドガンもそのままだった。
「っぺ!!」
血を吐き出しながらエズは戦利品であるハンドガンをそっと手に持った。
「ほう。」
それをまじまじと見ながら自分の勝利に少し浸ったのだった。周りには朽ちた自律兵器の残骸ばかりが散見された。
一方シルギスもポルマーと相対していた。が、決着はほぼほぼ一瞬でついた。ポルマーの残弾が無くなるより先にシルギスの一突きで彼女の心臓は刺され、そこから複数の斬撃が体を切り刻み、何の見せ場も面白味もなく大地はと倒れた。
「っはは、面白くなーい。」
「当たり前だ。で、なぜこんなことをした?」
「はぁ?」
「なぜ鉄血の死神と全知の魔女を狙う?」
「───気に食わないからだよ。アンタらみたいに全て幸せに行くほど人生はうまくはいかないのに、最初から差があるだのなんだので落ちるのは簡単で上がるのは難しい?違う、それはアンタらゴミクズの考えだから、だから気に食わないの!」
「人を傷つけて喜ぶ愉快犯の言う言葉では、全く響くものもないな。」
「あっそ、じゃあ!!!死んじゃえ!!!」
ポルマーはポケットの中の自爆装置をわざわざ見せびらかし押す。しかし体は爆発するどころか何も起こらずただただ静寂が煙をどこか遠いところにまで運ぶだけだった。
「は?」
「悪いがさっき切った時に、回路を全て立たせてもらった。機械は得意じゃないが、切って爆発する仕掛けを用意しないと、あの仲間から聞かされていたからな。」
「っ、くそ。くだらない、面白くない。」
シルギスは致命傷を負ってそのまま死ぬ運命のポルマーに後ろ姿を見せながらそのまま歩き帰った。ポルマーはその対応に困惑しつつも怒りをあらわにして答えた。
「おい!殺せよ!!」
「───お前はそのまま野垂れ死ぬ方が似合っている。」
シルギスの言葉には怒りがあった。がポルマーがそれを理解できたかは定かではない、彼女はそれっきり喋らず呼吸も浅く、もしかしたら死んでしまったかもしれないのだから。
『topic』
ポルマーの原動力は不平等への怒り




