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百五十二話「第三回公式大会《21》」

前回のあらすじ


ルルカが雷帝爺さんと戦闘を行い勝利。しかしトドメとして放った一撃が大地を震撼させとんでもない攻撃となってしまった。





青白い光が通り過ぎ、まるで流星が落ちたかのような暴風が周囲一帯を無差別に破壊する。今の今まで戦っていた多くのプレイヤー達は防御姿勢をとり耐えるか、おとなしく命運を受け入れるかの二択に分かれた。無論後者がほとんどである。魔術攻撃を防げるプレイヤーの数は圧倒的に少ない、それもただ一般の魔法使いが放った一撃ではなく全知の魔女であるルルカが放った一撃である。その魔力圧縮率から攻撃範囲、純粋な火力から状態異常まで全てが一級品である。


雷の魔法であるのにも関わらず、この一撃の余波でやられたものは十度のやけど状態になってしまった。やけどと形容したがその実火がついたという表現が等しいほどに煉獄に焼かれている。


 「危なかった。」


その余波にはシルギスも巻き込まれてていた、しかし彼自身は風魔法との併用によって編み出した風盾ウィンドシールドによってことなきを得ており、余波の火傷どころか彼女の放った魔法を完全に無力化していた。


 「全くルルカも無茶をやる、あれほどの攻撃を繰り出したのなら。紅月くん曰く、相当疲労が溜まるだろう。」


 「そういう貴方は全知の魔女の知り合いですか?」


親しんだ一人をごとを話すシルギスに対してわざわざ音を立てて現れる女傑が一人、シルギスは面倒なのに絡まれたと内心おもいなが振り返る。


 「君たちは?」


 「私たちはクラン:魔物の楽園。見ての通りビーストテイマーですわ。」


お嬢様口調のリーダーを筆頭に魔物を手懐ける集団が彼の目の前に広がっていた。その口調からは自身と完全なる勝利に対する、こだわりが感じられた。


 「見たところ、相当な数だが?」


 「えぇ。私たちは完全な勝利を目的に動いていますから、すなわち敗北は不要なのです。」


シルギスは彼女の言っている意味がよくわからなかった。


 「生きていれば負けるが?」


 「いいえ、二度はありません。私たちは二度と負けることはないのです。」


どうやらこの価値にこだわる姿勢は、自信ではなく逃げの思考からきているのだとシルギスは直感した。


 「この絶対的な世界においても同じことが言えるのか?」


 「もちろんです。」


シルギスはその発言を鼻で笑った。


 「おや?」


 「君たちの言っていることは間違っている。なぜなら君たちはあの魔女には勝てない。そして目の前にいる私にさえもな。」


シルギスは堂々と挑発する。それを聞いた目の前のリーダーは目を細め口元を曲げた。怒りの表情だった。


 「……今のは聞かなかったことにしましょう。それより自己紹介はいかが?」


 「必要ない。」


シルギスは堂々と言い放った。そして目の前のてきに剣先を向けるのだ。


 「お前達のように卑劣な輩に名乗る名前はない。」


 「卑劣?」


 「とぼけるのは簡単だ。だが今さっきから魔物を使って私を包囲しようとしているのだろう?」


実際にシルギスの足元の地面にはすでに蛇城の魔物が潜んである時の合図を待っていた。彼女が自己紹介を進めようとしたのも、シルギスと無駄な会話をしようとしたのもしべては時間稼ぎであるのだ。


 「いつから……っ」


 「私の得意なことは風を扱うことでね。一度知識を増やしてみたらどうだ?たとえば地面にも空気が流れているということに。」


会話の最中でさえ、シルギスは油断していなかった。それどころか、相手に皮肉をいえるほどの余裕があった、しかしその余裕が目の前の彼女の逆鱗に触れたのだ。


 「やれっっ!!!」


言葉は早く。そして乱暴なものだった。地面から複数の蛇魔物が飛び出してきて一瞬にしてシルギスを包囲する。


 「風領ウィンドフィールド


風を巻き上げて、自分の全方位を風で纏うシルギス。魔物達は凶暴となり噛みつき攻撃を行おうとするがあと一歩のところで近づけない。奇襲は失敗したのだ。


 「風剣ウィンドブレイド


彼が唱えたのは初歩的な魔術だ。そもそも剣技で戦う彼の戦闘スタイルにおいて魔法はいささか無粋とまでの強化になる。しかしそれでも彼が風にこだわるのには十分な理由があるのだ。

彼は武器のリーチとレンジを自身の弱点だと捉えている、それゆえに風属性の扱いやすく、そして広範囲から集中的な攻撃まで可能とする。それゆえに風魔法を使い、それらの弱点を補う戦い方をする。


ちなみにこの戦術の弱点となるのは、魔法との併用をうまくできないという点だ。技術と法則は少しのベクトルの違いで大きなズレが生じ、弱点を補うための技が一周回って大きな弱手になることも少なくはない。しかし彼はそのズレがコンマにも生じない、まさしく完璧なのである。


そしてそんな彼に好きは基本的に生まれない。調和と圧倒的な安定性が彼の売りである。これはいわば弱点が存在しないのと同じなのだ。


 「ハ────」


彼が剣先を自在に振るうと周囲に停滞していた魔物達はたちまち切り裂かれる。その断面は驚くほど正確で美しいものだった。


 「悪いけど、まだまだいるわよ。」


未だ余裕の態度を見せびらかすシルギスの敵。だが彼女が慢心するのも無理ない。挑発に乗ったのは間違いないが、乗っても挽回できるほどの戦力が彼女の背後、もしくは側面に広がっていた。


 「なるほど、消耗させるつもりか。」


シルギスは次々やってくるもの達を手玉に取りながら呟く。戦力の絶え間ない投下は均一で一定の間隔だった。そこから敵が自分の消耗を狙ってきているものだと理解したのだ。どんなものでも消耗して戦力を発揮できなければ待ち構える現実は完全な敗北。

そして彼女が得るのは完全な勝利だ。


 「だが。」


シルギスの強みは普通であること、そして弱点がないこと、詰まるところ連続した戦闘行動が得意なのだ。長期戦は望むところだった。ゆえにあとは相手を自分のレンジ内に呼び込むだけであった。


 「お前の戦い方には、完全な勝利の文字は感じられないな。」


 「遠吠えかしら?」


 「いいや、事実だ。真実の勝利は自らの力にのとって行われるものだ。」


 「それが?」


 「貴様の言っていることはハタハタ矛盾しているとな。」


 「矛盾ですって?それがどうかしたの、私は完全な勝利を手にするの。手段は関係ない。異議を唱えるものは皆殺しよ。」


 「ならば唱えさせてもらおうか──!!」


シルギスは風の全てを剣に纏わせ、軽快な動きで一気にリーダーの元へと走り込む。


 「!」


 「リーダー!!」


そこに二人のボディーガードが割り込んで守ろと動く。しかしその瞬間をシルギスは待っていた。


 (統率が取れない独裁政治の弱点は個々が行きすぎた解釈のゆえに敏感に働いてしまうところだ。)


そして


 「見積もりが甘い!!」


シルギスは空中を飛び越えるような速度で走り、ボディーガードを一気に蹴散らす。ボディーガードのよほどの自信があったのか、リーダーである彼女は未だに目の前の事実に驚いたまま固まっていた。


 「残念だったな。貴様の敗北は──慢心だ!」


風のように鋭い一撃が彼女の存在を切り飛ばす。細いドリルのようなもので心臓を呆気なく穿たれたリーダーは口から血を吐き出して、片膝をついた。


 「……こんな。」


 「鎧袖一触だな。本当にくだらない相手だった。」


シルギスは容赦なく剣を振い、彼女の首を時間差で切り落とした。容赦はない。彼の言った通りくだらない相手に容赦は必要無いのだ。


 「さて、残りは。多いな。」


彼はリーダーが倒されたことによって、しどろもどろとなっている魔物やその配下達をみて言葉を漏らしたランダム配置だと言われていたがよくもまぁこんなに集めることができたなと感心してしまっているのだ。だが相手はそんな余裕なシルギスに対してやっと怒りの炎を燃やし始めたのだ。


 「お前。よくも──!」


 「。」


シルギスが剣を構え、残党退治へと足を踏み込もうとした時右の彼方から銃撃音が轟いた。すぐさま足を止め、勢いを殺す。新手かと彼が振り向いた先には大勢のタレット部隊を引き連れたエズの姿があった。彼女が自律砲台を利用して支援攻撃を行う。シルギスの目の前に広がっていた烏合の衆はあっという間に殲滅されたのだった。無惨にも蜂の巣にされ血が滴りでる生き物の亡骸達はデータの塊となって店に帰った。


 「よぉう。」


 「相も変わらず、無法だな。」


 「悪いかの?」


エズに悪気はない。そもそもこれは決闘というより戦争というのが正しい。この無法地帯に法の裁定を求めたり公平性を求める方がお門違いなのだ。


 「なんでもない。」


シルギスはいい淀みながらも口にした。彼はせめて正々堂々戦いたかったと言いたそうな顔をしてエズと共にその場を去った。


『topic』


シルギスはネイムズの中では司令塔のような部類になっているが、それでも他に見劣りすると本人はどこか感じていたりする。

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